バトル・ロワイアル The Rebellious Memory 作:原罪
「おうおう。こいつは、また派手に散らかしてくれてるねぇ」
ここはG-2森エリア。
眼前に広がる凄惨な光景にカラミティ・メアリは呆れた様子でポツリと感想を漏らした。
先ほどの二人組との交戦後、カラミティ・メアリは電車を利用して、より多くの獲物が集まるであろう別の島へ移動することを行動方針として定めた。
しかし、駅構内に立ち入れど線路上に電車の姿はなく、隅っこに掲げられている時刻表を覗き込めば、まだ電車の発車予定時刻にはだいぶ余裕があるようだ。
さてどうしたものか、とカラミティ・メアリは逡巡の末駅周辺をぶらつくことにした。
先の馬鹿女とその金魚の糞のような付き添いにはだいぶ苛立ちを覚えた手前、憂さ晴らしできるような獲物がいないか捜し求めていたのである。
あわよくば先程の二人組を見つけ出せれば願ったりかなったりではあったが、あの逃げ足から察するにはるか遠方に達していることだろうか。
(次に出逢うことがあれば、蜂の巣にしてやるよ)
未だ連中への怒りが収まらないまま、ぶらりと歩くこと数刻――カラミティ・メアリはその場所へと到達し今へ至る。
果たして其処でメアリは他の参加者の姿を確認した。
いやこの場合、「参加者」ではなく「参加者だったもの」という表現が正しいかもしれない。
周囲には薙ぎ倒された樹木と葉が舞い散っており、あちらこちらに血液が撒き散らかされている。
参加者の身体の一部であろう四肢やピンク色の臓物が無造作に放置され、赤黒い血の池の上に全てのパーツを束ねる胴体が夜風に晒されていた。
着込んでいる服装や胸の膨らみから犠牲となったのは女性のようではあるが、どういう訳か頭部が見当たらない。
このおぞましい現場から察するに、つい先程までこの地で血みどろの闘争が行われていたことが伺える。
カラミティ・メアリは顔色一つ変えずに赤黒い水溜りの上へと前進する。
びちゃびちゃと紅色の液体が純黒のブーツを汚していくが特に気にする素振りはみせない。
カラミティ・メアリは思う。
この女性は、生前に万物万象あらゆるものに喜びを感じ、涙を流し、怒りを覚えていたことだろう。
だがそんなーー
愛とーー
感動とーー
悲哀とーー
絶望とーー
希望といったーー
ありとあらゆるものを濃縮した一つの物語がーー
今となっては無価値な肉塊へと成り下がっている。
カラミティ・メアリは無惨に飛び散っている犠牲者に、憐れみや悼みを感じることはない。
代わりに侮蔑の眼差しを投げかける。
こいつは敗者――
ここで転がっているのは、言うなればただの屑肉だーー
まるで道端に堕ちている空き缶のように、放置されている亡骸の脇腹へと蹴りを入れ込んで、これを横転させーー切断面をじっくりと観察する。
(骨ごと綺麗に持ってかれているねぇ、こいつは刃物の類か)
既に物言わなくなった屑肉のことなどどうでもよいーー今興味があるのは、この死骸を仕立て上げた下手人のほうだ。
(得物から考えると殺ったのはあの二人組ではなさそうだね、おやーー)
と、ここでふと気付いた。
血溜まりの傍らに見慣れた小袋があるではないか。
それは、カラミティ・メアリ自身も保持しているーーゲームの参加者であれば誰しもが所持しているはずの支給品袋であった。
まさかと思い、袋の中に手を入れこんでみてみると、冷たい鉛の感触が伝わった。
「ふふふふっ…アハハハハハッ!!!どうやら、あたしにもツキが回ってきたようだねぇ!」
袋から取り出した新たな得物を目に留め、カラミティ・メアリは口角を吊り上げた。
よもや、こんなところでこのような上物が手に入るとは思いもしなかった。
驚くことにこれを殺った人物は間抜けにもこいつの支給品を奪うことなく、この場から立ち去ったらしい。
死体の近くには更にスマートフォンと首輪も放置されていたので、念のためこれも回収しておいた。
今後例えば、首輪やスマートフォンの収集がクリア条件となるような参加者と遭遇した場合は、交渉のカードとして利用できると踏んだからだ。
「さてと…そろそろ戻るかねぇ」
成果は十分――
特に当てもなく始めた探索ではあったが、最後の最後に思いもよらぬ収穫を得ることが出来た。
上機嫌となったカラミティ・メアリは踵を返し、真っ直ぐに駅への帰路へと向かった。
方針は変わらないーー
電車を利用し人がより多く集まるであろう場所へと移動するつもりであった。
◇
「ああ、愛する人はどこでしょう?」
ころしあいの場にまねかれても、カーシャちゃんは愛する人をさがすために、歩き続けました。
森の中でカーシャちゃんは、ルーエンハイドさんという女の人に出会いました。
でも、ルーエンハイドさんは愛する人ではありません。
だから、カーシャちゃんはルーエンハイドさんをきりころしました。
ルーエンハイドさんをころした後、カーシャちゃんは駅へと歩いていきました。
電車をつかえばもっと人があつまるところへ行けるかと思ったからです。
「ああ、愛する人はどこでしょう?」
カーシャちゃんは電車のざせきに座って発車を待っています。
すると、そこに女の人が乗りこんできました。
さきほどのルーエンハイドさんとは、別の人で、すこしこわい感じがします。
「ごきげんよう」
カーシャちゃんは天使のような笑顔で女の人をむかえ入れました。
◇
――こいつか
血の紅で装飾された全身。
狂気を宿した瞳。
鼻をつく死の匂い。
カラミティ・メアリは車両奥でちょこんと座るこの少女が、自分と同類――つまりは他人を害することに一切躊躇しない
と同時に、先の殺しの実行犯であると悟る。
どうやらカラミティ・メアリが駅周辺を彷徨っている間に入れ違えとなり、巡りに巡ってこんな場所で鉢合わせすることになったようだ。
「よお、嬢ちゃん。 調子はどうだい?」
眼を見開き血に塗れた満面の笑みを浮かべる隻眼の少女に対し、カラミティ・メアリもまた頬を綻ばせた。
「気分はあまり良くありませんわね。 何しろ無理くりにこんな遊戯に参加させられたのですからね」
「ハンッ、違いないねぇ」
殺し合いの真っ最中であるにもかかわらず、実に和やかな挨拶が交わされている。
駅構内に列車の出発を知らせるベルが鳴り響く中、まるで同僚と世間話をするかのように相対する。
「申し遅れました、私は蓼宮カーシャと申します。どうぞカーシャとお呼びください」
ベルが鳴りやむと、二両編成の小さな電車はその戸を閉じた。
カーシャは相も変わらずニコニコと笑顔を崩さず、座席から立ち上がる。
その眼は変わらず大きく開かれておりカラミティ・メアリの姿を捉えている。
カーシャが座っていた座席にはべっとりと血痕が付着しているのを、メアリは冷ややかな目つきで見据えていた。
「宜しければ貴方様のお名前を伺っても宜しいでしょうか?」
「カラミティ・メアリだ……」
「カラミティ、メアリ……。うふふ素敵なお名前ですね。メアリ様とお呼びしても?」
「――呼び方なんてどうでもいいさ、好きにしな」
「うふふ、それでは宜しくお願いしますね、メアリ様」
いよいよもって電車は走り出すーー二人が立っている車両の床が振動し始めるとともに、窓の外の景色が小さく動き始める。
無駄に馴れ馴れしいカーシャの態度に気分を害したのか、カラミティ・メアリの表情からいつの間にか笑顔は消えていた。
表情は余裕を残しているが、その眼光は鋭く剣呑なものとなっていた。
カーシャはそんなメアリの変化に気付いているのか気付いていないのか分からない。
それでも調子は変わらず、口角は吊り上がったままである。
「それで私、メアリ様にお尋ねしたいことがあるのですがーー」
「奇遇だね、あたしもカーシャの嬢ちゃんに聞きたいことがあるんだよ」
「まぁそれは奇遇ですわね、それではまずはメアリ様のご用件から伺いましょうか」
電車が駅を抜けた。
夜の平原の上に轢かれた線路を滑走していく。
がたんごとんと車両は揺れに揺れている。
「『妖魔』もしくは『半妖』――この二つについて何か知っていることはないかい?」
「ようま……? はん、よう……? 申し訳ございません、どちらも聞き覚えはありませんわね」
本当に聞き慣れない単語だったのだろうか、メアリから投げかけられた質問の内容に一瞬キョトンとした表情を浮かべたカーシャは申し訳なさそうにこれに応える。
そんなカーシャの様子をメアリは冷たい眼差しで観察した。
「――そうかい」
そして最後にやれやれ、といったわざとらしい表情を浮かべ項垂れた。
如何にも期待していたのに当てが外れましたよ、といった反応だ。
「それでは次は私からの質問ですわね。メアリさんはーー」
「じゃあ死にな」
瞬間。
バンっと乾いた音が車内に鳴り響き、カーシャの声は遮られた。
カラミティ・メアリの右手には、黒く光る拳銃が携えられており、その先端から硝煙が漂っている
一瞬の出来事だった。
もうお前に用は無いと、訊きたいことだけ訊いたメアリは、ホルスターから拳銃を抜き取り、カーシャの眉間目掛けて撃ち抜いたのであった。
撃ち抜くまでの一連の動作に要した時間はゼロコンマ数秒――まさに西部劇に登場するガンマンの早撃ちそのものだった。
だがメアリの表情は晴れない。
「うふふふ」
それもそのはずーー
本来であれば頭部が西瓜のように爆ぜていたであろうカーシャは尚も健在で、身体を大きく仰け反らせたまま不気味な笑い声を漏らしていた。
弾丸が発せられたその瞬間、カーシャも咄嗟に半身を仰け反らしてこれを回避していたのだ。
並みの人間では到底出来ない芸当ではあるが、常日頃の姉妹との殺し合いで培われた経験値と装備されているほしふる腕輪がこれを可能にしていた。
「うふふふふふふ……随分と意地悪なことをされますのね、メアリ様は」
カーシャは上半身を起こしメアリへと向き直る。
瞳孔はより一層開かれたものとなっており、瞬きすることなくメアリの姿を捉えている。
口角もさらに吊り上げられており、剥き出しの白い歯が全身の赤黒い血とコントラストを演出している。
見るものをゾッとさせるような形相ではあったが、カラミティ・メアリは特に動じる様子もなくーー紅い天使の胸元を目掛けて、弾丸を連射する。
「あはははははははは、いけません! いけませんわ、メアリ様!!!」
カーシャは目にも止まらぬ速さで真横の座席に飛び乗り、迫りくる弾丸を躱す。
間髪入れず回避先においてもメアリの早撃ちが襲い掛かるが、即座に回避――斜め左に位置する座席目掛けて宙を舞い、メアリとの距離を縮める。
メアリの拳銃は休むことなく火を噴き続けるが、カーシャは電光石火の如く回避していき、徐々にメアリの元へと接近していく。
それでも狭すぎる車両の中で、間をおかず放たれるメアリの銃撃を全て躱しきることは、カーシャといえども難しかったようでーー致命傷とはいかずとも右肩口と左太ももの一部が爆ぜていた。
だがそれでもカーシャは痛みに怯む様子もーー気にする素振りも見せることなく、甲高い笑い声を上げながら進撃を続ける。
「せっかく痛くならないよう、一瞬で首を斬り落として差し上げようと思っていたのにぃ! 人の懇意は無碍にするものではございませんわ!」
「チッ」
早口で捲し立てるカーシャに舌打ちをしたメアリは、右手で拳銃を構えたまま、武器の切り替えのため腰にぶら下げている支給品袋に左手を突っ込む。
銃の照準は依然カーシャへと捉えてはいたが、必然的に発生する支給品袋への意識の転化――ほんの僅かな隙。
それを見逃すほど、蓼宮カーシャは生易しい相手ではなかった。
「メアリ様」
「っ!?」
瞬間、カーシャはメアリの元へと肉薄した。
「つかまえた♡」
カラミティ・メアリの視界いっぱいに血に塗れたカーシャの顔が映りこむ。
人の形をした「死」を目前にし、然しものメアリの表情も焦燥したものへと変貌する。
そんなメアリの反応が愉快だったのか、きゃははは、と一際甲高い声をあげーー紅の死神はメアリのか細い首筋へと刀を振るった。
「――いや」
だが。
狂気に満ちた刃は、メアリの首に到達することはなかった。
「殺られるのはあんたの方だよ、お嬢ちゃん」
「―ー!?」
刃の斬撃はカラミティ・メアリが持つ拳銃に阻まれていた。
「ハハッ、ようやくーー」
如何に「何でも切れる刀」と謳われる凶器といえどもーー
如何に終末の世界で、化け物どもの命を刈り取ってきた凶器といえどもーー
カラミティ・メアリの魔法によって強化された拳銃を両断することは叶わなかった。
「つかまえたぁっ!!!」
「っ!?」
まるでこれからご馳走にありつくかのように、メアリは嬉々として舌なめずりをする。
先程までの愉悦のものからカーシャの顔色を変えさせたのは、メアリのもう片方の手に握られたサブマシンガンーー通称Vz 61の存在であった。
またの名称を「スコーピオン」という。
ルーエンハイド・アリアロドの支給品袋から回収された近代兵器は、ガラ空きとなったカーシャの脇腹を狙いーー
「あばよ」
直後、銃弾の暴風が真夜中の車内に吹き荒れた。
◇
「チッ、逃げやがったか」
サブマシンガンによって蹂躙された車両の中――カラミティ・メアリは粉々に砕けた窓からから身を乗り出し、外の様子を窺う。
メアリを乗せた電車は海上に敷かれた鉄橋を渡っているようで、潮の香が漂っている
心地の良い潮風がメアリの美しい髪を揺らしているが、メアリの表情が晴れることはない。
あの瞬間――
サブマシンガンを突付けられていたカーシャは信じられない反応速度で側転を行い、銃弾の嵐を躱しーー勢い殺さず窓ガラスを突き破り、脱兎のごとく逃げ去ったのであった。
逃げた先にあるのは海――
恐らく今頃は、冷たい海の中を彷徨っていることだろう。
「本当に忌々しい嬢ちゃんだ……」
追撃しようとする欲求をどうにか自制し、カラミティ・メアリは煮えたぎらないまま、もはや原形をとどめていない座席の上にどっさりともたれかかる。
最初に出会った二人組といい、カーシャといい、この会場で遭遇する人間は悉くメアリを苛立たせる。
――絶対に殺す
だが、焦る必要はない。
今は束の間の休息が必要だ。
連中への怒りを胸にしまいこみ、カラミティ・メアリはそっと目を閉じる。
いくら無法者の魔法少女ともいえども、強敵との連戦は流石に身体に堪えたのであった。
【E-2/電車内/一日目 黎明】
【カラミティ・メアリ@魔法少女育成計画】
[状態]右脇腹を打撲、ダメージ(中)、カーシャへの怒り
[服装]いつものガンマン服
[装備] ニューナンブM60@現実、Vz 61@リベリオンズ
[道具] 基本支給品一色、スマホ、ルーエンハイドのスマホ、コンバットナイフ@現実、不明支給品×1
[首輪解除条件] 妖魔もしくは半妖を2名以上殺害する
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを勝ち抜く
1:次の駅でいったん降りて獲物を探す。それまでは休憩。
2:首輪解除のため、妖魔もしくは半妖を探し出して殺す
3:手にいれた首輪とスマートフォンを交渉材料に他の参加者を上手く利用する。
4:あの2人組(渡瀬、ミレイ)とリップルとカーシャは見つけ次第、殺す
※参戦時期はリップルをホテルプリーステスに呼び寄せたあたりからとなります。
※ルーエンハイドの支給品、スマホ、首輪を回収しました。
◇
星々が煌めく空に浮かぶ影が一つ。
背中に片翼を生やした蓼宮カーシャは、離島へ向け遠ざかる電車を見降ろしていた。
(メアリ様と戯れたいのは山々ですが、あちらの得物は少々厄介ですわね。 例え分身体と一緒に戦い続けたとしても、こちらも無傷では済みませんわ)
電車内での戦闘で魔法を使わなかったのには理由がある。
確かに分身体を出現させると、こちらからの攻撃の手が倍増したり、戦略の幅が広がったりとメリットは生じる。
が、それと同時に物理的に身体を二つ持つということになり、相手の攻撃の被弾対象も倍増することになるのだ。
不幸なことに小憎たらしい分身体が傷つくと、そのダメージは自分にも反映されてしまう。
そういう意味で先程の戦闘における相手と場所は最悪の相性だったといえる。
ただでさえ、狭い車両の中で射撃の的が増えることになってしまうと、早撃ちを得意とする
女ガンマンに有利な状況を提供してしまうのであった。
「それにしてもーー」
カーシャは自身の左脚を一瞥する。
カラミティ・メアリとの戦闘で抉られた自身の箇所については、着物の一部を剥ぎ取って止血済みではあるが、傷口は尚も熱い。
「私としたことが、今宵は少々羽目を外しすぎましたわね」
カーシャにとっての最優先事項はあくまでも白秋だ。
それ以外の些事に、無駄に己が血肉
兎にも角にもまずは陸地へ移動し、白秋もしくは白秋につながる情報がないか探索を続けるとしよう。
「ああ、愛する人はどこにいるのでしょう?」
運命の人と信じる想い人を脳裏に浮かべながら、カーシャは翼を動かしゆらりゆらりと移動を始めた。
「紅いかいぶつ」の物語は尚も続く。
【E-2/上空/一日目 黎明】
【蓼宮カーシャ@追放選挙】
[状態]:魔法少女に変身中(分身出現中)、全身に打撲、背中に裂傷、左頬に裂傷、右肩に裂傷及び一部欠損(止血済み)、左太もも一部欠損(止血済み)
[服装]:いつもの格好(返り血により赤黒く染まっている)
[装備]:仕込み刀@追放選挙、ほしふる腕輪@ドラゴンクエストⅪ
[道具]:基本支給品一色、スマホ、マジカルフォン@魔法少女育成計画シリーズ、ラ・ピュセルの剣@魔法少女育成計画シリーズ、ルーエンハイドの頭部
[思考・行動]
基本方針:白秋様を見つけ出す、違う参加者と出会ったら殺害する。
1:白秋様を捜索する。
2:白秋様と最期まで愛し合う。
3:最期には白秋様を殺して自分も死ぬ。
4:メアリ様と再度出会うことがあれば、今度こそ殺してさしあげる