君の名は、   作:柚子丸

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スケッチ

ここは瀧君の家。

時刻は既に7時をまわっていたので、とりあえず夕飯にすることにした。

夕飯を作ったのは私!今朝は瀧君の料理のおいしさにおどろかされたから、今度はこっちの番だ!と気合をいれて作った。

 

「何だ…この煮魚…美味すぎる」

 

瀧君が私の作った煮魚にやけに感動しながら食べている。

そりゃあ「美味しい」って褒められれば嬉しいけど…これほどまでに感動する?

 

「えっと…何か煮魚に思い入れでもあるん?」

「いや…よくわからないけど、なんか妙ななつかしさがあって…お袋の味的な?」

「…私の料理は、お祖母ちゃんかお母さんに教わったものなんよ」

「そうか…なら、食べたけど忘れちまったって可能性も無くはないか」

 

私たちは互いに互いの記憶をなくしている。

だから、瀧君がお祖母ちゃんや私の煮魚を食べたことがあっても、それは私に関わる記憶だからなくしてしまったのかもしれない。

もちろん証拠とかはなくって、これまで二人で話し合ってきて予想した仮説だ。

だが、この仮説がもし正しいとするならば…私たちは絶対に二人の記憶を取り戻さなければならない。

ただ…記憶がどこにあるのかはさっぱりわからないんやけどね…。

 

「三葉の祖母ちゃんの話は聞いたけど、母さんの話は聞いてないな…話しづらければいいけど、もしよかったら話してくれないか?」

「うん…私のお母さんの名前は『宮水二葉』っていってね、お祖母ちゃんが言うには不思議な人だったらしいよ」

「不思議な人?」

「うん…まるで未来を知っているかのように、様々なことを予言しとったらしいの。だから、町の人からもすごく頼りにされとったらしい」

「予言…ねぇ。何となく、三葉が彗星落下を予言したというのにも合点がいくな」

「もしかしたら、四葉にもそういう日がくるんかもね?」

「おぉ、それは楽しみだな」

 

瀧君がむしゃむしゃとご飯を食べながら言う。

もし四葉にそんな力があったとしたら、ぜひとも私たちの将来を予想してほしいものだ。

…いや、なんか怖いからやめとこうかな。

 

「いやぁしかし美味いなぁ。俺、和食とか作れないからさ、教えてくれないか?」

「教えるって…そんなもん適当に作ればえぇんよ?」

「上手な人ってよくそう言うよな…」

 

さっきも三葉の料理風景を見学していたが、何をどうしたらあれほど器用にアレコレできるんだろうか?

女の子ってなんであんなに器用なの?

 

「そういえば、スケッチを見せなきゃな…ちょっと待ってろ」

 

夕飯をほぼ食べ終わった瀧君は、引き出しからスケッチブックをとりだした。

 

「俺もどうしてこんなに糸守を鮮明に描けたのかわかんないけど、とりあえずホラ」

 

瀧君が私にスケッチブックを差し出す。

私はその表紙をめくる。

 

「!!!」

 

…あぁ。確かに糸守や…。

これは…糸守小学校…四葉が通っとった、小学校。

奥には糸守湖が描かれている。瓢箪型ではない、まん丸い、私の糸守湖。

1ページしか見ていないのに涙がぽろりとこぼれる。

紙に私の涙が2・3粒落ちて、シミを作る。

 

「色々調べたけど、そのアングルの写真はネットを探しても見つからなかった。俺はどうしてこんな画を描けたんだろうな…」

「…これは、確かに糸守やよ。うん。この景色、雰囲気、空…どれもこれも糸守やよ」

 

私の故郷。

狭くて濃くて…はっきり言って、苦手だった私の故郷。

でも、やっぱり故郷は故郷で、私の芯を支える大事なもの。

 

「これは…っ!」

 

次のページをめくると、そこには糸守湖の全景が描かれていた。

ちょうど、高校あたりから見下ろした風景だ。

 

「色々、戸惑ったな。俺が糸守に出かけたとき、そのスケッチに描いていた糸守と現実にあった糸守とでは、全然違っていたからさ」

「この高校は、私の通っていた高校やよ。ちょうど湖の反対側にあるから、登下校にはけっこう時間がかかったんよね」

「田舎は大変だなぁ」

「今、馬鹿にせんかった?」

「俺は好きだぜ?」

「むぅ…」

 

私は次のページをめくる。

そこには、衝撃的な画が描かれていた。

 

「え…これって…」

「…あぁこれか?これは、俺が糸守に行って山の上で夜を明かしたって言ったよな?そのときにこの風景を見た。この景色は確かにスケッチと同じで安心したな」

「これ…御神体…」

「御神体?」

 

そこに描かれていたのは、宮水神社の御神体。

大きくて、きれいで、美しい、とても壮大な眺めが広がる御神体だ。

私と、お祖母ちゃんと、四葉と、お父さん以外は知らないはずの場所。

どうして…瀧君が?

 

「ここは宮水の者しか知らないはずの、宮水神社の御神体やよ?私の家は神社をしとって、そこで私は巫女をしとったんよ…」

「宮水の者しか…じゃあ、俺はなんで?」

「ここは、宮水神社の敷地だから本来の登山道は彗星落下で破壊されていたはずやよ?瀧君はどうしてこの場所のスケッチができて、どうやってこの場所に行ったん?」

「…ごめん、あんまり記憶にないや…」

「なら、そこに私が関わっとるのは間違いないね。登山道を通らないということは、道なき道を行くってことやから、瀧君は御神体を目指して山を登ったってことになるんよ」

 

俺が…御神体を目指して?

俺は司や奥寺先輩と喧嘩してやけで登ったのではなく…?

 

「ここで夜を明かした後、瀧君は私の記憶を失ってまったんやないかな?」

「あぁ…確信はないけど…おそらく」

「私の記憶がはじまっているのも、この場所からなんよ」

「?どういうことだ?」

「私は避難誘導を計画したときの記憶がないって言ったよね?だけど、避難誘導をしなければならないことは知っていた…ちょうどその記憶があるのが、御神体の場所からなんよ…」

「あー、つまり三葉の記憶では、ここで彗星落下を知って、急いで山をおりて避難誘導をしたってことか?」

「うん…そういうこと」

「よくわからないな…俺と三葉は、この御神体に縁があるみたいだ」

「ねぇ、瀧君」

「?」

「今度、この御神体に行こう」

 

三葉は俺の腕を掴んで言った。

 

「ここに行けば、きっと何かが思い出せる気がするんよ!私たちの記憶は、きっとここにある!だから!」

「あぁ、もちろんだ。行こう。俺たちは結ばれている。三葉の祖母ちゃんの言葉を借りれば、俺たちは「また」繋がった。そして、俺たちが途切れたのが多分この御神体だ」

「うん…きっとそう!」

 

俺たちは、糸守に行かなければならない。

忘れてしまった記憶のパズルのピースを探しに行かなければならないんだろう。

これは、彗星か、それとも宮水の神様かが俺たちに与えたゲームだ。

クリア困難なゲームだ。

ならば、俺はその神の作ったクリア不可能なゲームに打ち勝ってやろう。

俺は、前に何かを決心したことがある。

この世界に抗い続けるとかそういうことを決心した。

多分、このことだったんじゃないか?

 

「運命とか、そういう言葉じゃ言い表せないほどの、すっげー過去が俺たちにはある。だから、二人で探しに行こうぜ?」

 

 

 

その後もページをめくり、画を見るたびに涙をこぼしながら昔のあれこれを思い出した。

そして、ついに最後のページ。

 

「え…これって!」

「あ、これ?これは…何だったっけ?」

「へ…」

「へ?」

「へ…」

「へ?」

 

私は思い切り叫んだ

そしてビンタした

 

「へんたぁーーーーいっっっっ!!!!」

「痛っっっ!!!!!!」

 

そこには私の部屋が描かれていた!

この部屋、どう見ても私の部屋だ!この景色も、見覚えがある!

 

「ど…どうして瀧君が私の部屋を知っとるんよ!!!!!」

「え!?これ、三葉の部屋なのぉ!?」

「何なんよ!もしかして、全部隠してただけで実は瀧君は本当に彗星が落ちる前の糸守に来たことがあって…単に私の反応を楽しんでただけなんやないの!?」

「そんなわけあるかぁーっ!」

 

その後、誤解を解くのに10分程時間を要した。

でも、なんで俺は三葉の部屋を描くことができたんだ…?

なぜ…?

その答えはわからなかった。




この話は、特に書いてて楽しい話でした。
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