Monster Hunter Pioneer〜少女と竜と『その他』の物語〜   作:アリガ糖

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※人が死にます。苦手な方はご注意くださいませ。


5、虫の報せと言いまして

 

孤高の一匹蟻である某オルタロスは、今日も今日とて相も変わらず食料を求めて島を徘徊し、ジャギィやルドロスに見つかれば途端に背を向けて逃走する。そんな少しデンジャラスではあるものの、非常に気ままで自由な生活を送っておりました。

しかし、いつの日からか、元々挙動不審だったお馬鹿なオルタロスの動きが、更に怪しいものに変わります。不意に周囲を見回したり、岩や草の影に隠れたり……それは側から見れば、まるで何かに怯えているかのようにも見て取れました。

実を言うと、臆病で弱虫なオルタロスではありますが、これまで何かに怯えたといった様子を見せたのは極々稀なことでした。ジャギィやルドロスなどの肉食竜に出会った時などは、怯える素振りを見せる前に無駄に抜群の決断力を発揮して逃走を図りますから、このように恐怖に震えるような行動を見せることはこれまで滅多になかったのです。

 

そんな少々珍しい態度を露わにするオルタロスではありますが、どんなに怯えていても結局腹は減るものなのか、ビクビクと周囲を警戒しながらも今日も食料を探しに行きます。しかし、その食料探しの様子もいつもと比べると明らかに変です。いつものオルタロスならば手頃な食料を見つければ喜んでその場で食べ尽くすのですが、最近では顎で持ち運べる量だけを確保すると、まるで逃げ帰るように何処かへ消えてしまうのです。その様子は、無警戒、無遠慮、無関心を地で行くこれまでのオルタロスからは到底考えられない態度でありました。

さて、そんなオルタロスが確保した食料を一体何処に運んでいるのかと問われますと、その答えは彼の築き上げた巣にありました。巣とは言ったものの、それは群れのオルタロスが作るものと比べると大層小さく、まさにこのお馬鹿なオルタロス個人用といった程度の、ほんの小さな横穴でございます。まあ、それでも体長2メートルを優に超すオルタロスが作っただけあって、横になれば大の大人が数人は入れる程度の広さがあるのですが……。

そんな横穴の中を覗いて見れば、そこにはオルタロスによって運び込まれた大量の食料が山積み……ではなく、よく見ると驚いたことに綺麗に種類分けして置いてありました。薬草やアオキノコ、カラの実、ハリの実、怪力の種、毒テングダケ、クタビレタケ、マヒダケ、特産キノコ、ネンチャク草、ツタの葉……果ては何故かクモの巣や石ころといった食料でもなんでもないものまで多種多様です。

極力隙を晒さないように食料を蓄え、巣に籠る。それはまるで籠城戦でも始めるつもりかと問いたくなるような行動でした。

 

周囲に目を向けてみても、挙動不審なのはオルタロスだけです。ジャギィ達やルドロス達といった孤島に存在するポピュラーな小型モンスター達は、普段と至って変わらぬ様子で生活しており、まるでオルタロスだけが目に見えない脅威を感じ取ったかのような……そんな不気味な状況が、実に一週間近く続いておりました。

 

 

***

 

「ハッハッハ!今日も大漁だぜぃ!」

 

豊かな自然の宝庫、孤島。

その近隣に存在する村や集落では、その豊かな自然の恵みが最後に流れ着く、偉大なる海の恩恵を最大限に享受するため、漁業などを筆頭とした水産業が非常に発展しております。それは孤島地方に存在する唯一の都市と言って過言ではないタンジアの港や、かつて孤島周辺の村落を震撼させた古龍、大海龍を退けた英雄がいるということで一躍有名になったモガの村などでも例外ではありません。

吹き荒れる潮風のためにお世辞にも農業に向いているとは言い難い地域でありますから、海の資源をどれだけ活かすことができるか、それがこの地方で生きる人々の永遠と言ってもいい命題となっているのです。

 

そして、その海の多大なる恩恵を最も直接的に、最も強く受けることが出来るのが、他ならぬ漁師の方々でございます。

膨大な知識と経験と力を使って海に挑み、時には自分よりも遥かに巨大な生物でさえ腕っ節を頼りに捕まえて見せる。その様子は危険ではあれど非常に男気に溢れており、事実、この地域の子供達に将来の夢を問えば、誰もが一度は夢見るハンターよりも、真っ先に漁師の名が挙がる程に、周囲からは憧れの的となっております。

そんな豊かな海ではありますが、その豊かさを求めるのは決して人間だけではございません。大洋を支配域とする強大なモンスター達も、その海の恩恵を求めて集まり、そして人間と頻繁に衝突致します。そのようなモンスターを退けるのはハンターの仕事ではございますが、漁師だって不意にモンスターに邂逅してしまった時の為に、討伐とまでは行かずとも撃退……せめて逃げるくらいは可能とする程度の実力を要求されます。それが出来なくては、待っているのは死だけであるからです。

その一例として、とある村の漁師達の船団が、少なくない被害を出しながらも海竜ラギアクルスを撃退まで追い込んだという話はあまりにも有名でしょう。

 

結果として、この孤島地方で長年漁業に従事している人物は、その殆どが相当な……少なくとも新人ハンターよりは遥かに上と言っていい程の戦闘能力を有しております。中には、モンスターが現れない限り収入が安定しないハンター稼業と、禁漁期間中は仕事が無い漁師とを兼業している者さえいるほどです。

ですから……その長年漁業に従事してきた漁師達の船団が、一人残らず全滅したという事態は、明らかな異常事態と言えるでしょう。

 

 

「見ろよこのハリマグロ!金冠付きそうな大きさだぜ!」

「こっちなんていつもの二割増しで獲れたからな!最近は大型モンスターもあまり現れていないみたいだし、ずっとこの調子が続くといいねぇ!」

「ハハッ!違え無ぇ!」

 

お互いの船の上で、各々の穫れ高を自慢する海の男達。最近は捕食者である大型モンスターが減少したためなのか大漁が続いており、彼等の機嫌は非常に良かったのです。

 

「この調子なら他も期待出来そうだな……。よし野郎共ぉ!第三ポイントへ移動するぞ!」

「アイアイサー!」

 

漁師達の船団長の合図で、いくつもの船が一斉に移動を開始します。当たり前ではありますが、漁というのは一箇所で行うものではありません。漁師達は、彼等が独自に決めた縄張りの中にいくつかの狩場を持っており、そこを順番に回ることでより多くの収穫を得ているのです。そうである関係上、良質な狩場を得る、或いは守るために、漁師間での縄張り争いも絶えません。そういう意味でも、広大な縄張りを持つ彼等の腕っ節は相応に上等なものでございました。

ですが……、

 

チャポン....

 

「……ん?」

「どうした『空読み』、突然変な顔して。」

「いや、一瞬空が暗くなったなぁと思ったんだけど……気の所為か。」

 

そう、言ってみれば、人間の一流のハンターと一般人との間に隔絶した実力差があるように……モンスターにもまた、通常と比べて特別武芸に秀でた者がいるという、簡潔に述べるならばただそれだけの話でありました。

 

ドボォォォォオオオン!!

 

「なっ!?」

 

船団の最後尾から突如激しい水飛沫の音が鳴り響いたかと思うと、殿を務めていた漁船が瞬く間に転覆いたします。たかが漁船とはいえ、それは大型モンスターが蔓延る海を渡るための船です。海竜の猛攻にさえ辛うじて耐えうるように設計された漁船が一瞬でひっくり返る様に、誰もが一様に驚愕いたしました。

 

「敵襲!六番艦がやられた!敵影の確認は無し、海の中にいるぞ!総員戦闘準備!」

「取舵一杯!まずは六番艦の乗組員を救助する!」

 

ですが、そこは流石経験豊富な漁師達。

即座に危険を察知すると、各々が迅速に行動を開始します。素人や経験が浅い漁師ならば、この時点で恐れをなして逃げてしまうのでしょうが、彼等はそうは致しません。それは蛮勇というわけではなく、大海を渡るモンスター達に対してはどう足掻こうとも機動力で上回るのは現実的では無いため、逃げるよりは集団で迎え撃つ方が良いという、長年の経験からくる行動でありました。

素早く舵を切って反転した船団は、それぞれにロープを出して転覆した六番艦の乗組員を救助しようと試みます。しかし、次の瞬間彼等の目に飛び込んできたのは、あまりにも衝撃的な光景でありました。

 

「ひっ!?」

 

転覆した六番艦の周囲の海水の蒼が、瞬く間に霞んだ赤色へと変化していきます。

海の中から海面へと浮かんできた六番艦の乗組員に、五体満足な人間は誰一人としていなかったのです。中には、四肢を全て失い達磨のようになって溺れる者や、上半身と下半身が死に別れた者なども存在致しました。

そんな中でまだ死んでいない……いえ、死ねていない者達は、肩や太腿から噴き出した鮮血によって海を真っ赤に染めながらも、海面への浮き沈みを繰り返して絶叫のような悲鳴を上げます。

 

「だずげ……っ!でぇ」

「あづいぃぃぃ!」

 

ズバリ、ズブリ。

そして、悲鳴を上げつつ海面へと上がっていった者から、まるでモグラ叩きでもしているかのように謎の黒い刃に引き裂かれ、海の藻屑へと変わっていきます。一つ、また一つと悲鳴の声が消えていき、海は次第に本来の静寂さを取り戻していきました。

転覆した船、浮かび上がる死屍累々、消えゆく悲鳴、鮮血の海。そのどれもが、歴戦の海の男達を恐れさせるには十分な恐怖を醸しておりました。

当然、無数の死体の内いくつかは、他の船の側まで流れ着いて来ます。ただし、腕や、足や、上半身や、右半身や、生首のみのカケラとなって……。部位こそバラバラではありましたが、そんな多種多様な死体の数々には、ある一つの共通点がございました。

 

「……食べられた痕が無い…………。……遊んでる。楽しみで殺してやがる!」

 

誰もがその事実に戦慄と動揺を覚えました。

未だに姿を見せない敵、突然の奇襲、理解不能な目的。目の前で凄惨な光景が繰り広げられ、その時、猛々しい海の男達の戦意は、完全に折られてしまったのです。

 

ザバァァァァァアアアアン!!

 

そして、そんな絶望的な状況を作り出した張本人が、激しい波飛沫を上げながら海面を飛び出し、ついにその姿を現しました。転覆した六番艦の上にふわりと着地し、ブルブルと身を震わせて水気を払ったそのモンスターは、本来この地域には……それどころか、海には存在するはずのない……

 

 

––––––––ギャォォォォォッ!!

 





さて、グダグダ感が否めなかったこの小説で、漸くモンハンっぽい脅威が登場致しました。そのモンスターの正体とは…………ヒントは散りばめてあったりします。

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