俺自身はあまり会話に参加していないが、3人の会話に適当に相槌を返している内に、結構な時間が過ぎていた。
「小町、そろそろ帰るか」
「えっ、もうそんな時間?じゃあ、凛さん、花陽さん。連絡先交換いいですか?」
「もちろんにゃ」
「わ、私のでよければ……」
スマホをポケットから取り出したところで、小町があっと声を上げた。
「あちゃー、電池切れちゃってる……」
「……お前、さっきまで普通に使ってなかったか?」
「今切れちゃったの。お兄ちゃん、代わりにお願いできる?」
「…………」
何やら胡散臭い臭いがプンプンするが、可愛い妹がそういうのなら仕方がない。
俺はスマホを取り出し、星空に差し出した。
彼女は、よくわからないものを見た猫みたいに首を傾げた。
「にゃ?……えっと、凛が登録すればいいの?」
「……ああ。悪いが頼む」
「ケータイあっさり渡す人、初めて見たにゃ」
「あはは……」
「お兄ちゃん……」
星空は苦笑いしながら、慣れた手つきで連絡先交換を終え、携帯を返してきた。
「はいっ」
「……おう、ありがとな」
「ふふっ、比企谷先輩って、なんだか面白いにゃ!」
「え?俺、なんかしたっけ?」
久々に女子と話したせいで、自然と顔芸とかしていたなら恥ずかしすぎる。
不安になり、つい顔に手を触れると、星空はにぱっと笑顔を向けてきた。
「じゃあ、小町ちゃんの連絡先、よろしくお願いします!」
「お、おう……」
俺は二人に小町の連絡先を送り、それから店を出た。
*******
「それでは、また後で連絡しまーす!」
「うん、またね!小町ちゃん、比企谷先輩!」
「帰り気をつけてくださいね」
「……おう」
わざわざ駅まで見送りに来てくれた二人は、春の陽射しのように穏やかで、にこやかな表情を見せている。
そよ風が頬を撫でていくのを感じながら、俺は笑顔を交わす三人をぼんやり眺めていた。
すると、その笑顔の一つがこちらを向いた。
「…………にゃ」
しかし、彼女は何かを言おうとしても何も浮かばないのか、特徴的な語尾だけ口にして、笑顔のまま固まる。
もちろん、俺のコミュニケーション能力では、気の利いた一言など思い浮かばない。
なので、別れの挨拶だけはしっかり交わすべく、口を開いた。
「……それじゃあ、また」
「……はいっ、またにゃ!」
さっきより、ぱあっと華やかな笑顔が向けられ、何ともむず痒い気持ちになる。
また……か。
とっさに付け加えた二文字がこれまでの自分らしくなく、苦笑しそうになる。
まあ、あれだ。せっかくの出会いだし、可愛い妹の友達だし、現実はいつだって稀有なものだって誰か言ってたし。
そんな言い訳を頭の中に散りばめながら、小町と共に、改札へ向かった。
*******
「にゃ~にゃ~にゃ~にゃ♪」
「凛ちゃん、ご機嫌だね」
「えっ、そうかにゃ?いつも通りだと思うにゃ」
かよちんの言葉に首を傾げると、かよちんはクスクス笑っていた。
「かよちん、どうかしたの?」
「何でもないよ、凛ちゃん。行こっか」
いつもと違うイタズラっぽい笑顔が凛にはよくわからなかった。