「でも…岐阜っていうと…」
奥寺さんは顎に手をあてて言う。
「彗星…ね」
「…ちょうど、糸守が私の出身地なんよ…」
先ほどは言わなかったが、奥寺さんはしばらく話してきて信用できる人だと見た。だから意を決して糸守について話すことにした。
「糸守…かぁ」
「?」
奥寺さんはやけに感慨深げに虚空を眺める。
その様子はまるで瀧君のようだ。
「…もう話しちゃおっかな?」
「話すって?」
「いえ、世間は狭いなって思ってね。私は瀧君と一緒に5年前に糸守に行ったのよ」
「奥寺さんも…?」
奥寺さんも瀧君と一緒に糸守に来たということは瀧君の言ってた友達とは奥寺さんのことだ。
「もう、色々忘れちゃったけどね…なんだかあのときの瀧君、誰かを探しに行ってたみたいだったよ」
「誰か…?」
「気づいてるんじゃない?」
その通り。私は瀧君が糸守に来た時に誰を探しにやってきたのかはわかっている。
おそらく私だ。
「瀧君、スケッチに描かれた絵だけを頼りに糸守を探して、やっと糸守を見つけたら…もうすでに」
「…3年前に糸守は既になくなっていたから…」
「うん。いまだになんで瀧君が糸守の昔の風景を知ってたのかはわからないけど…三葉さんに関係があるのかしら?」
「…確信はないんやけど…おそらくは」
「ふふ…今度瀧君とも会って話してみたいわね」
瀧君は、あの画だけを頼りに私を糸守まで探しに来たということ。
それはつまり、瀧君は糸守について知らなかったことを意味している。
でも、風景だけは知っていた。
どうしたらそういうことが起こりうるのかなぁ。
「なんだか、あの後さらに瀧君は元気をなくしちゃってね…心配して色々してあげたんだけど、なかなか…ね。でも、あなたなら何とかできるんじゃないかしら?ほら、これ見て?」
そう言って奥寺さんがスマホの画面を見せてくる。
そこには瀧君やその友達のLINEの画面が映し出されている。
奥寺さんの
『おめでとう。やっと探してた人を見つけたんだね。』
という言葉に瀧君は
『…まさか、三葉に会ってたりします?』
と答えている。
『ありゃ、図星か』
『…あんま変なこと言わんでくださいよ!』
その後ろにはそんなやりとりが映し出されている。
「ふふ。探してた人というだけであなたのことを思い浮かべるなんて…瀧君は相当あなたにお熱みたいよ?」
「そ…そんな…へへ…」
「私…好きだったのよね。瀧君が高2ぐらいのときだったかしら」
「瀧君のことが…ですか」
私の表情は少し曇る。瀧君は私だけのものであってほしいなどという自己中な独占欲によるものだ。嫌な女ね…私。
「いえいえ、どうも瀧君は私には興味がなかったみたいでね…誰かほかの人が気になってたみたいで…。でも、なんだか一生懸命で可愛くってね…なんだかあなたにすごく似てたわ」
「え?私に?」
「そう。その顔よ」
「私も奥寺さんには初めて会った気がしないし…」
「あら、お互い様ね」
奥寺さんは…なんというか同性でも好きになってしまうような魅力の持ち主だ。
そのオーラというか雰囲気は脳が覚えてなくても体が覚えてしまう。
まさに、その体の記憶が会ったことがあると私に告げている。
「瀧君を…よろしくね?」
「うん。絶対に」
「ふふ。安心した。そういえば、せっかくだしちょっと頼みたいんだけどさ」
そう言って奥寺さんはポケットからハンカチを取り出した。
そのハンカチはちょうど真ん中あたりが破けていて、何ともみっともない。
「三葉さんは裁縫が得意だって聞いたから…ちょっと直してみてくれないかしら?」
「え?いきなり?」
「ふふ…瀧君は、私のスカートが破けちゃったときに縫って直してくれたりしたのよ?」
「…」
『女子力』という単語が頭によぎる。
女たるもの男に女子力で負けてはならない。
そりゃ、家事ができる男の子は魅力的だけど、それでもやっぱり負けたくないのが女の性。
どれ、いっちょやってみようじゃないか。
アイ ラブ ハリネズミっ!
ということで大好きなハリネズミを取り入れてちょっとした画にしてみた。
それを見て奥寺さんは絶句している。え、なんかまずかったかな?
「これ………三葉さん…変なこと聞いていいかしら?」
「?」
「あなたは…瀧君?」
「はい!?」
いきなり変なことを言われた。
私は瀧君のことが大好きだけど、私が瀧君などということはない。
「いえ、そのとき瀧君が縫って直してくれたときもこの模様が…」
「え…?」
「偶然…とは考えにくくって…」
「いや…記憶には…」
「そうね…変なことを聞いてごめんなさい。瀧君と三葉さんは似た者同士ってことね…」
その後、しばらく瀧君談義で盛り上がった。
色々と聞けて楽しかったので、今度いじるネタにしてやろうかな?
そして帰り道。スマホを取り出す。
するとそこには…
『今日、時間ある?』
と書かれていた。
…何か話したいことがあるのかな?
ちょうどいい。私も色々と話したいことがある。