バトル・ロワイアル The Rebellious Memory   作:原罪

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Sadistic Queens/笠鷺渡瀬、カラミティ・メアリ、ミレイ(反骨)

「何なのよ、これ……冗談じゃないわ」

 

惨めだ、あまりにも惨めだ。

ミレイこと一ノ瀬美鈴は自身が置かれている状況を呪った。

 

仮想世界に構築された自らの居城「シーパライソ」では、殴り込みに来た帰宅部の小生意気なブスに己が存在を徹底的に否定された上に打ち負かされた。

その後、気に食わない女とわざわざ手を組んでまで挑んだ「グランギニョール」でのリベンジマッチにも成す統べなく敗北した。

そして、現在は殺し合いと称された見世物小屋の中で、見すぼらしい首輪を嵌められ家畜のように扱われている始末だ。

 

(ありえない、ありえないわ……こんなの)

 

なぜ、世界の中心である自分がこんな理不尽な目には遭わないといけないのか。

こんな現実、到底許されるはずがない。あってはならないことだ。

メビウスで多くの異性を虜にしてきた美貌はこのバトルロワイアルの会場でも健在ではあるが、その表情は胸の内からこみ上げてくる屈辱と怒りによって、大きく歪められていた。

 

(落ち着け、落ち着くのよ、私)

 

ミレイは自我を取り戻すため、何度も心の中で自分に言い聞かせた。

 

少しの時間が経過し、ゲーム開始直後のヒステリックな状態からようやく平静を取り戻す。

支給されたスマートフォンを操作して、あのブス―――柏葉琴乃を含む忌々しい帰宅部の連中が参加していることと、何の因果か苦々しい記憶が新しい「シーパライソ」と「グランギニョール」が会場に配置されていることを知り、また顔をしかめる。

と同時に、この悪趣味なゲームにおける自分のスタンスについて熟考する。

 

自分と同じ境遇の参加者は70名以上いるようだが、そんなことは知ったことではない。

参加者の中で最も崇高な存在は間違いなく自分であるのだから、生き残りの椅子が一つしかないのであれば、当然その席に腰を下ろすべきは自分だ。

それは世界の真理であって、疑う余地はない。

 

但し、ファヴなるホログラムに命じられるまま、殺し合いに乗るのも癪ではある。

可能であれば、自分をこんな目に遭わせている黒幕をひれ伏せたいという気持ちはあるが、もう一つ引っ掛かることがある。

 

(どんな願いも、ね……)

 

あのホログラムは優勝すれば「どんな願いも叶える」と言った。

果たしてあの主催者のどれだけの力があるのだろうか。例えばメビウスの創造主であるμと同等、もしくはそれ以上の力を保有しているということであれば、自分のための国(世界)を創成すること可能なのではないだろうか。

 

私が望んだことなら、思い通りにならなければならない。

それが叶わなかったということはミレイが生まれ育った世界[現実]も、μが創り出した世界[メビウス]も間違った世界ということになる。

もしファヴが正しい世界を創成してくれるのであれば……

 

(乗ってやるのも悪くはないわね)

 

野心をその胸に秘めて、ミレイは海岸に敷かれている線路に沿い、南へと歩を進める。

その表情はゲーム開始直後の恐慌状態のそれとは違い、威厳を取り戻していた。

この回復の早さもミレイの強靭な精神力によるものであろう。

 

気品溢れる白ライオンの造形の毛皮を羽織り、薄暗い夜天の中においても黄金の色彩を放つ長髪、そして威風堂々と闊歩する姿は、どこかの国の女王様を連想させる。

実質ミレイはメビウス内の「シーパライソ」において、絶対的な君主として君臨していたので、「女王様」という表現は間違いではないだろう。

 

女王は歩きながらも更に思案を重ねる。

 

まず優先すべきは首輪の解除だ。

優勝を目指すにしろ、主催者の打倒を目論むのも、自らの生存率をあげるためには首輪の解除を実施する必要がある。

ミレイの首輪の解除条件は「解除条件を満たした首輪を2つ以上保持する」となっている。

いずれにしろ駒が必要だ、自分の首輪解除の助けとなり、いざとなれば肉壁として利用できる都合の良い駒が。

 

「なあ、アンタ」

 

橙色の防護服を纏まった男に声をかけられたのは、ゲーム開始から1時間ほど経過した後の出来事であった。

 

 

 

 

この殺し合いの場において、笠鷺渡瀬が生き残るためにはパートナーが必要だった。

その理由は、渡瀬に割り当てられた首輪の解除条件にある。

ゲームが始まって間もない状況下、渡瀬をパートナー探しへと奔走させた首輪解除条件は次の通り。

 

 

首輪解除条件:

特定のパートナーと24時間以上離れずに行動を共にする。

パートナーの特定は、半径5m以内にいる参加者の名前を下記のフォームに入力し、『特定』ボタンをタップすることで完了する。

但し、指定したパートナーが20m以上離れた場合もしくは死亡した場合は、タイマーはリセットされ、パートナー不在とみなされる。

3時間以上パートナー不在の状況が続くと、首輪は爆破される。

 

 

つまり、ゲームが始まって3時間以内に別の参加者を見つけ、パートナー登録させてもらわないと否応なしに首輪は爆破されてゲームオーバーとなるのだ。

 

笠鷺渡瀬には使命がある。反コミュニケーターのテロ組織「Q」の一員として、ラボに幽閉された被験体YⅡこと琴乃悠里を本部に送り届けるという使命が。

道半ばで命を散らせた堂島と桧山の遺志のためにも、こんなところで死ぬわけにはいかない。

 

だからこそ、1時間足らずで他の参加者を見つけることが出来たのは僥倖だと思った。

そう、彼女を見つけたその瞬間は。

 

 

「笠鷺、喉が渇いたわ。 あんたの水をよこしなさい。」

 

 

何 だ、 こ の 女 は ?

 

ミレイに自分の首輪解除条件を開示し、パートナー登録を承諾してもらってから半刻ほど経過したが、渡瀬は早くもパートナー選びに失敗したと嘆いていた。

理由は単純。 このミレイという女、我儘が過ぎるのである。

先ほどもミレイは自分の水ではなく、渡瀬の水をよこせと要求し、渡瀬に支給されている1.5ℓほどのペットボトルの水を半分ほど飲み干している。

 

 

「聞こえないの?さっさと水をよこしなさい。 二度も言わせるんじゃないわよ、愚図ね」

「さっき飲んだばかりだろ、少しは我慢しろよ」

「おだまり! あんたの命運は私が握っていることを忘れたわけじゃないでしょうね? この私に同行を許されて、命を繋いでもらっているだけでもありがたく思いなさい。」

「アンタの首輪の解除条件は『解除条件を満たした首輪を2つ以上保持する』だろ。 アンタだって、俺に首輪を解除して貰わないと困るはずだ。」

 

この自己中女に安易に自分の弱みである首輪解除条件を教えてしまったことを後悔しつつ、渡瀬は反論する。渡瀬が求めているのは、召使とその主といった主従関係ではなく、あくまでも対等なパートナーシップだ。

 

「別に? 私は全世界ナンバーワンの美女よ。私と同行したがる男はごまんといるはずよ。」

「もう一度言うわ。さっさとよこしなさい。 あんたのものは私のもの、私のものは私のものよ。それともこの場でオサラバする?」

 

ミレイは若干の苛立ちを込めながら、臆することなく言い返す。

一体、人間の頭をどのように改造すれば、この自信は出てくるようになるのだろうか。

このままでは本当にパートナー解消になりかねない。

そうなってしまうと、また3時間以内に別の参加者を探しに走り回らなければならず、非常に困る。

頸動脈を締め上げ、意識を失わせ、縛り上げるのも選択肢にはあるが、人間一人を持ち運びながら、会場をうろつくのは非常に骨が折れる。

それにその姿を他の参加者に見られてしまうと、非常に面倒なことになる。

 

渋々と自分の袋から飲料水が入ったペットボトルを取り出す。

ミレイはそれをふんだくると一気に飲み干した。

 

「ふぅ……。 相変わらず不味い水ね。」

(全部飲みやがった……。)

 

空になったペットボトルをポイと投げ捨て、ミレイは前進する。

思い切り殴り飛ばしたいという欲求をどうにか抑えこみ、渡瀬は後に続く。

この湧き上がる憎悪の念は、決して「被験体N」による悪意の影響ではない。

さっさと他の参加者を見つけて、この女とは離れるべきだと固い決意を胸にする。

 

ちなみに二人が目指しているのは駅である。電車を経由して、人が集まりそうな会場北東の島に向かい、其処で他の参加者の探索を行うつもりであった。

会場南の島の市街地に行くプランも口にしたのだが、歩き続けるのが嫌だというミレイの猛反対に遭い、頓挫している。

 

程なくして、二人の眼前に第一目的地である駅が見えてきた。

 

「うん? あれは……。」

 

渡瀬の視野に入ってきたのは古めかしい建物の駅と一人の参加者であった。

後ろ姿しか確認できないが、テンガンロンハットを被った金髪ロングの女性が目前の建造物を見上げるように佇んでいた。

 

思ったよりも早く、この性悪女から解放されるかもしれない。

早速、渡瀬は女性に声をかけようとしたが、

 

「そこのブス」

 

同行者の第一声に思わず、頭を抱えてしまった。

一体全体どこの世界に初対面の、しかも後ろ姿しか確認できていない女性に対して「ブス」呼ばわりする人間がいるのだろうか。

少なくとも笠鷺渡瀬の人生において、そのような女性に出会ったことは一度もない。

よっぽど自分の容姿に自信があるのだろうが、蔑称で声をかけられた側からの第一印象は間違いなく最悪だろう。

 

件の女性はゆっくりとこちらに振り返る。

その姿に思わず息を呑んでしまう。

西部劇に出てくるガンマンを彷彿させるような服装とモデル顔負けのプロポーション、左目下に泣きぼくろを有する整った顔立ちーーーその姿は決して「ブス」に分類されるべきものではなかった。

寧ろ、ミレイに引けを取らないほどの美女と呼んでも差し支えないだろう。

 

そしてその女性は。

 

「『ブス』とは……私のことかい?」

 

薄ら笑いを浮かべていた。

渡瀬は直感する。あの笑みはヤバい笑みだ、と。

それこそ、ラボで目にした「被験体N」の不気味な笑みに近いものを感じ、背筋を凍りつかせた。

 

しかし。

 

「他に誰がいるというのかしら? おいブス、まずはお前の首輪解除条件を教えなさい。」

 

ミレイは、そんなこと知ったことかという尊大な態度で、質問を投げかけた。

いや、この場合「質問」という表現ではなく、「命令」という表現が妥当かもしれない。

渡瀬は冷や汗をかきながら、ガンマンの女性の様子を伺う。

だが当の女性は笑みを崩さず、言葉を発する。

 

「オーケー、オーケー、情報交換というやつだね。 こっちも聞きたいことがあるんだよ、お嬢ちゃん達は―――」

「おだまり! 質問しているのはこっちだ、ブス。アンタはさっさと私に情報だけ提供すれば良いのよ。」

「おいお前、いくら何でもそんな言い方……」

「笠鷺は黙っていなさい!」

 

女性からの柔軟な返しにも、渡瀬からの注意もミレイは有無を言わさず一蹴した。

この女、本当に最悪だと心中で毒づき、再度女性の顔色を伺う。

今の一連のやり取りには、これまで余裕の態度を取っていたガンマンの女性も目を丸くしていた。

だが、すぐに表情を戻し、

 

「ははは……ひゃはははは!」

 

豪快に笑った。

 

「何が可笑しいのよ、ブス」

 

ミレイは不機嫌そうに尋ねる。

 

「あー悪いねぇ、不快にさせたのなら謝るよ。」

 

女性は落ち着きを取り戻し、再び口角を吊り上げ、ミレイに視線を送る。

 

「オーケー、私の首輪解除条件だったね。今スマートフォンを見せるよ」

「最初からそうすれば良いのよ、ブス」

 

ミレイはフンと鼻を鳴らし、女性は、ゆっくりと自分の腰に手を伸ばしていく。

 

渡瀬はホッと安堵する。

とりあえずは事なきを得たようだ、と。

ミレイの不躾な態度にも、寛容に応じてくれた目の前の彼女には感謝するしかない。

あわよくば、自分のパートナーも性悪女ではなく、この女性に変更してもらおうかと画策し始めた時、彼女の手が伝う先がスカートのポケットなどではなく、右脚に装着されているホルスターであることを認識した。

そしてホルスターには、黒光りしたものが収められていることを視認した瞬間、

 

「危ねぇ!」

「は?」

 

衝動的に体が飛び出し、間の抜けた声を発するミレイを押し倒していた。

と同時に、バーンと乾いた銃声が鼓膜を刺激する。

一連の動作はコンマ1秒も満たなかっただろう。

 

「お嬢ちゃん、これだけは覚えておきな。」

 

渡瀬とミレイの目の前には、相も変わらず不敵な笑顔を浮かべた彼女がいた。

顔は笑顔を形成している。ただし、その眼は冷ややかに渡瀬達を捉えていた。

 

「カラミティ・メアリに逆らうな」

 

渡瀬は知っている、この「眼」を。

この「眼」は人を殺す人間の「眼」だ。

このゲームに巻き込まれる前に、体験した悪夢のような現実がフラッシュバックする。

 

「カラミティ・メアリを煩わせるな」

 

脳裏に浮かんだのは、狂気に染まった宇喜多、洵、風見の姿。

表情こそ違えど、そのいずれの「眼」もはっきりと殺人の意思を宿していた。

目の前の彼女の「眼」からも同じ意思を感じ取れる。

今からお前たちを殺してやるという意思が。

 

「カラミティ・メアリをムカつかせるな」

 

彼女の手元にはしっかりと、拳銃という名の”暴力”が握りしめられ、その先端からは灰色の硝煙とともに赤い靄が噴出していた。

 

「オーケー?」

 

そしてその照準は再び渡瀬達、否、正確にはミレイへと向けられていた。

 

 

 

カラミティ・メアリは駅に到着して、間もなく渡瀬達から声を掛けられた。

結論から言うと、彼女は初めから渡瀬達を殺すつもりでいた。

但し最初に、情報交換に応じる素振りを見せたのには理由があった。

メアリに割り当てられた首輪解除条件「妖魔もしくは半妖を2名以上殺害する」。この首輪の解除条件に記載されている「妖魔」もしくは「半妖」に関する情報を持っていないか聞き出したかったのだ。

したがって、最初に「ブス」と声掛けられた瞬間と2回目に「ブス」と呼ばれて偉そうに命令を下された瞬間は、目の前の女の頭を吹き飛ばしてやろうとも思ったが、どうにか耐え忍んだ。

しかし3度目に「ブス」呼ばわりされ、舐められた態度を取られたときはもう我慢の限界だった。

カラミティ・メアリは自身を恐れないものを許さない。

ましてや見下すなどもってのほかだ。

 

先ほどから、自分を苛立たせていた不届きな女に不意打ち気味に弾丸を撃ち込んでやったが、隣にいた男が機転を利かせ、命中せずに終わる。

心の中で舌打ちをしつつ、再び愚かな生贄にその銃口を向ける。

男も女もまだ起き上がれない状態だ。

まずは女だ。この女だけは体中に風穴を開けてやらないと気が済まない。

呆然とこちらを見上げる女の顔が実に滑稽ではあるが、間抜けた面に狙いを定めて、引き金を引こうとする―――その刹那、予想外の出来事が起こった。

 

「こ、この女ぁあああああ!!」

 

激昂した女が起き上がり、凄まじいスピードで飛び掛かってきたのである。

 

 

 

ミレイはその手に棍棒を発現させると、超人的な脚力で地面を蹴り飛ばし、一気に距離を詰めた。

オスティナートの楽士の人間離れした身体能力は、カラミティ・メアリが持つ魔法少女のそれと引けを取らない。

 

「よくもっ!」

 

怒声をあげながら、カラミティ・メアリの顔面を粉砕すべく、愛用の棍棒を振り下ろす。

この電光石火の進撃に、それまで肉食獣のような笑みを浮かべていたカラミティ・メアリは表情を崩し、所持する銃で慌ててミレイの一撃を受け止める。

魔法で強化された拳銃でなければ、木っ端微塵に爆ぜていただろう。それほどの衝撃がカラミティ・メアリの細腕に到来した。着撃とともに腕が麻痺することを痛感する。

それでもお構いなしにミレイは再度棍棒を振り上げる。

 

「よくも、よくも、よくもっ!!」

「チっ」

 

軽い舌打ちを行い、カラミティ・メアリはバックステップで降り払われた打撃から退避する。

ミレイの一撃は空を切る形となり、すかさずそこへ銃弾を撃ち込む。

ミレイは意に介さず、手にする得物で銃弾を弾き、再びカラミティ・メアリへの元へと駆け抜ける。

 

「ブスの分際で!」

 

銃口は連続して火を噴くが、顔を真っ赤にしたミレイはそのことごとくを避ける。

狙いを外した流れ弾は近場の岩や樹木を四散させる。

 

「私にみっともない恰好をさせたあげく、見下したわねぇ!」

「このクソッタレが!」

 

猛然と襲い掛かる脅威にカラミティ・メアリは悪態をつき、即座に銃をホルスターに収める。

更に流れるように、支給品袋からコンバットナイフを取り出し、接近戦へと切り替える。

そして、肉薄するミレイの顔面を切り裂くべくナイフを突き立てる―――が、ミレイはヒラリと蝶のように身を翻し反応する。

結果として、ナイフによる一閃はミレイの髪を何本か掠めた程度に留まり、カラミティ・メアリはミレイが懐に潜り込むことを許してしまう。

しまった、とカラミティ・メアリが言葉を漏らし、脳から回避行動の命令を身体に送りつけたときは既に遅かった―――思い切りに振りかぶった棍棒がカラミティ・メアリの右脇腹を的確に捉え、彼女の華奢な身体を横殴りに吹き飛ばす。

 

「がッ……!」

 

カラミティ・メアリの体躯は二度ほど地面にバウンドを行い、駅前に設置されているゴミ箱にドスンという鈍い音とともに激突した。

そして、衝撃の全てを吸収しきれず変形した鉄製の大きなゴミ箱とともに地べたに転がり込む。

 

「ゲホッ、ゴホッ……!」

 

ゴミ箱から放たれる悪臭の中で、血反吐とともに咽るカラミティ・メアリのもとへ、ミレイはしてやったりという顔でゆっくりと近づく。

 

「アハハハハハ!! ハァーハハハハ!!!! ブスにはお似合いの光景じゃなぁい」

 

自分の命令を聞かず、あろうことか盾突いた馬鹿女がゴミに紛れて苦しむ姿は、愉快で、愉快で堪らないようだ。ミレイは嗤いながら、カラミティ・メアリの顔を覗き込み、囁く。

 

「さぁ、私の前にひれ伏しなさい。 そして泣いて命乞いをするといいわぁ。」

 

屈辱的な言葉を浴びせられたカラミティ・メアリはぜぇぜぇと苦しそうに息を吐きながら、ミレイを睨みつける。

カラミティ・メアリは思った。ああ、この女はこれから自分を嬲り殺すつもりなのだろうと。

悪い冗談だ。最高に胸糞が悪い。よりによって、このカラミティ・メアリを相手に!

何とかしてこの高慢ちきな女の鼻を明かしてやりたい、ただそれだけを考えた。

それから僅かな思考で1点の活路を見出し、静かに言葉を紡いだ。

 

「あたしを見下ろすなよ、整形まみれのドブス」

 

そのたった一言でミレイはギョッとした目をして、固まった。

ビンゴだ。 カラミティ・メアリはざまぁみろといった顔で鼻を鳴らし、蔑視の視線を向けた。

人生経験の豊富なカラミティ・メアリからすると、ミレイが醸し出す美貌は明らかに不自然すぎるし、整形痕も丸わかりだった。

これまでの言動からミレイが激情家であり、プライドが高い人間であることも簡単に察した。そしてこの後のミレイの行動もおおよそ見当がつく。

一瞬だけで十分だった。この一瞬の膠着を見計らい、自分の腰に装着している支給品袋に手を伸ばす。

 

「も、も、もう赦せないぃいいいいいっーーーー!」

「おっ、おい!」

 

よほどミレイの自尊心を傷つける言葉だったのだろうか。

どこからともなく渡瀬が静止すべく声を上げるが、ミレイのリミッターは既に外れてしまっている。カラミティ・メアリが支給品袋に手を突っ込んでいるのを気にも留めず、金切り声をあげながら、憎き女の息の根を止めるべく、棍棒を振り上げる。

 

「これでも喰らいな!」

「つっ!!? な、なによ、これは!!?」

 

カラミティ・メアリが迫りくるミレイの顔面に投げつけたのは紫色の花であった。

慌ててその花を振り払ったが、なんとも妖しく甘い香りがミレイを包み込んだ。

と同時に、急激な眠気がミレイに襲い掛かる。

 

「お、おまぇ……い、ったぃ……なに、を……」

 

意識が朦朧とし、片膝をつくミレイ。

対照的にカラミティ・メアリはゆっくりと立ち上がる。

そして、ズキズキと痛む脇腹を抑えつつ、ミレイに近づき、顔面をサッカーボールのように蹴り上げた。ぐしゃっという音を奏で、今度はミレイの身体が宙に舞う。

 

「ぐ、ごがぁっ!!」

 

みっともなく鼻血を垂らし悶絶するミレイ。顔面から伝わる痛覚と容赦なく到来する正体不明の睡魔が同時に襲い掛かる。その姿を見下ろし、カラミティ・メアリは嗤ってやった。

形勢は完全に逆転したのだ。

 

「気分はどうだい、ブスのお嬢ちゃん。」

「こ…、 の……」

 

見下ろされているという屈辱にせめてものと思い、ミレイは睨み返そうとするが、その瞼が重く、うとうとする。

 

「そうそう。 さっき、お嬢ちゃんにぶつけたのは『ゆめみの花』と言ってね。私に支給されたものなんだけど、どうやら強力な睡眠推進効果があるみたいなんだよ。」

「まぁ、夢の世界では楽しくやりな。 もうこっちには戻ってこれないしな、ひゃはははは!」

 

ありったけの侮蔑を込めて嗤ってやり、見下してやる。

悔しそうにこちらを睨みつけてくる女の顔が堪らなく愉快だ。

最高だ。最高に気分が良い。

 

そして、ミレイは。

 

「ぜ、ぜ…った…いにこ、ろ……してやるぅ……」

 

と呪詛のように恨み言を残し、その意識を手放した。

ミレイがすやすやと寝息を立てているのを確認すると、カラミティ・メアリは仕上げとばかりに、ホルスターから銃を取り出す。そしてその照準をしっかりとミレイの眉間へと合わせる。

本当はいたぶって楽しみたいところだが、途中で目を覚まして反撃されるとまた厄介だ。

認めたくはないが、ミレイは強者だ。殺れるときに殺らないといけない。

だからこそ、確実に今ここで仕留める。

 

「あばよ、お嬢ちゃん」

 

別れの言葉を適当に紡ぎ、引き金にかけた指に力を込める。

バーンと乾燥した音が駅前に鳴り響いた。

 

「お前……!!」

「感謝している」

 

ただし、銃声の発信元はカラミティ・メアリが保持していたニューナンブM60ではなかった。カラミティ・メアリは驚きの表情で狙撃手を睨みつけている。

そして彼女が握りしめていた拳銃は2~3mほど横の地面に転がっている。

 

「動いている的を狙うのは苦手なもんでな。」

 

笠鷺渡瀬は硝煙を発する銃を構え、カラミティ・メアリと対峙していた。

 

 

 

暫くの間、渡瀬は固まって動けずにいた。

そして思う。目の前にいる二人は本当に同じ人間なのか、と。

超常の能力を持つミレイとカラミティ・メアリの攻防は、それこそ学生時代に姉と一緒に見ていた、アクション映画さながらの激闘そのものだった。

但し、これはスタントマンやCGを巧みに利用したTV画面の向こう側で繰り広げられている情景ではない。紛れもない現実だ。

カラミティ・メアリが放った流れ弾が自分の真後ろにあった、そこそこのサイズの岩を木っ端微塵に粉砕したのを見て、痛感した。

眼前で死闘を繰り広げている二人は、夏彦達コミュニケーターとは、また別の「怪物」であると。

但し、それを認識したところで、渡瀬に出来ることは何もできなかった。

二人の「怪物」の攻防は目で追いかけるのがやっとだし、介入したところで、巻き添えを喰らって無駄死にするのが関の山だ。故に渡瀬は動けずにいた。

一連の戦闘に終止符が打たれ、勝利を確信したカラミティ・メアリが昏倒するミレイに銃口を向けたその時までは―――。

 

はっきり言って、渡瀬はミレイが嫌いだ。

自分が世界の中心であるかのような物言い。

我儘でやまかしくて、他者の意見を無視する姿勢。

挙句、他人の支給品を奪い取る高慢さ。

正直に言うと、ミレイが顔面を蹴り飛ばされて、無様に転げまわるところを見て、ざまあみやがれ、とさえも思った。

 

それでも最初の不意打ち時に、衝動的にミレイを助けてしまったのは、己の中にある「シリウス隊長 笠鷺渡瀬」としての「死に瀕した人を救助したい」という意思が潜在的に呼び起こされてしまったためであろうか。

 

(やれやれ、テロリストに成り果てた俺にも、まだそんな気持ちが残っていたとはな。)

 

カラミティ・メアリはこちらには全く注意を向けていない。

渡瀬など眼中にすらないと言うことだろう。

舐められたもんだ、と渡瀬は思う。

が、同時に有難い状況でもある。

 

(なぁ亘。こんな時、お前ならどうする?)

 

脳裏に今は亡き姉の姿を思い浮かべ、呼びかける。

当然、答えなど返ってくるはずもない。

だが。

 

(……聞くまでもないか。 そうだよな、初めから答えは出ているよな!)

 

渡瀬は固い決意を瞳に宿し、支給品袋から拳銃とある支給品を取り出し、装着する。

 

ミレイはどうしようない悪女だ。

この先生き延びたとしても、自分を含めた他の参加者に迷惑を掛け続けることは目に見えている。はっきり言って、この場で死んでもらったほうが自分を含めた周りの人間が不愉快な思いをすることはなくなるだろう。

それでも、それでもだ。

渡瀬は自分の目の前で誰かが死んでしまうことを赦せなかった。

赦したくなかった。

 

(堂島、桧山すまない。お前たちの遺志を預かったこの命、少しばかり危険な賭けに使わせてもらうぞ)

 

渡瀬の銃が捉えるは、カラミティ・メアリが握りしめる拳銃。

悪意に染まり夏彦達を狙撃したときとは違い、標的は動かない。

そして、カラミティ・メアリが銃の引き金に指をかけようとした、その瞬間、渡瀬は銃弾を放った。

 

 

 

カラミティ・メアリの心境は先ほどのハイテンションから一転し、最悪の気分へと切り替わる。

ようやっとくそ生意気な女をぶち殺せると思った矢先、取るに足らないと思っていた金魚の糞に妨害されたのだ。苛ついた表情で自分に銃口を向けている男を睨みつける。

男の表情からはっきりと「反抗」の意志が読み取れる。

 

気に食わない。

カラミティ・メアリはギシリと歯噛みする。

弱者の分際で、強者に抗おうと決意を宿したあの表情―――虫唾が走る!

 

間髪を容れず、バン、バンと渡瀬は連続して発砲する。

カラミティ・メアリは銃口が火を噴くのを視認すると、側転し銃撃を回避。

地面に放り出されていた自分の拳銃を再び手にし、いざ反撃せんと、その先端を銃声の元へと向けるが。

 

「――――ッ!!」

 

そこに在るべき男の姿は既になく、真横からヒューと風を切る音が聞こえた。

驚いて視界を180度回転させると、そこにはミレイを担ぎ、信じられないスピードで逃走する渡瀬の後ろ姿があった。

 

「ふざけんじゃねェ!!!」

 

唾をまき散らしながら、怒声を放ち、手元の銃を乱射する。

が、銃弾は渡瀬達に命中することはなかった。

速すぎた。あまりにも渡瀬の逃げ足が速すぎたのだ。

先ほどのミレイも超人的な速さではあったが、それよりも遥かに速い。

2人はあっという間に森の中へと姿を消した。

 

先ほどまで銃撃音、打撃音、怒鳴り声を奏でていた駅前の戦場は閑散とする。

静寂が包み込む戦場の跡にいるのは、カラミティ・メアリただ一人だけ。

そしてその独りだけの空間の中、カラミティ・メアリは。

 

「ははは……ひゃはははは!」

 

獰猛な笑みを浮かべて笑い始めた。

わずかな街灯が光を放つ、薄暗い駅前にカラミティ・メアリの笑い声だけが木霊する。

 

「ここまで私をコケにしてくれたのは、お前さんたちが初めてだよ!」

 

魔法少女の脚力を以て、今から追いかけたとしても、恐らくあの二人に追いつくことはできず、徒労に終わることになるだろう。

ならば、今は見逃してやろう。

いいや、この場合は見逃すしかあるまい。

 

だが―――。

 

「その顔、覚えておくよ」

 

カラミティ・メアリは自身を恐れないものを許さない

この報いは確実に受けさせる。

 

次に会ったら、あの二人を必ず―――。

 

 

【G-2/駅前/一日目 深夜】

【カラミティ・メアリ@魔法少女育成計画】

[状態]右脇腹を打撲、ダメージ(中)、渡瀬とミレイへの苛立ち

[服装]いつものガンマン服

[装備] ニューナンブM60@現実

[道具] 基本支給品一色、スマホ、コンバットナイフ@現実

[首輪解除条件] 妖魔もしくは半妖を2名以上殺害する

[思考・行動]

基本方針:殺し合いを勝ち抜く

1:首輪解除のため、妖魔もしくは半妖を探し出して殺す

2:獲物を探しに周辺を探索するか、もしくは電車に乗って別の狩場に移動する。

3:強力な重火器が欲しい

4:あの2人組(渡瀬、ミレイ)とリップルは見つけ次第、殺す

※参戦時期はリップルをホテルプリーステスに呼び寄せたあたりからとなります。

 

 

 

 

「ハァハァ……、どうやら5分経過したようだな。」

 

渡瀬は肩で息をし、後ろを振り返り、追手が来ないことを確認する。

そして、どうにか逃げ切ることができたと確信し、安堵する。

 

渡瀬が披露した異常な逃走速度―――その秘密は渡瀬が着用している靴にあった。

説明書によると、それは「ウィングシューズ」というもので、装着したものの素早さを飛躍的に向上させるものだった。但し、その効果持続時間は5分のみと限定され、1度利用すると2時間は効力を発揮しないとのことだった。

正直言うと、ゲーム開始直後にこの支給品と説明書を確認したときは半信半疑だった。また、実際どれくらい能力が向上するのかも分からなかったため、あの場面でこのカードを切ったのは危険な賭けでもあった。

 

道中、一瞬視界に薙ぎ倒されている木々が映ったが、あえてそこには立ち寄らないようにした。今のこの状況を他の参加者に見られたくはないし、何より薙ぎ倒されている木々を見る限り、そこにいるであろう参加者は穏やかではない可能性が高いと見たからだ。

また、その参加者がこちらに向かってくる可能性も十分に考えられる。

 

(だとすると、この場に留まるのはまずいか……)

 

目的地は二つある、同エリアにある「七望館」という施設に向かう選択肢、もしくは橋を渡って、南の島に渡るという選択肢。

どうしたものかと思案して、何気なく肩に担ぐ女王に視線を送る。

ミレイは渡瀬の苦労も知らず、相も変わらず寝息を立てていた。

 

そして渡瀬は思う。

 

黙っていれば可愛いのにな、と。

 

 

【G-1/森の中/一日目 深夜】

【笠鷺渡瀬@ルートダブル】

[状態]健康

[服装]シリウスの団員服

[装備]NZ75@ルートダブル

[道具] 基本支給品一色、スマホ、ウイングシューズ@よるのないくに2、不明支給品1つ(本人確認済み)

[首輪解除条件]特定のパートナーと24時間以上行動を共にする

[思考・行動]

基本方針:殺し合いからの脱出。なるべく人は殺さない。

0:ミレイに同行して、首輪を解除する

1:橋を渡って南の島へ移動するか、それとも七星館に向かうべきか……。

2:ミレイが他参加者相手に暴走しないように、上手くコントロールする

3:宇喜多、洵、サリュ、カラミティ・メアリを警戒。夏彦とましろについては保留。

4:地図にある「天川夏彦の家」が気になる

※参戦時期はDルート。夏彦のセンシズシンパシーによって本来の記憶を取り戻し、和解した直後からとなります。

※ウイングシューズを着用すると素早さを飛躍的に上昇させます。但し、有効時間は5分間のみで、1度利用するとその後2時間は効力を発揮しません。

 

 

【ミレイ@Caligula -カリギュラ-】

[状態] 爆睡中、顔面打撲、ダメージ(小)

[服装]いつもの服装

[装備]なし

[道具] 基本支給品一色、スマホ、不明支給品3つ(本人確認済み)

[首輪解除条件] 解除条件を満たした首輪を2つ以上保持する

[思考・行動]

基本方針:生存優先。まずは首輪の解除。

1:首輪解除のために、使えそうな下僕を集める

2:さっきのブス(メアリ)は絶対に殺す

3:帰宅部の連中とウィキッドを警戒

4:ファヴがμと同等以上の力を持っていると分かれば、優勝も視野に入れる

※参戦時期は劇場グラン・ギニョールで帰宅部に敗北した後からです。

※ゆめみの花(ドラゴンクエストⅪ)の効果で眠っています。どれくらいの時間眠るかについては、次の書き手さんにお任せします。

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