バトル・ロワイアル The Rebellious Memory   作:原罪

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東郷美森は■■の■■である/東郷美森、カミュ(ヤヌ)

夢を見た。

君を、あの子を、みんなを連れて、駆け出そう。

誰も追いつけない場所へ。

 

もしここが、大赦の権限さえ及ばない場所だというのなら。

同じ施設があるだけのぜんぜん違う場所で、大赦からも感知されない世界に行けるというのなら。

もしかしたら。

あの子を苦しめる悪い神様のタタリだって、届かないかもしれないから。

 

そんな、夢。

 

 

 

 

夜闇の中でも、一面に白亜の石材から構成されたその空間は、月光の反射によって少しだけ明るかった。

『とにかく画面を触れば地図が出てくる』ことを学習した小さな機械を信用する限り、そこが『墓地』であることは間違いない。

いや、それらは『墓』であはるのだろう。

ひな壇のように中央へと大きく掘り下げられた石段のすべてが均一な高さの墓標で埋め尽くされているのは、いくらなんでも異様ではあったが。

 

彼が、石段を降りた先には舞台のような盛り上がりが造られていた。

その奥手にひときわ大きな石碑があった。

 

『英霊之碑』

 

見たことのない言語の文字であるはずなのに、なぜか読めた。

 

そして、先客もいた。

石碑からほど近い列にある、一つの墓標を前にして。

つやのある黒髪を結った少女が一人、立っていた。

赤いタイのついた黒い学生服……どこかの女学校の生徒だろうか。

思いつめた表情で、石段を静かに降りてくるこちらに気付いているのかいないのか、ただじっと墓石に視線を向けている。

しかし、接近には気づかれていたらしい。

少女の方から口火をきった。

 

「この慰霊碑、本当なら瀬戸大橋の近くにあったはずなんです……なんで、ここにも建てられているのか」

 

まるで、独り言のように。

 

「瀬戸大橋? 有名な場所なのか」

 

ついそう問い返すと、眉をひそめられた。

 

「知らないんですか? 我が国の人なら皆知ってると思います」

 

少女にとって不可解な問いかけが、言葉の呼び水になってしまったのか。

しばらくしてからぽろりとこぼすように、続ける。

 

「どうして『英霊』になったのかは、ほとんどの人が知らないことですが」

「何をしたんだ」

 

思いつめた表情のまま、淡々と語る。

 

「ただの普通の女の子でした。でも、悪い神様やその手先が攻めてきたのと戦って、世界を救うのと引き換えに死にました」

「…………マジか」

「はい。二年前には、私の大切な友達が」

 

あまりに、どこかで聞いたような話すぎた。

頭をよぎるのは、『すべての命の盾となり、眠る』と墓碑に刻まれた少女。

 

「こんな風に『英霊』として崇められてるけど、私も、この子たちも、あの子も、こんな神聖視されるより、普通に生きたかったと思うんです。

いつだって、人より優しくて、誰かを護るために戦える心を持った『勇者』が犠牲になってきただけで…………こんなこと言われても、信じられないですよね。」

 

『私も』『あの子も』ということは、彼女とその周囲の少女も、『勇者』に含まれるということか。

そしてそれは、悪魔の子と追われ迫害されることも無い代わりに、実体を理解されることも無いものだったと。

 

「ロトゼタシアに、こんだけの数の勇者が?」

「ロト……なんですか?」

 

まるで初めて聴いた言葉のようにけげんそうな顔をする少女を見て、彼もまた首をかしげるところだった。

しかし、やがて違和感の解決策に思い当たる。

冒険の合間に、たまに訪れていた『冒険の書の世界』なる不思議な場所。

あの祠の向こうの世界では、ロトゼタシアでは見たこともない習俗の地方に出ることもあったし、全く聞いたこともない勇者の伝説もあった。

この土地も、まったく見覚えなのないところである以上は、あのたくさんの異世界のように『ロトゼタシアと違う世界』の話なのかもしれない。

 

「横文字は苦手なのですが……何か国土に関わる言葉ですか?」

「いや、こっちの話だ……信じるさ。『悪魔の子』だの世界を背負うだの、信じられないような話には慣れてるんでね」

 

ほんとうに、『こっちの話』のつもりだった。

だから、その瞬間に彼女が眼の色を変えたのは、本当に予想外だった。

 

 

 

「『悪魔の子』をご存知なんですか?」

 

 

 

なぜ、違う世界の者であるはずの彼女がそこに食いつく?

 

「どうしてそれを知ってる?」

「いえ、その……私の首輪の解除条件に、そんな言葉が書いてあって……悪い人なのかなって思ったから……べ、別に深い意味があってのことでは」

 

彼女は、しまった、という顔で左手にある支給品の機械を握り込んだ。

『悪い人だと思ったから』どうするつもりだったのか。

深い意味がないなら、友達が死んだという重たい話の直後に、あんな食いつきを見せるものだろうか。

自分自身の、首輪解除条件のことを思い出す。

それで、ピンときた。

 

「ほらよ」

「え?」

「こっちの解除条件ってやつだ。読むといい」

 

左手でスマホを渡すと、相手はたいそう警戒しながらもこわごわと右手で受け取る。

彼がたいそう苦労して試行錯誤しながら呼び出した画面をこともなく呼び出して、そこに書かれている文章を目で追っていく。

そして、文面を読みこむにつれてその顔が凍り付いた。

 

 

首輪解除条件:

 

『御姿の勇者』から首輪を解除せずに首輪を回収すること。

なお、生きている『御姿の勇者』を手にかけることで回収した場合、特典としてあなたを含む任意の参加者一名の首輪を選択して解除できる仕様に変更される。

解除条件達成後に、下部の入力フォームから解除したい参加者一名の名を入力して『送信』をタッチすること。

数秒後に、送信した人物の首輪が解除される。

 

 

「これは……」

「悪趣味だろ?」

 

彼女が読み終えるとさりげなくスマホを取返し、吐き捨てる。

 

首輪を解除せずに首輪の取り外しを行う方法とは、つまり一つしかない。

その参加者の首から上を切断することで、首輪を抜き取る。

しかも、死体から首輪を回収するのではなく、自分自身が殺害して首を斬り落とすことで回収する場合、自分以外の人の首輪を解除することができる。

つまり、知り合いを一人助けたければ、一人殺して首を斬れという誘いだ。

 

「で、その驚きようを見る限り、『御姿の勇者』っていうのはあんたが言う『勇者』の誰かみたいだな?」

「あの子に、何を――!」

「おっと誤解すんな。これに乗るつもりはねぇよ。俺の仲間には、そんなことしようなら俺を張り倒しそうな連中しかいないからな」

 

間髪おかず、逆に問う。

 

「でも、あんたは殺す気だったんだな?」

 

彼の右手にはもう一つスマホがあり、『解除条件』の画面がついたままになっている。

彼女が慌てて手元を見下ろし、自分のスマホが掏られたことにやっと気付いた。

 

「まさかターゲット名以外が全部同じとはな。

 俺は『御姿の勇者』を殺せ、あんたは『悪魔の子』を殺せ。成功すれば仲間の首輪を外せる」

「いつの間に……!」

「そっちが警戒しながらスマホ受け取った時だよ。逆の手の注意が疎かになったろ」

 

タネを明かせば、そういうことだ。

『ぬすむ』は確定成功の特技ではない。

しかし、明らかに標的の注意が別の方に向いていれば成功率もあがるし、彼は利き手と逆の手も扱えるようスキルを積んでいる。

こちらが言い逃れは許さないという意思をこめて見据えると、彼女は表情を引き締めた。

 

「まさかスニーキングにおいて私の上をいくとは。あなどれない方ですね」

「なんであんたがスニーキング技術持ってんだよ」

 

元盗賊は、かなり引いた。

 

「スマホ、返してください」

「断る。あんたがその考えを改めて、別の方法を考えるようになるまでは返さない」

 

背を向けて、石段をのぼり始める。

説得するにせよ、頭に拳を落としてやるにせよ、墓の外に出た方がいいと判断した。

移設された以上ここには遺骨も遺体も無いのかもしれないが、それでもここは墓地だし、彼女の友人の名前まであるという。

そんな場所で喧嘩をするべきじゃない。

『相棒』の命を殺し合いゲームを盛り上げる材料に使われた上に、首斬りを教唆されたことに憤っていようとも、それぐらいの自制ならできる。

 

「あの子には、他の方法を探してる時間なんてありません」

 

声とともに、少女が追いかけてきた。

 

「もう、通学路を歩くのも辛そうにするぐらい弱ってて。

悪い人に襲われても抵抗できないかもしれないし、禁止エリアから逃げ遅れるかもしれない。

あの子の解除条件が緩くても、ほかに助かる手段があっても、それをこなす体力があるか分からない」

 

彼にすがるというよりも、自分自身に言い聞かせるような話し方だった。

仲間の安否を心配する気持ちならば、痛いほど分かる。

自分だって、名簿の中に『とある名前』を見つけた時は、動転していろいろと考えてしまったぐらいだ。

しかし。

 

「その子の気持ちはどうなるんだ。

無理やりだろうと『勇者』やってたぐらいには、いい子だったんだろ?

自分のために友達が人殺しになるのに、耐えられるのか。その子に背負わせるつもりか?」

「私は、どんな罰を受けたってかまいません。

でも、それであの子が苦しむなら、私のやったことは隠し通そうかと……」

「いや、無理があるだろ。実際、俺にはすぐばれたんだから」

 

呆れたような彼の声に対して、彼女は言い返した。

 

「口を滑らせるつもりはなかったんです。

いきなり何のことか知ってる人に会えるとは思わなくて驚いたのと。

……蔑称や誹謗中傷の類だったなんて思わなかったから、不用意に口に出してしまって」

 

『勇者』として育ったということと関係あるのか、ぶっそうな言動のわりに育ちの良いことを言う。

あるいは、イジメやいびりなど存在しない良い学校で教育を受けたのか。その両方か。

 

「けどな、その子が望まないことをするのは変わらないんだぞ。

『お前がこっそり危ない真似を肩代わりして解決』で済むことじゃない」

 

そういって、ドーム状の屋根に囲まれた墓地を出たときだった。

背後で、ひゅっと息をのむ音がした。

 

「あの子が、望めるわけがないじゃないですか」

 

まるで、言葉のどこかで、絶対に触れてはいけないポイントに触れてしまったかのように。

 

「だってあの子は、本当の『勇者』だから。

いつだって自分のことより他人のことばっかりで。

それで皆が助かるならって、簡単に犠牲になろうとして。

今回のことだって、私の肩代わりでそうなったのに、誰も悪くないなんて言って」

 

振り向けば、大きく見開かれた瞳に、悲壮な怒りが宿っていた。

少女はぐっと踏みしめるように、石段を登り終える。

 

「自分たち以外の誰かに犠牲を強いるなんて、間違ってると思います。

それでも私は、あのお墓にあの子の名前も並ぶなんて、絶対に認められない。

何度も大変な目に遭って世界を救って、私もあの子に救われて。

その代償がこれだなんて、受け入れられない」

 

墓地からしばらく歩いたところで、そう言い切って足を止める。

それは、妥協するつもりのない敵対宣言なのだと理解できた。

 

「そうかよ」

 

相手の言い分が感情論である以上、そしてその気持ちが理解できるものである以上、正論を言ってみても止まらないなら力づくしかない。

もしものためにと腰布にさしていた武器の位置を確認し、相手の動きを注視した。

スマホがこちら側にある限り、彼女が誰を殺そうとも首輪解除したい相手を指名する連絡は送れない。

それを奪い返しに来るなら、先にそれを破壊しようと読んで。

 

しかし、驚異はすぐ手元に出現した。

青い花びらとともに小さなパールモービルに似た外見の浮遊生物が出現して、右手のスマホに狙い定めてきたのだ。

 

「うわっ!」

 

体当たりされ、取り落とす。

とっさに拾おうとかがんだが、その隙をついて少女の方が動いていた。

 

パン、という破裂音を鳴らす。

間髪いれず足元の砂地が爆ぜ、とっさにその場を飛びのかせた。

数歩分だけ後方にさがり、手元に武器を携えた少女と目が合う。

モンスターが隙をついた短時間で取り出したらしく、黒い短筒型の武器がこちらに向いていた。

初めて見る飛び道具だったが、発射されたものの貫通力がボウガンの比ではないことと、使い手の精度がおそろしく良いことは弾痕を見れば一瞬で分からされた。

 

「まだ殺すつもりはありません。

あなたには、『悪魔の子』と呼ばれた人が名簿の誰なのか、聞きださないといけませんから」

 

 

 

 

「教えてやらねぇよ」

 

想定外だったのは、その言葉を言い終えるよりも早く、青年もまた動いていたことだった。

『聞きださないといけませんから』と言葉を切るのとほぼ同時、青年の左手から黒い金属がさっと投擲される。

 

狙われたのは、自身ではなく青坊主が持ち運んでいるスマホ。

そう判断して、彼女は即座に二発目を発砲した。

2人の中間地点にいるスマホを抱えた青坊主の後ろで、火花が散る。

 

キンと弾ける音が遅れて追いつき、投擲された刃物が弾丸とまともにぶつかった。

勢いを殺されて、動きを制止されたそれは漆黒のクナイだった。昔の忍者が使っていたような。

 

「教えたら、お前はそれを手掛かりにしてアイツを探すだろ」

 

発砲の衝撃は思っていた以上にきつく、両手が大きく跳ね上がった。

それなりに訓練は積んでいた上に、かつて別の精霊にもらっていた武器のおかげで扱いには長けていたけれど、勇者に変身していない時の身体能力では反動の大きさが全く違う。

 

「俺の名前もアイツの名前も、覚えておいてくれなくていい」

 

その対応遅れに乗じて、二刀目のクナイが放たれた。

とっさに拳銃を持ち直すが、投擲されたの正面、ではなく真上。

何故。釣られて見上げたが頭上には何もない。

 

「けど、誰か救ったのはアイツも同じだ」

 

はっとするような声とともに、『ブラフ』の可能性にやっと気付く。

いつの間に袋から出したのか、三刀目はそれまでと逆の手から放たれていた。

彼女へと、直線距離で。

狙いをつける間もないまま即座に対応を迫られる。

とっさに撃ち、どうにか弾いた。当たったのは狙いよりも運の方が大きい。

 

「救われたのは、俺たちも同じなんだよ」

 

青年の顔にアテが外れたというブレはない。

なら、こちらが何かを見落としている。

それはほぼ直感だったが、そこに戻ってきた青坊主の視線が上を向いた――それが、彼女に気付かせた。

頭上に投げられた二刀目は、まだ生きている――ブラフではない。真上ではなく、大きな放物線軌道でこちらに落ちてくる。

たとえ精霊がバリアを張っても、ゲージが消費されるのは痛い。

 

「くっ!」

 

間に合え。

願いながら撃った弾丸は、ほとんど手を伸ばせば届く高さで『ギン!』と鈍い激突音を鳴らした。

危なかった。直上で飛び散った火花と連発の反動は彼女をよろめかせ、倒れさせる。はずみで拳銃が取り落とされる。

その隙を逃さず、怒声を吐き出しながら敵は突撃してきた。

左手――おそらくこちらが利き手に、四刀目が握られている。

おそらく、最初から何本か一組で支給されていたのか。

 

「誰かの力になりたがってるのが、自分だけだと思ってんじゃねぇ!」

 

しかし、彼女の幸運は続いていた。

青坊主から手渡され、スマホが手に戻る方が早かった。

即座にアプリを押し、変身。

一瞬で青い勇者装束へと身を変じた彼女に、彼の眼が驚きで見開かれる。

しかし接近は止まらない。当然、こちらは姿が変わっただけで丸腰に見えているのだろうから。

しかし。

 

「それでも!私は『友達』として『勇者』を辞めさせる!」

 

自分が止めなければ、彼女の自己犠牲は止まらない。

勇者同士としての口論なら、彼女は勇者を背負い込んで本音を言ってくれないから。

 

この姿ならば、青坊主の提供する武器――ライフルを即座に取り出せる。

遠距離狙撃用の武器だ。この距離では撃てるはずがない。

だから――銃床のあたりを振るって、思いっきりぶん殴る!

 

いきなりの武器出現に動転した青年の無防備な胴に、直撃させた。

殺さない程度の手加減。それでも変身後勇者の身体能力ならば、人ひとり吹っ飛ばすことはあまりに容易だ。

どすっと鈍い音をたてて、「ぐはっ」といううめき声が漏れて、成人する前後の男性にしては小柄な体躯が大きく宙に浮いた。

 

「――自慢じゃないが」

 

しかし。

その手に残った感触は『浅すぎる』ものだったと気づいて。

まさか、直撃の瞬間に自分から後方に跳ぶことで衝撃を減じさせたのか。武器の存在を予測できたはずもないのに何故。

 

「女にぶっ飛ばされるの、初めてじゃねぇんだよ」

 

本当に自慢にならないことを言って。

 

この突撃さえも、あらかじめ直前で飛び退くことを想定した『ブラフ』だった。

気付くのと同時に、『本命』の攻撃は地面から生じる。

童話で見る魔法陣のような形をした橙の光が足元に浮かび、そこ一帯の岩石が抉れ飛び散った。

 

「きゃあっ!!」

 

びりびりとしびれるような衝撃に注意を持っていかれ、ふたたびスマホを手放して倒れた。

岩石の全身打撲を受けなかったのは精霊の加護ではなく、ライフルで攻撃をくわえた勢いでジャンプし、滞空していた恩恵だった。

これはいったい、何。それよりも、いつの間にこんなモノを。

視線を起こすまでのわずかな間に、疑問が頭を埋める。

そして、撃ち落されて地面に刺さったクナイを見て気付いた。

上空からの攻撃は、二重三重のブラフだった。

自分の視線が上空にそらされている間に、『遅延発動する何か』を彼女の足元に仕掛けていたとしたら。

 

顔を上げると、相手も吹き飛ばされた勢いのままに地面に倒れていた。

打撲によるダメージから回復しようと、どうにか体勢を立て直してクナイを投げきろうとしている。

あれを投げられるだけで――落っことしたスマホを破壊されるたけで、こちらは変身手段を失い、首輪解除したい人を指定するメールも出せなくなって、『殺して首輪解除する』という行動方針は破綻する。

 

それだけは回避してみせなければ。

本来の、制圧してから『悪魔の子』のことを聞き出す予定を、仕方なく捨てる。

 

口の開いた支給品袋に手を突っ込み、取り出したモノを青年の頭上へと、放り投げた。

その支給品――説明書に曰くの『キメラのつばさ』は、「げっ」と声を漏らした男の姿をかき消し、別の場所へと飛ばした。

おそらくは、あの人が最初に降り立った地点へと。

 

大きく息を吐いた。

戦闘は終わった。

 

 

 

 

彼女が彼を殺すつもりがなかったように、彼もまた彼女を殺すつもりがなかった。

でなければ、最後の呪文にジバ系初級呪文の『ジバリア』を選択したりはしない。

もっとも、彼女の方だって最初の弾丸を威嚇にしか使わなかったのだから、それを言い訳の材料にすることはできないが。

 

「追ってくる様子は……ねぇか。まぁ俺がどっちから来たかなんて分からないだろうしな」

 

キメラのつばさによって移動するのは、最後に拠点としていた地点――今回の場合は、会場に降り立ってから最初にいた場所らしい。

スマホなる機械の扱い方に苦戦しながら、ボタンをガチャガチャ押しつつ歩いていた覚えがあるので間違いない。

あいにくと育ちが良くないので、読み物をしながら往来を歩いてはいけませんとは教わらなかった。

 

そして、状況は良くはない。

あのままでは彼女はアイツの命を狙うのみならず、アイツの名前を特定しようとするからにはほかの仲間たちと出会ってもひと悶着起こすだろう。

自分が彼女を抑えられなかったせいで仲間に迷惑をかけるのは、申し訳がたたない。

 

『なーにヘマしちゃってんのよ!あんた、相手が可愛い女の子だからって油断したんじゃないでしょうね!』

 

金色のおさげをぷんすかと揺らしながら、難癖をつける少女の姿が思い浮かんだ。

 

あの女なら言いそうだ、と苦笑する。

迷惑をかけるのは本意ではないが、また生意気な口を叩かれるとしたら悪くない。

そう思うと、少しだけ落ち着いた。

やることははっきりしている。

あの『勇者の友達』は止める。相棒をはじめとした仲間とは合流する。本当にここにいるとしたら、あのチビっ子も含めてだ。

そして、自分と、仲間たちの安全のためにも『御姿の勇者』とやらは――

 

「――もう一人の勇者さまを、保護してやらなきゃな」

 

その友達を失いたくないという思いからあんな条件を受け入れたというなら、先にその子を護ればいい。

身体から殴られたしびれが抜けるのを待って、立ち上がった。

 

――だってあの子は、本当の『勇者』だから

 

彼女の、友を思う気持ちが本物だということは理解できた。

やろうとしていることを絶対に許容できないというだけで、同じ歯がゆさなら味わったことがあるから。

 

――私は『友達』として『勇者』を辞めさせる!

 

きっと、彼女も彼と同じように、そいつと共に行くと誓ったことがあるのだろう。

何があっても『勇者』を独りにはさせやしないと、そう決意するだけの仲だったのだろう。

 

ただ、自分と彼女とでは、在り方が違うだけだ。

そう思えば怒りはあっても、恨みはなかった。

恨むには辛かった。

 

 

 

 

慰霊碑のドームの上に座って考え込んでいたことで、結果的に地面から襲ってくる術の継続効果はやり過ごせた。

あの陣のような術は本当に彼女の足元にだけ仕掛けられていたらしく、慰霊碑の石段まで傷つけることはなかった。

最初にスマホを持ったまま一度墓地を出てくれたように、墓地で荒事は起こすまいと気を使われたのだろう。

戦闘の間も、なるべく殺さずに事を収めたいと動いているようだった。

 

「いい人だったな……」

 

であるならば、あの『いい人』があそこまで怒るならば、殺せと言われた『悪魔の子』も、きっといい人で、死んでいい人なんかではないのだろう。

 

――誰か救ったのはアイツも同じだ。

 

あの人から言われたことは、全くその通りだった。

誰かが犠牲になることが認められないからといって、その犠牲をほかの人に強いていいわけがない。

 

まず捨てたのは、『殺し合いで優勝して願いを叶えることで、あの子を苦しめている天の神を倒す』という選択肢だった。

確かに、『タタリでもなければ貫けないはずの精霊防御を無視して首を爆破する』なんてことができる以上、あのファヴの背後には願いを叶えられる組織なり神様なりがいるのかもしれない、とまでは思ったけれど。

しかし、それをやろうと思ったら、あの子自身はもとより、乃木園子を除いたほかの友達全員を殺さなければならなくなる。

誰も犠牲にしなかった結果として世界が滅ぶことは、いっそ仕方ないと許容できる。

でも、ほかの友達を犠牲に捧げて世界とあの子を救うなんて、できない相談だ。

勇者部の部室であの子を止めようと口論になった時も、『大赦を潰そう』という案は出たけれど、誰も『他の巫女に代わりに犠牲になってもらおう』なんてことは言い出さなかった。

あの『壁』を壊した時のように『皆を救うためだ』と己に言い聞かせて皆と戦うことはできても、『あの子を救うための犠牲だ』とほかの仲間を殺すなんてことはできない。

結局のところ、わたしは、一番大切なもののためにほかの全部を捨てるような『魔王』のごとき悪党になるには弱すぎたのだろう。

 

みんな殺したってかまわないと覚悟を決められるような、『魔王』にはなれなかった。

殺し合いには反対するし、勇者部の仲間を殺すことだってできない。

 

だけど。

 

この状況で、全員のための、皆が皆を幸せにするための『勇者』を続けられるほど、強くもなかった。

約束したから。

もう絶対に忘れない。ずっと一緒にいると。

彼女がその約束を守れなくなったのなら、こんどは自分が追いかける。

何を失っても、世界が失われても。

一番大切な友達だけは失えない。それだけだ。

 

私はきっと、『勇者』である以前に、あまりにもあの子の――『友奈の友達』であり過ぎたのだと思う。

 

だから彼女は、謝るでなく、弱音を吐くでもなく、ただ宣戦布告をした。

 

 

 

「わたしは、あなたのお友達を殺します」

 

 

 

そして。

 

 

 

「さよなら、銀」

 

 

 

お墓に背を向けて、歩き出す。

ついこの間までは、遠からず園子と一緒に墓参りをして、いろいろな話をしようと思っていたのに、こんなことになってから訪れてみても何も言えなかった。

 

この世界のように、大赦でさえ知られていない場所があるなら、神婚を逃れて世界が滅ぶまで皆と逃げ続けてもいいんじゃないかとさえ思ってしまった。

たとえ銀が『死にたくない』と思っていたところで、それでも彼女があの世界を護ったことには、変わらないというのに。

それどころか、彼女の名をいただいた勇者の武器を、自己本位な殺人のために使おうとしている。

 

やっと思い出せた友達がここにいると名簿に書かれていたのに、その真偽を疑うよりも、『合わせる顔がない』と純粋に喜べない自分のことが、とても悲しかった。

 

 

 

『あの子』は結城友奈。

『アイツ』はイレブン。

 

彼の名前はカミュで、彼女の名前は東郷美森。元の名前は鷲尾須美。

 

今はまだ、二人ともその名前を知らない。

 

 

【H-3/エリア東部/一日目 深夜】

【カミュ@ドラゴンクエスト11 過ぎ去りし時を求めて】

[状態]:健康(腹部に打撲痕)

[装備]:リップルのクナイ(残り2本)@魔法少女育成計画

[道具]:不明支給品2つ、基本支給品一式、スマホ

[状態・思考]

基本方針:仲間と合流し、殺し合いゲームの打倒

1:パーティーメンバーと合流する(ベロニカが生きていることについては、今は合流を優先し考えない)

2:御姿の勇者を特定して保護する

3:ホメロス、黒髪の少女(名前は知らない)には警戒

[備考]

※『御姿の勇者』については、その呼び名しか知りません

※参戦時期はウルノーガ撃破後、主人公が決断するまでの間です

 

【H-4/墓地付近/一日目 深夜】

 

【東郷美森@結城友奈は勇者である】

[状態]:ジバリアによる多少のしびれ

[装備]:勇者装束(変身中、満開ゲージ満タン)、青坊主(消えたり姿を見せたり)

[道具]:基本支給品一式、スマホ(支給品として勇者システムのアプリ入り@結城友奈は勇者である、マジカルトカレフ(予備弾薬一式含む)@魔法少女育成計画、リップルのクナイ(3本)@魔法少女育成計画

[状態・思考]

基本方針: 皆で殺し合いから脱出し、叶うならば主催者の謎の力を利用してタタリを消す方法を探す

1:とにかく友奈ちゃんと合流。『友奈の友達』として、友奈ちゃんに『勇者』であり続けるのを止めさせる

2:勇者部の皆を探す。銀は……。

3:『悪魔の子』を特定し、ほかの参加者にばれないように殺す。そのためにも青髪の青年は警戒(出会ったら情報を引き出してから口封じする)

4:三ノ輪銀の存在に疑念。会ったとしても何を言えばいいんだろう…。

[備考]

※参戦時期は勇者の章5話、部室で友奈と喧嘩した後です

※『悪魔の子』についてはその呼び名しか知りません

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