バトル・ロワイアル The Rebellious Memory 作:原罪
☆袋井魔梨華
鋭い刃を回転させながら襲い掛かる手裏剣のすべてを蹴って、払って、頭上の花でいなし、蹴散らし、本命らしきクナイはぎりぎりまで引き付けてから回避した。
軌道はなかなか読みづらいが、敵の身体能力が高すぎることを想定しきれていない甘さがある。急加速することで手裏剣の群れを突破し、接近する。
懐に飛び込もうとすれば、敵は足を振りぬきゲタを飛ばして反撃。
悪くない反応だが、軌道を読めてしまったのが惜しい。
袋井魔梨華はゲタの直撃を口で受け止めると、敵の脚を掴む。盛大にぶん回し、地に叩きつけた。
ずん、と周囲の木々が振動するほどの衝撃が地面を走り、五十メートルばかり先の線路がびりびりと震える。
忍者装束の魔法少女は顔を歪め歯を食いしばったまま地面に身を半分ほどめりこませていた。
それなりにダメージは通ったはずだが、隻眼からは戦意が消えていない。
そのことに満足を覚え、持てる集中力をより戦いに没入させようとした。
しかし周囲の警戒へと割いていた方の聴覚が、小さく息をのむような音を聞き取った。
振り向けば、セイタカアワダチソウのステップに隠れるようにしてブレザー服の少年が身を潜めていた。
月明かりと線路沿いに点在する街灯を視界の支えにして、家一軒ほどを挟んだ間合いで護身用らしき拳銃を両手に収めている。
様子をうかがいに来ただけのはずが、想像以上のものを見てしまったと言いたげにその顔はこわばっていた。
忍者服の魔法少女が半身を起こして、切羽詰まったように少年を叱咤した。
「逃げろ!」
ああそうか。確かに攻撃の余波とか流れ弾とか危ないもんな。
そう思った魔梨華は、だから忍者の言うことに同調した。
「そーだそーだ。この忍者、やったらめったらに飛び道具投げてくるから近くにいると危ないぞ」
「「は?」」
忍者と少年は、なぜか揃ってけげんそうな声を出した。
「危ないのはお前だろ!」
忍者が痛みをおしたように復帰し、素早く後ろ宙返りして少年を庇うような位置どりを確保する。
手裏剣を何枚か右手に出現させ、腕が存在しないアームカバーの左袖を通行止めテープのように夜風にはためかせる。
意味が分からない。せっかくの戦いを放り出して、見るからに一般人な少年に目移りする理由がどこにあるというのか。
「だってそいつ、魔法少女じゃないし強そうでもないだろ。なんで襲わなきゃいけない?」
強い奴をすぐ見分けられる魔梨華ヴィジョンを通してみても少年の力量は明らかにゼロどころか下手すればマイナスで、人間以上の力を持たないことは明白だ。拳銃があったところで戦いにもならない。
戦いにならない以上、殴ってまずいことはないが殴って得になることもない。よって少年に殴りかかる理由はない。
とりあえず目に入るなり殴りかかってみた忍者の魔法少女とは違う。
「お前は、殺し合いに乗り気だったんじゃないの?」
「だって目の前に魔法少女いるじゃん。そしたらとりあえず不意打ちしねぇ?」
「するはずがない」
「避けるのかなー受け止めるのかなーとか、楽しめそうかとか気になるだろ、魔法少女として」
「戦闘狂か」
「そうだよ。だから戦える奴しか興味ない。分かってもらえたか」
「こんな状況でそう言ってるなら、お前は最低だ」
早く行って、と忍者は振り向かず声だけで少年に指示した。
魔梨華も通行人がいなくなるのを待つぐらいの心積もりはあった。
しかし少年は、逃げなかった。
少しだけ眉根を寄せて、それから数秒ほど右手の拳に顎を乗せて腕を組み、いかにも『考えています』という仕草をすると、それも終わったのか大きく息を吐き出した。
「いや。僕だってバケモノみたいに強い上に話も通じない人とやり合うなんて遠慮したいところだけど」
言葉ほど怖がっているようには聞こえない、高音のハスキーボイスだった。
「でも、あなたはもしかして『袋井魔梨華』さんじゃないですか?」
驚いた。
袋井魔梨華はたしかに問題行動を起こすことに定評のある魔法少女だが、初対面の一般人にさえ魔法少女名を看破されるほどの不祥事はさすがにやらかさない。
「なんで分かった?」
「分かった経緯も含めて、あなたたちに確認したいことがあります。
戦いが好きなだけで、ここにいる人を皆殺しにしたいわけじゃないなら、ひとつ会話に応じてはくれませんか」
忍者の方も、驚きから困惑へと表情を変化させつつあった。
あろうことか少年は、明らかに人間離れした戦闘を演じている二人に停戦を呼びかけている。
「戦いを邪魔されるのも、長々と話を聞くのも、どっちも私は苦手だな」
「では、こちらの手札を切ります。
僕は、この会場にあなたたちの言う『魔法少女』が何人いるのか、名簿の誰なのか、知っています。正確に言えば、察しがついています」
「ほう」
どういう経緯で察したのかも含めて、さすがに興味を惹かれた。
名簿を見る限り知っている名前は――もうこの世にいない者も含めて――何人かいたが、74人のうち何人が魔法少女なのか――最低限の殴りがいがある奴が何人いるのか――は分からなかった。
忍者がそこで焦ったように口を挟む。
「待って。なんでそこまで知ってるの――じゃなくて。
こいつと話し合うなんて無茶だ。似たようなキレやすいクズを知ってるから分かる」
「心配をありがとう。つまり、君は僕と彼女が会話した場合、彼女が事を起こさないかどうか気を張らずにはいられないということになるね。
そうして貰えるならとても助かる」
「おい」
話し合いへの制止を、強引に『同じテーブルにつくことへの同意』にすりかえた。
忍者にだけ敬語が取れているのは、外見年齢が中学生程度の魔法少女であるのを見て年下だと判断したのか。
忍者のさらなる反論を封じるように、少年は続けた。
「それに、これは僕の首輪の解除が掛かった問題でもある。
僕の条件は、一日目終了までの間に、蘇生した者ではない参加者と10人以上、5分を超える会話をするというものなんだ。だから一人よりも、二人と話したい」
少年からそう頼まれると、忍者は迷いを見せた。
戦う魔法少女の中には、弱者を守ろうとする保護欲を持った者も多い。たとえその弱者が無謀な若造で、態度が大きかろうともだ。
「……そういうことなら、まぁ。こいつが妙なそぶりを見せたらすぐ逃げてもらうけど」
「ありがとう。僕の名前は三ツ林司。君の名前は?」
「リップル。あと、こう見えてたぶんあんたより年上……って、さすがに私の名前は知らないか」
「はい。でも今の答えで確信が持てたことがあります」
何に対して確信が持てたのか。
それは、群生するアワダチソウの影に場所を移した後で明らかになった。
リップルに対しても敬語を切り替えて、三ツ林司は開口一番に言った。
「リップルさん。あなた、リピーターですね。
おそらく、ファヴによって企画された魔法少女限定のバトルロワイアルに参加させられたことがある。
そして、スノーホワイトという魔法少女と共に生き残った殺し合い経験者だ」
「なっ……」
それは魔梨華にとっても初耳だった。
「なんだお前、『魔法少女狩り』の知り合いだったのか」
「は?」
なんでお前が知っているんだというむき出しの警戒心がたっぷり詰め込まれたひらがな一文字で、忍者が反応した。
変身した魔法少女・袋井魔梨華は日常生活さえ送れないほどの戦闘狂へと変貌する。当然、長々と考察話を聞くことなんかかったるい。
だから、話が長くなりそうならば、魔法少女の名前だけ聞いておさらばすることも選択肢に入れていた。
忍者との決着がつけられないことは残念だったが、戦況はずっと魔梨華優勢で進んでいたのだ。
おそらく、それは逆転しない。忍者には経験値と習熟度が欠けている。
あの垣間見えた闘争心ならば隻腕隻眼だろうと一年や二年あれば相当の魔法少女になっている可能性が高い。
しかし今はまだ肉弾戦だけで魔梨華に水を開けられている段階だ。
しかし、そいつが『スノーホワイトの友人』であることが分かった。
真理子からは『スノーホワイトは魔梨華の恩人なのだから礼にかなった付き合いをしなければならない』と決められている。
いや、意識を共有するもう一人の自分に対して『決められている』という言い方はおかしいかもしれないが、他の魔法少女よりも丁重に扱うことが2人の決定事項になっている。
そのスノーホワイトの友人をぶっ飛ばし、いやぶっ飛ばしたこと自体は魔梨華にとっての通常営業でありスキンシップだから何の問題もないのだが、『その後に何の挨拶もせずにさっさと立ち去って相手のプライドを傷つける』など、まるで絡まれたチンピラを虫のように蹴散らして立ち去るボクシング選手のごとき冷淡な放置をするのは礼にかなった対応とは言えない。
そんな風に後ろ髪をひかれる思いから、彼女は忍者と少年の会話にそのまま参加し続ける流れになった。
結果的に魔梨華は、その場を立ち去る機会を逃した。
☆三ツ林司
参加者名簿を開いてみよう。
六十人余りが司にとっては知らない人物だが、簡単に分かることもある。
明らかに『生きてここにいるはずがない人たち』の名前が書かれているのは気になるところだが、それはいったん後回しにするとして。
まず、『三ツ林司が知っている人間は、まとめて並んでいること』、そして『それ以外に名前の並びに法則性らしい法則性は見当たらないこと』だ。
普通、この手の名簿はあいうえお順の表記にする。
少なくとも、参加者側だけでなくゲームの運営側にとっても『探したい名前をすぐに見つけられる並び順』にしておく方が、これから何度も名簿を見返すことになる上で都合がいいことは疑いない。
とはいえ、あいうえお順にしない理由ならば推測できる。
おそらく名前の文字で並べた場合、『あいうえお順』で並べるべきか、それとも『ABC順』に並べるべきか、という問題が立ち上がってくるのではないか。
いや、例えば『リュリーティス』という名前などは英語圏の人物名としてもしっくりこないので、『ABC』が使われている国でさえないかもしれないにせよ、だ。
名前を見る限り、参加者には本来の母語を日本語としない人々が多数混じっている。
ルール解説をしたファヴという生き物は日本語でしゃべっていたため、全員が日本語の聞き取りぐらいはできるのかもしれないが、それにしても『あいうえお順』というのは参加者や、いるかもしれない運営側の用意した観戦者の国籍によっては『これはどういう並び順なのだ』とピンとこないものになる可能性が高い。
また、かつて司自身が経験した『ゲーム』では『あらかじめ割りふられた番号順』に表記するやり方が採用されていたけれど、13人プラスジョーカーで人数が足りていたあのゲームと違い、74人もの大人数がいるともなれば、いちいち参加者の番号を覚えるだけでもひと苦労となる。
結局、『知り合い同士をまとめて並べる』やり方がいちばん無難なのだろう。
参加者に対して、『お前たちの知り合いもこのゲームに呼ばれているぞ』と分かりやすく明示してプレッシャーをかけることもできる。
また、『イケP』だの、『赤の~』とか『黒の~』だの、明らかに本名ではない、ゲームのユーザーネームかコードネームとしか思えない表記をされた参加者がいる一方で、初音が世間に知られている芸名『安藤初音』ではなく本名の『阿刀田初音』として表記されている。
つまり『世間に認知されている名前』ではなく『知り合い同士で使われている名前』、あるいは『彼らのコミュニティにおける通り名』を基準にして表記されているとみた方が自然だ。
やはり名簿の書き方は『知り合い単位』もしくは『所属するコミュニティ単位』が基本だと考えた方がいい。
では、応用問題だ。
眼前でハリウッド映画のようなアクションシーンを演じていた二人のうちの一人、頭に花を咲かせた少女の名前は何だろう。
名簿だけでは分からない?
いや、ヒントはあった。
最初の空間で運営側の『ファヴ』とやり取りしていた参加者の名前は、『スノーホワイト』ということ。
彼女は『魔法少女』と呼称される存在であること(それが何なのかはいったん脇に置く)。
『スノーホワイト』はさも名前を表すような外見――『清らかな純白のコスチューム』をしていたこと。
『明らかに植物をモチーフとしたコスチュームである』少女の発言を聞く限り、忍者と花の少女もまた『魔法少女』を自称する人々であること。
そして、スノーホワイトという名前は、名簿のいちばん最初に表記されていること。
『どうやら忍者少女と花の少女は知り合い同士ではないらしい』という点がネックではあったが、『スノーホワイトを起点とした名簿の昇順何番目かまでの参加者は、魔法少女と括られるグループである』と仮定は成り立つ。
解答。
『スノーホワイト』からそこまで離れていない位置にある名前で。
なおかつ『植物や花を前面に押し出した衣装の少女が名乗りそうな名前』という字面で見た場合、名簿の十番目にいる『袋井魔梨華』である蓋然性がもっとも高い。
『明らかに和風な格好をした魔法少女の名前がリップルという英語である』という例外をすぐに見てしまうぐらいには穴だらけの仮説ではあったが、カマをかけるだけの価値はあった。
少なくとも、頭に咲いた花が白い月見草だったこと以外はすべてが派手派手しく、全身で『この植物は毒を持っています』と主張するかのようなファッションをした少女に対して『袋井魔梨華』という名前はしっくりきたことは確かだ。
「で、まずはごめんなさい。ひとつだけ嘘をつきました。
僕の首輪条件はぜんぜん別のものです……いや腕掴まないでください謝るし理由も説明しますし本当の条件も言いますし『話をさせてほしかったから嘘ついた』とかでは絶対にありませんから」
早々に明かせば、リップルの隻眼が険しくなったので慌ててまくしたてた。
情報を引き出せるだけ引き出してから『こちらは嘘を教えていました』と露見すれば余計に心証が悪くなる。
また、『なぜリップルをリピーターだと判断したのか』という事情にも関わってくるために明かすことを避けて通れない。
『ファヴ』が実在する誰かのアバターなのか、人工頭脳を持つ存在なのか、あるいはファンタジックに架空の生き物であるのかはまだ理解が追いつかない。
だが、過去にも殺し合いゲームをしていたことは疑いない。
ファヴは、「スノーホワイトならもうだいたい分かっているはず」と発言した。
つまり、ファヴは過去にも『殺し合いをしてもらう』というシチュエーションを用意したことがある。
スノーホワイトはそれに対して「今回は魔法少女だけでなく無関係の人たちも巻き込むつもりか」と言い返した。
つまり、以前のイベントは『魔法少女』限定のものだったことになる。
そしてファヴはスノーホワイトに『今は』魔法少女狩りと呼んだ方がいいか、と言った。
つまり、『魔法少女狩り』という呼称はファヴによる殺し合いが終わった『後に』広まったものだ。
よって、スノーホワイトは『司のように』ゲーム中に死亡した参加者ではない――殺し合いを生き残ることに成功した参加者だ。
そして、リップルという名前は名簿の二番目だ。
これだけならば、スノーホワイトの知り合いである可能性が高くなっただけで、以前のゲームの参加者かどうかまでは確信できない。
しかし、リップルは隻眼で隻腕だ。
あれほど中空を跳び回る身体能力と、地面に埋まるほどたたきつけられても即座に立ち上がるほどの頑健さを有していながら、それだけの重傷を負うほどの修羅場があったのか。
その上で、袋井魔梨華に対して『似たようなクズを知っている』と発言。
そして。
司が偽の条件を説明したとき、『蘇生した者を除く』という限定条件に、聞き返しも否定もしなかった。
疑問を持たない――『蘇生した者がいる』という部分に何も突っ込まないぐらいには、心当たりがあった。
『私は蘇生した者だからその条件を満たせない』という風に否定をしない――彼女自身は『蘇生した者』ではない。つまりゲーム終了後にも生きていた者だ。
よって、あり得るとしたら、殺し合いを生還したリピーター。
それも袋井への対応からするに、殺し合いを進めていた側ではなく、否定する側
――ファヴに怒りをあらわにしたスノーホワイトと同じ側にいた者だろう。
「じゃあお前も『クラムベリーの子ども』だったのか。そう言えばリップルって名前はどっかで聞いたことあるなぁ」
「むしろ、あんたがスノーホワイトの知り合いだっていう方が信じられない」
「なんでさ」
「そんなことがあれば、私に相談してるはずだし。だいたいあんたとスノーホワイトが仲良くやってる所が想像できない」
「仲良くしたとも。一緒に悪いやつやっつけて、ケーキ買ってやったり連絡先交換したり、『正義の魔法少女対悪の魔法少女ごっこ』やった仲だ」
「じゃあスノーホワイトの魔法言ってみてよ」
「人の心の声を聴くんだろ? 『こうされたら困るなー』みたいなの」
「なんで知ってる」
2人の魔法少女は、先ほどからスノーホワイトの知り合いだそうじゃないと口論しながらも、思い出したかのような不意打ちを繰り出しては受け止めて蹴り返すという応酬を眼にも止まらぬ速さで交わしていた。
『魔法少女』というファンシーな肩書のわりに血の気が多すぎやしないだろうかと悩ましくなったが、今のところ『殺し合い』に移行する気はないらしいことにほっとする。
「やれやれ。魔法少女があなたたちみたいなのばかりだとしたら、以前の殺し合いとやらはよほどの大乱闘無法地帯だったんでしょうね」
「いや、スノーホワイトは違うから。魔法少女らしい魔法少女だから」
「もっとやばい奴はいるけどな。クラムベリーとか魔王パムとか」
「魔王パムって誰」
「知らんの? 最強の魔法少女だよ。死んだはずだけど」
「死んだ? だったら何でここにいる」
「それ言うならお前の知ってるクラムベリーだって死んだはずだろ」
「それは…………」
「そのクラムベリー……というのが、当時のゲームの共催者だったというのは分かりました。
2人は、今回のゲームにもクラムベリーが関係していると思いますか?」
やり合う手をとめた魔法少女たちは、同時に言った。
「そうなんじゃない? ファヴもいるし、参加者に紛れ込む手口が同じだし」
「いや、アイツなら首輪の制限がうんたらなんてややこしいコトはしないな。
アイツ実力で正々堂々とやり合うのが好きだから」
「袋井さんの意見に一理がありますね」
リップルが舌打ちをした。
見るからに自分よりも脳筋な戦闘狂が、自分よりも的確そうな分析をしたことに苛立ったのかもしれない。
「おそらく、前回までと今回の大きな違いは、『魔法少女以外の参加者を集めたこと』と、『首輪と解除条件』の導入にある」
前者については、スノーホワイトの発言だけでなく、『袋井魔梨華』の名前を特定した考察の延長で分かる。
袋井魔梨華の後に続く名前は『巴鼓太郎』『峯沢維弦』『神楽鈴奈』『柏葉琴乃』……。
明らかにネーミングが魔法少女のそれではないものに変わっている以上、『魔法少女のグループ』はひとまず袋井魔梨華までの10人で終わっていると考えた方が良いだろう。
「つってもな。あの最初の場所には、強そうな奴がゴロゴロいたぞ。何かしら持ってるのは10人や20人どころじゃなかった」
「なるほど……袋井さんの知る範囲で、魔法少女以外にも『強い』人種はこの世にいますか?」
「魔法使いならいるけど、魔法少女からしたら全然強くないね。
あとは一応魔法少女に入るんだろうけど『人造魔法少女』ってのもいたな。
だが、ここにいる連中で分かるのは『戦えそう』ってことだけだな」
魔梨華はリップルに喧嘩を売るのもひとまず飽きたのか、まだ見ぬ強敵にわくわくとした眼で植物の種を口に放り込んでいた。
頭上をそっと撫でつけ、そこから種が芽を出してのびていく生育具合を確かめるようにしている。
「なるほど、やはりプレイヤーには『暴力の専門家』が多いってことですか。
僕みたいなのにとっては頭が痛いところだけど……そうなると、やはり『解除条件』のルールは後付け感がありますね」
ちぐはぐなルールだというのがスマホを一読した上での感想だった。
もしも今回のゲームが『解除条件をクリアしたプレイヤーだけが勝者になる』というルールであれば、分かりやすい上に一貫性がある。
首輪解除と勝利が直結している。
条件を達成しなければ首輪を爆破されて生き残れない。
生き残るためには勝たねばならず、首輪解除条件に取り組まねばならない。
そしてたいていの場合、その条件は他のプレイヤーを直接間接に蹴落としたり、誰かの条件と競合するようにできている。
だから殺し合いが進行する。
しかし、今回の勝利条件は、あくまで『最後の一人になるまで生き残ること』にある。
ルール上は、たとえ首輪の解除条件を満たしておらずとも他のプレイヤーの皆殺しができれば勝者になれてしまう。
勝利条件と解除条件が繋がっていない。
たしかに首輪を解除することで禁止エリアの危険を回避したり、何より命を握られているという不安が大きく減じたりと有利になる要素はいくつもあるが、それらはあくまで戦略を組むための要素でしかない。
たとえば首輪解除に成功して禁止エリアに引きこもる参加者と、とうとう解除条件を満たせず禁止エリアに入れない参加者が二人残り、延々と状況が動かないまま決着、勝者無し、という事態も起こり得てしまう。
ファヴは『楽しいゲームの始まり』だと言っていた。
楽しむためのゲームで、『運営が介入しない限り、勝者が生まれないことになる』展開は望ましいものではないはずだ。
かえって優勝者が決まりにくくなり、ゲームを楽しく観戦したいはずの運営からしても興が削がれる結果になりかねない。
これはルールに不備があるというよりも、異なるルールを持つゲーム同士をつぎはぎしたような形をしている。
『1人になるまで殺しつづければいいだけのシンプルな暴力ゲーム』と、『他の参加者を出し抜きながら条件をいちはやくクリアする戦略ゲーム』が混ざり合っている。
リップルに『嘘の解除条件』を伝えたのは、その反応を見たかったのもある。
リップルは解除条件を告げられた時も、話し合いに移行してからも、司のスマホを実際に確かめようとしなかった。
リップルは、『他のプレイヤーが解除条件を秘匿する可能性』を、ほぼ考慮していなかった。
それだけなら『お人よし』『慎重さが足りない』で済むかもしれないが、問題は『以前にもゲームを経験したリピーター』でさえ『そういう認識』だということだ。
『首輪を解除する戦略ゲーム』からの生還者ならば、あっさりと自分のクリア条件を明かした上にスマホの提示はしなかった司を怪しまないのは不自然だ。
あのシークレットゲームでそんな振る舞いをすれば、序盤での脱落は約束されたようなものだろう。
いや、かつてのゲームには自分から堂々と教えてくれた『先輩』が一人いたが、彼女のように信頼を得るために敢えての行動でさえない。
つまり、リップルが過去に参加しており、このゲームの根源をなしているのは『戦闘技能によってが勝ちが決まってしまう暴力ゲーム』の方だ。
そこに盛り上がりそうだとか今回は違うことをやってみたいとか、あるいはもっと必要に迫られての理由かで、『解除条件』のルールを導入した。
「だから今後は、解除条件の確認はスマホを提示することをお勧めします。
あなた方には馴染みのないルールかもしれませんが、庇護を求める振りをしながら偽の条件で油断させて寝首をかく輩がいないとも限りませんので」
「分かった。じゃああんたのスマホと……袋井魔梨華のスマホも見るから」
「なんで私も?」
「さっき、喧嘩した時に私は言った。『スノーホワイトの友達のふりをして、人をいいように使うつもりなんじゃないか』って」
「言われたな」
「そしたらお前は、『そんなことしたら首が飛ぶからやらない』って。だから確認させろ」
「ほらよ」
それは司にとっても抑えたい情報だった。
リップルに自らのスマホを見せた後、魔梨華の条件を確認する。
『第四回放送まで、戦闘中に他の参加者を加勢したり、他の参加者から加勢を受けてはならない。
2人以上で他の参加者を攻撃した時点でスマホのカウントを1つ消費し、3カウント目で失格とみなし首輪を爆破する』
「「……条件厳しくない?」」
「そうかぁ? 知り合いに『強制的に一対一に持ち込む』魔法を使う奴がけど、あんまり不自由したことはないぞ。
でも、たしかに喧嘩に乱入しにくくなるのは困るな。どっちかに味方したって思われてカウントが減ったりしたら厄介だし」
命の危険に陥っても援護を受けられないというのはたいていのプレイヤーならば絶望に値する失格条件のはずだが、袋井魔梨華にとってはそうでもないらしい。
「さて、リップルさん。こちらも嘘をついていた手前、伏せておきたいことなら公開する必要はありません。
そういう忠告も含めての『解除条件は慎重に扱おう』という話だったわけですから」
彼女の首輪解除条件も知りたいかと聞かれたら当然に知りたいが、引き下がる誠意は見せる。
「教えてもいい。でも、その前に答えて」
何を、と聞き返す間もなく、司の首筋にふわりと風が起こった。
忍者の装備していた小刀が、抜き身で喉元へと突き付けられた風圧だった。
「あんたは、自分が言うところの、『庇護を求める振りをしながら寝首をかく輩』になるつもり?」
冷たい金属が、先端の切っ先だけ首の皮に触れている。
司が言ったことを準用して油断せず備えるならば、当然の対応だった。
暴力ゲームの中でまっすぐに戦ってきた魔法少女からすれば、『素直に情報提供をお願いすれば教えてやったのに、自分が賢いことをひけらかしてカマをかけるような真似をした上に、情報の取り扱いには忠告するとか言ってごまかそうとしたな』という憤慨もあるのかもしれない。
「僕の望みは、自分が生き残ることぐらいしかありませんよ
もちろん、参加者の仲にはそれなりに付き合いのある『先輩』や『相方』もいますので、できれば彼らの命も拾っていきたいとは考えていますが」
そこで一度言葉をきり、つばを呑んだ。
本来なら僕も『先輩』たちもすでに死んでいたはずなんですが、という疑念まで口にするのは、まだやめておく。
リップルの隻眼は怒っていた。体よく情報を引き出されたことに怒るという理屈の怒りではなく、『今までに何人も信用できないクズを暴力で黙らせてきたが、お前はそうではないのか』とでも問うかのように本能的な怒りを放っていた。
「でも、その為にあなたみたいな人を敵に回すのは無しです。
具体的には、直接間接に誰かを蹴落とすのは本当に最後の手段にしたい」
刺し殺すような眼光から、眼をそらしたいのを意思の力で押さえつける。
あの粕谷瞳さえも比較にならないほどの人外を2人も相手にしている事実に、怯えを表情に乗せてはいけないと己を叱咤する。
少なくとも過去に日本刀を向けられた時は、落ち着いて事を収めることができた。
玲の日本刀も魔法少女の武器も、破壊の規模こそ大きく違えど『相手がその気になったら死ねる』という意味では同じであり、つまり玲の時以上に怯える理由は何もないと、何度も何度も自己暗示をかける。
むしろこれは良いことだ。ここまでのやり取りで、『庇護すべき一般人』ではなく『一人の油断ならない参加者』として発言力を持てるようになったということだから。
「僕は嘘つきですが、自分の言葉に責任ぐらいは持ちます。
それをもって回答としてもいいですか」
「分かった」
忍者の魔法少女は、推しはかるだけの間をおいて刀と敵意を鞘におさめた。
刀をしまった手でスマホを取り出し、魔梨華には見えないような角度と位置に気を配りながら解除画面を見せる。
そこに書かれていたのは、『こうしてはならない』というたぐいの失格条件で、つまりは敵に知られてしまってはならない類の条件だった。
それを『敵に回らない』という言質を取っただけの相手に見せてしまうあたり、まだ彼女も甘いのか。
それとも敵だったはずの袋井魔梨華があっさりと『三回援護すれば殺せる』という弱点を教えた一方で、リップル自身は味方にも弱点を伏せておくことに引け目でもあったのか。
司はその条件について考え、この条件なら話が通るかもしれないと頭の中で手応えをつかみ、ここからがまた気の張りどころだと言葉を選ぶ。
そして、続く提案を口にした。
☆リップル
「僕たち三人で、いったんチームを組みたい、と考えています」
「なんで?」
「どうして」
この流れで、同行を申し出られることは予想できた。
しかし、この袋井魔梨華までも含めて仲良くしようという提案は計算外だった。
話し合いが決着しだい、袋井とは早々に再戦する流れになるだろうと覚悟していた。
袋井はパワーもスピードもスノーホワイトと二人がかりで倒したピティ・フレデリカよりはるかに強く、勝てる自信はなかったけれど、ここで魔梨華を看過してしまえば誰かが魔梨華の喧嘩に巻き込まれて被害を受けるだろう。
無関係の人だとしても、巻き込まれただけの人を見殺すような選択は魔法少女としてできない。
正直なところ、私怨によって相棒の仇を殺した時から、もう魔法少女を続けていくつもりはなかった。
しかし、新しくできた友達が魔法少女を続けることになり、その正義に同調してしまった以上、リップルも魔法少女を辞めるわけにはいかなくなった。
だから、袋井魔梨華は見過ごせない。
「まず、今のリップルさんがこの場で袋井さんを殺すことは難しいと思います。
実力不足という意味ではなく、袋井さんが三回援護を受ければ死ぬと知ってしまったからです」
そう言われて、気付いた。
知ってしまった以上、今の袋井魔梨華を殺すならば、『正面から正々堂々と戦う』ことは最善ではない。
『こっそり尾行し、袋井が戦闘を始めたところで袋井を援護する攻撃を三回行うことで倒す』方が最善になってしまった。
袋井魔梨華以外にも戦うべき殺人者は間違いなく存在するし、スノーホワイトだって助けなければいけない。
ならば、卑怯だろうともリスクある倒し方ではなく、確実な殺し方を選ばないといけない。
お互いに倒れるまで殴り合う覚悟ならばあった。
しかし、そうまでして袋井を殺す必要性を感じているのかと、三ツ林司は問いかけている。
「僕はリップルさんと敵対しない言質を取った以上、リップルさんの意思に反して誰かを殺したりはしません。つまり僕らに袋井さんは殺せない」
もっと言えば、そういった卑怯な手段で殺さなければならないほど、リップルは『自称スノーホワイトの友達』のことを絶対的な極悪人だと確信できているのか。
その自信はなかった。
カラミティ・メアリは『クズの悪党』であり、森の音楽家クラムベリーは『災厄のようなクズ』だった。
スノーホワイトとともに捕まえたピティ・フレデリカは『最低のクズ』だった。
もし彼女らが同じ条件を有していれば、リップルはどうにか他の参加者を傷つけないように三回援護することで殺しただろう。
袋井魔梨華も、人に本気の殺し合いを仕掛けて悪びれないところは同じようなクズだと思った。
しかし、違うところもあった。
あのクズたちは、巧妙に騙しでもしない限りスノーホワイトと仲良くできるような精神性の持ち主ではなかった。
あのクズたちは、スノーホワイトとの友情を証明するためだけに、あっけらかんと自らの弱点を晒したりはしなかった。
「かといって、あなたは袋井さんを放置することもできない。なら、選択肢は三人一緒に行動すること一択になります。
僕らで袋井さんを監視し、明らかに攻撃してはいけないプレイヤーと戦闘になった時は、袋井さんを攻撃するなり相手を説得するなりして止めます。
幸い袋井さんの失格条件は、袋井さんの援護を禁止しているだけです。袋井さんに攻撃をくわえる分にはカウントは減りません」
「お前もたいがい物騒なこと言ってるなぁ! 話を聞いてりゃ私には何も得することがないじゃないか」
「メリットならありますよ。あなたを止めるってことは、この先もリップルさんから挑まれ続けるということです。
彼女はきっと短期間であなたを倒すために急成長することでしょう」
「なるほど! そいつは面白そうだ」
「勝手に人のパワーアップを確約するな」
「いえ、冗談です。十中八九は冗談です」
「なにその自信なさげな言い回し」
「この世に絶対は無いという知人からの受け売りです。では本当の理由を言います。
僕は、できれば条件クリア以外の方法で首輪を無力化する手段を探したいと思っています。
最後の一人しか生き残れない以上、殺されるのを待っている理由はない。
そして最後の一人になる以外の方法で生き延びるのは、首輪がついたままでは不可能ですから」
「ははぁ。私だって首輪は邪魔だろうから協力しろってか? つまり何すんの」
「僕に技術力はないので、地道な調査から始めるしかないですね。
さしあたりはホムラの里を目指そうと思ってました。会場で一番の高所だから、この会場が島なのか、陸地なのかは見渡せる。
その後は会場の西端に行って、会場を出ようとすればどうなるのかを確認しつつ、道中で情報を集める。
ついでに運営側がどこにいるのかも推測していく、といったところでしょうか」
「なるほどな。ここに殴ってまずい奴はいないが、先に殴るべきラスボスはいる。
でも、お前らの調査とやらにはまだ信が無いだろ。
私なら、とりあえず会場にいるやつを全員KOして、しびれ切らしたラスボスが降りてくるかどうか試してみるなぁ」
「アクションゲームかよ」
「もちろん、僕らが行動にうつせるメリットもあります。僕らは勘違いで他の人が袋井さんを援護しないように守ります。
例えばクラムベリーと戦ってる時に、事情を知らないクラムベリー被害者が共闘するつもりで乱入してきたら袋井さんが死んでしまいます」
「確かに、事故で死ぬのはごめんだなぁ」
思いのほか会話が成立していることに戸惑い、リップルは反論せずにいられなかった。
「そうは言っても、私たちはこいつ援護できないんだけど。
2人以上の攻撃がアウトなら、連携して敵を倒すこともできないし」
「だからこそ、です。袋井さんの解除条件には、袋井さんに連帯行動をとらせないようにするという悪意が透けている。
おそらく、袋井さんには戦闘の火種となるトラブルメーカーとしての役割が期待されています。
ここで袋井さんと殺し合うことも、袋井さんと別行動をとることも、どちらも運営の思惑通りということになります」
確かに、普通ならば自分がピンチでもいっさい助けてくれることが期待できない相手と、同盟を組もうとは思わないだろう。
そういう制約が袋井には課せられている。
「あの条件は、数人がかりによる攻撃を禁止しているだけで、一人が逃げる間にもう一人が時間稼ぎすることも、選手交代して代わりに戦うことも禁止されていません。
互いの失格条件を踏まない範囲で、できるところまで共に行動しましょう。
そしてそれは、リップルさんにも言えることです」
「私に?」
「僕はリップルさんの条件によってできないことを補うために行動します。
必要なら、リップルさんが条件を明かしたくない範囲で、袋井さんにも協力してもらいます」
リップルの失格条件。
それを袋井魔梨華の前では口にしなかったが、何を補うつもりでいるのかは分かった。
条件を、頭の中で反芻する。
『第六回放送まで、ゲーム開始以前からの知り合いに捕捉されてはならない。
ここで言う『捕捉』とは、間に遮蔽物がない半径二十メートル以内の距離に侵入されることを指す。
条件を満たせなかった場合、首輪は強制的に爆発する』
リップルと面識のある魔法少女は、スノーホワイトとラ・ピュセル、カラミティ・メアリの三人のみ。
クラムベリーは実のところ会話をした記憶さえなかったけれど、一緒のチャットルームにいた程度の関係であっても、世間一般では十分に知己と表現できるかもしれない。
よって、この四人の魔法少女を、半径二十メートル以内に近づけてはならない。
心の声が聞こえるスノーホワイトならば『今スノーホワイトに近づかれたら困る』と知って空気を読んでくれるかもしれないが、他の三人はそうはいかない。
三林司ができないことを補うというからには、例えばラ・ピュセルが近くに来ていれば、近寄ってはいけないと取り次いでくれるぐらいのことは期待できるかもしれない。
しかし、クラムベリーやカラミティ・メアリといった危険人物の所在を知り、暴挙を働いていることを知っても、リップルは殴り合うことさえできない。
魔法少女は百メートルや二百メートルの距離なら瞬く間にかっとんで距離を詰められるため、こちらが目視されただけでも詰みに近いと言えるだろう。
『条件を明かさない範囲で袋井に協力してもらう』というのは、つまり、クラムベリーやメアリのように『リップルが対峙できない悪人』が近くにいる時は、袋井に戦ってもらうことができる、と意味している。
「……こいつに任せて、大丈夫なの?」
「じゃあ逆に聞きますが、他の方なら任せられますか?」
クラムベリーやカラミティ・メアリのことで、『私は戦うことができないから、死ぬかもしれない強敵だけど倒してきてください』と他の参加者にお願いする……無理だ。
特にメアリに関しては、同じ過ちを二度と繰り返してはならない。
「それに、リップルさんの条件だって、他の条件との競合しだいでは十分に厳しいもおのになり得ます。
たとえば、もしもスノーホワイトさんがあなたと『逆の条件』を与えられていたらどうしますか?
運営にとことん悪意があれば、そのぐらいのことはやりかねませんよ」
リップルとの逆の条件……それは『何回目かの放送までに知り合いに会えなければ、首輪を爆破する』ような条件ということになる。
仮にそうだとすれば、リップルの条件クリアは、そのままスノーホワイトの死亡につながってしまう。
つまり、他のプレイヤーの条件を確かめたりする取次ぎ役は必要になってくる可能性があるし、その点でもスノーホワイトと知り合いだという袋井魔梨華の価値は高いと述べたいのだろう。
納得できる理由は十分に聞けた。
しかし、腑には落ちない。
「アンタがそこまでして三人一緒にこだわる理由は何?
そんなややこしいことをするぐらいなら、あんただけ別行動をする手もあるのに」
司はいかにもやれやれ、という風にため息をついてみせた。
「正直なところ、僕は『暴力の専門家』のそばにいたいんですよ。
さっきのやり取りで、このゲームは覚悟していた以上に『暴力』の比重が大きいと分かってしまった。
知略によって生き残れるゲームなら上手くやれる自信はありましたが、暴力に関してはほとんど専門外です。
先を見据えて合理的に考えるなら、リップルさんと別行動をするという選択肢はあり得ません。
そしてリップルさんと行動するなら、袋井さんを切り捨てることはできなくなる」
いかにも合理を優先として非合理を排除し、切り捨てないことを決めていた。
情動や強い想いによって動く、魔法少女という生き物とはぜんぜん違うと思った。
だから、最後の抗弁としてケチをつけた。
「組んだところで、仲良くできそうにはないけど」
「だな。ツッコミが鋭いこと以外は、私が組んできたどの魔法少女とも似てないわお前」
魔梨華とリップルは直線距離で対峙するように立ち上がり、司はリップルの近くへと控えている。
そんなにらみ合いが、しばらく続いた。
「やっぱりまとめるのは難しいですね、先輩」
そう独り言を漏らしたのは、隣にいた少年だった。
どういう意味だろうとリップルが首をかしげている間に、少年はそれまでよりずっと歯切れの悪い言い方で、子どものような反論をした。
「仲が悪いなら、悪いでいいじゃないですか。
もし何かあっても、自分が相手を連れまわしたせいだって後悔しなくていいんだから」
今までいちばん非論理的な、爆弾だった。
その一瞬だけ、相棒は――カラミティ・メアリでさえここにいるのに――もういないと叫びたい怒りが沸きあがって、すぐに鎮まる
しかし、怒りはすぐに驚きにとって変わった。
正面にいる袋井魔梨華もまた、一瞬だけ怒りへと表情を変じさせて、それから大きく息を吐き出して鎮まり、それが終わるとリップルの事を鏡でも見るように凝視していた。
「なるほどな」
そして、呆れたのか疲れたのか、形容しがたい雰囲気で笑う。
「確かに、相方にするなら後悔しない奴がいい」
根負けしたように、肩を落とし。
「だが、断る」
ナッツでもかじるように、手のひらから白い種を取り出して飲み込んだ。
「蔓の攻撃がくる!」
何が来る、と思う間もなく少年からそう指示された。
忍者刀を取り出し、走る。
どうにか対応が間に合った。
間に合ったことに驚きながらリップルは刀をさばき、四方からのびる緑色の蔓を迎撃し、斬り、蹴った。
「あーあ。けっこう本気だったんだけどな」
袋井魔梨華の頭には白い朝顔のような形の花が咲いていた。
そこから伸びた蔓はしゅるしゅると頭部に収納されていく。
袋井はリップルと司を交互に見ながら言った。
「なんで攻撃を予想できた?」
「これでも、植物にはけっこう詳しいんです」
魔法少女にとって、五秒あれば永遠にも等しい時間がもらえるようなものだが、逆に言えば魔法少女にとっての体感一秒とは人間にとって一瞬にすらならない。
よって、リップルよりも素早く目視で攻撃を判断することは絶対に不可能だ。
つまり、飲み込んだ種の種類と芽の伸び方であらかじめ攻撃を予想できたことになる。
「種と芽の伸び方を見れば、ヒルガオ科の花だって分かりました。
鏡も持ってないのにファッションで髪型を変える理由はないから、戦いの時に使うんだろうなって予想してました。
もし、植物の種類によって攻撃法が変わるのだとしたら、朝顔や夜顔の場合は絡みつく蔦が特長だから。
賭けでもあったけど、当たれば後の先を取れるかもしれないと思って」
賭けで指示だしたのかよ、とつい舌打ちする。
一方の袋井は、今の攻撃でどこをどう機嫌を直したのか、にかっと笑った。
「合格……まではいかないにせよ、悪くない。
あーあ、一撃かまして逃げるつもりだったのに失敗しちまったよ残念残念」
最後はじゃっかん、棒読みだった。
もしかして、『本当は一人で動くつもりだったけど、逃げる機会を潰されたから認めてやる』という彼女なりのけじめだったりするのだろうか、これは。
そして、袋井は司へと指を突きつけて言いつのり始めた。
「それからお前な。私は長々と話を聞くのが苦手だって言っただろ。
あれこれ理屈をこねくり回さずに『一緒にラスボスぶっ倒したいから来てください』ってシンプルに言えばいいんだよ。
私が楽しく戦うための時間を無駄にさせやがって」
「僕がそんなヒーローみたいな人間に見えますか?」
「悪い人間には見えない。私には昔、悪い相棒がいてな。
喧嘩は良くないとか優等生ぶってたけど、別に本気の仲裁とかはしない奴だ。
自分が可愛いから、私を形だけ止めるポーズしながらちゃっかり安全圏にいるような奴だった。
お前見てると、その逆だわ。本気で私を止めにかかってた」
言いたいように言って、「言っとくけど、お前らのペースに合わせたりはできないからな」と身軽そうに歩き出す。
くどくどと説教された三ツ林司がなんとも切ない顔をしているのを見て、リップルにも遅れて理解が追いついた。
そして呆れた。
つまり何か。
この一般人は、『自分と身内が生き残ることしか考えてない』だの『合理的に先を見据えて考えた結果だ』と主張しながら、なるべく誰も切り捨てずにこの場を収められる結末に、合理的な理由ともっともらしい判断をくっつけようとしていたのか。
率直に『殺し合いを止めたいんです』と頼まれれば本心から同意していたのに、どれだけ面倒くさいんだお前は。
そう言おうとしたが、過去に『人助けはキャンディーを集めて自分が生き残るためにやっているに過ぎない』と言い訳していたリップルも人のことを言えないのではないかと思い出してしまった。
そして袋井魔梨華は、同行を容認している。
もう、こうなってはリップル一人だけが反対したところでどうにもならない。
「ちょっと話聞いてたの、山に登るならそっちじゃない」と慌てて制止した。
三ツ林司の言い放った言葉はリップルの感情にさざ波を立てたが、波の後は不思議とすっきりしていた。
組むなら後悔しない方がいい、というのをその通りだと思ったせいかもしれない。
それに。
袋井魔梨華が、リップルの知るクズたちとは違うところをもう一つ見つけた。
彼女らは、自分が死なせてしまった相棒に対して、絶対に罪悪感を抱くような顔をしなかった。
【B-3/駅の東側線路沿い/一日目 深夜】
【三ツ林司@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
[状態]:健康、冷や汗
[装備]:グロック19@現実
[道具]:基本支給品一式、スマホ、不明支給品2個(本人確認済み)
[首輪解除条件]:不明(リップルと袋井魔梨華には伝達済み)
[状態・思考]
基本方針:ヒーローになれなかった身としては、せめて人間として最善の選択を
1:魔梨華の暴走を制止しながら、自分(と、できれば仲間)が生き延びる手段の模索
2:ホムラの里に向かい会場の全景(特に会場の外がどうなっているか)を確認。できればその後、実際に会場西端の様子も見たい。
3:玲、藤堂先輩、他の知り合いとの合流(優先度は挙げた順番に同じ)。ただし瞳さん、初音、黒河には警戒した方がいいかもしれない。
(大祐は『かもしれない』どころではないため除外)
[備考]
※参戦時期はCルート死亡後です
※袋井魔梨華、リップルの首輪解除条件を把握しました
【リップル@魔法少女育成計画シリーズ】
[状態]:背中に打撲
[装備]:忍者装束一式(手裏剣やクナイ、忍者刀はコスチューム付属のため支給品ではない)
[道具]:基本支給品一式、スマホ、不明支給品3つ(本人確認済み)
[首輪解除条件]:第六回放送まで、ゲーム開始以前からの知り合いに捕捉されてはならない。
ここで言う『捕捉』とは、間に遮蔽物がない半径二十メートル以内の距離に侵入されることを指す。
条件を満たせなかった場合、首輪は強制的に爆発する
[状態・思考]
基本方針:スノーホワイトと協力し、殺し合いを止める
1:袋井魔梨華、三ツ林司はまだ信用できないが、今のところは仕方なく協力する
2:スノーホワイトと合流し連絡を取り合いたいが、首輪解除条件のことがあるので下手な接触は危険
3:クラムベリー、カラミティ・メアリには警戒。20メートル以上近寄らないようにもしないといけない
[備考]
※参戦時期は『魔法少女育成計画』終了後です(ピティ・フレデリカ撃破後でもあります)。
※袋井魔梨華、三ツ林司の首輪解除条件を把握しました
【袋井魔梨華@魔法少女育成計画シリーズ】
[状態]:健康、戦闘欲求肥大中
[装備]:頭部に夜顔の花
[道具]:基本支給品一式、スマホ、不明支給品2つ(本人確認済み)
いつも使っている花の種一揃い@魔法少女育成計画
[首輪解除条件] 第四回放送まで、戦闘中に他の参加者を加勢したり、他の参加者から加勢を受けてはならない。
2人以上で他の参加者を攻撃した時点でスマホのカウントを1つ消費し、3カウント目で失格とみなし首輪を爆破する
[状態・思考]
基本方針:たくさんの強敵と命がけの戦いを味わい尽くしたい
1:我慢できるまでは、リップル、三ツ林司との同行を承諾
2:強敵と戦いたい。特に魔王パム、音楽家ともう一度戦えるというのなら、ぜひ遊びたい。
3:スノーホワイトには会いたいなぁ
[備考]
※参戦時期は『魔法少女育成計画JOKERS』終了後です(『Primula farinosa』終了後でもあります)。
※三ツ林司の首輪解除条件を把握しました