渡辺曜と大学生活を送りたい   作:チカソー

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廻る過去と

渡辺と連絡先を交換し、20時辺りに返しに行くよと約束を取り付けた

「ありがとうございます。助かりました」

丁寧にお辞儀する渡辺。まだ渡した訳でも無いんだから、そんなに畏まらなくても良いんだが

「ああ。じゃ、俺はここで降りるから」

「あっ、私達もここで降りるんです。この辺りの会社に勤められてるんですか?」

「いや、違うよ。ここの大学の入学式にね。俺も今年から大学生だから」

そう言えば言ってなかったね。と軽く詫びる

「えっ!? 曜ちゃん! 男の人でここの大学って……」

「あっ!」

幸先が良いなぁ

そんな事を考えながら、二人と電車を降りるのであった

 

 

 

クソ退屈な講話に煩い周りの話し声

ヒソヒソ話す位ならちゃんと声張って話してくれ。それができないなら最初から話すなよ

「えー、次に、祝電披露を行います」

祝電は、この学校や地域に縁の有る政治家先生様や、よく解らない会社の名前が並んでいた

オハラグループって、確かホテルチェーンとかやってる所だっけか。そこが何で大学の入学式に祝電を?

たくさん寄付してるらしいよ。と、周りから話し声が聞こえたが、そもそも何でホテルチェーンの企業が学校に寄付するんだ。もうちょっと別に無かったのか。会長がこの学校出身とかなら個人名で寄付するだろうし

まあいいや

その後、20分位で式は終わり、その後は部活紹介やら、施設紹介があった

 

 

 

「市ヶ谷くんっ」

全てのプログラムが終わり、帰ろうかと鞄を持って立ち上がると、後ろから声をかけられた

「えっと……悪い。俺、君の名前を知らない」

いや、下の名前の見当は付いているんだが

「あっそれもそうか、私は高海 千歌! よろしくね!」

「ああ」

“みかん色”は高海 千歌と名乗ると、再び話始めた

「これから部活見に行こうかと思ってるんだけど、市ヶ谷くんもどう?」

ふむ。少し考える

正直、部活は興味が無いんだが……

ちらりと高海を見る

にっこりと笑う高海

これを断れるのは悪魔か鬼位だろう……

「解った。良いぞ」

 

 

 

「はぁ、疲れた」

どかりとベンチに座り込む。14時に卒業式が終わってから3時間は歩き続けた

「うそだ。市ヶ谷くんずーっと歩くスピード私に合わせてくれてたし、私が疲れてきたら適当な理由付けて休ませてくれてたし、人混みでは先を歩いてエスコートしてくれた。本当は人に気を使う位には体力残ってるんでしょ。なんか格好良かったよ」

隣に座った高海がにこりと笑う

渡辺も美人だがこいつも美人だな

しかし、格好良かった。なんて、勘違いしてしまいそうだからやめてほしい

あれ。そう言えばこいつ渡辺とは一緒じゃないのか

「そう言えば、渡辺はどうしたんだ?」

電車の中で、渡辺と高海は幼なじみだと教えられた。どうやら二人揃って静岡の田舎から来たらしく、それなら高海はまず渡辺を部活見学に誘うと思ったんだが

「ああ、曜ちゃんはもう部活決まってるんだ」

成る程。それならこれに付き合う必要も無いか

少し休むか。そう言うと、鞄からペットボトルを取り出し、半分程を一息に飲み干す

「高海。君は渡辺と帰るのか? そうなら俺は先に帰っていたいんだが」

「え、何で? もしかして曜ちゃん苦手?」

あ、誤解させてしまった

「いや、すまん。そう言う事じゃなくて、もし人を待つなら、先に帰って家事でもしようかなと……」

「ああ、そう言う事かぁ」

高海がほっと胸を撫で下ろす

良い奴だな。高海

「そうだね。じゃあ、これ以上付き合わせるのも悪いし、今日はここでバイバイだね」

「おう、また今度」

「うんっ」

ベンチから立ち上がると、高海に軽く手を挙げ、別れを告げる

「楽しかったな……」

思わずそんな独り言が口から漏れだした

携帯にイヤホンを接続して、お気に入りの曲を再生する

去年まで高校生だった桜内 梨子と言うピアニストが奏でる旋律は、夏の日の穏やかな海を連想させる

何となく、良い大学生活になりそうだ。そんな祈りに似た期待を胸に、夏の海に脚を浸した様なふわふわとした足取りで大学を後にした

 

 

 

秋葉原駅から10分程歩くと、そこに目的地は有った

「どうも。やってますか?」

「いらっしゃいませー。大丈夫ですよー……っ」

カウンターで雑誌を読んでいた彼女は、俺を見るなり声を詰まらせる

ああ、懐かしい顔だ。相変わらず綺麗な奴

「久し振りだな」

「どこ……行ってたの」

「大学だよ。進学したんだ」

「そう言う事聴いてるんじゃないって、解ってるでしょ」

彼女は苛立ちを隠そうともせず、しかし、それよりも大きな喜びとショックに声を震わせ、声を絞り出す様に喋る

「まあな。饅頭、3つ」

「はい……はい、丁度ね。レシートは? ん、わかった…………上がりなよ。お茶位は出すから」

カウンターの奥の畳敷きの和室に目をやると、記憶の中に残っていたそれと、あまり変わらない光景が残っていた

「悪い。今日はこの後も用事が有るんだ」

「……そう……なんだ」

悲しそうな。それでいてどこかほっとした様な表情

あれだけ喜怒哀楽がはっきりしていた奴がこんな表情をできるとは

「悪いな」

饅頭の入った紙袋を受け取ると、踵を返し、店の表へと向かう

「航」

久し振りに、彼女に名前を呼ばれた。最後に呼ばれたのが思い出せない位懐かしいその響きは、何故か悲しい声色をしていた

「また……来てくれる? また、会える? 4人で……」

「ああ……そうだな」

 

「また来るよ。穂乃果」

 

 

 

『はい、渡辺です』

「お疲れ様です、市ヶ谷です。今日の集合2000駅の改札前で変更無いな?」

『ふたまるまるまる?』

「悪い、20時」

後になって連絡を取ると、向こうも最寄り駅が同じと言う事で、帽子は駅で渡すと言う事で纏まった

まあ、向こうも多分は女だけでアパートなりを借りてる身だろうから、あまり家に押し掛けるのも気が引けての選択だった

『うん。よろしくね』

「ああ、じゃあ失礼します」

電話を切ってジャケットのポケットに押し込むと、机の上に転がっていたバイクのキーを拾い上げ、ブーツに足を突っ込む

バイクは変に薄着出来ないのが難点だな

そんな事をぼやきながら部屋を出る

「市ヶ谷くん……?」

「あ?」

隣の部屋の表札には、手書きの字で「高海・渡辺」と書かれていた




新たなる和菓子屋の出現に驚かされたのに、もっと驚いたのは、渡辺と高海と僕達が共同戦線を張ってしまった事だ
挙句に一つのアパートに二人のスクールアイドルが一緒になれば、お姉さん達の香りに圧倒されてしまう
それはしまった事だった
次回、曜のレコンギスタ『月から来たもの』
見なければ何もわからない

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