Monster Hunter Pioneer〜少女と竜と『その他』の物語〜   作:アリガ糖

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K2、灼熱の地の邂逅

 

 

立ち昇る噴煙、鳴り止まぬ地響き、脈動する溶岩。

 

麓に生える気持ちばかりの植物の他は、ひたすらに岩石と溶岩流があるだけの殺風景な世界。おおよそ生き物の住める環境とは思えないそこには、しかし数多くの命が息づき、過酷な環境を生き抜く為に今日も凌ぎを削っています。

 

狩人の侵入を阻む灼熱の大地、ラティオ火山。

その近辺に何の因果か棲みついているひとりぼっちのクンチュウは、近頃、急成長を遂げておりました。

 

あれから暫く経ち、相も変わらず異常な頻度で脱皮を繰り返していたクンチュウは、今となっては全長5メートル近く、体重は1トンを超え、もはや小型モンスター如きの力では微動だにしなくなっています。さらに、本人は未だ気付いてはおりませんが、その甲殻にはドラグライト鉱石特有の鮮やかな緑色が入り混じり、本来ですと多少くすんでいるはずの表面は磨かれた鏡のように艶めき立ち、すでに一般的なクンチュウとはだいぶかけ離れた姿になってしまっておりました。

そのように劇的な成長を遂げたクンチュウですが、その生活が以前と劇的に変わったかと言いますと特にそんなことはなく、相も変わらず死肉を見つけてはガブラスやウロコトルに追い払われ、鉱石をやけ食いする日々を送っておりました。

 

普通の物語ですと、クンチュウのように急成長を遂げた主人公は、それまで自分を虐げていた相手に逆襲するのが一つのお約束ではありますが、残念ながら自然界はそう甘くはありません。

確かに、今のクンチュウの甲殻と体重をもってすれば、ガブラスやウロコトルの攻撃など擦り傷にもなりませんが、彼らもまたこの厳しい火山という環境に適応した強かな生き物ですから、いくら正面からは攻撃が通らなくなろうと、みすみす餌を譲ってやるつもりはありません。試行錯誤を繰り返してクンチュウを追い払う方法を模索した結果、ガブラスはクンチュウの顔付近に毒液を吐きかけることで、ウロコトルはクンチュウの柔らかい腹側を地中から突っつくことで、それぞれ防御力や体格差を無視して追い払う方法を確立したのでした。

 

そんなことをされてしまえば、クンチュウはいくら硬くなろうとも大人しく引き下がるしかありません。唯一の幸運は、長らく鉱石を食べ続けたことによって獲得した強靭な口によって、ガブラスやウロコトルが食べないような硬い骨すらも食べられるようになったことでしょうか。もちろん肉に比べれば美味しくはないですし食べ辛いですが、骨髄には非常に豊富な栄誉が含まれていますから、以前ほど空腹に苦しむことはなくなりました。

 

それにより、以前のように空腹を紛らわす為に鉱石を貪り食う必要性は無くなりましたが、だからといって鉱石類の摂食量が減ったかと申しますとそんなことは全くなく、クンチュウはガブラスやウロコトルに追い立てられた苛立ちをぶちまけるように、より強靭に発達した口でもってバリバリと鉱石をかっ喰らっておりました。

 

そうして、ガブラスやウロコトルの間で顔が知られるようになり、ラティオ火山でも少々目立つ存在になってきたクンチュウは、ある日の朝、ついにその存在と遭遇することになるのです。

 

 

***

 

 

「だぁーっ!チクショウ、またダメだ!」

 

黒煙渦巻く火山の空に、狩人の嘆きが響き渡ります。

ボサボサの赤い髪と火山焼けした褐色肌が特徴的な細身の少女は、今しがた仕留めた草食竜アプケロスの亡骸に寄りかかり、鬱憤をぶちまけるように絶叫しました。

死者を背もたれにするようなその行為は、見る者が見れば眉を顰めるでしょうが、実の所、倒した小型モンスターの亡骸に身を預ける行為は、特に火山を中心に活動するハンターであればよくやること……というより、無意識のうちにやらずにはいられないことなのでした。

 

何しろ、大地が灼熱を発する火山という環境に於いては、壁や岩が高熱を帯びているなどさして珍しいことではありませんから、安易にそれらに寄り掛かって休憩するなどとても出来たものではありません。ましてや、さらに高温を帯びている可能性がある上に、ウロコトルやガミザミが潜んでいる危険性まで存在する大地に寝転がるなどもっての他です。

 

よって、一度(ひとたび)火山の地に足を踏み入れれば、クーラードリンクを飲んでなお肉体と精神を蝕む灼熱の大地と、過酷な環境を生き抜く屈強かつ狡猾な小型モンスターに悩まされながら、休憩すらなくひたすらに駆け回ることを求められるのです。

いくらハンターが強靭な肉体を持つと言われようとも、そんなことを続けられるのはほんの一部の狂人くらいなもので、大半のハンターは当然の如く休息を必要とします。そして、どこが高熱を帯びているかもわからない火山において、唯一低温であることが保証されているのが、小型モンスターの亡骸の上というわけなのです。

中には地面も熱いからと小型モンスターの亡骸の上に全身を預けて寝転がる者もいるほどですから、その点で言うと赤髪の少女はまだ行儀が良い方であると言えました。

 

「だいたい、よく考えたらなんでアタシがアプケロスのキモなんて面倒なモン取ってこなきゃなんねーんだよ!そんなに欲しけりゃ養殖しろ養殖!」

 

……もっとも、お口の方は少々お行儀がよろしくないようですが。

 

ちなみに、世間一般で広く家畜化されているアプトノスやポポなどと違い、アプケロスの養殖というのは至難を極めます。何しろ縄張り意識がとても強く攻撃的なものですから、一般人が飼い慣らすことなど到底できたものではありません。例えアプケロスを飼い慣らすことに成功したとしても、牧場規模の多頭飼いをすると小規模なグループ同士での縄張り争いが勃発し、無駄に傷を負う個体が続出します。それら全ての障碍を掻い潜って養殖に成功したとしても、得られる肉はアプトノスやポポと比べると量は少なく味は劣り、商品価値があるのはせいぜい少量しか取れないキモくらいなもの。明らかに投資と利益が釣り合っていないので、アプケロスの養殖に手を出す者はほとんどおらず、キモの供給は未だハンターが取ってくる天然物に大きく依存しておりました。

 

「オラ、死ねや雑魚が。……よし、こっからだ、集中集中っ!」

 

とはいえ、ハンターであるならば簡単に入手できるのかと問われればそう言うわけでもなく、アプケロスのキモは内臓の奥まったところにある上に、剥ぎ取る過程で周りの臓器(胃や腸など)を傷付けてしまえばダメになってしまうので、こちらはこちらでそれなりに熟練のいる作業ではありました。

 

「…………。………っ、…………っしゃあ!やっと取れた!」

 

とりわけ、赤髪の少女のように経験が浅く性格も大雑把な典型的な新人狩人にとっては、数頭のアプケロスを仕留めてようやく一つ取れるか取れないかというレベルのレアものです。悪戦苦闘(主に戦闘面以外)の末に漸く手にしたそれに、赤髪の少女は思わず歓喜の雄叫びを上げました。

 

「……はぁ、これだけやってやっと1つかよ……あと4つとか正気の沙汰じゃねえ……大型モンスターの相手する方がナンボかマシだ」

 

一般人からしてみれば、強大な大型モンスターを相手取るより草食種のキモを集める方が面倒などとは何事かと思われるかも知れませんが、事実、赤髪の少女の言葉は多くのハンターの内心を代弁しておりました。

灼熱の火山という最悪のロケーションに、クーラードリンクという制限時間が存在する中で、アプケロスを探す手間、ランゴスタなどの邪魔者を排除する手間、そして他の内臓を傷付けないように丁寧にキモを摘出する手間。それら全てを加味すると、特に戦闘を得意とする脳筋ハンターにとっては大型モンスター戦と同等かそれ以上に、キモ納品というのは面倒なクエストなのです。

 

そして言うまでもなく、この赤髪の少女は典型的な脳筋ハンターそのもので、扱う武器もその性格を表すように小細工無しで相手を叩き伏せるハンマーなのでございました。

さらに言うのであれば……

 

「えぇい、やってやる!アタシがただ殴り倒すだけの脳筋じゃないんだってトコロを、アイツに見せつけてやるんだ!」

 

幼馴染の受付嬢の安い挑発に乗せられ、誰もやりたがらない面倒な納品クエストをまんまと押し付けられた、お馬鹿さんでもあるのでした。

 

 

***

 

古くから人類が棲み着いている現大陸においては、大型モンスターの出現や自然現象などと同じように、ハンターの活動もまた生態系の仕組みの一部を担っております。

 

ハンターが討伐したモンスターの亡骸は、その殆どが自然界にそのまま還元されます。いくらハンターが屈強とは言え、体長10メートル越えの怪物達がざらに存在するこの世界において、倒した獲物を全て持ち帰るなどとてもできたものではありません。下手に欲を張って、大量の荷物という足枷を抱えた状態で別のモンスターに襲われてしまえばそれこそ元も子もありませんから、殆どのハンターは行動を制限されない程度の素材を手にすると、さっさと自分達の拠点に戻っていきます。

そうなると当然、ハンターによって打ち倒されたモンスターの亡骸の大部分は自然界に放置されることになりますが、それらは肉食や屍肉食のモンスター、あるいはもっと小さな生き物達の腹を満たす重要な食料資源となり、食物連鎖のループを作り出す重要な因子の一つとなっているわけなのです。

 

……結局のところ何が言いたいのかと申しますと。

 

赤髪の少女の活動によって作り出されたアプケロスの亡骸は、彼女の後を追うように移動しているクンチュウによって、それはもう美味しくいただかれておりました。

火山では滅多に手に入らない、本当の意味での新鮮な肉。あるいは初めて口にしたかも知れない貴重な食料に、クンチュウは大興奮で食らい付きます。骨にこびりついて乾き切った腐肉や、骨の奥深くに僅かにあるばかりの骨髄とはまるで違う、ダイレクトに体に行き渡るような栄養の塊。それをガブラスやウロコトルに妨害されることもなく貪り食うことが出来るのですから、クンチュウにとってはまさに今が我が世の春といった状況でしょう。

 

……ちなみに、滅多に手に入らない貴重な食料を前にして、何故ガブラスやウロコトルがやって来ないのかと言いますと、その答えは単純明快。クンチュウが新鮮な肉を食べるのに夢中になるあまり、ハンターである赤髪の少女に近付きすぎてしまっているからです。ガブラスもウロコトルもその性質故にハンターからはかなり嫌われている存在で、ハンターに見つかってしまうと依頼外であっても掃討されることすらあるほどですから、彼等は必要以上にハンターに近付くような愚は犯さず、十分に遠ざかるのを待って安全であることを確かめてから死肉を食らうようにしております。いくら火山において食料が貴重と言えども、それに夢中になってみすみす危険に身を晒すような愚か者は、狡猾なガブラスやウロコトルの中にはおりませんでした。

 

翻ってこのクンチュウ、お察しの通り頭の方の出来は少々……いえ、かなり残念でして、しかも一度(ひとたび)餌を見つけると、いつしかのように攻撃されていることにも気付かなくなるほど夢中になってしまうほど食い意地が強いものですから、目の前に武装した狩人がいることにも気付かずに、より新鮮な肉の匂いがする方にフラフラと引き寄せられてしまっているわけなのです。

 

「うおぁ!?……な、な、なんだコイツ!?」

 

そして当然のことながら、今のクンチュウほど大きく目立つ色合いをしたモンスターに接近されれば、新人とはいえ一端の狩人たる赤髪の少女が気付かない道理はございません。アプケロスほどではありませんが小型モンスターとしては大柄な体格とピッカピカに輝く緑がかった甲殻という存在感マシマシなモンスターの登場に、赤髪の少女は思わず目を白黒させます。しかし、そこは流石に何が起こるかわからない自然界を生き抜く狩人と言うべきか、すぐに冷静さを取り戻した少女は、愛用のハンマーを構えて臨戦体勢に移行します。

 

……先程、ガブラスやウロコトルがハンターから嫌われていると申しましたが、ではクンチュウはどうなのかと言いますと……素早い転がり攻撃による的確な妨害に、モンスターに張り付いて盾になるという厄介な性質、そしてその性質を凶悪化させるあまりにも硬すぎる甲殻……知れたこととは思いますが、それらのモンスターと同じレベルで嫌われております。

さらに言えば、クンチュウから剥ぎ取れる素材はそこそこ需要が高いものが多く、特にモンスターの体液と呼ばれる素材はその漏れ出しやすさ故にクンチュウ以外の甲虫種からの入手が至難を極めることから、純粋に素材目的で狩られることもあるようです。

要するに、そんなクンチュウがハンターに見つかってしまうことは、絶体絶命の大ピンチというわけでして……。

 

「……。」

 

つい先程剥ぎ取りに失敗して地面に放り投げたアプケロスのキモの欠片を、まるでこちらに気付いてもいないかのように一心不乱に貪り食らうクンチュウを、赤髪の少女は真っ直ぐに見据えます。火山の暑さと先の見えない作業にだれきっていた表情はすっかり鳴りを潜め、狩人らしい猛々しくも冷徹な眼光がハンターの宿敵たるクンチュウを貫──

 

 

「……うーん、なんだこいつ」

 

 

──くことはなく、赤髪の少女の目に浮かぶのはひたすらに疑問ばかりでございました。なんのことはない、生まれも育ちもラティオ火山近辺である彼女は、そもそもクンチュウなどというモンスターなど見たことも聞いたことも無かったのです。当然、狩の妨害をしてくることも貴重な素材が取れることも知りませんから、少なくとも彼女の中で目の前のクンチュウを積極的に討伐しようなどという気持ちが湧き出てくることはございませんでした。

 

「あっ!ちょっと待て!こっちは剥ぎ取り中だ!」

 

とはいえ、流石に剥ぎ取り中のアプケロスの亡骸に接近するのは看過できません。殆ど目の前にいるも同然の状況でなお赤髪の少女の存在に気付いてすらいないかのように振る舞うクンチュウに、赤髪の少女は愛用のハンマーでもって渾身の一撃をお見舞いしました。

 

「あっち行けっ………っ!?いっ……てぇ!?」

 

並の小型モンスターなら一撃であの世行きになるほどの強烈な叩き付け。しかし、赤髪の少女の腕に返ってきたのは硬い岩盤を殴りつけたかのような衝撃でした。彼女にとってはまだまだかなりの強敵であるラングロトラ、その堅牢な甲殻すらも柔らかく感じるほどの圧倒的な硬度の前には、数多のモンスターを叩き伏せてきた愛用のハンマーなどまるで歯が立ちません。

 

「……っ、まずい!」

 

そして、跳ね返ってきた衝撃と驚愕のあまり、致命的なまでの隙をさらしてしまう赤髪の少女。無謀にも自らに攻撃を仕掛けてきた不届き者に対して、クンチュウがとった行動は──

 

「………………あれ?」

 

──丸まって身を守ることでございました。

 

当然反撃されるものと思って目を瞑ってしまった赤髪の少女は、いつまで経っても来るべき衝撃が訪れないことを不審に思い、ゆっくりと目を開きます。すると、そこにあったのは大したダメージでもなかろうにガチガチに防御を固めているクンチュウの姿でございました。あまりにも動きがないために、思わず好奇心をそそられて試しにツンツンと小突いては見ますが、まるで反応が見られません。

 

そう、賢明な皆様であれば既にお気付きかとは思いますが、クンチュウは赤髪の少女に殴られるその瞬間まで彼女の存在に本当に気付いておりませんでした。クンチュウの視点からすれば突然近くから大きな音が聞こえてきたようなもので、本質的には臆病で小心者であるこのクンチュウは、驚きのあまり竦み上がってしまったのです。

 

「え……あの、えっと……どうすんだコレ」

 

そうなると困るのは赤髪の少女で、この状態では当然のことながら討伐することも撃退することもできません。しかし、小型モンスターが背後にいる状態で神経を使う剥ぎ取りを行うというのも憚られます。なんとか移動させるだけでも出来ないものかとハンマーを納刀して両の腕で力の限り押して見ますが、どうやら大きさの割に尋常ではない程に重いらしくクンチュウの体はピクリとも動きません。

 

その後暫く、ハンマーで殴りつけたりテコの原理を使って動かせないものかと試行錯誤を試みましたが、まるで効果が見られないまま時間だけが経過し……赤髪の少女が気付いた時には、アプケロスのキモはすっかりダメになってしまっていたのでした。

 

「あぁーーーーーっ!!!」

 

こんなことなら、クンチュウなど無視してさっさと剥ぎ取ってしまえば良かったという後悔の絶叫が、火山の空に虚しく響き渡ります。

 

 

 

 

──この、なんとも締まりのない邂逅が、後の赤髪の少女とクンチュウの生涯に、あまりにも大きな影響を及ぼすことになるなど、この時はまだ、誰も知りませんでした。

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