時間を確認すると、いつの間にか昼になっていた。
「……じゃあ、そろそろ腹も減ったし……」
「まだ帰らないよ。小町がしっかりお弁当作ってきたから、ちゃんと食べてね」
「…………」
読まれてやがる。まあ、お弁当があるなら仕方ない。あとのことは小町の手作り弁当を食べてから考えればいいだろう。
「凛さんと花陽さんもどうぞ~♪」
「わぁ、小町ちゃんすごいにゃ~!」
「わ、私達もいいの?」
「当たり前じゃないですか~。将来のお義姉ちゃん候補……じゃなかった。お友達ですから」
「…………」
小町ちゃーん、お義姉ちゃん候補とかいうイミフな言葉が聞こえちゃってるよー。星空と小泉が少しだけキョトンとしちゃったよー。
*******
「はー、お腹いっぱいにゃー」
昼飯を食った星空は、ぐでんとシートの上に寝転がった。なんというか、見ているこっちが気持ちよくなるような食いっぷりだった。
「もう、凛ちゃん。食べた後すぐ寝転がったら牛になっちゃうよ?」
「凛は猫が好きだから大丈夫にゃ~」
なんだ、その理屈。それなら俺も太らなそうだな。
小町もそんな様子の星空を見て、楽しそうに笑っていた。
「あはは。凛さん、ウチのかーくんみたいですね」
「かーくん?」
「亀でも飼ってるんですか?」
「いや、亀じゃなくて猫だ。カマクラって名前の」
「にゃ!?」
猫という単語に反応して、星空が勢いよく起き上がった。
「小町ちゃんの家、猫飼ってるのぉ!?」
「は、はい……そうですけど……」
いきなり距離を詰められ、たじろいでいる小町の様子もお構い無しに、星空は目をキラキラさせていた。いや、これはギラギラと表現したほうがいいだろうか。これはまあ、アレだろうな。
「星空、もしかして猫好きなのか?」
「大好きにゃ!」
「お、おう……」
自分に対して言ってるわけじゃないのはわかってる。わかっているんだが……そんな真っ直ぐにこっちを見て『大好き』とか言われると、中学時代なら勘違いしていたところだ。
すると、小町が一瞬だけニヤリとしてから、無垢な笑顔で話を続けた。
「それなら、今度うちに遊びに来ませんか?かーくん人懐っこいから、幾らでも触れますよ~」
そうか?アイツ、人懐っこいか?俺に対しては不遜な態度を撮り続けていて、いつも複雑な気分になるんだが。まあ、見た目はそこそこ可愛いが。オスだけど。
すると、星空は何故か残念そうに笑い、小泉が「あの……」と口を開いた。
「凛ちゃん、実は猫アレルギーなんです。そんなにひどくはないんですけど…」
「「あー……」」
つい小町と同時に、何ともいえない声が漏れる。
星空は、心から残念そうにしゅんとしていた。
「にゃあ……あんなに可愛いのに、どうして凛は……ああ、モフモフしたいにゃあ……」
「「…………」」
小町と顔を見合わせ、どうしたものかと考えていると、解決策ではないが、ちょっとした事が思い浮かんだ。
「……カマクラの写真、送ろうか?」
「え?」
つい出てきた言葉に、自分でも驚いてしまう。いや、内容自体は大したことではなく、自分からそんな提案をした事に。
星空もきょとんとしていたが、次に口を開くよりはやく、小町がパァンと手を叩いた。
「それいいかも!お兄ちゃんにしてはナイスアイデア!」
「お、おう……」
お兄ちゃんにしては、の部分はいらないけどな。本当に。
すると、マイシスターはさらに何かに気づいたような顔をして、「やば、小町天才かも」とか呟いた。
……嫌な予感がしたのは気のせいだろうか。
「じゃあ、小町の携帯は今画像が送れないので、兄にしっかり毎日送らせますね!」
「………」
……そう来たか。
だが断られる!
さすがに星空も彼氏でもなく、友達とも言い難い男子から、毎晩メールが来るのは、あまり気分のいいものではないだろう。てか、気味悪がられるまである。
「よろしくお願いするにゃ~♪」
ほら…………は?
予想外すぎる星空のリアクションに、俺はまたキョトンとしてしまう。小学生時代なら可愛げがあったかもしれないが、今はただの阿呆に見えていることだろう。
こうして、俺は星空にカマクラの画像を送りつける役になってしまった。
*******
その日の晩……。
「あ、メール来たにゃ~♪」
ケータイの画面を確認すると、予想どおり比企谷さんからだった。
素早くメールを開き、添付されたファイルを開くと、可愛らしい猫の顔が画面に表示された。
「わぁ、可愛いにゃ~……あれ?そういえば、このメールって比企谷さんから……」
男の子とメールでやりとりするのは初めてだ。で、でも、ただのメールだよね!うん!
何故かはわからないけど、もう一度メールを見る前に、鏡で前髪を確認してしまった。