Monster Hunter Pioneer〜少女と竜と『その他』の物語〜   作:アリガ糖

3 / 15
3、悪運の良さは主人公ですね。

 

オルタロスの実に三倍以上の体長を誇るモンスター、アオアシラの視線が、足元のオルタロスへと注がれます。

アオアシラは蜂蜜好きのモンスターとして良く知られていますが、実は肉と蜂蜜どちらが好きかというのは、割と個体差があることも割と有名な事実です。傾向としては、ロイヤルハニーが存在する渓流のアオアシラは蜂蜜好きが多く、逆に孤島のアオアシラは肉や魚が好きな個体が多いと一般的には言われております。

そして、オルタロスを見据えるこのアオアシラは……

 

ドスッ!

 

生粋の蜂蜜好きなのでありました。

オルタロスなどには目もくれずハチの巣の前に座り込んだアオアシラは、その長い舌を器用に動かして、滴る蜂蜜を一心不乱に、それこそ比喩でも誇張でもなく浴びるように舐めとり始めます。種族はまるで違うのに、その様子は先程のオルタロスとそっくりです。オルタロスとそっくりということは、必然的にこのアオアシラもお馬鹿なのでしょう。Q.E.D(以上証明完了)。

そんな酷い風評被害を受けているアオアシラの背後から、岩陰から飛び出した二人の狩人が襲い掛かります。この時を今か今かと待ち望んでいた少女ハンターと子供ハンターです。隙だらけの背中を晒しているアオアシラに、まず身軽な子供による太刀の一閃が振るわれます。すると必然、アオアシラの青色の毛皮に一筋の赤が描かれ、アオアシラは痛みのあまり悲鳴を上げます。子供なので力はありませんが、それを補うだけの鋭さがその一閃にはあったように思えます。

悲鳴を上げるアオアシラに追い打ちをかけるように、少女の手に握られたライトボウガンの速射機能による連続攻撃が放たれました。しかし、いくらお馬鹿疑惑があろうとも、いつまでもやられるままになっているようなアオアシラではありません。大好きな蜂蜜タイムを邪魔されたアオアシラは、腕を大きく持ち上げ、体を出来るだけ大きく見せるようにして二人を威嚇します。

しかし、二人の狩人は自分より遥かに巨大な相手に対し、全く臆する様子を見せません。むしろより一層戦意を滾らせ、凛然と武器を構えてモンスターと相対します。

 

アオアシラは、自分に傷を与えた相手のあまりの小ささに、一瞬理解を遅らせました。しかし、今自分の命が脅かされているのは紛れも無い事実、自分より遥かに小さかろうと、全力で叩き潰さんと爪をふるいます。

アオアシラの力強い一撃が、子供ハンター目掛けて振り下ろされました。小さい体など軽々と吹き飛ばせてしまうであろうその一撃は、しかし子供ハンターによってひらりと躱され、お返しと言わんばかりに反撃の太刀筋が振るわれます。

子供ハンターの腕が短く、リーチが狭いばかりに、その鋭い一撃はアオアシラの身を穿つことはありませんでしたが、しかしそれでもその太刀筋は、さっき背中から切られたことも相まって、アオアシラに危機感を抱かせるには十分だったようです。

 

先程まで怒りに身を任せんばかりだったアオアシラが、冷静さを取り戻して二人のハンターを見据えました。そして何を悟ったのか、太刀使いの子供ハンターには目もくれず、軽弩を構えた少女ハンターに襲い掛かります。その判断は強ち間違いではありませんでした。ガンナーである少女の身を守る防具は、弾薬を収納したり、遠距離での立ち回りを補助したりといった関係上、剣士のそれと比べると半分程度の強度しかありません。しかも、少女の持つライトボウガンには、身を守る盾などもありませんから、防御面で考えれば少女は非常に脆いのです。

そういう意味では、この時のアオアシラの判断は正に的確であったと言えるでしょう。

ただ、一つ誤算があったとするならば……この少女が、「バレットゲイザー」と呼ばれる狩技を習得していたことでしょう。

アオアシラが少女に迫ったまさに次の瞬間、少女の身軽な体が激しく後方に吹き飛ばされ、それと同時に地面に設置された地雷が炸裂することにより、アオアシラの全身を激しい火柱が包み込みます。アオアシラは非常に火が苦手なモンスターで御座いますから、思わぬ相手の反撃に仰け反っていますと、当然その隙を逃してくれる筈もなく、背を向けてしまった子供ハンターに手痛い一撃をもらうことになります。連続で強烈な攻撃を受けたことにより、アオアシラは堪らず転倒してしまい、大きな隙を晒すことになってしまうのでありました。その間にも狩人達の猛攻は続き、アオアシラは少しずつ体力を奪われていきます。

なんとか狩人達の猛攻を耐え切り、ゆっくりと立ち上がったアオアシラは、見ればその口元から荒々しい息をのぞかせております。アオアシラからしてみれば食事中に突如攻撃を受けここまでボコボコにされているわけですから、とうとう怒り心頭に発したというわけです。

 

アオアシラが怒り状態に移行したことにより、二人の狩人はより一層気を引き締めます。ここまでずっと戦況を有利に運んできたのですから、普通ならもう少し油断してもいいのではと思えてしまいますが、その慢心こそが地獄への片道切符であることを彼等はよく知っていたのでした。

両者の緊張は徐々に高まっていき、雲一つ無い星空の下、命がけの戦いはその激しさを増していきます。

 

 

……と、そんな戦いの中で件のオルタロスは何をしているかと言えば、ちょくちょく両者の戦いに巻き込まれそうになりながらも、懸命に殺伐とした戦場から逃げようとしている最中で御座いました。

まず最初に、背中から不意打ちを受け前のめりの姿勢になったアオアシラに危うく踏み潰されかけたのを皮切りに、ライトボウガンの流れ弾が至近距離を掠め、子供ハンターに向けて振るわれたアオアシラの腕にぶつかって吹き飛ばされ、少女に襲い掛からんと駆けるアオアシラにまた踏み潰されそうになり、なんとか事なきを得たかと思いきや至近距離で爆炎に煽られ、すぐ目の前を鋭利な太刀が掠め、転倒したアオアシラに巻き込まれて転がり、隙を晒すアオアシラに対する狩人達の猛攻に巻き込まれ……それはもう踏んだり蹴ったりで御座います。逆に言えば、それだけのことに巻き込まれながらも大きな傷を負っていないオルタロスの、なんとも悪運の強いこと。みてくれ的にはシュールでしかありませんが、その悪運の強さには眼を見張るものがあります。

 

しかし、そんなオルタロスも、流石にここまで踏んだり蹴ったりにされれば、アオアシラ同様……いや、それ以上に怒り心頭に発するというものです。彼も食事を邪魔されたのは同じですし、何より戦ってすらいません。ただ戦いに巻き込まれているだけです。しかも巻き込んでいる方はオルタロスの存在にはまるで気付いてすらいないのですから、この戦いの一番の被害者は間違いなく彼でしょう。

さて、普段お馬鹿で大人しい分、本気で怒ったオルタロスは大層恐ろしく…………ありませんでした。誰一人として見ていないのに、負け犬の遠吠えのようにその場で数回威嚇すると、オルタロスはシャカシャカとその場から逃げ出していきます。これの何処に脅威を感じろと言うのでしょうか?ただ一つ、間違えなく言えるのは、もし彼に口があったのならば間違えなく捨て台詞を吐いていたということでしょう。

何処と無く哀愁を漂わせるオルタロスの後ろ姿を、省みる者は誰一人としていませんでした。

 

まぁ、別にオルタロスは間違った事をしたわけでは御座いません。幾ら怒ろうとも脆弱な甲虫種風情がハンターやアオアシラなんぞに襲い掛かったら、せいぜい返り討ちに遭うのが関の山です。この場で逃げ出すというのは、お馬鹿なオルタロスにしては随分と妥当な判断と言えました。

しかし、それでいいのでしょうか主人公。このままでは主人公という称号の隣に、(笑)という不名誉な付属パーツが付くことになりかねません。もっとも、オルタロスにそんな事は理解出来ないのでしょうが……。

 

ズコズコと不貞腐れた様子で簡易巣穴に戻ってきたオルタロスは、近くに生えていた薬草とアオキノコを、やけ食いのように食べ始めます。するとどうでしょうか、先程の戦いに巻き込まれて傷付いた体が、見る見るうちに回復していくではありませんか。

薬草とアオキノコと、そしてハチミツ。グレート☆御三家とも呼ばれるその三つを知っているとは、このオルタロス、ただのお馬鹿という評価を改めねばならないかも知れません…………が、アオキノコと一緒に毒テングダケも大量に食べているところを見ると、まず間違えなく偶然なのでその必要はないようでした。

 

やけ食いで十分に腹を膨らませたオルタロスは、そのまま眠りに就き、夜明けまで眼を覚ます事はありませんでした。実はアオアシラが逃げ込んだことによりすぐ側で戦闘が勃発したこともあったのですが、この無警戒オルタロスはそれにすら気付かずに熟睡しておりました。おそらく雷が落ちても(幻獣が現れても)地震が起きても(大海龍が暴れても)眼を覚まさないのではないでしょうか?本当にありそうで怖いです。

 

 

翌朝、オルタロスが朝一番に目にしたのは、全身に傷を負って斃れたアオアシラの死骸でした。

これだけ大きな肉の塊ですから、当然オルタロスは喜んで飛び付きます。無我夢中に食事に勤しむオルタロスは、その背後からジャギィの群れが迫っているなど夢にも思わないのでありました。

 

オルタロスの受難は続きます。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。