「あ、お兄ちゃん。今日凛さん達と出かけるから準備しといとね」
「…………は?」
いきなりすぎる発言に、ソファーに寝転がる俺は首を傾げていたが、既に俺の頭の近くには、小町セレクトの服が置かれていた。
どうやら俺が参加するのは決定事項らしい。こいつ、俺が暇だと見破るとは……あ、俺がボッチなの知ってるからか。
「つーか、何しに行くんだ?俺が行っても何もできないんだが」
「何言ってるの、お兄ちゃん。お兄ちゃんはいてくれるだけでいいんだよ」
「お、おお……」
朝から何感動させに来てんの、このマイシスター?嬉しすぎて、お兄ちゃん泣けてきちゃうんだけど。
「ほら、荷物持ちとか、ボディーガードとか、荷物持ちとか」
「…………」
だと思ったわ、このガキ……正直ボディーガード役としては微妙だと思うぞ。あと荷物持ち二回言ってる。
とはいえ、このままゴロゴロする気分にはなれないので、俺は出かける準備をするべく、体を起こした。
*******
「あ、来た!お~い!!」
「小町ちゃ~ん!!」
「こ、こんにちは……」
「…………」
駅から出てきた二人に会釈をすると、小町から何故か肩を小突かれた。いや、ここで俺が満面の笑みを浮かべても、かえって気まずくなるだけだろ。
すると、星空が俺の前に立ち、にぱっと爽やかな笑みを見せた。
「比企谷さん、おはようにゃ!」
「えっ、あ、ああ……おはよう」
朝の陽射しのように爽やかな笑顔を、こんな間近で向けられたら、こちらとしても何か言わなければいけない気がした……いや、まあ、大したことは言えないんだが……。
星空のぱっちり大きな目を、きらきらした瞳を、少しだけ見てから、俺は何とか口を開いた。
「……元気そうだな」
ぽつりと零れ落ちたその一言に、小町が「はあ……」と溜め息を吐く気配と、小泉が「あはは……」と何ともいえない感じで笑う気配がした。いや、何を期待してたんだよ。
そして、星空はというと……
「うんっ、凛はいつも元気だよっ!!」
眩しさが増した笑顔で、俺はすぐに目をそらした。
さりげなく頬をかくと、少しだけ普段より熱くなってる気がした。
*******
千葉駅付近の商業施設に入ってから、俺はさっそく疑問を口にした。
「そういや、今日は何の用事があったんだ?東京なら大概のものは揃うと思うんだが……」
「凛が言ったにゃ、千葉ってそういえばあまり行ったことがないなぁって。そしたら、小町ちゃんが案内してくれるって」
「……わ、私も、あまり来たことなくて……」
「そっか」
この二人は千葉初心者らしい。
さて、まずは千葉の何から教えればいいだろうか。
いきなり鋸山とかいっとくべきだろうか。いや、ここは……
「お兄ちゃん、一人で千葉愛炸裂させてないで、ちゃんと歩いて」
「お、おう……」
危ない。今のテンションで話してたら絶対ひかれるところだったー。普段教室であまり喋らない奴が、文化祭などのイベントでいきなりはしゃぎだして、クラスメートから冷めた眼差しを向けられる、みたいな。あれ、なんだろう、トラウマをほじくり返された気分なんだが……。
そんな中、人混みを縫うように歩いていると、いつの間にか星空が隣を歩いていた。
肩と肩が触れあいそうな距離で最大限の注意をしながら歩いていると、彼女はこちらに目を向けてきた。
「「っ!!」」
だが、思わぬ至近距離で目が合い、どちらも驚きに目を見開いてしまう。
このままだと何かがよろしくない気がしたので、俺は何とか視線を前方にやり、ぼそぼそと口を開いた。
「なんかやたら混んでんな」
「にゃあ……い、いつもこうなんですか?」
「混みそうな時はあんま来ないから正直何とも言えん」
「比企谷さんらしいにゃ。あ、あの……」
「?」
「今日はその……来てくれてありがとうにゃ」
「ど、どうした、急に改まって……」
いきなりお礼を言われ、つい狼狽えていると、星空はさっきとは違う控えめな笑顔を見せた。
「えっと、今日は凛がいきなり千葉に行きたいっていいだしたから……比企谷さんに迷惑かけたなって……」
「……ああ、まあ気にしなくていい。どうせそろそろ外に出ようかと思ってたところだ。……この前も割と楽しかったし」
俺の言葉に、星空は目をぱちくりさせた。心なしか頬に赤みが差している。
「にゃっ!?……じゃ、じゃあ、今日はいっぱい遊ぶにゃ~!!……あれ?」
「どした?」
「かよちんと小町ちゃん、どこにゃ?」
「は?…………あれ?」
星空と共に、辺りを見回したが、小町も小泉もいない。
隣に気を取られすぎていたか、今さら気づいた。
どうやらはぐれてしまったようだ。