Monster Hunter Pioneer〜少女と竜と『その他』の物語〜   作:アリガ糖

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お久しぶりです。
諸事情により執筆が止まっていましたが、誠に勝手ながら執筆を再開させて頂きました。


7、一寸の虫に五分の魂があるのなら

まずはじめに、この物語の語り手であるこの私は、皆様に謝らねばならない事がございます。

これまで私はずっと、オルタロスのことを"馬鹿"であると形容し続けて来ました。

 

……それは嘘です。

 

いえ、もっと正確に言えば嘘ではなく、彼が馬鹿であることに一ミリも相違は無いのですが……しかし彼は"馬鹿"でこそあれ"愚か"では無かったのです。

考えてみればなんとも単純な話でございまして、この世界に闊歩する強大なモンスター達のように圧倒的な体躯も持たず、力も無く、防御力も、機動力も、技術も、仲間さえも持たない、まさに無い無い尽くしの彼が……

 

–––––––"運"だけで生き延びる事が出来るほど、この世界は甘くはございません。

 

彼が今日まで生き延びて来たのは、彼に今日まで生き延びる事が出来るだけの素質があったからに他なりません。群であることを自然とするオルタロスが、たった一匹で放り出されたとして、他の個体であれば、一日としないうちに野垂れ死にます。

にも関わらず、彼は今もこうして生きているのです。

 

貪欲に食料を求め、多少食べ辛いものでも迷わず口にすること。

敵対者が現れれば、実力差に関わらず瞬時に逃走を選ぶこと。

休息は取れる時に出来るだけ取り、逃げる時の体力を温存すること。

比較的温厚なモンスター(アオアシラ)の縄張りで生活し、そうでない凶暴な(ドスジャギィや)肉食性モンスター(ロアルドロス)の縄張りには極力入らないこと。

 

些細なことを確実に積み重ねて、彼は自らが生き延びる道を残し続けました。自分の弱さを認め、その上でこの残酷な世界を生き抜こうと懸命に足掻いたのです。

 

 

そして、今日(こんにち)……

 

オルタロスは危機を察知しました。

それは弱者たる彼が先天的に持っていた、言ってしまえば野生の勘のようなもの。彼は何よりも弱かったが故に、何よりも臆病で注意深かった。それだけの話です。

彼は逃げられる相手とそうでない相手を見分けることも出来ます。そして、野生の勘が今回の敵は見つかれば絶対に逃げられない相手であることを告げていたのです。

 

オルタロスは危機に備えました。

それは彼が後天的に得た、彼だけの技能。集めた食料の特性を扱えるという、本来群れで生息するか弱いモンスターが、たった一匹で暮らすために編み出した特別な業。

あのオルタロスと同等レベルにお馬鹿なジャギィと非常に低レベルな戦いを繰り広げている最中にも、その片鱗は伺えました。怪力の種とにが虫を食した直後、ジャギィの力を強める作用を持つ液を噴出したその時のように……、

例えば、ネンチャク草やツタの葉、蜘蛛の巣などを食して、腹袋の中で頑丈な糸を合成したり、光蟲の発光成分を濃縮したり、毒テングダケの毒成分だけを抽出したり……それはとても拙く、地味な能力では有りましたが、無い無い尽くしの彼がたった一つだけ持っている明確な武器なのです。

 

そして、オルタロスは危機を静かに待ちました。

やれるだけのことはやったから……後は、自らが行ったことが本当に正しかったのか、その答え合わせをするだけ。勝てば生き延び、負ければ死ぬ、ただそれだけの単純な賭けです。

 

 

孤島に一陣の風が吹き抜け、彼の者の来訪を告げます。

オルタロスは、自らの罠の下で呆然と立ち尽くしている狩人達などには一瞥もくれることなく、何処か遠くを見据えていたのでした……。

 

***

 

孤島のエリア3に突如として気づき上げられた謎の"巣"に、ハンター二人が呆然としていたまさにその時、ネロは突如として強い殺気を感じとり、瞬時に太刀を構えて反撃の姿勢をとりました。

それは言うなればただの勘……それも、狩人としての経験から積み上げられたものですら無い、ただ命に危険が迫った時のみに感じられる、"生物としての勘"を根拠に行われたものでした。

 

しかしそれこそが、直後ネロの運命をすんでのところで繫ぎ止める結果となったのです。

 

 

––––––ギャリリィィインッ!!

 

 

直後、硬質物同士がぶつかり合う甲高い衝撃音が、そりたった岩壁に反響します。そのあまりにも突然の事態に、ネロの相棒である少女ハンターも、そしてずっとこの場で待機していたオルタロスですら驚愕に顔を染め、しかしすぐさま何らかの敵性の存在が現れたことを察し、行動を開始致します。

 

そして、ネロは………

 

「…………ぐっ……ぁ」

 

消え入るようなか細い呻き声と共に、ネロの口からどろりと赤黒い血が流れ落ちます。先程まで少女ハンターと並んでいたはずであるにも関わらず、ネロの小さな体は僅か刹那の内にそこから5メートル以上離れた岩壁に打ち付けられていました。

ネロは確かに咄嗟の判断と抜群の反射神経で太刀を盾にし、死角からの奇襲を防いだ筈でした。しかしそこには二つほどの誤算があったのです。

一つは、襲撃者の膂力が予想以上に強かったこと。もう一つは……襲撃者の力の伝え方が、異常に上手かったこと。まるで防がれることを前提として、その防御の上からネロの小さな体を吹き飛ばすように計算されたかのような攻撃だったのです。

 

「ネロっ!?」

 

相棒に襲いかかった余りにも突然の窮地に、少女ハンターは思わず叫び声を上げます。それは刹那の動揺でした。普段から警戒心を解かない人間であっても、突然仲間がやられれば誰もが動揺するもの……。

そして、この襲撃者はそのことを良く知っていたのです。

繰り返しになりますが、それは本当にほんの刹那の動揺でございました。時間にすれば1秒にも満たない、小さな小さな隙でだったのです。

 

 

––––––––あまりにも、長過ぎる。

 

 

「アリス、上ッ……!」

 

全身を苛む鈍痛を抑え、なけなしの力を振り絞って、ネロは狩場においてこの時初めて少女ハンターの名前を呼びました。そもそも二人組である上に、ネロは基本的に無口な子供でございますから、他人の名前を呼ぶことなど滅多にございません。

あるとしたら、それは致命的な危機に繋がりかねない、窮地くらいなものでしょう。まさに今、この瞬間のように……。

 

そんなネロの警告を受け、少女ハンター……アリスは咄嗟に上を見上げました。太陽の光を遮る巨大な影……そこから零れて見える黒光りする鋭利な鉤爪……彼女はすんでのところで、自らの窮地に気が付きました。

 

……しかし、それがどうだと言うのでしょう。

 

人間の反応速度はせいぜい約0.2秒、あまりにも遅すぎます。ましてや彼女の武器はライトボウガン……咄嗟に行える行動などたかが知れている上、その脆弱な防具でいくら軽いとはいえ防御していたネロを5メートルも吹き飛ばした攻撃に耐えられるとは思えません。

 

 

–––––––死。

 

その一文字がアリスの脳裏を過ぎりました。

実際、それは間違ってはいなかったのです。この状況からアリスが襲撃者の攻撃を躱す術は残されていませんでした。防具も心許無く、仮に致命傷を避けられたとしても逃走に使う体力さえ残らないでしょう。それほどの窮地でございました。

 

しかしながら、結果から述べれば、先程アリスの脳裏を過ぎった一文字が現実のものとして顕れることは、いつまでたってもありませんでした。

 

命の危機を前にアリスが超人的な動きをした?

相棒の危機を前にネロの真の力が覚醒した?

奇跡的に孤島に残っていたハンターがすんでのところで助けに来た?

 

否。

そんな都合の良いことがそうそうあってたまるものでしょうか。奇跡というのは大概は何らかの意思によって仕組まれた必然です。勿論例外はあるでしょうが、それは決して都合良く実現してくれるものでは無いのです。

滅多に起こらないからこそ、"奇跡"と呼ばれているのですから……。

 

 

でも、だとするならば……

 

たった今、アリスを救ったのは"何"だったのでしょうか?

 

 

 

その答えは––––––––

 

 

 

 

––––––––ズドォォォォォォオオオオン………

 

 

思わず呆然としていたアリスの目の前に、突然真上から大きな木の枝が落ちてきました。何者かによって襲撃者を狙って落とされたであろうそれは、しかし襲撃者を圧し潰すことなく硬い岩の地面を打ち付け、虚しくその役目を終えます。

 

もし、この木の枝が襲撃者に命中していたとしたら……小さなアリスの体は襲撃者ごと巻き込まれ、運良く致命傷を避けたとしても戦闘の続行はおろか逃げることすらままならない状況となっていたことでしょう。しかしこの木の枝が無かったとしても襲撃者の攻撃によって次の瞬間にはアリスは死んでいたはず……。

 

そんな状況で、アリスがこうして無事に立つことが出来ているその要因は、大まかに言って二つ。

 

一つは勿論、襲撃者を狙ってこの罠を仕掛けた者がいたこと。

 

もう一つは…………

 

 

 

「ギュォォォォォオオオッ!!」

 

襲撃者の、"反射神経"といったところでございましょうか。





襲撃者の正体を明かすのは次回に。
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