Die Zeit heilt alle Wunden《完結》   作:日々あとむ

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第三幕 彼方より来たる 其之五

 

「なんという……なんという……あぁ……偉大なる御方よ、私は貴方に従います」

 アゼルリシア山脈にあるドワーフの国、その王都に巣を作るフロスト・ドラゴンの一匹ヘジンマールは、自らの親も親戚も皆殺しにした凍河の支配者に対して、震えながら床に頭を擦りつけた。

 四本の腕を持つ、ライトブルーの外骨格。長い尾。彼の名はコキュートス。ナザリック地下大墳墓という場所からやってきた誇り高き武人にして第四階層の守護者である。

 コキュートスはドワーフの国の王都に棲む、ヘジンマールを除いた全てのフロスト・ドラゴンを討伐し終えて不機嫌に鼻を鳴らした。

「ツマラヌ……ナントイウ脆弱サカ……。誰モ、最期マデ戦オウトイウ気概ハナイノカ!?」

 これなら麓の大森林にいたリザードマンたちの方がまだマシであった。彼らは誇り高き戦士として、最後までナザリックに抵抗したからだ。だが、ここにいたドラゴンたちにそんな気概はない。デミウルゴスから最初に遭遇した一匹が賢そうなら、それを回収。他は殺して構わないと言われていたので、最初に一匹で現れ即座にコキュートスに隷属することを選んだヘジンマールを生かすことにしたが、他は知能をどこかに置いてきたのかと言わんばかりだ。父であり支配者オラサーダルクも妃たちも、揃ってコキュートスの強ささえ分からない。一匹だけは例外だったが、そもそもコキュートスが創造主から受け賜わったマジックアイテムの数々を献上しろなどと言ってきた時点で、彼らに生存権なぞ存在しない。

 コキュートスが心底侮蔑しきりながら部下を待っていると、フロスト・ヴァージンの一体がやって来る。

「ソチラモ終ワッタカ」

「はい、コキュートス様。クアゴアたちは全て捕獲しました。大森林にあるデミウルゴス様の牧場へ輸送致します」

「デミウルゴスカラモ貴重ナ材料ダト言ワレテイル。逃ガスナヨ。私ハコレカラ、コノドラゴンヲ連レテ、コノママアゼルリシア山脈ヲ制圧スル。終ワッタラ合流スルヨウニ」

「かしこまりました」

 フロスト・ヴァージンが頭を下げた。コキュートスはそれに頷き、ヘジンマールに視線を送る。ヘジンマールは震えながらコキュートスのもとへ近づき、コキュートスが歩き出すと後を追った。

 王都の外へ出ると、既に幾人かの部下たちが跪いてコキュートスを待っている。姿を見ない者たちは、デミウルゴスの牧場へクアゴアたちを送っているためだろう。

「デハ、ヘジンマールヨ。我ラヲ案内セヨ。コノ山脈ノ支配者ヲ名乗ル者タチノモトヘ」

「か、かしこまりました。偉大なる御方。……この山脈の支配者は、我らフロスト・ドラゴンの他にフロスト・ジャイアントたちがいます。それと、ポイニクス・ロードにラーアングラー・ラヴァロード。……アンデッドたちが所属する魔術師団です」

「ム。アンデッドノ魔術師団ダト?」

「は、はい。この山脈でも奥地にある、深い谷間に、かつてラッパレス山の支配者の一体であったフレイム・ドラゴンのドラゴンゾンビを門番にして、魔法の研究をしているのだと父たちからは聞いていました。かなり変わった者たちだそうで、滅多に山の表層に姿を現さないのだとか」

「フゥム……。マア、イイ。奥地ナラバソコハ一番最後ダ。マズハ近場カラ制圧スル」

「ハハァ!」

 ヘジンマールは再度、頭を地面に擦りつける。コキュートスたちは山脈を進軍した。そして――――全てを圧倒的に蹂躙し、あらゆる生命を支配下においたその先で。

「…………馬鹿、ナ」

 コキュートスは、そのドラゴンゾンビとついに遭遇した。

「グルルル……?」

 ドラゴンゾンビは、コキュートスを見下ろす。この目の前のライトブルーの異形種が、主人と同じく自分より遥かに格上であろうということは、分かる。だが、同時に意味が分からないことも分かってしまう。

 まるで、所属が同じであるような、そんな違和感。このドラゴンゾンビにとっては、意味の分からない感覚だった。

 しかし……コキュートスからしてみれば、むしろ仲間の気配がすることがあまりに衝撃だった。

 ナザリックには、ドラゴンゾンビのシモベは存在しない。ドラゴンゾンビ――しかもこのレベルのシモベは自動POPするようなレベルではないのだ。だから……コキュートスは、配下のナザリックのシモベたちはドラゴンゾンビを凝視する。

「名モ知ラヌドラゴンゾンビヨ……、オ前ハ、一体何者ナノダ!?」

 コキュートスは震える声でドラゴンゾンビに訊ねる。ドラゴンゾンビはコキュートスに訊ねられ、威風堂々と、自らの主人の名に恥じないよう奇形染みた雄叫びを上げた。

「――ォオロロロロロロン!!」

 入口を通ろうとする、この魔術結社に所属しない、あらゆる存在を排除せよ。かつて主人から与えられた命令を忠実にこなすために、かつてラッパレス山の三大支配者の一体であったドラゴンゾンビ……オリヴェル=ベーヴェルシュタムは膿んだ知性を携えて、目の前のよく分からない敵たちへと襲いかかった。

「コキュートス様!」

 連れていたフロスト・ヴァージンの一体が悲鳴を上げる。この程度のドラゴンゾンビ、コキュートスは勿論フロスト・ヴァージンたちとて障害に値しない。だが。

「無傷デ無力化サセルノダ!」

 コキュートスはそう叫ぶように部下たちに指示を出す。このドラゴンゾンビがコキュートスたちには何者なのか分からない。だが、自分たちと同じ気配がする以上、無関係ではありえない。確実に、このドラゴンゾンビは至高の四十一人の内の誰かと、何らかの関係を持っている。

 例えば――これをドラゴンゾンビに改造したのが、御方々の内の誰かであるとか。

 そのような可能性がある以上、御方々の内の誰かの所有物である可能性がある以上、コキュートスたちはこのドラゴンゾンビに傷一つつけられない。で、あるから。

「ウォォオオオッ!?」

 コキュートスはドラゴンゾンビの攻撃を避ける。その程度の一撃は、喰らったところでダメージなど無いに等しい。だが、当たるわけにはいかない。当たって、ドラゴンゾンビに傷が入ってしまったらと思うと、怖くてとても触れられない。他のシモベたちとて同様だ。無傷で無力化させるなど、無理な話なのである。

「コキュートス様。ここは一旦引くべきかと……デミウルゴス様に知恵をお借りした方が良いのでは……」

「ヌゥ……」

 口惜しいが、部下の言う通りだ。コキュートスには、この状況を打破する手段が思いつかない。ただ一振りの剣であれとという理念を持つコキュートスは、ひたすら頭を使わなくてはならない状況は不得手であった。

「ヤムヲエヌ……一時撤退スル」

 コキュートスはそう部下たちに告げ、全員ドラゴンゾンビの知覚へ引っかからぬ場所まで距離を離す。十分な距離を取り、ドラゴンゾンビの視界から消えたコキュートスは、緊急用に幾つか持たせられていた〈伝言(メッセージ)〉の巻物(スクロール)を使い、デミウルゴスへと連絡を入れた。

「デミウルゴス、知恵ヲ貸シテ欲シイ。――ウム。奇妙ナドラゴンゾンビニ遭遇シタ。ソレトイウノモ……」

 コキュートスの言葉を聞いたナザリックは、あらゆる案件を放置してアゼルリシア山脈のドラゴンゾンビへと注視する。

 結果として――彼らは、王国で起こった出来事を見落とすことになったのであった。あまりにも、タイミング悪く。

 

        

 

 リグリットは王国の王都の裏路地にある、寂れた廃墟で情報を整理する。

 王都へ“蒼の薔薇”を訪れたリグリットに待っていたのは、“蒼の薔薇”の訃報であった。

 彼女たちはある貴族の建物に不法侵入。貴族の館に存在したマジックアイテムを奪取しようとしたところを、マジックアイテムの力が暴発。帰らぬ人となった――それが、現在王都の中で囁かれる“蒼の薔薇”の話であった。

 彼女たちがそんなことをする筈がない。だが、状況証拠は揃ってしまっている。全員死人であり、口に出すことは出来ない。ましてや“八本指”の息のかかったところへ、冒険者チームが依頼も無いのに武装し潜入した形跡があるのだ。彼女たちの評判がどれほど凄かろうが、この状況証拠を覆すことは出来ない。“朱の雫”が何とか名誉を回復させようと奮闘しているようだが、難しいだろう。

 致死量の血液痕。確認された死体の一部。“蒼の薔薇”本人たちが名誉を回復させることは不可能だ。絶対に死亡している。

 だからこそ、リグリットはかなり気を付けながら情報収集せざるを得なかった。あのイビルアイさえ殺し切った何かが、“蒼の薔薇”を抹殺した犯人。断じて、一部で極秘裏に囁かれている“六腕”が……“八本指”が犯人ではありえない。たかがアダマンタイト級の実力者に殺し切れるような存在ではないのだ、イビルアイは。……勿論、モモンガのような例外は除くだろうが。

(……第五位階の復活魔法は身体が欠損していれば、成功率は格段に下がり、死体が無ければそもそも不可能。……インベルンの嬢ちゃんも、ラキュースたちも諦めざるを得んとは)

 法国ならばそれでも蘇生出来るかもしれないが、法国にツテなどない。モモンガはあるような感じのことを言っていたが、彼は今指輪の……プレイヤーの件について忙しい。ツアーと法国は不倶戴天の仲だ。頼ることは出来ない。

 だから、せめて仇を。彼女たちの魂の名誉を取り戻す。

 リグリットは細心の注意を払いながら情報を求めて、王都の中を走り回る。かつての仲間を頼ったり、あるいは金を積んで“八本指”とは関係の無い裏情報屋を頼ったり。

 そしてリグリットは――蔦で覆われた貴族の館のように大きい建物のある敷地へ辿り着いた。おそらくは何かが起きたのだろう、何らかの拠点へと。

「…………」

 リグリットはごくりと生唾を呑み込みながら、アンデッドを召喚して前を歩かせる。何か罠が仕掛けられたとしても、最初にかかるのはアンデッドだ。自分の安全を真っ先に確保するのは当然である。

「…………」

 リグリットはゆっくりと歩を進める。明かりの届かぬ暗い館へ侵入し、魔法で視界を確保した。アンデッドの後を歩いていく。静かな廊下。寒気がするほどに。

 注意深く歩いていると、下部から血痕がはみ出しているような壁を発見した。そっとその壁を調べていると、それが隠し扉だということを確信し、リグリットはアンデッドで壁を破壊して中を見る。

「う…………ッ」

 むわっとする、濃い血の臭い。それだけではない、まるで腐乱した食べ物を放置しているような、酸っぱいえづくような臭いもある。リグリットは思わず吐きそうになるが、長年の経験がこの場で両手が塞がることの危険性を告げてこみ上げてきたものを飲み込む。

 リグリットはアンデッドに先を歩かせながら、歩を進める。進めた先に、広い空間に出た。まるで広間のような。リグリットの影が蠢く。自らの影が突拍子もなく蠢いた瞬間――リグリットは瞬時に、自分が誘い込まれたことを悟り、踵を返して離脱しようとした。

 だが……広間の奥の暗闇からリグリットにかけられた声が、リグリットのその行動を制止する。

「まあ、待てリグリット・ベルスー・カウラウよ。逃げるのはまだ早いのではないか?」

「――――」

 名前を知られている。ならば、この場ですぐ逃げるのは悪手だろう。何らかの情報は掴まねばと覚悟を決めて声の方向を見た。暗闇から、ゆっくりと何かが出て来る。

「――――な」

 それは、まるで人間のカリカチュアのような姿をしていた。膝辺りまである長い二本の腕に、二本の脚。骨と皮しか存在しないような、枯れ木のような姿。頭部があるべき場所には三つの枝が伸びており、三つの実がなっていた。

 白い鱗を持つ爬虫類のような首と、美しい人間にしか見えない少女の首が二つ。そこにぶら下がっている。

「あ……あぁ……」

 白い鱗のリザードマンの首は誰なのか、リグリットは知らない。だが、少女の首二つは、あまりにリグリットにとって身に覚えがあるものだった。

 リグリットが呆然とぶら下げている首を眺めているものだからか、枯れ木のような姿の――悪魔としか思えない所業を為している魔物は、リグリットに優しく声をかけた。

「ああ、この首たちか? 一つはトブの大森林で入手したものだ。他にも二つほど、そこで入手していたのだが……こちらの方が優秀でな。挿げ替えさせてもらった。本当は、別の連中の首が欲しかったのだが……そちらはシルクハットが優先であったので、仕方なく」

 三つの首は何も言わない。ただ、白目を剥いて虚ろな表情を浮かべるだけだ。だから、どこから出ている声なのかは分からない。

「この首たちは優秀だぞ。前の連中ほどではないが、下等生物どもにしては素晴らしい働きを見せる」

 少女たちの首を枯れ木のような指で差し、自慢げに話す。

「だが……情報を入手する前に首を引き千切ってしまった。あの御方には叱られてな、お前は是非とも生かしたまま連れてくるようにとのことだ。あの御方々に蘇生魔法を受けているというのに、蘇生拒否とは不心得者もいたものだ」

「き……貴様ァアアアアアアッ!!」

 少女たちの首……イビルアイとラキュースの首を見たリグリットは、その枯れ木のような姿の魔物にアンデッドを襲いかからせた。続いて、沸騰した頭の隅で冷静な部分がアンデッドを更に召喚して自分を防御するように訴えて来る。その訴えに従い、更にアンデッドを召喚。

「ふん……影の悪魔たちよ」

 リグリットがアンデッドを召喚すると同時、リグリットを尾行していたのであろう影絵のような悪魔が出てきた。そして、枯れ木のような魔物は向かって来たアンデッドに向かって、魔法を唱える。ラキュースの口が動く。信仰系魔法が唱えられ、アンデッドは軽々と灰になった。

「〈結晶散弾(シャード・バックショット)〉」

 同時(・・)に、イビルアイの口が動き魔法を唱える。水晶で出来た散弾がリグリットに向かって放たれ、アンデッドが即座に粉々になった。

「ふざけるな! わしの友人たちをどこまで侮辱する気だ!?」

 彼女たちの首を使って平然と魔法を唱える外道を前にして、リグリットは血反吐を吐くように叫ぶ。だが、同時に状況の悪さを悟った。

(距離を放すのはまずいか!)

 あの魔物はどうやら、手に入れた首の魔法を使えるらしい。それも、同時に行使出来るようだ。先程はイビルアイとラキュースの魔法を使用したようだが、まだあの残ったリザードマンの首が何の魔法を使えるのか分からない。よって油断は出来なかった。更に言えば、距離を詰めさせないように影の悪魔が二体もいる。これでは接近戦で勝負を仕掛けることも出来なかった。

 即ち――もはや、ここに来た時点で詰みなのだと、リグリットは悟らざるを得ない。

「存分に抵抗するがよい。何をしようと、結果は変わらんぞ」

 嘲りを含んだ言葉に、脳に血が上るような怒りを覚えるがその感情に身を任せることは出来なかった。さあ、どうするか……そう困り果てた瞬間に、二体の影の悪魔が消滅した。

「なに!?」

「……そこまでだ。これは見るに堪えない。私の友人たちを侮辱するのはやめてもらおう」

 白金の全身鎧(フル・プレート)の騎士。それが二体の悪魔を一刀で両断し、消滅させる。そのまま白金の騎士は枯れ木のような姿の魔物へと突っ込んだ。

「おのれ……!」

 魔法を同時に三つ行使する。三つの首の口が開き、それぞれの最強魔法であろう魔法が白金の騎士に放たれた。しかし白金の騎士――ツアーは、平然と真っ直ぐに向かっていく。

「なんだと!?」

 接触した魔法は、ことごとく無効化された。

「この感触は……おのれ! もう一人魔法詠唱者(マジック・キャスター)がいるな!」

「答える必要はないね」

 魔法を無効化したツアーは、幾つもの剣を枯れ木のような姿の魔物へと突き刺す。動きが鈍ったところで魔物を掴み、そのまま猛スピードで広間へ走り廊下へと駆け抜けた。魔物を引き摺ったままに。魔物の悲鳴が響く。

 リグリットはツアーと魔物を追う。ツアーは無理矢理魔物を引き摺りながら、玄関口で床に魔物の身体を押し付けて剣で突き刺し固定した。

「では、いこうか」

「て、転移魔法……!」

 枯れ木のような姿の魔物が、周囲の魔力を感知して何をされるのか悟り叫ぶ。有利な場所から、不利な場所へ転移させられる行為。次元を封鎖して転移魔法を阻害する隙さえ与えない。

 その、鮮やか過ぎる拉致には誰の手も口も挟ませなかった。置いて行かれたリグリットは目まぐるしく変わった状況にしばし呆然としながら……気づいた瞬間には転移魔法を使用されていた。

 この、魔力の感覚は……おそらくモモンガだろう。リグリットは抵抗せずに、そのまま身を任せる。気づけば、評議国のツアーが寝そべる場所へ帰って来ていた。

「やあ、友よ。お帰り」

「……友よ、ただいま」

 暢気に声をかけるツアーへ、リグリットは呆然としたまま口を開く。反射のようなものだ。だが、頭が状況に追いついてくると即座に文句が出た。

「お、お主! お主なぁ!」

「いやいや、ごめんよリグリット。“蒼の薔薇”の件はこちらとも関係が深そうだったらしくて、モモンガと相談したんだ。君に内緒にしたのは悪かったよ」

「あー……もう、いいわい。まったくお主は昔から、肝心なことは中々告げてこんなぁ……」

 リグリットは白金の鎧を思い出し、呆れた声でツアーに告げる。そのことを言われるとツアーも弱いのか、ドラゴンの表情が申し訳なさそうに動いた。

「それで、さっきのはどうしたんじゃ?」

「あの首を下げた悪魔……クラウンとか言うらしいけど、あれならモモンガが相手をしているよ。首はちゃんと回収して、モモンガのマジックアイテムで蘇生させるから二人については安心するといい。……あのリザードマンの首は知り合いじゃないよね?」

「わしもあのリザードマンは知らんな。後で丁重に葬ってやらねばの。……しかし、二人とも蘇生出来るのか?」

「モモンガの持っているマジックアイテムならね。その気になれば、死体が無くても蘇生出来るみたい。……まあ、向こうがこっちに還って来る気があればだけど。何せ、悪魔に生首にされたわけだから」

「あの嬢ちゃんなら還ってくると思うが……ラキュースは微妙じゃな。嬢ちゃんが声をかけてやれば、還ってくるかのう……」

 復活の魔法は、蘇生対象が拒否すれば蘇生出来ない。中には無理矢理に蘇生させる魂を冒涜するような何かが存在するかもしれないが、今のところそういった魔法もマジックアイテムも見つかっていなかった。

「モモンガ殿一人で大丈夫か?」

「大丈夫だよ。モモンガは、第六位階以下の魔法は全て無効化してしまうから。大抵の魔法詠唱者(マジック・キャスター)は無力さ。私の魔法なら話は別だけどね」

「ははぁ……随分、希少なマジックアイテムばかり持っておるのぅ」

 二〇〇年前の当時に彼がいれば、冒険はもっと楽だったろうし、リーダーももっと長生きしたかもしれない。同族殺しにも発展しなかったやも。そう思えば、リグリットはなんだかやり切れない気持ちになった。

「リグリット、疲れただろう。街で宿をとったらどうだい? 後で、インベルンをそちらに向かわせるよ」

「あー……そうさせてもらおうかの。わしも歳じゃからな」

 ツアーの提案に、リグリットは頷く。ただし……

「……今度は内緒話は無しじゃぞ? わしだってな、友人のために何かしたいし……その友人の友人のために何かしてやりたいって思うことはあるんじゃ」

「うん、分かっている。モモンガに何か、聞いておくよ」

 ツアーの言葉に、リグリットは苦笑いした。リグリットから見たモモンガは無欲な男で、とても何かして欲しいと言うような姿が浮かばない。それでも、言わないよりはマシであるし、今回の囮にされたこともそこまで怒っていなかった。

「じゃあ、また後で会おう友よ」

 リグリットはツアーへ別れを告げて、休息をとるために街へと向かった。

 

 

 


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