バトル・ロワイアル The Rebellious Memory   作:原罪

15 / 67
秘めた願いは血の奥に眠りて/アルーシェ・アナトリア、忍頂寺一政(反骨)

吹雪が猛狂う極寒の山中で、一人の少年と少年の家政婦が取り残されていた。

容赦のない飢えと寒さによる極限状態の中、女は少年に、まず自分の血を与えた。

それは、喉の渇きを潤すだけでなく、確かな温かさを少年に与えた。

嘔吐感に苛まれながら少年はただ生きたいという想いから、貪欲にそれを啜った。

 

次に、少年は女の腕に歯を立てた。

女の皮膚が突き破られ、再び血の味が口内に侵入したとき、少年は初めて”それ”を食することとなった。

 

“それ”はとても柔らかく……

“それ”はとても生温かく……

“それ”はとても濃厚で……

“それ”は少年に“生きる”という幸福を実感させるものとなった。

 

 

 

 

「クソッ、一体どうなっているんだ!」

 

会場南部に位置するショッピングモールを彷徨う者が一人。

燃えるような深紅の髪、緑と青のオッドアイを持つ少女―――アルーシェ・アナトリアは、困惑と焦燥が入り混じった声色で呟く。

 

――訳が分からない。

――一体全体ここはどこだ。

伝説の半妖アーナスを仲間に加え、いよいよ宿敵・月の女王との戦いに臨もうとした矢先に巻き込まれてしまった理不尽な殺し合い。

見上げた夜空の中に、常にそこに佇んでいたはずの蒼い月がなかったことから、この場所はアルーシェがいた世界とは別の世界にあることは何となく理解できた。

と同時に、元の世界のことを思い浮かべる。

 

蒼い月の満ち欠けが暗示する、間もなく滅亡を迎えるであろう世界。

ホテル・エテルナを拠点に活動を共にしてきた仲間たち。

 

そして―――

 

「リリア……。」

 

騎士として命を賭して守護ると誓った幼馴染リリアーナの姿を脳裏に浮かべ、アルーシェはその足を速める。

閑散としているショッピングモール内に、唯一明かりを灯している店を発見したのは、それから10分後であった。

 

 

 

 

「すいません、忍頂寺さん。わざわざご飯までご馳走していただいて……。」

「いやいや、アルーシェ君が美味しそうに僕の料理を食べてくれているだけでも、料理人として冥利に尽きるというものだよ。」

 

アルーシェがショッピングモール内のレストランで遭遇した男は、忍頂寺一政と名乗った。

忍頂寺はアルーシェを料理が並べられたテーブルに招き入れ、そこで2人は情報交換を始めた。

曰く、忍頂寺は殺し合いや争いとは無縁のただの料理人で、気が付いたらこのショッピングモールに飛ばされていたとのこと。

曰く、忍頂寺の支給品には首輪レーダーがあり、ショッピングモール内に別の参加者がいることは確認できていたとのこと。

曰く、ショッピングモール内を探索している参加者をもてなす為に、レストランで料理を作っていたとのこと。

 

「しかし、妖魔に、教皇庁、月の女王か……。全くもって奇想天外な話だね」

「私だって、邪妖が全く存在しない世界なんて、想像できませんよ!」

「まあ、そこはお互い様だね。でも僕はアルーシェ君の言うことは信じるよ。アルーシェ君が嘘を吐くような人間には見えないし、ここで嘘を吐くメリットはないし。」

「何よりあのホールに飛ばされてから、僕の常識では推し量れないことが連続して起こってしまっているからね、今この状況で何を伝えられたとしても、今更疑う余力なんてもうなくなってしまったよ」

「うーん、あまり納得は出来ないけど、今はそうするしかなさそうですね……。」

 

忍頂寺が一通りの情報を提供し終えると、アルーシェも机上の料理を頬張りながら、自身が知りうる情報を提供した。

――自分が教皇庁のエージェントであり、月の女王打倒を掲げていること。

――自分がカミラ博士に人工的に改造された半妖であること。

 

ここで忍頂寺からのツッコミが入る。

それも当然だ、アルーシェの情報の中には忍頂寺には聞きなれない単語が多すぎたからだ。

全く話が噛み合わない状況の中で、忍頂寺は、「教皇庁」・「月の女王」・「妖魔」・「邪妖」・「半妖」とは何かと問い詰めはじめ、アルーシェは困惑しながらもそれに回答していき、今に至る。

 

「それでアルーシェ君、首輪の解除条件は確認したのかい?」

「いえ、それが……このスマートフォン?っていうもの、使い方がよく分からなくて……。」

「驚いたな……。今時スマートフォンの使い方がわからない子がいるなんて……。ああ、ごめん。そもそも僕とアルーシェ君は住んでいた世界が違っていたのだったね。使い方を教えてあげるよ。」

 

忍頂寺は自身のスマートフォンを取り出し、実演する形式で使い方を教える。

電源の入れ方、メニューの表示、基本操作と流れるように説明する忍頂寺。

アルーシェは熱心に忍頂寺の説明を聞き入る。

メニュー画面上には「参加者名簿」「首輪解除条件」というメニューが表示されており、忍頂寺は「参加者名簿」の項目をタップし、表示された名簿に見知った名前がないかアルーシェに確認させる。

 

「ルーエ!?それに教授に、隊長に、クリスっ!?アーナスさんも!?」

「どうやら、アルーシェ君の知り合いも巻き込まれてしまっているみたいだね。」

「はい!みんな信頼できる仲間達です。」

 

ルエド教団に籍を置く、最も信頼できる幼馴染「ルーエンハイド・アリアロド」

月の女王に殺害されたアルーシェを半妖として蘇生させた「カミラ有角」

一度は妖魔に堕ちた憧れの先輩騎士「ミュベール・フォーリン・ルー」

神出鬼没な純血の妖魔「クリストフォロス」

『夜の君』を倒した伝説の半妖「アーナス」

 

月の女王打倒のために協力している仲間達もこの悪趣味なゲームに参加させられていることに驚愕はしたが、彼女達と合流できれば心強いことこの上ない。

また、リリアーナの名前が名簿になかったことは不幸中の幸いであった。

一刻も早く仲間たちと合流して、リリアーナの元に帰らなければならない。

決意を改め、アルーシェは忍頂寺から教えてもらった手順で、スマートフォンの「首輪解除条件」をタップし、忍頂寺とともにその内容を覗き込む。

 

そこには「7人以上の参加者から吸血を行う」と記載されていた。

 

「なっ!?」

「ほぅ……」

 

再びスマートフォンの表示内容にアルーシェは再び驚愕の表情を浮かべ、忍頂寺は口角を吊り上げた。

 

「そうか、アルーシェ君は半妖だから、吸血衝動があるんだったね。」

「はい、でもこんな解除条件……」

「ならば、まずは僕の血を吸うといいよ。」

「なっ、忍頂寺さん!?」

「アルーシェ君もその首輪外したいだろう?それに、アルーシェ君に首輪を解除して貰ったほうが僕も都合が良いんだよ、ほらこれ」

 

戸惑うアルーシェに忍頂寺は自身のスマートフォンを見せつける。

そこには「他参加者に装着されていた首輪を6個以上保有する」と記載されている。

 

「参加者の首輪の回収……ですか」

「まあ、殺して無理に剥ぎ取るっていう手もあるけどね。僕は見た通り非力だし、出来れば手荒な真似はしたくないんだよ。」

「だから、さ」

「僕を助けるという意味でも、是非ともアルーシェ君には僕の血を吸ってほしいんだよ」

 

すっかり料理を平らげたアルーシェの前にデザートとばかりに、忍頂寺は膝を立て自身の首筋を差し出す。

ゴクリ……差し出された首筋を見るとアルーシェの体内に巡る妖魔の血が騒ぎだす。

早く、この男の赤い血を吸いたい、と。

 

「本当に……宜しいんですか?」

「ああ、構わないとも。ただし死なない程度にお願いするよ。」

「それでは……」

 

遠慮がちにアルーシェは忍頂寺の首筋に近づき

 

そして

 

そこに歯を立てた。

 

 

 

 

「それでは行きましょう、忍頂寺さん!」

「ああ、道中はよろしく頼むよ、アルーシェ君」

「任せてください!騎士として、忍頂寺さんの身は必ずお護りします。」

 

吸血を済ませた後、二人は地図上に表示されている施設「ホテル・エテルナ」を目指すことにした。

アルーシェ曰く、このホテルはアルーシェたちの活動拠点であったため、仲間たちがここを目指す可能性が高いとのことだ。

道中支給品のレーダーで索敵を行いながら、協力してくれそうな参加者と合流できれば、事情を話して吸血させてもらうよう説得するつもりだ。

 

運命に翻弄される半妖の少女ととある料理人のバトルロワイアルはこうして幕を開けた。

 

 

 

―――ああ、しかし

“食べる”ことには慣れていたけど、”食べられる”側になったのは初めての体験だったよ。

僕の一部がアルーシェ君の中に取り込まれた。

本当に素晴らしいことだ。あの幸福な瞬間はもっともっと味わいたいものだよ。

 

突然訳の分からない催しに参加させられることになったけど、あの至福の一時を味わえただけでも主催者のファヴには感謝しないとね。

 

それに、それにさ……

アルーシェ君の話によると、純血の妖魔は、血肉ではなく人間の魂そのものを喰らうことができるというじゃないか!

最高だ!最高の存在じゃないか、妖魔というのは!

アルーシェ君の知り合いにクリストフォロスという純血の妖魔がいるらしい!

彼女の青い血を浴びることさえできれば、僕も、僕も!

魂そのものを食べられる存在“邪妖”になることができるらしい!

 

殺し合い?

首輪の解除?

優勝?

 

心の底からどうでもいいよ、そんなことは。

 

僕はただ単に美味しい食材を美味しく食べることができる、そんな至高の存在になりたいだけなんだよ!

 

 

 

 

秘めた願いをその血の奥に秘め、異常殺人鬼は歩を進める。

 

生きることは食べること

食べることは生きること

何かを食べるということはそれを取り込み自らの一部とすること

忍頂寺は自分に血肉を提供した彼女が事切れる瞬間、何かを言いかけようとしたことは覚えている。

結局それを聞き取ることは出来なかったが、それは今まさに自分がアルーシェに尋ねたくて仕方がないことなのではないかと忍頂寺は確信している。

 

「お い し か っ た ?」と

 

 

 

【G-4/ショッピングモール/一日目 深夜】

【アルーシェ・アナトリア@よるのないくに】

[状態]健康

[服装]いつもの服装

[装備]

[道具] 基本支給品一色、スマホ、不明支給品3つ(本人確認済み)

[首輪解除条件] 7人以上の参加者から吸血を行う(残り6人)

[思考・行動]

基本方針:会場からの脱出

0: ホテル・エテルナに向かう。

1:忍頂寺さんと一緒に仲間たちを探す

2:なるべく首輪は外したいけど、無理矢理血は吸いたくない……

※忍頂寺からスマートフォンの使い方を教わりました。

※忍頂寺から吸血を行いました。

※参戦時期は本編6章でアーナスが仲間になった直後です。

※本人は気付いていませんが、活動時間の制限が取り除かれています。

 

【忍頂寺一政@追放選挙】

[状態]健康、軽い興奮状態、首筋に噛み痕(軽い失血)

[服装]いつもの服装

[装備] 首輪索敵レーダー、

[道具] 基本支給品一色、スマホ、不明支給品2つ(本人確認済み)、調理器具一式(現地調達)

[首輪解除条件]他参加者に装着されていた首輪を6個以上保有する

[思考・行動]

基本方針:積極的に殺し合いに乗るつもりはない、他人と「共生」する手段を模索する。

0: クリストフォロスを捜索し、青い血を浴びて邪妖になる。

1:妖魔に半妖か……実に素晴らしい存在じゃないか。

2:積極的に他の参加者と接触し、自分と「共生」するのに相応しい存在か観察する

3:アルーシェ君にまた吸血されたい。

※首輪索敵レーダーは半径200m以内の首輪の存在を確認することができます。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。