バトル・ロワイアル The Rebellious Memory 作:原罪
会場南の島、森林地帯のほぼ中央に位置するユグドミレニア城。
ルーマニアの地方都市・トゥリファスに建立され、魔術師一族の本拠地とされていたその城塞は、この殺し合いの舞台においても荘厳な風情を漂わせていた。
窓から月明かりが僅かに差し込むが、城内に他の灯はなく、薄暗い。
仄暗い深夜の古城の中―――ホラー映画さながらの不気味な空間で2つの足音が木霊している。
1つ目の足音は軽快でゆっくりと一定のリズムを以て、回廊に鳴り響く。
対照的に2つ目の足音については、テンポは悪く、何かと慌ただしい。
1つ目の足音は「歩いている」ものであるのに対し、この2つ目の足音については、「走っている」ものという表現が正しいかもしれない。
「ふぅ……ふぅ……」
2つめの足音の主、神楽鈴奈は疲弊した表情で城内を駆けていた。
理由は先程から執拗に追跡してくるもう1つの足音にある。
鈴奈は正体のわからないこの足音の主と10分ほどの鬼ごっこを続けている。
最初のホールでは、自分と齢の変わらない少女の首が切断されるという、ショッキングな光景を見せつけられた。
次に目が覚めた時には、この薄気味の悪い渡り廊下の真っ只中にいた。
そして、奇想天外な出来事が立て続けに発生したことでパニック状態に陥っていた鈴奈の耳に聴こえてきたのは、迫りくるあの足音であった。
落ち着く時間もろくに与えられず、冷静に己が置かれている境遇を整理できない状況下―――
接近する足音について、鈴奈が連想したのは、ブラム・ストーカーの恐怖小説『吸血鬼ドラキュラ』であった。城内の内装と奇々怪々な雰囲気がどうしても、小説に登場するドラキュラ城と重なってしまう。
この思考が誤りだった。
一度認識を固定してしまうと、脳内で負の連鎖が巻き起こってしまう。
自分の後方の暗黒空間より奏でられる足音は、否が応でもあの「人ならざる者」ではないかと想起してしまう。
異常に発達した長い牙を立て、生き血を啜るお化けの姿を思い浮かべ、鈴奈は顔を真っ青にして駆け出したのであった。
(お願いです…… 夢なら……夢なら、早く覚めてぇええええええ!!!!)
心の中で叫び声を上げつつ、鈴奈は未知の恐怖から逃避を続ける。
しかし、走れど走れど足音が遠のくことはなかった。
必死に逃げる鈴奈を嘲笑うかのように、足音はコツン、コツンとそのペースを乱さず、小気味の良い音を刻み続ける。
そのリズミカルな歩音がより一層に、鈴奈の恐怖心を煽り立てる。
恐らく後方の暗黒空間を振り返れば、足音の主を確かめることはできるだろう。
けれど、鈴奈は出来なかった。勇気がなかったのだ。
だから鈴奈は逃げた。逃げ続けた。
やがて一連の逃亡劇にも終焉が訪れた。
「そ、そんな……」
目の前が行き止まりとなっており、逃走経路が確保されていないという事実に絶望する鈴奈。
思わずペタリと尻餅をついてしまう。
それでも追従する足音は、コツン、コツンと、容赦なく鈴奈に迫りくる。
―――助けて!
―――嫌だ
―――怖い
―――死ぬ?
―――何で?
―――死んじゃう?
―――血を吸われて?
―――どうすれば?
恐怖に駆られ、さまざまな思考が脳内をグチャグチャに搔き乱す。
震えが止まらない。ガクガクと膝が震える。
音が近づいてくる。
もう間もなく足音の主が、手前の曲がり角から姿を現すことになるだろう。
鈴奈はよろよろと立ち上がり、病理具現解(カタルシス・エフェクト)を発現させる。
本来であればこの能力は、アリアが調律しないと発現はできないはずだが、そこに疑問を思う余裕はなかった。
出来ればその姿を見たくはない。
見たくはないので、目を瞑る。
残された手段はこれしかない。
覚悟を決めたその時に、足音の主と思われる人影がチラリと視界に飛び出した。
その瞬間。
「こ、来ないでくださあぃいいいいいいい!!!」
空間が揺らぐような大声を響かせ、槍を手前へと突き出した。
襲い掛かってくるであろうお化けに対してのせめてものの抵抗だ。
「ほう……随分と変わった能力を持っているようだな」
「へ?」
何か固いものに槍の進撃を阻まれた感触を細腕に感じた時、鈴奈の耳には想定外のトーンの声が響く。
恐る恐る目を開けた鈴奈の前にいたのは、黒タキシードを着込んだ背丈の高い怪人ではなかった。
『うふふふ、驚かせてしまったかしら』
それは少女だった。水色の髪と透き通るような白い肌を持った少女。
お伽話に出てくるような可愛らしいドレスを着付けた小柄な少女。
そして、少女の顔は仮面に覆われていた。
『初めまして、人間のお嬢さん』
少女の右手には楽団の指揮者が握る指揮棒があった。
その指揮棒は鈴奈の槍をいとも容易く受け止めていた。
少女は涼しい顔で、鈴奈を見据えている。
追跡者が想像していた恐ろしい吸血鬼ではなかったという安心感と底知れぬ少女への僅かながらの恐怖から、鈴奈は一気に脱力し、病理具現解(カタルシス・エフェクト)を解く。
『わたしの名は、クリストフォロス。 純血の闇の血族の一人。』
少女はスカートの裾を少しだけ摘み上げ、ぺこりと頭を下げ、天使のような微笑みを鈴奈に投げかけた。
『以後お見知りおきを、お嬢さん』
◆
「それで、クリストフォロスさんは―――」
「ふふっ、『クリス』で良いぞ、鈴奈」
「あ…えっと、その……クリスさんは妖魔で、に、人間の魂を食べたり、血を飲んだりするけど、この殺し合いには乗っていないということで宜しいんですよね?」
「ああ、その理解で間違っていない。 まあ、私を吸血鬼だと思い込んでいたお前の推察も当たらずと雖も遠からずといったところだったな」
「ほ、本当にごめんなさい! わ、私、気が動転しちゃっていて……」
『うふふっ、気にしないで。逃げ惑うあなたの様子が面白おかしくて、追い立てちゃった私にも原因があるし。』
「ううっ、クリスさん、意地悪ですぅ……」
クリストフォロスと名乗る仮面の少女と情報交換を行ううちに、平静を取り戻した鈴奈はようやく自分の置かれている状況を理解した。
ここが仮想現実の世界(メビウス)ではないことを。
最初に会場で繰り広げられたあの”惨劇”が夢ではなかったことを。
自分が殺し合いに巻き込まれてしまったということを。
そして、今は純血の妖魔を名乗る参加者の一人と会話をしているということを。
最初は妖魔を自称する少女に対し、怖気付いていた鈴奈であったが、話を進めるにつれ、恐怖を感じなくなっていった。
「まあ、私がお前を追いかけていたのは揶揄い半分もあったが、実際は尋ねたいことがあったからだ」
「尋ねたいこと?私に、ですか?」
『ええ、そうよ。 実はこれの使い方を教えてほしいのよ』
そう言って差し出されたのはスマートフォンであった。
クリス曰く、このスマートフォンなる機械は彼女にとって縁も所縁もない代物だったようだ。
しかし、ファヴなる主催者の説明を聞く限り、無碍にすることもできず如何しようかと難儀していたところ、呆然と立ち尽くす鈴奈を発見したとのことだ。
時々口調や声色が変わるクリスに違和感を感じつつも、鈴奈はざっくりとスマートフォンの使い方を教えた。
説明の流れで液晶画面をタップし、出力された参加者名簿を確認したが、自分以外の帰宅部メンバーや敵対していた楽士の面々が参加していることに気付き驚く。
また、それまで饒舌だったクリスも名簿を確認したときは、何か思うところがあったのか沈黙をした。
『成程ね……これは厄介なことになったわね……』
「えっと……クリスさんも、お知り合いの方が参加されているのですか?」
「まぁ、そんなところだ……」
少し困った表情で言い淀むクリスの反応を見て、鈴奈はそれ以上の追及は行わないようにした。
続けてお互いの首輪解除条件を確認する。
鈴奈の首輪解除条件は「特殊機能が搭載されたスマートフォンを2台以上破壊する」、クリスの首輪解除条件は「会場内のとある施設にある『Nエリア』に到達する」となっていた。
「Nエリアか……。鈴奈、何か心当たりはないか?」
「ご、ごめんなさい…。そ、その…『シーパライソ』と『グランギニョール』という施設はメビウスにもあったのですが、どちらの施設にも『Nエリア』という場所はなかったはずです」
尤も私達が探索した施設と、会場内にある施設の構造が同じでない可能性もありますが、と鈴奈は付け加える。
「ふむ……それでは、この『Nエリア』なるものが何処にあるか、情報収集を行う必要があるな」
「あ、あの! クリスさんは、これからどうするんですか?」
『まずは、他の参加者が集まりそうな施設に向かうつもりよ。人探しと情報収集も兼ねてね』
「クリスさんの探している人っていうのは―――」
「リュリーティスという少女だ。 私と違い彼女はただの人間だから、早急に保護をしたい」
「そ、それでしたら、私にも手伝わせていただけないでしょうか? 私!というより私のスマホ、クリスさんにお役に立てると思うんです!」
鈴奈は支給されたスマートフォンのとあるアイコンをタップして、クリスに見せつけた。
タップしたアイコンはクリスのスマホには存在しないものだ。
その画面には
神楽鈴奈
クリストフォロス
と文字が二行表示されていた。
『これは……?』
「私のスマートフォンには特殊機能が搭載されていて、半径200m以内にいる参加者の名前を確認することが出来るみたいです。」
キョトンとした顔で画面を見つめるクリスに向かい、鈴奈は淡々と説明した。
◆
方針は決まった。
城内で出会った神楽鈴奈という人間の少女と共に、彼女の知人とリュリーティスを探す。
可能であれば、鬱陶しい首輪の解除の為、道中で「Nエリア」に関する情報を得たいところではある。
但し、最優先はあくまでもリュリーティスの保護だ。
そして、リュリーティスとの合流の先にクリスが見据えるものは―――
『(夜の君……)』
「アーナス」という文字を名簿で見つけた時は、我が目を疑った。
「夜」の世界の絶対的支配者であり、「魔王」と呼べるほどの絶大な力を所持する彼女に対し、クリスは忠誠を誓っている。
しかし、アーナスは怨敵「月の女王」との戦いにより、今は記憶を失い、暴走状態にある。
一体このゲームの運営は何を考えているのだろうか。
暴走状態の彼女が野に解き放たれたら、積み上げられる屍の数は両手の指で数えることは出来ないだろう。
もはや「殺し合い」どころではない。
目に浮かぶのは、一方的な蹂躙と虐殺だ。
しかし、リュリーティスもこの会場に連れて来られているのは、不幸中の幸いだった。
彼女と引き合わすことができれば、「夜の君」は失くした記憶と自我を取り戻すことが出来るだろう。
ひとまず城の外に出た2人は、北上することに決めた。
まずは隣のエリアにあるゲームセンターに立ち寄り、他の参加者との接触および施設内に「Nエリア」なるものがないか探索するつもりだ。
道中ふと思い出したかのように、クリスは振り返り、後ろを歩く鈴奈に声を掛けた。
『ところで鈴奈、最初に会ったときに思ったのだけど、あなた凄く大きな声を出せるのね』
「ご、ごめんなさい!! 私驚いたりすると、つい大きな声が出てしまうんです……」
『くすっ、謝ることはないわ。 あなたの声とても素敵よ。』
「えっ?」
思いもよらぬ言葉を掛けられ、鈴奈はぽかーんと口を開ける。
そして、自分が褒められていると自覚すると段々と顔を紅潮させていった。
「あ、ありがとうございます! そ、その…声で褒められたの、中学時代の合唱部以来です」
「ほぉ…合唱を嗜んでいたとな…。ますます、お前に興味が湧いたぞ。」
鈴奈の口から発せられた「合唱」という単語を聞いて、クリスは眼光を鋭くした。
「なぁ、鈴奈。お前歌劇に興味はないか?」
「か、歌劇……ですか?」
『えぇ、そうよ。私が執筆した脚本を、あなたが演じて唄うのよ!』
「そ、そんな! わ、わ、私なんて、地味でダサいし、女優さんなんて無理ですよ!」
「そうか? お前は普通に可愛いし、観客ウケすると思うぞ」
「そ、それに、恥ずかしいですし―――」
『衣装は私が見繕ってあげるわ。 嗚呼、きっと素晴らしい舞台になるはずよ』
「話を聞いてください〜〜〜!!! 駄目なものは駄目なんですぅ〜〜〜〜〜!!!」
煌めく星々と月の光に照らされた夜天の下、鈴奈は叫喚する。
あたふたする鈴奈を見て、クリスは愉快そうに微笑む。
その愛くるしい姿は傍から見れば妖魔というよりは天使に見えるかもしれない。
神楽鈴奈とクリストフォロス―――
神楽鈴奈はメビウスで親睦を深めた仲間たちとの帰還を目指す。
クリストフォロスは記憶をなくした主人のため、奔走する。
バトルロワイアルという舞台劇の上で二人の役者が奏でるは、生か死か。
舞台は開演したばかり―――
【H-6/ユグドミレニア城外/一日目 深夜】
【神楽鈴奈@Caligula -カリギュラ-】
[状態]健康、疲労(小)
[服装]いつもの服装
[装備]
[道具] 基本支給品一色、スマホ(特殊機能付き)、不明支給品2つ(本人確認済み)
[首輪解除条件] 特殊機能が搭載されたスマートフォンを2台以上破壊する
[思考・行動]
基本方針:この殺し合いを止める
1:クリスさんと同行。情報収集のため、人が集まりそうな施設に向かう。
2: 帰宅部の皆と合流
3: 死んだはずのシャドウナイフが参加していることに疑問
※参戦時期はカリギュラ本編、グラン・ギニョールでの最終決戦直前となります。
※鈴奈のスマートフォンには特殊機能が搭載されており、半径200以内にいる参加者の名前を表示することができます。
【クリストフォロス@よるのないくにシリーズ】
[状態]健康
[服装]いつもの服装
[装備]:魔楽器オルガノン(よるのないくに)
[道具]:基本支給品一色、スマホ、クリスの仮面(黒)、クリスの仮面(白)
[首輪解除条件] 会場内のとある施設にある「Nエリア」に到達する
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。「夜の君」の暴走を止める
1:鈴奈と同行。情報収集のため、人が集まりそうな施設に向かう。
2:アーナスの記憶を取り戻すため、リュリーティスを保護する
3:アルーシェとの合流も視野に入れる
4::余裕があれば、首輪を解除したい
※参戦時期はよるのないくに2 第6章以前からとなります。