「なぁ…サヤちん」
「なんや?」
「このLINEの文面見てみ」
ここは都内のとある家。
結構デザインに凝った作りのお洒落な家だ。
それもそのはず…この家の主は「勅使河原建設」の社長の勅使河原克彦なのだから。
その克彦だが、現在は故郷からの幼馴染の名取紗耶香と同居中で、近々結婚予定だ。
その二人がリビングで話している。
「なんや?LINE?」
「あぁ、三葉からメッセージが届いたんやが…なんや…キモイ」
「…キモイ?」
紗耶香が「キモイってなんよ?」と克彦のスマホをのぞき込む。
「あー…これ、ホントに三葉が送ってきたん?」
画面には、到底三葉のものとは思えないような文章が書かれていた。
内容は雑談程度なのだが、文面がちょっと三葉のそれとは違っている。
具体的にはふんだんに絵文字顔文字が使われており、毎メッセージごとにスタンプがうたれている。
「俺…こんなちゃらんぽらんな女を友達にした覚えないで」
「私もや。いや、これマジなん?」
「あぁ。マジや」
「三葉…どうしたんやろな?」
「さぁ…?でもあいつときどき人格が豹変しとったやろ?高2のときやったか?」
「あー、そんなこともあったなぁ」
「やから、また狐が憑いとるんとちゃうか?」
「アホ…三葉もまたストレスたまっとるんやないの?」
二人して「う~ん、なんでやろ?」とさんざん悩むが、三葉のメッセージが変であることの原因はなかなか思いつかない。
「あの子もいよいよおかしくなったんかな?ちょっと電話してみるわ」
そう言って紗耶香が電話をかける。
なんて聞くんやろうか?
いきなり「アンタ、LINEの文面がキモイで」とはさすがに聞けないだろう。
「あー、三葉?ごめんごめんいきなり…ん?今どこにおるん…?……へぇ、らしくないなぁ…まさか…男か?」
「!?」
俺はガタッとソファから立ち上がる。
なんや、三葉にも彼氏ができたんかいな!?あいつにも彼氏が!?
しかし、どうやら俺と紗耶香の予想は外れていたようだ。
「あー、そうなん…?ほんとに何もないんか?…でもなぁ、だとしたら理由は…ん?いやいや、こっちの話…。なぁ三葉、最近なんかあった?……何もないんか?ホントか~?何かあったら言うんやで?じゃあ…うん、バイバイ」
そう言って紗耶香が電話を切る。
「どうやった?」
「…彼氏やな」
「は?でもさっきデートやないって…」
「アホ、話しとったら気づくわそんなもん。ありゃ絶対彼氏できたやつやわ」
サヤちんは力強く断言する。
でも、三葉はこれまで彼氏の一人も作ったことのない女だ。
そういきなり彼氏ができただけでLINEの文面が変わったりするんだろうか?というか話してわかるほど変化するんだろうか?
「ありゃあ、三葉は運命の人に出会った感じや。前世でなんかあった人と出会っとるで」
「お前、何を俺みたいなこと言っとるんや?」
「狐憑きよりはましやろ」
「話してみてどうやった?ちゃんと狐は憑いとったか?」
「なんやちゃんとって…いや、狐憑きモードやなかった…ただ、なんやろな…よく笑っとった」
笑う?今のサヤちんと三葉の会話のどこに笑う要素があったんや?
「狐憑きでもないっちゅうことは、彼氏ができたとかそういう何かしらの変化があったっちゅうことか?」
「せやな…いや、ありゃ彼氏やで!」
「はいはい…にしても、もし彼氏ならこれで俺たちもようやく心置きなく結婚できるで?」
「それは…そうやね」
紗耶香が頬を赤らめる。
紗耶香と克彦は大学を卒業したあたりから結ばれ始めた。
ただ、なかなか結婚する気にもなれなかった。
理由は、三葉が一人になってしまうから。
三葉は「はよ結婚しいや!」と言うのだが、二人は三葉が3人組の中で一人ぼっちになってしまうのを嫌っていたのだ。
でも、三葉にも相手ができたのならようやくこちらも結婚を心置きなくできるというものだ。
「せやなぁ…俺たちも式の日とかもえぇ加減考えないとなぁ」
「どうするん?もっかいブライダルフェア行っとく?」
「何度目や…チャペルもえぇって言っとったけど、結局どうするんや?」
「どうしようなぁ」
「まだ考えとらんのかいっ!」
「アンタだって真面目に考えないよ!」
「俺に結婚式場のことなんかわかるか!」
喧嘩しているようだが、この二人には日常茶飯事だ。夫婦漫才みたいなものだ。
「あー、そうやもんね!あんたは建物さえよければなんだってえぇもんな!」
「あー…そういや建物といえばなんやけどな…」
「…なんや?」
克彦がごそごそと引き出しから何かを取り出す。
それは一枚の建物のデザイン画のコピーだった。
「これ、えぇと思わんか?」
「おぉ…なんか…新しいデザインなのに…やけになつかしさがあるなぁ」
その画には、二人にとってやけに郷愁を誘うデザインの建物が描かれていた。
先進的で斬新なデザインなのにどこか懐かしい。
克彦がデザインするそれともよく似ているが、この画は克彦のものよりもより郷愁を誘うデザインだ。
「…俺のデザインとよく似とる…しかも俺のよりもうまい」
「…負けとるやない」
「俺のデザインは在りし日の糸守の建物とかをもとにしとる。それと似とるって…偶然か?」
「偶然なんやないの…?それともなんや、その画をデザインした人が糸守出身やとか言うんか?」
「画の作者は…これ、立花瀧って書かれとる」
「…立花瀧…?知らんな?誰や?」
「俺もわからん…そもそもこの画も会社にたまたま流れ込んできた画やからな…ただ俺はいつかこいつに会いたいと思っとる」
「どこにおるかもわからんのに?」
「そうや」
一度、この立花瀧という男と話してみたい。
建物をデザインする者として…いや、立花がいったいどういう人間なのかはわからない。年齢も性別も性格もわからない。
それでもなぜか、こいつとは馬が合いそうな気がする。
克彦はそう感じていた。
この二人も瀧と三葉の記憶を取り戻す上で重要なカギをもっていそうですね。