幻想異空異変録   作:大和猫

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彼方からの旅人

「カアアァァビィィイ…!」

友の名を叫びながら、彼の闇は浄化されていく。

無限の力を持つといわれるマスタークラウンを手に入れ、宇宙の全てを支配しようとした彼の野望は無限の可能性を持つ桃色の勇者の手によって打ち砕かれた。

それと同時に、全ての元凶となったマスタークラウンは失われ、2度と同じことは起こらなくなった。

 

 

 

―――はずだった。

失われたモノが流れ着く幻想郷で、無限の力の脅威が迫る。

 

 

 

空色の船が、星々の瞬く空間を進んでいる。宇宙のように見えるが、周囲は不気味な青紫色の光で満たされている。

アナザーディメンション。世界と世界を繋ぐ、どの場所でもない空間。その中を、空色の船が音もなく進む。

「反応はこの先の世界から来てるネェ。ローア、異空間ロード起動。」

ローアと呼ばれた船は、エンブレムから光線を発射した。光線は少し進んだ後、空間に五芒星の形をした穴を開ける。穴の向こうには、幻想の郷があった。

 

 

 

「なんか…胸騒ぎがする。」

博麗神社の巫女、博麗霊夢は空を見上げ呟いた。いつもなら縁側でくつろいだり、境内の掃除をしている時間だが、今日はそうではなかった。

「何か、大きな異変が起こりそうな…」

霊夢の勘はよく当たる。そして、今回の勘も当たった。

突如、空が青紫色に輝き、五芒星の形をした穴が開いた。その穴から空色の帆船が現れ、ゆったりと空を飛んでいる。船体が穴から完全に出ると同時に、船の背後で静かに穴が閉じた。

「な、何あれ…どうやってここに?」

突如現れた空色の帆船。それだけでも霊夢は驚いたが、それ以上にある事実に驚いていた。

通常、幻想郷は『博麗大結界』と呼ばれる結界によって外の世界と隔たれている。外側から幻想郷に入る、または幻想郷から外側へ出るためにはこの結界を超えなければならない。時々生じる結界の歪みや、結界を無理やり越える力がない限り幻想郷に入るのは不可能だ。

しかし船が出てきた時、結界には干渉された反応がなかった。つまり、結界のある部分を通り抜けて来たのではなく、結界の内側に直接出現したのだ。

「よくわからないけど…やることは1つね。」

結界を無視して、幻想郷に侵入できる存在。侵入してきた理由はどうであれ、幻想郷にとって脅威となりうる存在であることには間違いなかった。

幻想郷の脅威に対して幻想郷の住人が取る行動は1つ――脅威の排除だ。

博麗の巫女は空色の帆船に向けて飛び立った。

 

 

 

「さてと。この世界のどこかに『アレ』があるはずだケド…ン?」

マホロアが何かに気づく。見ると、ローアのレーダーに2つの反応があった。モニターには、紅白の装束を身につけた少女が正面から、別方向から黒い帽子に黒いエプロンドレスの少女が迫ってくる様子が映し出されていた。

「どう見ても友好的な雰囲気じゃないネェ。ま、とりあえず対話を試みてみようカ…。」

いくつかのパネルを操作して、マホロアは2人の少女に向けて話しかける。

「あー、ボクは怪しい者じゃありまセン…君達にもこの世界にも危害を加えるつもりもないヨ。だからそんなおっかない顔しないで…」

その時、船内に衝撃が走った。紅白の少女の放った弾がローアに着弾したのだ。

「チョッ、問答無用カヨ!危害を加えるつもりはないっつってんダロ!」

思わず声を荒らげる。だが直後に、それは逆効果であることに気づいた。紅白の少女の攻撃が一層激しくなる。

さらに、ローアのレーダーに高出力のエネルギー反応が出現する。モニターには、黒い帽子の少女が八角形小さなものを構えているところが見えた。

「ッ!ローア、シールド展開!」

ローアを球体状のシールドが覆う。瞬間、巨大なレーザーが着弾した。

「ワオ。あんな小さなものからあれだけのエネルギーを出力できるトハ。」

シールドを展開し、マホロアは落ち着きを取り戻す。少女達も、シールドに対して攻撃が通らないと理解したのか、攻撃の手を止めた。再びマホロアは少女達に語りかける。

「まったく、人の話くらい落ち着いて聞いてほしいネェ。ボクは君達に危害を加えるつもりはないって言ったヨォ。そして、この世界にモ。」

「果たしてそれは本当かしら。」

「!!」

突如聞こえた声に振り向くと、そこには八卦の萃と太極図の描かれた衣服を着た着た、金髪の少女が立っていた。

「…何者?」

「それはこっちの台詞よ。あなたこそ私の大事な場所に侵入しておいて、何者なの?」

「…ボクの名はマホロア。色々な世界をこの船で旅しているけれど、この世界にはある目的があって立ち寄っタ。」

「その目的とは、この世界のどこかにある『マスタークラウン』と呼ばれる強力なアーティファクトの破壊。…アレは、もう誰の手にも渡っちゃいけなイ。」

「そう。それがあなたがここに来た理由ね。…こっちの自己紹介がまだだったわね。私の名前は八雲紫。この世界を誰よりも愛している者よ。残念だけど、あなたをここに留まらせる訳にはいかないわ。マスタークラウンがなんであれ、この世界の問題はこっちで解決する。あなたの助けはいらないわ。今すぐ来たときと同じように帰りなさい。でなければ…」

「…ここで排除するわ。」

直後、紫と名乗った少女はローアに張られていたシールドの『境界』を操作し、消失させる。今が好機とばかりに外の少女から攻撃が始まり、ローアの出力は瞬く間に減っていく。

「チッ!結局攻撃されるのかヨ!」

船内に警告音が鳴り響く。紫は既にいなくなっていた。

「また墜ちるのかヨォ!」

マホロアが頭を抱えて嘆く。ローアは煙を吹きながら、眼下の森へと墜ちていった。

 

 

 

霊夢は船に向けて飛び立った直後、別方向から同じく船に向けて飛行する親友の姿を見た。

黒い帽子に黒いエプロンドレス、長い金髪。霧雨魔理沙という名の少女は、霊夢とほぼ同じタイミングで船の前に到着した。

「珍しいな、霊夢が積極的に動くなんて。」

「私だって博麗大結界の管理者の1人よ。結界を越えて堂々と現れるような相手には容赦しないわ。」

その時、船から声が聞こえた。どこか幼い感じのする、若い男の声だった。

「あー、ボクは怪しい者じゃありまセン…君達にもこの世界にも危害を加えるつもりもないヨ。だからそんなおっかない顔しないで…」

「あんなこと言ってるけど、どうする?」

「問答無用!」

目の前に船に対して、全力の弾幕をぶつける。相手が幻想郷のルールに当てはまらないものである以上、"ごっこ"ではない弾幕だった。

「チョッ、問答無用カヨ!危害を加えるつもりはないっつってんダロ!」

「その口調でどこが『危害を加えるつもりはない』よ!ほらあんたも攻撃して!」

「ま、危なそうなものは落としておくに越したことはないな。こっちも、全力でいかせてもらうぜ!」

魔理沙がマジックアイテム、ミニ八卦炉を構える。最大の技、マスタースパークを食らわせる気だ。

「こいつで墜ちろ!」

ミニ八卦炉にエネルギーが収束し、放出される。マスタースパークが船に着弾するその時、船が球体状のシールドに守られ、弾かれる。

「あれっ!?」

「結界の1種かしら。しかもかなり堅牢なようね。」

霊夢もいくらか攻撃を加えるが、手応えがないと判断し手を止める。

「まったく、人の話くらい落ち着いて聞いてほしいネェ。ボクは君達に危害を加えるつもりはないって言ったヨォ。そして、この世界にモ。」

「…胡散臭いな。」

「信用できないわね。あの結界が解けたら一気に叩くわよ。」

「りょーかい。」

「…ボクの名はマホロア。色々な世界をこの船で旅しているけれど、この世界にはある目的があって立ち寄っタ。」

「その目的とは、この世界のどこかにある『マスタークラウン』と呼ばれる強力なアーティファクトの破壊。…アレは、もう誰の手にも渡っちゃいけなイ。」

「とりあえず相手の名前と目的はわかったわね。…どちらにしても、野放しにするわけにはいかないけれど。」

霊夢達は警戒を緩めずに船を見つめている時、船を覆っていたシールドが突如消失した。

「消えた!今のうちに!」

「墜ちやがれ!」

船に次々と攻撃が撃ち込まれ、だんだんと高度を下げていく。ついに船のどこかが爆発し、煙を上げ、部品をバラバラと落としながら森へと墜落する。

「よし、船に乗ってる奴をとっちめるわよ。」

霊夢達は船の墜落現場へと急いだ。

 

「ここね。」

墜落現場周辺の妖怪を蹴散らしつつ、霊夢達は船に近づく。どこかに侵入口がないか探しているその時、船の側面に円形の『扉』が出現する。

「歓迎されているみたいだぜ。」

「罠かもしれないわね。警戒しつつ入りましょう。」

船の内部は綺麗なものだった。無駄なものが一切なく、いくつかの部屋が存在するのみだった。

入ってすぐの部屋が1番広く、大きなモニターとそれを操作するためのキーボードがある。そのキーボードの前には、幻想郷のどの生物と違う、奇妙な格好のナニカが倒れていた。

「う、うぅ…」

ソレは小さく呻き声を上げると、身を起こして辺りを見回す。ソレは霊夢達に気づくと、驚き、警戒心と敵意を持った目を向ける。

「君達は…ボクの船を攻撃してきタ…。ボクにトドメを刺しにきたのかイ?」

「違うわ。マホロア、といったかしら。アンタの目的について詳しく聞かせてもらうわ。『マスタークラウン』とは、何か。」

「どうやらボクに拒否権はないみたいだネェ。いいだろう、君達に教えてあげるヨ。マスタークラウンと、それによって引き起こされた悲劇ヲ。」




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