捻くれた少年と猫っぽい少女   作:ローリング・ビートル

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初電話

「ねえねえ、お兄ちゃん!ちょっと携帯貸して」

「は?いや、別にいいけど……」

「いや~、携帯の充電が切れちゃって……しかも、充電器も見つからないんだよね」

 

 あはは、と笑いながら小町は俺から携帯を引ったくる。まったく、このうっかりさんめ。だが可愛いから許す。

 

「てか俺の携帯なんて何に使うんだよ」

「お兄ちゃん?携帯は遠くにいるお友達とお話できるんだよ?知らないの?」

 

 そう言いながら、小町は優しい笑顔で携帯を耳に当てる。いや、知ってるからね?ただ、その機能をあまり使った記憶がないだけで……あれ、まったくない?

 小町はそんな俺の様子など気にもかけずに通話を始めていた。

 

「あっ、もしもし凛さん?はいはい、もちろん元気ですよ~!一応兄も」

 

 どうやら星空に電話をかけたかったらしい。つっても、共通の知人なんて、他にあてもないんだが……。

 小町が楽しそうに話しているのをBGMに読書に戻ると、もう話が終わったのか、携帯を差し出してきた。

 

「はいっ、お兄ちゃん♪」

「……おう」

 

 まだ通話が続いている状態だったので、さっさと切ろうとすると、無理矢理携帯を耳に押しつけられた。

 

「はっ?ちょっ、おま……!」

「にゃ?」

 

 星空のきょとんとした声が耳をくすぐり、少しだけ……ほんの少しだけ鼓動が跳ねる。何だこれ。いや、思春期男子なら、女子と電話で話す時に当たり前に起こりうる現象だろうな、多分……。

 

「もしかして、比企谷先輩?」

「あ、ああ……」

 

 反射的に返事をしてしまった。しかも、頭の中が真っ白になり、次の言葉が出てこなくてやばい。くっ、何気に女子と電話するの初めてな気がする……!

 てかそれどころじゃない。小町は一体……って、もういねえ……。

 

「あの、どうかしましたにゃ?」

 

 星空の気遣わしげな声に、ようやく頭の中が回転しだす。

 

「い、いや、何でもない。大丈夫だかりゃ……」

「…………」

 

 噛んだ……。

 どうしようもない残念の気分がわき上がってくるのを感じていると、携帯からくすくすと笑い声が漏れた。

 

「ふふっ、先輩噛んだにゃ~。あははっ」

「……お、おう」

 

 星空のやけに楽しそうな様子に、ついこちらも明るい気分になってしまう。

 とりあえず……楽しんでもらえたなら良しとするか。

 

「にゃ~、あ、あの……先輩は今日は何してたんですか?」

「ん?……ああ、まあ、その……家にいた」

 

 唐突に今日の出来事を聞かれ、また噛んでしまう。おい、いきなりそんな事聞かれたら、つい仲良いと勘違いしちゃうだろ。

 

「え~、一日中?せっかくの春休みなのにもったいないにゃ~!」

「いや、休みだからこそ色々やることがあるんだよ」

 

 休みの日こそ休むなよ、という素晴らしい名言を知らないのかよ。

 

「でも、さっき小町ちゃんは、先輩は毎日ゲームやアニメばかりって言ってたにゃ」

「……ほら、な?やることあるだろ」

「…………」

 

 何でだろう、電話越しにジト目を向けられている気がする。おかしい。何も疚しいところはないはずなのに。

 

「……あっ、そうだ!先輩、そんなに暇なら一緒に……あっ……あはは……」

「?」

 

 いきなり言葉を飲み込んだ星空に、つい首を傾げてしまう。おい、いきなりそんなリアクションされたら、何か粗相をしたのかと心配しちゃうだろうが。

 微かに漏れてくるやわらかな息の音に耳を澄ませていると、星空はさっきと同じテンションで話し始めた。

 

「よ、よーしっ!じゃあ今度集まって皆で運動するにゃあ!いいですよね、先輩?」

「お、おう」

 

 いきなりなテンションの上がり下がりに、普段会話をしないボッチらしく置いてけぼりを食らいながらも、何とか返事をする。

 ……べ、別に後輩女子から先輩って呼ばれるのが、くすぐったいとか、ちょっとだけテンション上がったとかじゃない。ただ、断るのが面倒くさかっただけだ。ほ、本当だよ?ハチマン、ウソ、ツカナイ。

 

「えっと……じゃあ後で小町ちゃんに連絡するからよろしくにゃ!お、おやすみなさ~い!」

「あ、ああ、じゃあ、な」

 

 ぷつりと通話が途切れ、綿あめのようにふわふわした沈黙が訪れる。

 ……なんか、最後はおかしなハイテンションだったな。

 

 *******

 

 にゃにゃっ!!

 男の人だってこと忘れて、普通に誘ってたよ!!

 せ、先輩、変な子だって思ったんじゃないかなぁ?

 ていうか、男の人と電話したのって、連絡網以外だと初めてかも……。

 

「凛?ちょっといい?」

「にゃあっ!」

「うわっ、あ、あんた一体どうしたのよ、びっくりしたぁ……」

 

 いきなり呼ばれて凛もびっくりしたけど、お母さんはもっとびっくりしたみたい……いけないいけない。気にしすぎにゃ……。

 

「あはは、どうしたの?お母さん」

「いや、あんたこそどうしたのよ?あ~、もしかして彼氏でもできた?」

「ち、違うよっ!そんなわけないじゃんっ」

 

 お母さんはニヤニヤ笑いながら、私の隣に座り、そっと頭を撫でてきた。

 

「別におかしなことじゃないでしょう?こんな素敵な女の子を周りの男の子が放っておくはずがないもの」

「そんな……り、凛は全然可愛くなんか……」

「はいはい、そんなこと言わないの。それじゃ、借りてたCDここ置いとくわね」

 

 お母さんは優しい笑顔を見せ、部屋を出た。

 ……お母さんはああ言ってくれるけど、凛は……髪もこんなに短いし、かよちんみたいに女の子らしくないし。

 ……ああもう!比企谷先輩は別にそういうつもりじゃないからそんなこと考えなくてもいいの!よしっ、はやく準備して寝よ! 

 

「にゃあ……中学時代のジャージじゃなくて……もうちょっと可愛いほうがいいかな」

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