バトル・ロワイアル The Rebellious Memory   作:原罪

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この傷がいつまでもふさがらなくて痛んだって/プフレ、結城友奈(ヤヌ)

◇シャドウゲール

 

 

悪態をついたところで、背後から食らおうと迫ってくる『黒い影』にはその言葉の意味さえ理解できないようだった。

 

見覚えのない場所で、いきなり拉致されて、化け物まで用意されて、プレイヤーの残機ではなく本物の命がかかった脱出ゲームをやらされている。

理不尽だし、心境としてパニック真っ最中であるし、いつかの殺し合いと同じような悪意と悪趣味を感じ取れるのが堪らなかった。

 

どんな理由があってのことにせよ、きっとプフレのせいだろう。

ほんのちらりとだけ振り返り、刃のような羽根まで生えた黒い影がやはり人間界の生き物ではないことを再認識して、そう思うのは難しくなかった。

年貢の納め時がきているのかもしれない。

シャドウゲールの主人である人小路庚江ことプフレは、間接的にたくさんの人間を死なせたり追い落とすような悪事に手を染めている。

あまつさえそれを正しい犠牲だと信じて悪びれもしない極悪人で、正義感のかけらもない魔法少女だ。

その悪事に、シャドウゲールの魔法が利用されていたのも知っている。

おそらく、その悪事がすべてはシャドウゲールのため――魚山護の住みよい世界を作るために行われたことも知っている。

よって、恨まれる理由ならばそれなりにある。

良心の呵責と張りつめた状況のために、心臓が無視できない痛みを発している。

呼吸が乱れる。諦めてはどうだろうという方向に、考えが流れている。

背後に化け物の息遣いを感じているのに、走るのを止める度胸なんて持ち合わせていないから逃げ続けているだけだった。

 

しかし、諦めたら庚江はどうなるのだろうと想像すると、無念さもある。

スノーホワイトに、啖呵を切ったことがある。

 

私が死ねば、プフレがやろうとしていたあらゆることは無意味になります。そうすればプフレは止まります。私を緊急停止スイッチにしてください

 

その考えは、今でも変わっていない。

護がいなくなれば、庚江はどんな無茶をしでかしてでも探すだろう。おそらく護の身に何が起こったのかを知るまでは、諦めることはない。

そして、どうにか無茶しても咎められることがなく無事に真相を知れたとして、護の死を理解してしまえば庚江は止まる。

 

これまで悪いことをしてきた報いだ、これからは心を入れ替えて生きよう、などと考えるわけがない。

護が死んだら何をしでかすか分からない、という人間でもない。おそらく、何もしでかさなくなる。

護を奪った者たちに何が何でも報いを受けさせる、と復讐に燃えて生きるところも想像できない。

でなければ、『なにかあればプフレを止めるために私を殺してください』という約束を結んだりはしなかった。

自分が殺されることで、スノーホワイトが報復に命を狙われるような取引を申し出たりはしない。

プフレは間違いなく、身内に危害をなした者にそれ以上の報復を与えずにはおかない激情家だ。

しかし、それだけでは無いこともシャドウゲールは知っている。

魔法少女になってから知った。

 

シャドウゲールは、プフレを何もできないほど傷つけることができる。

 

あの少女は、100人の魔法少女による殺し合いをうまく全員殺して生き延びたことに喜んだり安堵したり勝ち誇ったりするのを全て差し置いて、最後にシャドウゲールに怯えられたというだけで喪心するほど、シャドウゲールに弱い。

殺し合いを企画したクラムベリー達への敵意さえも一瞬で鎮火するほどに傷ついて、『帰ろう、さすがに疲れた』としか言えなくなってしまうような、弱い心の持ち主だ。

そういう魔法少女だということを、もう知っている。

 

だから、シャドウゲールを永遠に奪われたプフレは、きっとあらゆる意味で『止まる』。

シャドウゲールを死なせないために全力を尽くして爆走することはできても、シャドウゲールが死んで走り続けることはできない。

生きながらにして死んだようになるか、あるいは、もしかすると、普段は絶対にやらないようなヘマをして正しい意味で死――。

想像したくもないことだった。

それは世の中にとっては良いことだが、護の望むところではない。

何があってもお嬢様をお護りできるように。

名前の由来となった教えは、何度も何度も、耳に残って離れないどころか、生き方に染み付くまで聞かされた。

 

そして。

 

――何かが自分の腕に突き刺さる感触がした。

 

 

◇結城友奈

 

 

「ごめんなさい……私、てっきりあなたが人生を悲観して……それで、切腹しようとしたんじゃないかと勘違いしてしまって……」

 

勇者――結城友奈は、平身低頭していた。

それこそ、親友が『陳謝!』とか言いながら自虐している時の比ではない真剣さで、地面に手をついてかしこまったポーズを解けないでいた。

 

「確かに、さっき悪辣極まる手段で殺害された少女は私の付き人だ。

しかし、だからといって世を儚んで自殺しそうにでも見えていたのかな?」

 

顔を上げると、車いすに座り込んだ少女から涼やかな視線で見下ろされていた。

錦糸のような長い髪にふちどられた美貌にこれといった表情はなく、声は淡々としてどこまでも抑制が効いている。

膝の上には刃のひしゃげたハサミが乗っていた。

いかにも小学校の図工の授業で使うような、プラスチックの小さな持ち手がついたハサミだ。

2人のいる場所は小学校の正面玄関前であるからして、それは当然に小学校の中で入手したものなのだろう。

ハサミがひしゃげたのも、慌てて少女からハサミを取り上げようとした友奈との揉み合いに発展したせいだ。

 

「えっと……最初に集められた場所で、辛そうにしてたから、それで……」

「そうか。客観的に追い込まれたように見えていた人間が『大丈夫だ』と自己申告しても説得力に欠けるだろうね。

だが、少なくとも肉体的には健康に近いことは確かだよ。この通り」

 

袖のフリルをめくれば、そこにはミミズばれというにも短すぎるぐらいの赤い傷がうっすらと残っていた。

『参加者のパワーバランス調整とやらがどのようなものか試してみた』などと言いつつ、ハサミの刃をざっくり押し当て力づよく引いたにしては、驚異的なほどの軽傷だ。

それでも『普段よりも魔法少女の耐久性能が落ちている』というのが彼女の言である。

 

「それにしても、切腹とは時代がかった発想だね。

もちろん不審な挙動をしたこちらに非があったことは確かだが、短刀を使っての自殺ならリストカットや頸動脈を狙う方が一般的じゃないかと思うのだが」

「い、言われてみれば、そう、ですよね……」

 

『勇者部』では日ごろからそういう発言をする子がいた為にそういう発想になったけれど、もしかすると初対面の人から、それも助けようとした人から、怪しい人だと思われたかもしれない。

しかし、当の相手はすっかり別のことに気を移したかのように、友奈の纏った勇者装束を観察していた。

 

「純潔、精神の美、優美…………もしくは、あなたに微笑む」

「え? 花言葉?」

「ああ、分かるのか。勇ましさよりは清らかさを象徴される花だね。

そういう意味では『魔法少女』のコスチュームに通じるものがあるか」

 

また『魔法少女』という言葉が出てきた。

意味するところはよく分からないが、彼女もまた特別な力と運命を背負った人なのだとは察せられた。

「『勇者』についての詳細はついておいおい教えてもらうとして」と、その人は話を進める。

 

「一つ分かったのは、『それが何の力であれ、普段のコンディションで戦える』と過信しない方がいいということだね。

『魔法少女』の身体ならば、市販の刃物で傷が通るなんてことはまずあり得ないし、首に金属製の爆弾を取り付けられたところで、『爆発が起こるよりも素早く引きちぎって捨てる』ような力技を使えそうな強者も中にはいる。

それが『一般人によるジャイアントキリングさえ可能かもしれない』とまで断言されたんだ。

手段や支給品によってはただの民間人にさえも遅れをとりかねないと、念頭に置いた方がいいだろう」

 

この体は、もはや何があっても死なない身体ではない。

そう言われると思う所があって、つい自分の左鎖骨下あたりに視線を落とした。

なぜかタタリによる痛みと消耗が失われていた。

謎の精霊が『殺し合い』を告げるまでは、奇跡が起こったのかと喜んでしまった、この身体。

 

それから、『お姉ちゃんが車にはねられてしまって』と連絡が来たときを思い出した。

 

本来の精霊は、ゲージがある限りあらゆる死因から勇者をガードする。

首に爆弾をつけられようとも、安全でいられるはずなのだ。

包丁で刺し殺されることも、銃で撃ち殺されることも、車で跳ね殺されることもない。

その加護が、あの時は全く働いていなかった。

それと同じことが、起こり得るというのか。

勇者部以外に待ち人のいない、夜中の病院。

部長の安否が気がかりで、全員が辛そうな顔をして過ごした数時間。

もし本当に犬吠埼風の命が危うくなるようなことが起きれば、皆はあの時以上の絶望に包まれるのだろう。

あの不幸が皆に訪れるなんて、絶対にあってはならない。

もしかしたら。もしかしたら、皆がこんな酷いことに巻き込まれてしまったのも。

友奈が知らず知らずのうちに、タタリをうつしていたなんて事はないだろうか。

 

「顔色が悪くなったようだが、大丈夫かな?」

 

眼帯を付けた涼しい眼が、気遣うように友奈と目を合わせていた。

はっと我に返るのと同時に、涙のあとさえない目元を見つめられると違和感もわいてきた。

友奈は仲間が失われるという『想像』をしただけでもこれほど辛いのに。

この人は、身近な人があんなに残酷な殺され方をしたのに。

冷静に自分の身体のことを考察して、自分だって何かあれば死ぬかもしれないというようなことを涼しい顔で言ってのけている。

 

「あの、あなたは、大丈夫なんですか? そんな風にいろいろ考えてると、思い出したりとかしないんですか?」

 

言葉を選んだ結果、もどかしい聞き方になった。

『さっき親しい人が目の前で殺されたばかりなのに、どうしてそんなに冷静でいられるんですか?』とストレートに責める言葉を使えるほど、友奈は無神経になれなかった。

 

「ああ、私があまりにも冷静で鼻についたのかな?」

 

その考えを読まれた。

ぎくりとしている間に、プフレは包帯の巻かれた握り拳を差し出し、掌を開いてみせた。

そこに握られていたのは、飴玉くらいのお菓子なら包めそうな、セロハンの切れ端だった。

 

「私の支給品だったものだ」

「だった……もう、無いんですか?」

「食べてしまったからね」

「た、食べた?」

「とある魔法少女の魔法によって生み出された『気分を変える魔法のキャンディー』と言われるものだよ」

 

嫌な予感がした。

 

「効果は単純かつ強力だ。このキャンディーは、誰かの記憶や感情を抜き取ることで作られる。

特定の感情が封じられたキャンディーを摂取すれば、その感情に人を染めることもできるだろうね。

怒りや憎悪の感情を取り出したキャンディーを舐めれば闘志を燃やすことも、燃えすぎて視野狭窄に陥ることもあるし、逆に静の感情を取り出したキャンディーを使えばその逆の効果が得られる。

特定の精神状態に誘導する薬物、と言ってもいいかもしれない」

 

それを食べた、ということは。

 

「じゃあ、そこにあったキャンデイーも、……あなたの、心に」

「スマホの中に支給品説明のアプリが入っていて、『喪失感によって、冷静さを欠いたり判断力が曇ることを防ぐ』とあった。

キャンデイーを口にした途端、説明も消えてしまったが……おそらく私の中では、『不屈』に類する感情が強化されているか、『諦め』に関する感情が鈍化されているか、何らかの精神安定作用が働いている」

 

それは、自分の心を故意に書き換えて、心のドーピングを重ねているということにはならないか。

今が大変な時だからといって、悲しむのを無理やり先延ばしにしているということにはならないのだろうか。

 

「勘違いしないでほしいのだが、私は彼女――シャドウゲールのことを忘れてしまったわけではない。

彼女が私にとってどんな子で、どんな日々を歩んだのかは余さず覚えているし、『悲しみ』や『痛み』だって相応に体感したつもりだよ。

ただ、『彼女は死んだのだし、もう止めよう』という一点においてだけ感受性が鈍っている――『とりあえず正気を失うことは避けられている』というのが正確だろう」

 

そう自己分析する少女の声は、あまりにも穏やかだった。

そんな風に言われては、それは逃げではないのかと指摘して、心を折れかけた人に鞭を撃つような真似はできなかった。

まして、今が一歩間違えれば死んでしまう場所だというのなら。

 

「まったく慈悲深い話じゃないか。

『さすがの私も身内が死んだらショックを受けるだろうけど、それはそれとして殺し合いはやらせたいから元気を出せ』ということだ。

この企画の立案者は、人のことを踊ってくれないと楽しめないマリオネットのように考えているらしい」

 

少女は怒りのにじんだ仕草で、セロハンを地面に落として車椅子のタイヤでぎしぎしと踏みにじった。

それを見て、はっとした。

そう、わざわざ『最初に見せしめを殺された人に向けて精神安定剤代を支給した』ということは、そういうことだ。

従者を殺した苦痛を与えた後で、その主人に対しては『苦痛を堪えて戦う』ことを唆している。

 

「酷い……」

 

人のことを恨んだり憎んだりするのは好きではないけれど、それでも目に余る非道が行われている。

これに抗わないのは、許せないと感じないのは、『勇者』じゃない。

 

「そう思ってくれるのなら、我々は同士だね」

 

その手は、握手を求める形でのばされていた。

握り返そうとして、そういえば包帯の怪我について聞いていなかったことに気付く。

力をこめて握り返すのに躊躇していると、「これか」と少女は包帯にそっと触れた。

 

「さきほど保健室の救急箱を失敬してね。支給品袋には何でも収納できるというのは本当だった」

 

救急箱そのものはここに入れてきた、と説明するように袋をぽんと叩く。

 

「もしかして、元からケガをしてたんですか?」

「いや、これはただの不注意だよ。少々、拳を硬く握りすぎてしまってね」

 

言葉で説明するのは難しいと判断したのか、包帯をそそくさと解いた。

解かれた手のひらを見て、友奈も理解した。

彼女は、ファヴから説明を受けていた場所で、ずっと両の拳を握りしめていた。

超人的な身体能力の持ち主が、渾身の力で爪を食い込ませ続けていればどうなるか…………ずたずたに赤紫の刺創がつけられた手のひらが、その結果をさらしていた。

凄惨なものをみせてしまったことを恥じるように素早く包帯を巻きなおしたが、それでも友奈の印象には強く残った。

その傷を見てしまえば、彼女にとってのシャドウゲールがさほど大切な人でなかったのだろうとは、絶対に思えない。

 

「名乗るのが遅れたね。魔法少女としての名前は『プフレ』だ」

「私は結城友奈――中学生の時も、勇者の時の名前も、『結城友奈』です」

 

握りしめないように優しい力で、握手を交わす。

 

目の前で大事な人を奪われたばかりで、しかも車椅子に乗った足の不自由な身体で『殺し合いをしろ』と命じられてしまった。

それなのに魔法の飴玉に頼ってまでも殺し合いに抗い、冷静にたくさんのことを考える一方でシャドウゲールのことを思って深く悲しんでいる、強い情を持った魔法少女。

この人は誰かがそばにいて護ってあげなければならない人だと、友奈は強く思った。

 

 

◇プフレ

 

 

あのファヴが何の狙いも裏の意味もなく、ただ『見せしめにしたいから』という理由だけでシャドウゲールを殺すはずがない。

それは自明のことだった。

現実にシャドウゲールが殺された、その最悪の光景にプフレが何を思ったにせよ、『それだけではないはずだ』というか細い光明は、たしかに一筋だけ見えていた。

 

なぜなら、ファヴは知っている。見ていた。

魔法少女100人による殺し合いで、プフレがシャドウゲールの命を救うために何をしたのか、すべて知っている。

その試験でも、ファヴは企画者側にいたのだから。

シャドウゲールの命がかかっている限り、プフレは何百人だろうと殺してみせる。

そんなプフレの見ている前で、真っ先にシャドウゲールを殺してしまうのは大きな悪手だ。

喜んで殺し合いをする気満々になったはずの参加者を、一人潰してしまうことになるのだから。

 

シャドウゲールを『参加者』として選抜しなかった理由ならば理解できる。

ありとあらゆる機械類を自由自在に解体、改造ができる能力を持った魔法少女に首輪爆弾を取り付けて殺し合いを強制するなんて、どんな馬鹿でも不味いと分かることだ。

だからと言って、プフレを殺し合いに招きたいだけであれば、『反抗すればシャドウゲールを殺す』と人質にとっただけで十分すぎる。

そうしなかったのだから、『その上でプフレを利用できる』と判断した理由がある。

 

だから、最初に支給品を確認したのだと思う。

思う、というのはそこに至るまでの動揺と喪心が激しく、のろのろと動いていたことしか覚えていないからだ。

そこには魔法のキャンディーと、支給品説明という名のファヴからの内意があった。

おそらく、その時はシャドウゲールを喪ったプフレなりにきっと決意する所があって、そしてキャンデイーを飲み込んだ。

そして、正気のプフレが帰還した。

 

「ごめんなさい……私、てっきりあなたが人生を悲観して……それで、切腹、しようとしたんじゃないかと勘違いしてしまって……」

 

そのようにふるまったのは、むろん、わざとだ。

それが、傍目には誤解を招く行動だということは当然に予想していた。

だからこそ、敢えてそのように行動した。

わざわざ目立つよう、夜間照明で明るい小学校の入り口で、自殺未遂のようなたたずまいを晒した。

 

目立つことは承知し、できるだけ襲撃されるリスクを潰すやり方を取った。

たとえクラムベリーのような凶悪性と火力を両立させたバトルジャンキーに見つかろうとも、『これから自殺しようとしている、もしくは自殺未遂にいそしんでいる、生存を放棄した参加者』をわざわざ殺しにかかるような手間をかけたりはしないだろう。

また正面には視界が大きく開けた運動場、そして背後にはゲタ箱と長い廊下を有した校舎をつけることで、狙撃されたり奇襲されるリスクを減らし、襲撃された時の退路も確保する。

とことんまでスピードと走破性を追求した車椅子は、こと逃げをうつには有利だ。

 

そんな状況でも、まっすぐな目で一直線に『はやまらないでください!』と駆け寄ってくるのは、弱者を守らんとする保護欲がある、正しい魔法少女のような精神を持った者だろう。

 

「純潔、精神の美、優美…………もしくは、あなたに微笑む」

「え? 花言葉?」

 

さっそく釣れたのは、そういう少女だった。

優しく、人の痛みがわかり、他人の気持ちになって考えることができる。勇敢で、でも殺し合いなんて絶対に嫌な、そんな少女だとすぐに分かった。

もし魔法の国が発見していれば、魔法少女としての適性を試したことだろう。

 

「あの、あなたは、大丈夫なんですか? そんな風にいろいろ考えてると、思い出したりとかしないんですか?」

 

こちらの真意を悟られない範囲で、信頼を得られるようには振る舞った。

いつもやっていることだ。

 

「とある魔法少女の魔法によって生み出された『気分を変える魔法のキャンディー』と言われるものだよ」

 

当然、すべてを話すことはない。

キャンデイーの効果説明には、こうも書いてあった。

 

『この支給品を服用した時点で、首輪解除条件に第二条件が追加される』

『最初の条件が達成された時点で第二条件が達成されていなければ、首輪解除は発生しない』

『そのセカンド条件とは――』

 

つまり、普段のコンディションを保証する代わりに運営の望みを果たすよう動けという取引の提示だ。

かつての殺し合いで、プフレは『全員で力を合わせてラスボスを倒す』のと『ラスボスの言うことを聞いて100人皆殺しをする』のと二つを検討して、前者を不可能と判断したからこそ多くを殺した。

しかし、今回のゲームではファヴいわく『ジャイアントキリング』が起こり得る――言い換えれば、主催者の力でさえ付け入る隙があるかしれないという余地があるゲームだ。

だからこそ、『ラスボスを倒す』方向へと舵をきらせないために、回りくどい条件の提示を行ったのだろう、というのも推測の一つとして成り立つ。

 

確かに死人は人質として機能しないだろう。

しかし、『死んでもなお、人質として機能するように思わせる』ことができれば。

それは生かしておくよりも、『人質を監禁場所から助け出す』という目がつぶれる分だけ、脅迫した者を従わせる力が高い。

まず、わざわざ全員に宣告された『なんでも願いが叶う』という報酬。

そして、シャドウゲールの手で負わされた致命傷によって息絶えたはずの――死んだはずのプフレが、ここにいること。

当のクラムベリーを含めた今は亡き者の名前が名簿にあり、ホールでも彼女たちの姿を見かけたこと。

それらを重ね合わせれば、ソレは見える。

ファヴ達がきちんと願いを叶えてくれる心積もりがあるとは、まったく信用していない。

しかし、信用は無くとも、ソレを狙うか狙わないかの二択ならば、狙うに決まっている。

どこまでも細い勝ち筋だろうとも、頭が動く限り、プフレという魔法少女はそうする。

 

「名乗るのが遅れたね。魔法少女としての名前は『プフレ』だ」

「私は結城友奈――中学生の時も、勇者の時の名前も、『結城友奈』です」

 

握手を交わし、協力者が増える。

仲良くしていきたいには違いない。

首輪によって倒せる余地が大きくなったとはいえ、クラムベリーや魔王パムといった人物の脅威はよくよく知っている。

前者については遭遇しただけで殺しにかかられるだろうし、後者についてもプフレの思惑が万一にも露見してしまえば敵対しかねないだろう。

 

それに、スノーホワイトの存在が大きい。

直接的に対峙したのはほんの一回、それも一瞬だったけれど、プク・プック陣営として敵対していた時に相当な辣腕を振るっていたことは察せられた。

ホールに集められた時にとった行動も、センスが良かった。

あの場では『ここはどこだ』『この状況は何だ』『我々をさらったのは何者だ』という困っている心の声が、数多く垂れ流しになっていたはずだ。

にも関わらず、そばにいた少年をつかまえて『ここがどこか知っているか?』と不必要なことを尋ねたのは、少年が『魔法の国』の関係者なのかどうかを見極めるためだろう。

あの問いかけによって、少年はおそらく『この女の子は誰だ?』とか『まるでアニメの魔法少女みたいな格好だ』とか、無意識にでも困惑したはずだ。

それによって、『実は男の子だけど魔法少女の人間体でした』ということも、『一般人の恰好をした魔法使い』でもない、本当にただの一般人だと理解した。

だからこそ「無関係の人たちまで巻き込むつもり」かとファヴを詰問した。

また、あの詰問によって、そういった一般人の多くに『自分はファヴの敵であり、無理やり巻き込まれた者の味方である』ことをアピールすることもできただろう。

ファヴに憤りを露わにしながらもそういった計算ができるのだから、相当の切れ者だ。

 

「プフレさんの条件は、『10個以上のスマホの使用者になる』……これなら、誰も傷つけずに首輪が外せますね!」

「どうだろうね……ほかの参加者にとって、3時間以上スマホを手放さなければならない上に、使用権を奪われるデメリットはなかなかに大きい」

 

死んだ参加者のスマホを回収すればかなり楽になるのだが、それは敢えてまだ言わないとして。

 

何より、心を読むという魔法が厄介だ。

セカンド条件を抱えていることも、キャンデイーの服用によって運営のたくらみに乗ったことも、出会えば見抜かれる。

だが、実際に誰も殺していない状況であれば、ほかの善良な参加者がそばにいる限り、

『たとえ何を考えているといわれても、私がまだ誰も正当防衛以外で殺していないのは事実だ、それなのに私を殺すのか』と開き直る余地も残されている。

であれば、今はまだ敵よりも味方を作る段階だ。

逆に言えば『正当防衛を成立させられる状況』だったり、『自分の手を汚さず、幾らでも自分のせいではないと胸を張れる状況』であれば、参加者を減らすように仕組むのもやぶさかではないが。

 

「じゃあ行きましょう! 車椅子はまかせてください」

「ありがたいことだが、この車椅子は自走が可能だよ」

「いいんです。私こういうのに慣れてるし、落ち着くから」

 

プフレが車椅子無しに歩けることは、当然まだ伝えていない。

歩けないとも言っていないので、勝手に誤解してくれた方が、いろいろと都合が効くことが多い。

なるほど車椅子を押すのが上手いと快適な振動に揺られながら、プフレはふと振り向いた。

そこには、すっかる用をなさなくなった図工用のハサミがただ転がっているだけだ。

 

ひとつだけ、後悔した。

どうせ体に刃物を充てるなら、彼女が言うように、胴体にハサミを突き刺してみせるぐらいすればよかったかもしれない。

 

人生の最後に彼女を抱きしめた時の、あの『熱』を思い出す為に。

 

 

【プフレ@魔法少女育成計画シリーズ】

[状態]:左手首に擦り傷、両掌に刺傷(魔法少女の自然治癒力で回復中)

魔法のキャンディー@魔法少女育成計画による思考制御状態

[装備]:プフレの車椅子(支給品扱い)@魔法少女育成計画シリーズ

[道具]:基本支給品一色、スマホ、不明支給品1つ(本人確認済み)、救急箱をはじめとして小学校で調達した物品(詳細は任せます)

[状態・思考]

基本方針:シャドウゲールを、どんな手段を使っても生き返らせる

1:表向きは首輪解除の条件を達成するため、殺し合いに反抗する者と友好的に振る舞う。

2:クラムベリー、魔王パム、スノーホワイト、それ以外にも敵対が避けられない強者の情報を集め、警戒する。

(ひとまずスノーホワイトを排除するまでは、自分の手を汚す形で参加者を殺すことは避ける)

3:自分自身が生き残ることを最優先に。利用できる者はすべて利用する。

[備考]

参戦時期は死亡後です。

首輪解放のための条件は『10個以上のスマホの所有者となること』です

また、それ以外にも『魔法のキャンディー』を消費することと引き換えに『ファヴから依頼されたセカンド条件』を前述の条件クリアまでに達成する必要があります。

(第二条件の内容は後続の話に任せます)

 

 

【結城友奈@結城友奈は勇者である】

[状態]:身体にタタリの跡(タタリの症状自体は沈静化している)

[装備]:勇者装束(変身中、満開ゲージ満タン)、牛鬼(消えたり姿を見せたり)

[道具]:基本支給品一色、スマホ(支給品として勇者システムのアプリ入り@結城友奈は勇者である)、不明支給品2つ(本人確認済み)

[状態・思考]

基本方針:プフレさんと協力して皆を助け、殺し合いを止めさせる方法を探す

1:まずはプフレさんにスマホを譲ってくれる親切な人を探そう

2:みんな……大丈夫、だよね?

3:タタリが治っているのは嬉しいけど、ただ喜ぶ気にはなれない

[備考]

参戦時期は少なくとも勇者の章4話から5話前半までのどこかです

変身するのにスマホの中の勇者システムを必要とするため、プフレにスマホの譲渡ができませんでした

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