君の名は、   作:柚子丸

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遅れました!ごめんなさい!


記憶の飛騨探訪

「ごめんね、待たせちゃった?」

「…そういう質問はな、男がどう返せばいいのか返答に困る質問なんだぞ?」

「瀧君が女の子に大して気を遣える男の子だなんて期待してないから適当に返事してくれればえぇんよ」

「あのなぁ…」

 

ここはとある料理店。

三葉と話したいことがあったのでここで待ち合わせにしたのだが、そういえばアルコールは頼まないほうが良いんだったよな?

 

「で…何の用があったん?」

「…2016年、つまり俺が高2のとき、俺は糸守に行ったって話はしたよな?」

「うん。なぜだか理由はわからないんだっけ?」

「あぁ。だが、どうやら俺は糸守に興味を持ったから行ったわけじゃあないらしい」

「え?」

 

三葉はきょとんと不思議そうな顔をしている。

くそ、なんでこいつは仕草がいちいち可愛らしいんだろうな…まだ出会って一週間もたってないが、それでもわかる。

三葉はスキが多すぎる!

他の男に変な目で見られたらどうすんだ!

っと、いかんいかん。冷静になれ立花瀧。

 

「どうやら俺は誰かを糸守に探しに行ったらしい」

「誰か…つまり、私やね」

「多分な」

 

なんか、もう「誰か」とか「何か」という曖昧な言葉は勝手に脳内で「三葉」あるいは「瀧君」と変換されてしまう。それは三葉も同じなんだろう。

 

「ついでに言えば、糸守に行くまで俺は糸守のことを知らなかったらしい。例のスケッチだけを頼りに糸守を見つけたらしいんだ」

「えぇ!?それって、つまり瀧君は糸守のことを知らんのに糸守を描けたっていうこと!?なんやのそれ!」

「…俺自身にも何が何だかわからないんだがな…ただ、俺は糸守に行ったことがないのに糸守が描けたわけじゃない、糸守を知らないのに糸守を描けたんだ」

「…どういうこと?何を言いたいん?」

「あくまで憶測だけど、俺は糸守の景色を見たことはあったけどそれを糸守とは認識していなかった…ってことなんじゃないかな?」

「……そうかもしれんけど…ならますます話がややこしくなるやん?」

 

まぁ、そうなんだけどな。

結局、俺たちはやっぱり糸守に行ってみなきゃ何もわからないんだろう。

 

「でも、そのときの瀧君は私に会ったことないのに何で私を探しにきたんやろね?」

「さぁな。ただ、どうやらスマホでのやりとりはしてたとか司は言ってたな。あぁ、司ってのは高校以来の友達だ」

「スマホでやりとり…はっ!出会い系!!」

「ちげーよ!何が悲しくて出会い系なんかしなきゃいけねぇんだよ!!」

 

なーんか以前もこんな感じのやりとりがあった気がする。

詳しくは思い出せないけど…。

 

「とにかく、その誰か…つまりお前とは連絡をとりあえる関係にはあったっぽいぞ…いや、連絡手段とかはわからないんだが…」

「わからないことだらけやね…もう慣れっこやけど」

「自分のこと棚にあげて俺だけ記憶喪失みたいに扱うのはやめなさい」

 

三葉は俺の言葉をどこ吹く風といった感じに聞き流している。

自分に都合の悪いことは聞こえない人の耳ってどうなってるんだろうな?

 

「そんなわけで、俺は糸守にお前を探しに行ったわけだ。当然糸守町が存在していて、そこにお前がいると思い込んで…な」

 

自然と声が暗くなる。覚えてないはずのことなのに、なぜか心が苦しくなる。そして、脳裏にその風景が…

 

「何となくだが…思い出したよ。俺はあの日、糸守を見て…はじめて糸守が、彗星が落ちた糸守であったことを知った。司曰く…すっげーショックを受けてたみたいで…」

「…ショック?私に会えなかったこと?糸守がなくなってたこと?」

「わからない。ただ、俺も今、あの情景を思い出しちまって…」

 

瀧君の顔が暗くなる。

何かが思い出せなくて、大切な何かを忘れてしまってとても苦しそうな顔だ。

私は彗星災害後の糸守を見た瀧君の気持ちを想像する。

苦しい。怖い。なぜ。どうして。

俺の糸守はどこにいったんだ?あいつは?

そう思ったはずだ。

私は瀧君にやさしく声をかける。

 

「瀧君、大丈夫やよ。私はちゃんとここにおるから」

「あ…あぁ。取り乱しちまって悪い」

「…瀧君の気持ち、私にもわかる気がする。誰かを探して、必死に探し回って、やっと見つけたけどその人は全然違って…」

「…お前にもそんなことがあったのかもしれないな」

「うん。まだ、思い出せんけど…」

「はは…わからないことだらけだな。もう慣れっこだけど」

 

俺は先ほどの三葉の言葉をそっくりそのままお返しする。

三葉は顔を赤くしてぽかぽかと俺の頭を殴る。全然痛くない。

 

「あー、もうえぇ雰囲気やったのにぃ!」

「お互いさまってことだよ」

「むぅ…そういえば、今日奥寺ミキって人に会ったよ」

「え?奥寺先輩に?」

 

なるほど、奥寺先輩って呼んでたのね。

 

「もしかして、仕事か?」

「ご名答。そう、仕事で会ったんやけど…どうやら奥寺さんは私に会いたくて私を呼んだみたいやった」

「そりゃあ、俺が三葉のことを話しちゃったから…ハッ!!!」

 

瀧君は途端に顔を赤くする。

多分「俺、あいつのことが好きなんですよ」とかLINEで告白しちゃったことを思い出しているんだろう。

なるほど、奥寺さんが瀧君のことを「かわいい」と言ったことにも共感できる。

私はあえて聞く。

 

「どうしたん?」

「い…いやぁ…なんでも…」

 

瀧君は小声で「バレてないよな」と言った。バッチリ聞こえてるし、バレとるよー。

 

「それで、変なことを言われたわ。なんか、私が瀧君みたいって…」

「へ?お前が?俺に?」

「うん。奥寺さんの前でちょっと破れたハンカチを縫って直したんやけどね…その柄が瀧君が奥寺さんのスカートを直してあげたときの柄と瓜二つやったんやって。覚えとる?」

「いや…ごめん。ぜんぜん覚えてない」

「だろうと思った」

 

もはやお約束だ。

まぁ、仕方がない。瀧君にとっては5年前のことだ。

 

「それで…奥寺さんは雰囲気も似とったって言うし…私たち、何なんやろね?」

「さぁ?答えは全部糸守にあるんじゃないか?」

「ふふ…いつ行こうか?」

「今は新人研修で忙しいし…結構新社会人は大変なんだよ?」

「わかっとるって!もう通ってきた道やからね」

「はは、そうだったな。なんか、年上って感じがしないからな」

「なーんか、年上らしくないってニュアンスを含んどらん?その言葉」

「はは!自分で考えてみたらどうだ?」

 

瀧君は私をからかう。

その笑顔は私にとって最高のものだった。

 

こんな時間がいつまでも続いたらいいな。

ずっとずっと、この幸せな時間が続いてくれればいいな。

そう二人は思った。

 

 

 

その後…。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…みーつはー」

「すぅ…」

「くそ…また酔いつぶれちゃったよこの子…だから年上らしくないんだっつの…」

 

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