バトル・ロワイアル The Rebellious Memory   作:原罪

31 / 67
「あなたにはこのゲームで、魔王という役割を担ってもらいます」/三好夏凜、グレイグ、魔王パム(ヤヌ)

『残り生存者が15人を切るまで、真実がどうあれ『殺し合いをするつもりはない』という発言、意思表示を一切行ってはならない。

逆に、他のプレイヤーから己の立場を問われた時には『ゲームに興じるつもりだ』という旨の答えをしなければならない。

以上の条件を満たせなかった場合、首輪は強制的に爆発する』

 

 

◇三好夏凜

 

 

ともかく、線路沿いに移動していれば人の集まりそうな町なり駅なりは通過するだろう。

そう思った。

焦っていたことは間違いない。

それでも、焦らずにはいられなかった。

勇者部の皆はもちろん、今の友奈とは一刻も早く合流したい。

酷いことを言ってしまった事について謝って、今度こそ助けに行かないといけない。

樹海の中を移動する時のように高く跳んで駆けながら眼下の線路を見下ろしつつ、誰かがいないかと眼を凝らしていた。

夜中の上に高所からの視界で、人影を見分けるのはとても困難そうに思われたけれど、友のことが心配で気が気ではなかった。

 

「問おう」

 

だから、地上に気を取られるあまり、上空への備えはおろそかになっていた。

バーテックスとの戦いならまだしも、勇者でもない人間に身体能力負けした経験が無かったために、『他の参加者に上空を取られる』警戒が薄かったとも言える。

 

気配を感じ取るよりも先に『挨拶』をかまされた。

巨木のように太い『黒い拳』が、撃ち落すように降ってきた。

 

「ひゃっ!」

 

巨大な拳に殴られるというよりも、切り裂くような拳圧だけで横ざまに吹き飛ばされた。

数秒間は滞空できそうな高度にいたところで大きく体勢を崩され、『何が起こった』という不理解が頭を揺さぶる。

痛みは――ない。拳そのものは直撃しなかったのか。

ともかく攻撃されたという危機感を体に巡らせて着地の姿勢を取れば、立て直された視界にちらりと襲撃者の姿が見えて――そして夏凜は、眼を疑った。

 

何だ、あいつは。

 

「貴様が探しているのは、虐げるための弱い獲物か?」

 

そいつは――その少女は、夏凜より上空に滞空しながら、詰るように問いを落とした。

 

一言でいえば、少女の姿をした異形。

間違いなく姿は少女であるはずなのに、おかしい。

闇の中に輝く赤い眼光と、角。

そして、神経が通っているかのようにしゅるりと少女にまとわりつく矢じりのような尾。

漆黒の装いは、もやは衣服というより毛皮の延長なのではないかというほどにそっけなく、最低限の面積しかない。

そして、周囲とりまくように旋回する黒いひし形をした謎の破片が三枚――夏凜を殴った拳が変形して同じひし形に変わり、四枚になった。

 

なんて恰好だ、と感想を抱くしかない。

自分の纏っている勇者装束もそれなりに派手な格好だという自覚はあったが、その容姿はあまりにもロックというか――悪びれすぎではないだろうか。

線路からやや距離を開けた一面の砂浜に着地すると、少女はつまらなそうに夏凜を睥睨して言葉をつづけた。

 

「それとも戦うに値する強者か? それならば『身の程を弁えろ』と言うしかないが」

 

もしかして、馬鹿にされているのだろうか。

ということは、相手はもしかしなくても危険な参加者なのか。

そもそも、こいつは何者だ。

なんで羽根も何もなしに浮いてる。もしかして周囲にあるあの四枚の『板』が浮力発生装置か何かなのか。

そもそも勇者をぶん殴って吹き飛ばすなんて、絶対に人間技じゃない。

じゃあ『勇者』みたいに神の力を持ってるのか。もしかして人間の姿をしてるけど中身はバーテックス的な何かだったりする?

そんな情報と推測がいっぺんにぐるぐるして、頭の整理が追いつかない。

ただ、『誰を探していたのか』という質問だったことは理解できたので、声を大きくして言い返した。

 

「な、なんで私が人探ししてたって分かるのよ!」

「貴様は馬鹿か。無防備になりやすい大きな跳躍の最中にそんなキョロキョロと視線を迷わせているような愚行をしでかすからには、人探しに夢中で隙だらけですと教えているようなものだ。

それとも、自分より高所から攻撃されるまいと高をくくっている素人か。対人戦を経験したことのない非戦闘員か。

そもそも質問しているのはこちらだろうが……いや、その無警戒ぶりではゲームに興じるつもりかどうかなど、尋ねるまでもなかったな」

 

一息に罵倒まじりで言いたてられた。

『非戦闘員』という言葉にはかちんとくるものがあったが、本当に聞き捨てならない言葉はその直後にきた。

 

「要するにお前は、仲間を集めて悪を打倒し皆でともにに帰ろうなどと、くだらぬ幻想にしがみつく輩か」

 

はやく友達に会いたいという気持ちを、そんな風に嘲笑された。

 

「皆で一緒に帰ることの、何がくだらないって言うの!?」

 

いきなりの攻撃。

そして、あまりにもあんまりな上から目線と、嘲笑と、隠すこともない『悪』を象徴するかのような容姿と。

 

「なるほど、その言葉で貴様の考えは知れた。だが無意味だ」

 

それは、まるで、いつか文化祭でつくった演劇に出てきたような――勇者と敵対する『魔王』を思わせた。

さっき一瞬だけ『神の力』を持った異能者かと考えたことを、すぐに改める。少なくともこいつが『勇者』の類だということはない。絶対にない。

 

「なぜなら、最後に立っているのは私一人で充分なのだからな!」

「アンタ、何様のつもりよ!」

 

理解した。

相手は、本当に殺し合いをするつもりでいる。

精霊・義輝を呼び出し、両の手に改めて双剣を出現させる。

 

「我が名は、魔王パム――最も強き者の名だ!

 これに異論があるならば、己が名を示して挑むがいい!」

 

両翼を広げるように、『魔王』が四枚の羽根を二枚ずつ左右に備えさせた。

 

「当代無双! 勇者、三好夏凜!!

とりあえず、あんたは一発ぶっとばす!」

 

『勇者』は両の腕を左右に広げて、双剣を天上の魔王へと向けた。

 

「来るがいい!」

「参る!」

 

啖呵によって戦端を切り、勇者は跳躍した。

魔王は上空に不動のまま、四枚ある黒い物体のうち一つを降らせた。

夏凜の背丈とほぼ変わらぬ体積を持った紡錘形の鈍器が、のしかかるように突っ込んでくる。

 

「はぁっ!」

 

双剣を頭上で交差させ、紡錘形の先端を抑え込むようにして受けた。

決して落下による衝撃だけではない『重さ』と金属音が刀身をふるわせ、金属音を鳴らす。

バーテックスの星屑を相手にしている時よりも、はるかに重く、硬い。

受け止めた直後に、右手の刀を刺突に回して第二撃で破壊する予定だったものが、たやすく弾かれる。

 

「……っ、このおっ!」

 

そのまま地面まで押し込まれる格好になり、砂浜に両の足を戻された。

砂地に地響きが染みわたり、両足が砂地にめりこむ。

 

「憎悪(マステマ)」

 

魔王がそう唱えると、刀身とぶつかり合いをしていた黒いソレが形を変えた。

変形を果たしたのはややドリル状に鋭角的な形をしたスクリュー。

しかも刀身と接触している部分と基点として、電動式でもあるかのように回転を始めた。

耳までも抉るように鋭い金属音が刀身をきしませ、それ以上に腕の腱と筋繊維が悲鳴をあげる。

 

「ぐっ…………」

 

運動エネルギーにおさまらず回転によって生み出される熱エネルギーが柄の部分にまで伝わり、手のひらにとって無視できない熱量になってきた。

 

「馬鹿者。すぐに受け止めるという選択をしてどうする。仮に私のこれが爆発性の物質だとすれば、貴様はすでに死んでいる」

 

余裕に満ちた魔王の侮蔑が、上空から聞こえてきた。

頭上の視界はドリルによって隠され、魔王が続く攻撃を放っているかどうかも確認できない。

ジリ貧、という言葉が頭に浮かぶ。 

――違う、勇者はいつだってこんな状況を気合で打破してきた。

 

「負けないっ!」

 

義輝の能力を使って、双剣とは別の小刀を何本か召喚する。

本来は、二刀の攻撃の補助として投擲武器に使っているものだ。

今、両腕はふさがっている。出現させるなり、そのうちの一本を蹴りつけて黒い回転体へと直撃させた。

小刀は接敵の瞬間に起爆する。

爆炎が上がるだけで、スクリューには傷ひとつない。

しかし、重心を刀身にかけていたスクリューのバランスが崩れ、回転が左右にぶれた。その隙を見逃さず、刀身を受け流しに転じさせてスクリューを振り払う。

 

ずん、とスクリューが砂浜に吸い込まれ、夏凜は自由になった腕を大きく振り払いながら上空を見上げる。

 

魔王は変わらず、同じ空の同じ位置から動いていない。

高所からの余裕をもって、小さな笑みを浮かべたまま微動だにしていない。

さっき、残り三枚の黒い物体で攻撃していればこちらの身体を抉ることもできただろうに、そうしなかった――侮られている。

 

「なめるな。今からそっちに行くわ!」

 

相手はこちらが跳躍することはできても、飛行はできないと考えているはず。

ならば、その余裕から奪う。

夏凜はふたたび地面を蹴り、跳びながらまた小刀を召喚した。

両手で二刀を使っている時に、義輝の呼んだ小刀は体の周囲に浮かせておくことができる。

しかし、今はそれを掴んで投擲するための召喚ではない。

滞空させられるということは、すなわち足場として踏み台に使えるということだ。

 

「とりゃあっ!」

 

小刀を何本も呼び出し、踏みつけ、その連続で階段をのぼるように駆け上がって魔王へ迫る。

 

「ほぅ」

 

魔王の顔に喜色めいた驚きが浮かんだ。

三枚の羽根のうちの一枚を再び降らせたが、小刀を使って中空を左右に駆けることで回避し、魔王と同じ高さを取る。それでもまだ高度をあげる。

跳躍するのではなく空中で回避軌道が取れるなら、見切るのは苦もなかった。

 

「なに上から見てんだっ!!」

 

魔王よりも高い位置をとり、なるべくたくさんの小刀を呼び出した。

このまま小刀を降らせ、続けて落下しながら接近して刀で斬り下ろす。

懐に飛び込んでしまえば、あのおかしな四枚板も機能させようがない。

魔王は視線だけ夏凜を追ったまま、一歩も動かないでいる。その慢心に付け込んで即効で終わらせようと思った。

 

背後に気配を感じた。

 

「くっ!」

 

振り向き、対象を視認するよりも先に小刀を放った。

気配を感じ取るのには、自信があった。

こちらが回避した黒い一枚羽根が、背後へと戻ってきていた。

どうにか小刀が着弾して羽根の追撃が停滞したのを見て、反応が間に合ったと冷や汗をぬぐう。

 

「至言(ロゴス)」

 

防いだばかりの黒い羽根が、『形の無い衝撃音波』へと変化した。

 

何を言ってるか分からないと思われる現象だろうし、見ていても何が起こったのか分からなかった。

黒い羽根の姿がいきなり消失し、その方向から波動のような怪音が爆裂した。

以前に相手取った牡牛座のバーテックスの、鐘から放たれた攻撃。

それに匹敵するほどの衝撃で、鼓膜と体を叩かれた。

 

「気配を感じ取ってみせたのは悪くない」

 

魔王のが眼科から真上に流れていき、落下する。

魔王は羽根の一枚をヘルメットのように頭部にまとわりつかせ、耳栓のように使っていた。

 

「しかし、前に出る勇気と、突出する蛮勇の区別がついていないな。

相手がわざと隙を作っている可能性を考えなかったのか」

 

砂地に墜落すると、淡々とした指摘が降ってきた。

動かなかったのは、慢心でも何でもなく誘ったのだと、呆れたような声はそう意味していて。

頭上には、ふたたび固体の形を取り戻した羽根が矢じりの形で夏凜へと構えられている。

回避も防御も間に合わない。

食らう。

数撃は精霊ガードで防げるだろう。でも、追尾しての連撃が来れば。

精霊ガードは花びら5枚分しかない。いや、さっき落ちた時に1枚使っただろうか。

相手は強い。あの羽根も強い。

詰む。

 

二本の矢が雷のような速さで落ちてきた。

なすすべが無かった。

 

しかし、救いの手は――救いの盾が、現れた。

 

駆け付けた人影は、その背中は大柄なもので。

頭上に影となって翳された盾は、黒い矢じりに対して鈍い激突音ではなく、かんと澄んだ音を連続で響かせて迎える。

仁王立ちにして勇者をかばう大きな人影は、激突の瞬間にその広い盾を振りぬくよう動かし、受け流してみせた。

どっ、と盾が地面へと振り下ろされる音が響き、続けて弾かれた矢じりがどこかの地面に刺さる音も聞こえる。

ただ力任せに、落下の衝撃を上乗せされた巨大な矢じりを反射したのではこうはならない。

おそらく攻撃を効率よく受け流すための技術と経験を得ている動きだ。

 

「かなり落下したようだが、怪我はないか?」

 

薄紫の長髪を背に流した三十代相当の男が振り向き、渋く低い声音でそう尋ねた。

夏凜にとって、『大人の男』に庇われるという経験が戦いの中でまるで無かったこともあり、それは現実感の無い光景で。

とっさに、どうにか、首を横に振って大事はないことを示す。

 

「そうか」と救い主はひとつ頷き、魔王と相対した。

魔王も感心したように、しげしげと男を見下ろしている。

 

「その身体能力と受け流しの技術は、魔法使いではないな――かといって私が知る人外の異能の類にも見えない。

並行世界の魔法戦士か。それもひとかどの『英雄』とお見受けした」

 

『英雄』という言葉に、男は顔をしかめたように見えた。

 

「いや、そう呼ぶ者もいるが、今の俺にそう名乗る資格はない。我が名はグレイグ、今はただの『盾』でしかない者だ」

「そうか、ではこちらも名乗らねばなるまい。我が名はパム……貴殿にとっては異なる世界からきた『魔法少女』。そして『魔王』とも呼ばれる者だ」

「魔王だと……!?」

 

その名乗りを聞いて、男もまた驚愕をあらわにする。

 

「なぜ『魔王』を名乗る者までが拉致されている! ここにいる者を皆殺しにするつもりか!」

「先刻まではな。いや、今もそのつもりだが、興が冷めた。

最低限の自衛する力も持たぬ者など、この手をじかにくだすのもつまらん」

 

夏凜に視線を落として、そう冷たく言い捨てた。

 

「確かに私はこの遊戯に興じるつもりだが……自ら動き殺して回るのは、遊戯も仕舞いに近づいてからだ。

弱者が淘汰され、強者ばかりが残る頃合いになれば私を楽しませる者も見つかるだろう」

 

そう言って、羽根を四枚とも近くに寄せながらくるりと背を向ける。

 

「それを聞いて、貴様を見逃すとでも思ったのか!」

「よせ。また戦いを仕掛けたところで貴様らにも益はない。

そんなことをするぐらいなら、そこの『東西無双の勇者』がまた突出しないよう面倒でもみてやるがいい」

 

それきり言葉はなく、魔王はさっと身を翻し飛び去っていった。

 

危機が去ると、夏凜の胸にはくやしさだけが残る。

何もできなかった。

皆殺しを謳う『魔王』を相手にあからさまに手を抜かれながらも一撃与えることさえできず、その未熟さを嘲弄されただけだった。

こちらも『満開』という切り札を使わなかったことは、言い訳にならない。

新しい勇者システムでは、精霊ガードを使うことで満開ができなくなってしまうの、だ、か、ら――

 

(――あれ。ゲージが減って、ない……?)

 

改めて左肩の花びらを見下ろして、気付いた。

てっきり衝撃派で落下して地面に落ちた時に発動したと思ったのだが、花びらはすべてゲージが染まっている。

それに、精霊を差し引いてもそれなりに頑丈な『勇者』とはいえ、地面に叩きつけられたら相応の痛みが残るはずだと思ったのに――特に痛みも残さず、それどころか精霊がバリアを張った様子もなく、こうしてなんともなく立ち上がれている。

 

もしかすると、重篤に傷つけぬよう手加減されていたのか。

その可能性を、まさかね、と打ち消す。

 

ともあれ、命の恩人には深々と礼をしなければならない。

 

「その……ありがとう、ございます」

「いや、礼はいい。それより『勇者』……と言ったか」

 

男の方もまた、困惑が抜けきらぬ顔をしていた。

もっともそれは、あの魔王の脅威にあてられたせいばかりというわけでもない。

 

「『大樹の勇者』とは、一人ではなかったのか?」

「は?」

 

どうやらお互いの間には。

けっこうな常識の齟齬があるらしいのだから。

 

【F-8/線路近くの砂浜 一日目・深夜】

 

【三好夏凜@結城友奈は勇者である】

[状態]:まだ耳が少し痛い

[装備]:勇者装束(変身中、満開ゲージ満タン)、義輝(消えたり姿を見せたり)

[道具]:基本支給品一色、スマホ(支給品として勇者システムのアプリ入り@結城友奈は勇者である)、不明支給品2つ(本人確認済み)

[首輪解除条件]:不明

[状態・思考]

基本方針:勇者部の皆と合流して殺し合いから脱出。友奈に、謝る。

1:『大樹の勇者』……『神樹様の勇者』のこと?

2:魔王パムは絶対に止める。次に会うまでに強くならなければ

3:勇者部の皆と合流。特に友奈は絶対に守らなきゃ

[備考]

参戦時期は勇者の章4話終了後です

 

 

【グレイグ@ドラゴンクエスト11】

[状態]:健康

[服装]:デルカダールの鎧姿

[装備]:竜の盾@魔法少女育成計画

[道具]:基本支給品一色、スマホ、不明支給品2つ(本人確認済み)

[首輪解除条件]:不明

[思考]

基本:戦えない者を保護しつつ殺し合いを打破する

1:魔王パムは放置できない。再会すれば必ず倒す

2:目の前の少女から詳しい話を聞く

3:とにかく誰かこの妙な箱(※スマホ)を扱える参加者を探して読んでもらう

[備考]

※スマホの使い方が分からなかったため、まだ参加者名簿をはじめ一切を確認できていません

※参戦時期は少なくとも最後の砦編終了後からです

 

 

 

◇魔王パム

 

 

ともあれ、首輪の条件を遵守した範囲内で、あの少女に対してできる手は尽くすことができた。

 

まず、人探しに夢中になって、自身が襲撃されるリスクに考えが及んでいないようだったので、その無警戒な態度を改めろという警告。

また、魔法少女同士での戦闘経験に乏しいようだったので、体術を使わずに魔法を主に使用した戦い方で、そこそこ一方的に叩きのめして悔しさを慎重さを与えようとした.

もちろん、大きな怪我を負わせぬよう加減はしている。

『憎悪(マステマ)』もその後の矢じりも、防がれなければ寸止めして最後の『興が冷めた』というやり取りにつなげる予定だったし、『至言(ロゴス)』によって地面に落とした時も、先に地面に刺さっていた方の羽根を、砂地と同化させたクッション代わりにしてこっそり受け止めさせていた。

 

また、一人きりなのに熱くないやすくすぐ突っ込んでくる危なっかしさは、年長の魔法戦士に面倒を見てもらえることで多少なりとも改善されると期待していいだろう。

ついでに、名乗るなら『三好夏凜』とか明らかに本名くさい名前ではなく魔法少女名を名乗れとも説教するところだったが、こちらについては『仮に名簿に三好夏凜という名前で載っているとしたら、むしろ本名を名乗った方が適切であり、彼女を責めるのはお門ちがいだ』と思い直してやめた。

 

本来ならば魔王自らが懇切丁寧に説諭をしていたところだったのに、と忌々しく手元のスマホを見やる。

 

『残り生存者が15人を切るまで、真実がどうあれ『殺し合いをするつもりはない』という発言、意思表示を一切行ってはならない。

逆に、他のプレイヤーから己の立場を問われた時には『ゲームに興じるつもりだ』という旨の答えをしなければならない。

以上の条件を満たせなかった場合、首輪は強制的に爆発する』

 

魔王塾、塾長。

世界最強の魔法少女。

 

そんな魔王パムにも、ひとつだけ致命的な弱点がある。

機械類の取り扱いには、めっぽう弱いのだ。

だからこそ、おっかなびっくりと支給されたスマートフォンを手に取り、ひとつだけあるボタンをこわごわと押し――そして、その条件が呼び出された時は、ファヴも嫌な気の利かせ方をすると歯噛みした。

 

電脳妖精ファヴ。

魔王塾の卒業生『森の音楽家クラムベリー』の相棒にして、クラムベリーが開催していた殺し合いの共犯者。

そして付き合いの古いクラムベリーは魔王が機械の扱いに弱いことを知っている。

であるならば、ファヴがクラムベリーからそのことを聞いており、魔王パムがスマートフォンを扱えないことを見越してボタン一つ押せば条件だけは表示される状態で支給していてもおかしくはないだろう。

 

 

おかげで、首輪解除条件のこと以外はいまだに知ることはできなかったが、理解できたこともある。

 

例えば、最初に集められた場所で声をあげた魔法少女の名前が、スノーホワイトと言ったことだ。

クラムベリーが最後に担当した候補生にして、クラムベリーの一大犯罪を通報した者……思うところが全くないと言えば嘘にはなる。

しかし、彼女が言いなった言葉には感謝していた。

 

無関係の人々までもを殺し合いに巻き込むつもりか、という弾劾。

 

元より、魔王パムは平和主義者でも正義漢でもない。

強者がいるとなればそれが善人だろうと悪人だろうと喜びを覚える戦闘狂で、

魔法の国からの命令には唯々諾々と従う体制順応主義で、

『一歩を間違えれば自分もクラムベリーのような事をしていたかもしれない』と危惧するぐらいには背徳的で、

あれだけの非道を働いたクラムベリーをどうしても憎みきれぐらいには頭がおかしい魔法少女だ。

 

だが、己が愉しむために人様に迷惑をかけるなど、まして殺しあいを強制するなど言語道断でしかない。

 

これを守る限り、魔王パムは災厄の邪神ではなく『魔王』として生きていける。

いたずらに人を傷つける災害ではなく、喜怒哀楽する心を残したまま、ただの『脅威そのもの』として存在し続けることができる。

スノーホワイトの言う通りに、戦いを望まないような者が多数巻き込まれているのだとすれば、保護するのも、殺し合いを停止させるのも、魔法少女として当然のことだ。

 

しかし、停止させようにも条件が邪魔をする。

 

もちろん、他の手段で――というか主に魔法であるところの羽根の変化を利用して――首輪を解除できないかどうか、試せる手はすべて試しつくした。

その上で、不可能という結論が出たのだ。

仮に条件を破らず首を爆破されないよう立ち回るなら、という前提で考えるしかない。

 

『ゲームに興じるつもりだ』という旨の答えをしなければならない、ということは実際に殺し合いゲームに乗ってみせなければならないのだろうか。

……否、さすがにそこまでする必要はないだろう。

 

条件文の中に『真実はどうあれ』という言葉が含まれている――『たとえ真実では殺し合いをしていなくとも』という含みを持たせているからには、少しぐらい反抗的な行動を示そうとも、それだけで首輪を爆破されるということはないはずだ。

それに、ファヴとクラムベリーが以前に開催していた殺し合いは、曲がりなりにも、なるべく『自分たちの意思で殺し合いに向かわざるをえない』ような方向で追い詰める措置が取られていたとも聞いている。

少なくとも、『出会った者を必ず殺せ』だとか『殺し合いに反対するような行動の一切を行うな』といった極端な内容の条件が課されることは、おそらくない。

自分がしなければならないのは、あくまで『殺し合いをします』という言動だけだ。実際に誰かを殺さなくとも首輪を爆破まではされない。

 

では、例えばスマホを提示して、首輪解除条件のことを理解してもらうと言った手段を取る……これはおそらく失格となるだろう。

『私はこういう条件を課せられているから物騒な発言をしているに過ぎない』と明らかにすること自体が、『殺し合いをするつもりはないという意思表示』に他ならないのだから。

 

では、避けねばならない展開とは何か。

それは、殺し合いに巻き込まれて怯えているだけの弱者に要らぬ混乱を与えて、『殺し合いに興じない』側の人々を混乱させることだ

この犯罪には、魔法の国とは関係のない一般人が多数巻き込まれている可能性が高い。

少なくとも、精一杯友好的に近づいて、相手の信用を得られたかという空気になってから、しかしある時を境に「あなたはどうするつもりなんですか?」と質問を受けてしまい『実は殺し合いに興じるつもりなんです』という爆弾発言をかまし、集団の空気はあっという間に一触即発に……というパターンは、絶対に無しだ。

 

ならば、と発想を逆転させる。

こそこそとスタンスを隠すようなふるまいは、かえって悪手だ。

ならばいっそ、ノリノリで殺し合いをする『悪役』だと公言し、他の参加者を遠ざけよう。

 

魔法少女の中には、ロールプレイをたしなむ者がいる。

ロールプレイと言っても、テレビの前でコードにつながった端末のボタンをガチャガチャ押して遊ぶ類のゲームではない。

『双子星キューティーアルタイル』だとか『戦場に舞う青い煌めき、ラピス・ラズリーヌ』だとか、二つ名を名乗り(前者についてはパムが名付けたのだが)、決めポーズを考え、中にはアニメのように芝居がかった口調を固定したり決め台詞を設定する者もいる。

実際にそうそう本物の戦場で舞ったことがあるかどうかはどちらかと言えば二の次で、己に『設定』を付け加えることで、遊び心と誇りを満たし、自己暗示による気力充填ができるという効用が大きい。

そして案外、魔法少女は強い思い込みによって強くなりやすい。

 

魔王パムの『魔王』というキャラクター作りも、その亜種のようなものだ。

断じてただの趣味であんなアニメやゲームのような言動をしているわけではない……とは否定しきれないが、この状況下において、『魔王』というキャラクターは『私は人知を超えた存在であり、考えなしに喧嘩を売っても痛い目に遭うだけだぞ』とアピールする上ではやりやすい。

それに、いくら口で『殺し合いする気満々だ』と発言しようとも、実際のところ誰も殺さずに場をおさめてばかりいては『こいつはいったい何がしたいのだろう』と不審がられる可能性も高い。そうすれば、運営に『こいつは殺し合いゲームに乗っていないとばらす気ではないか』と眼をつけられる可能性もある。

その点、『魔王』というロールプレイならば『お前たちが互いを淘汰しあうのを待っているから殺さないだけだ』という風に、そういう『悪役』のキャラクターなのだろうと他の参加者に納得をさせることができるし、『今はまだ積極的に殺しにいかないから戦わない』という言い訳もできる。

 

なんせ、魔王パムは機械類にはめっぽう弱い。羽根を使って首輪を解決することができないとなれば、『他参加者の首輪を殺し合う以外の手段で解除しつつ、運営の拠点を見つけ出して潰す』という本来あり得るだろうゲームへの反抗手段に貢献できることはほとんど無いだろう。

であるならば、他の参加者と行動をともにして首輪や運営の打倒に協力するよりも、『殺し合いに乗って言ると公言する立場の人間』にしかできない方法で――殺し合いに乗っている者と接触してあれこれ聞き出すとか――運営を打倒するための貢献をした方がいい。

 

このスタンスは何だろう。殺し合いしないことを隠している者。そうステルス対主催ともいうべきだろうか。

いや、スタンス『魔王』とかの方がかっこいいかも。

 

無論、ハイリスクに過ぎる行動であることは否定できない。

慢心が危険だということを魔王パムは知っている。『最強の魔法少女たる魔王を殺せる参加者などこの会場にはいないだろう』などと高を括ることは、どうしてもできなかった。

事実として、森の音楽家クラムベリーを仕留めたのは魔法少女になって数か月そこそこ、おそらく本格的な戦闘経験さえ無いなりたて魔法少女だったと聞く。

大多数の参加者を敵に回すような真似をすれば、魔王パムの命は確実に危ういことになるだろう。

 

また、仮に首輪が解除されるか、運営への対抗策が見つかるまで生き延びることができたとしてもだ。

『実はこういうことだったんですよ』と説明したところで、『殺しあいに興じるつもりだと公言して回っていた』という事実がある以上、その時点で他の参加者から疑惑の目で見られることは避けられなくなっているだろう。

最悪、『首輪をつけられていたから仕方なかったというのは建前で、本当は殺し合いを楽しんでいたんじゃないのか』と誤解されたまま事件が終幕することにもなるかもしれない。

仮に事件が解決して、魔法の国にも事実関係が明るみになった場合に、門下生たちが『クラムベリーの子どもたち』ならぬ『殺人塾長の子どもたち』だとか風評被害を被るかもしれない。

そう思うと胸が痛む。

 

しかし、我が身可愛さで泣き寝入りしてしまうのが最善の答えだとは、どうしても思えない。

 

自分のやっている仕事にはさして大義などなく、上の立場の者が政争をするための道具でしかないとはっきり悟ったのはいつのことだったか。

それでも『考えることを止めて従う』スタンスをとってきたのは、戦いに狂っている自分よりはまともな頭の為政者がいれば、『魔王パム』という兵器をマシに使ってくれるはずだと期待したからだ。

今ここには、自分よりもよっぽど狂っている悪党がいて、『魔王パム』という兵器を殺し合いに利用しようとしている。

それなのに、我が身可愛さでその思惑に乗ってやるのが自分の良心なのか。最強の魔法少女だと胸を張れるのか。

それは違う。

そんなものは、断じて強者の在り方ではない。

 

魔法少女としての名前に、二文字の二つ名をくっつけるようになった時から彼女は畏怖されるべき存在であろうとしてきた。

その肩書からは、役割(ロール)からは逃げられないし、捨てるわけにいかない。

また、逃げるつもりもない。

 

魔法少女でなくとも、皆が知っている。

 

『大魔王からは、逃げられない』ということを。

 

【F-7/砂浜寄りの海上 一日目・深夜】

 

 

【魔王パム@魔法少女育成計画】

[状態]:健康、飛行中

[服装]:魔法少女コスチューム

[装備]:羽根四枚(一枚は飛行に使用、三枚は待機中)

[道具]:基本支給品一色、スマホ、不明支給品三つ(本人確認済み)

[首輪解除条件]:残り生存者が15人を切るまで、真実がどうあれ『殺し合いをするつもりはない』という発言、意思表示を一切行ってはならない。

逆に、他のプレイヤーから己の立場を問われた時には『ゲームに興じるつもりだ』と答えなければならない。

以上の条件を満たせなかった場合、首輪は強制的に爆発する。

[思考]

基本:『魔王』の役割を演じ、殺し合いに乗っている振りをしながら対運営派を有利にする行動をとる

0:地図が読めない以上地形が分からないし、まずはこの島の全周を回ってみようかな…。

1:危険人物は潰す。

2:弱者を保護しようとする殺し合い否定派には渇を入れ、間違っているところがあれば教導する(強い者だけが生き残るまでは手をくださないという振りをしながら、殺さないようあしらう)

3:弱者がいれば強者に保護してもらえるような位置までわざと誘導するなど、対運営派が有利になるよう行動する

4:どうにかしてスマホに書かれている情報を見たい。気は進まないが他の参加者を脅しつけてスマホを読ませるしかないか…

[備考]

※三好夏凜のことを『東西無双の勇者』という二つ名をもつ魔法少女だと思っています。

※『かかってきた電話に出られない』レベルの機械オンチです。首輪解除条件以外の一切の機能(参加者名簿や地図など)を確認できていません。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。