君の名は、   作:柚子丸

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出遭い

「あー、俺だ。立花瀧だ。またお前の姉ちゃんが酔いつぶれちゃってな…」

 

ここは宮水家のあるマンションのエントランス。

先週の金曜日のように三葉を負ぶって宮水家にやってきた。

ただ、スピーカーごしに聞こえた四葉ちゃんの声がやけに変だった。

何というか…司や真太が何かを企んでいるときと同じような雰囲気のする声だった……不安。

インターホンを押す。

 

「瀧さん!ありがとうございました!」

 

四葉ちゃんがドアを開ける。

そしてその背後に男が…!

 

「君が立花瀧君かね?」

「えーっと…はい。あの…どちら様でしょうか…?」

「私は三葉と四葉の父の宮水俊樹だ」

 

かくして俺の受難は始まるのだった。

 

 

 

「もう…いきなりお父さんが来るからびっくりしたよ…」

 

四葉ちゃんが俊樹さんに言う。

三葉は明日にひびくといけないのでさっさと寝てもらった。

さすがに先週ほどは酔ってなかったし多分大丈夫だろう。多分。

 

「すまんな。俺も少し東京に用があってきたんだ。今日中に帰るのもよかったんだが、せっかくだから寄っておこうと思ってな」

「まったく…お姉ちゃんったらせっかくお父さんが来てくれたのに…」

 

三葉は俊樹さんのことをあまり良くは思っていなさそうだったか、四葉ちゃんはそうでもないのか、俊樹さんとは普通に話せている。

 

「私はもう眠いし寝るけど…お父さん…瀧さんは明日も仕事なんやからあんまりここに拘束せんといてよ」

「はは、わかってるさ」

 

まだ眠いという時間でもないはずなので、四葉ちゃんは俺と俊樹さんが二人で話せるようにしてくれたのだろう。

男の気持ちを察せる女はモテる。女の子にはぜひともこのことを知っておいてもらいたい。

 

「さて、立花君だったかな?」

「はい。立花瀧と申します」

 

この宮水俊樹さんのことは知っている。

彗星災害当時の糸守町長で、避難指示を発令し糸守の人々を救ったとされている人だ。

しかし、俺は三葉が災害を予知していたことを知っている。

 

「あの、俊樹さんのことは三葉さんを通して聞いておりました…」

「そうか。ならば、糸守の奇跡の真実も知っているということか?」

「はい。あの、気になったんですが…なぜそんなことを信用したんですか?」

 

普通の人は「隕石が落ちる!避難指示を出せ!」と言われたところで避難指示を出すはずがない。

なぜ、俊樹さんは避難指示を出したのか…?

 

「…わからん。なぜか、三葉の言うことを信じたくなったんだ…あの日の三葉は…なんだか変だった」

「変?」

「あぁ。あの子が町民を避難させるために色々とやらかしてくれたことは知っているだろう?」

「はい」

 

例のテロの話だ。

隕石が落ちなかったら、ただの犯罪行為である。

そして、その犯罪行為をしてでも三葉が糸守の人々を避難させたことからも三葉が災害を予知していたことがわかる。

 

「あの日。三葉は…ちょうど昼下がりごろに俺に会いに来た。内容は彗星が二つに割れて隕石となって落ちるから避難指示を出してくれ…ということだった」

「なんとも直球ですね」

「あぁ。あまり関りが無かったから三葉についてどうこう言える立場でもないんだが…そんなド直球なのはあの子らしくなかった。俺もあの時はちょうど宮水神社とは断交していて、三葉の言うことをこれっぽちも信用せず病気だと決めつけて病院に電話をしようと受話器を手に取った」

 

普通の父親ならば娘が少し変なことを言ったとしてもいきなり病気だと決めつけたりはせず、話を聞くはずだ。

三葉と俊樹さんの間には修復するのには長い時間が必要なほどの深い溝があるのだろう。今ここで詮索すべきではない。

 

「そしたら、あの子はどうしたと思う?何と俺の胸倉をつかんで『馬鹿にしやがって!』と怒鳴ったんだ。俺は直感的にわかった。この子は三葉じゃない。外見が三葉なだけの別人だ…とね」

「別人…ですか」

「そうだ。なんだか、君にはあの日の三葉のような雰囲気がある」

「えぇ!俺、俊樹さんの胸倉掴んだりはしませんよ!」

「いやいや。そうじゃなくってだな…何というか…名状しがたいんだが…心ここにあらずで、誰かのために動いているというような感じがした。ほかでもない誰か一人のために…」

「それは…」

 

今の俺は三葉のために動いている。三葉が幸せならそれでいいとさえ思っている。いや、恋人でもないのに何言ってんだって話だけどな。

その日の三葉も誰かを救うために動いていたってことか?

 

「俺は娘相手に『お前は…誰だ?』なんて言ってしまった。すると三葉は部屋から出て行ってしまってな…」

「結局、三葉が誰だったのかはわからないんですか?」

「あぁ。俺は君だと…いや、何でもない」

「?」

 

声が小さくて聞き取れなかった。

まぁ、おおよそ見当はついた。

俺だ。

 

「その後、隕石が落ちる1時間前に俺のところに三葉はもう一度やってきた。その三葉は…三葉だった」

「誰かが入っていたわけでもなく…ですか」

「あぁ。どうも、御神体のところから走ってきたらしくて服はぼろぼろだし、汗だくで…とてもみっともない恰好をしていたが…それでもあの子の目には確かな光が宿っていた…」

「御神体から…?」

「あぁ。なぜかはあの子も覚えていなかったがね」

 

どうやら俺と三葉は糸守の中でも御神体に縁があるらしい。

糸守に行ったときには御神体には必ず行っておかなければならないだろう。もしかしたら、そこに記憶があるかもしれない。

 

「あのときの三葉は…なぜか、二葉に見えた」

 

二葉…三葉のお母さんのことだ。

あの三葉の組紐の持ち主であり、何でもかんでも予見してしまう不思議な力の持ち主。

 

「その話をすると多分徹夜になってしまうだろうな…君は明日も仕事があるんだろう?」

「はい…残念ながら…」

「なら、もう帰るといい。今日は三葉の彼氏に会えてよかったよ」

「なっ…まだそういうんじゃありませんよ!」

 

この親父さん!見た目と違って割と冗談かましてきやがる!

 

「そうなのか?でも、君に負ぶわれていた三葉の顔…あんな三葉の顔は久しぶりに見た。あの顔を取り戻してくれたのは…多分君なんだろう?」

 

四葉ちゃんにも言われたことだ。

俺と出会う前の三葉がどんな顔をしていたのかはわからないが…多分、三葉に出会う前の俺のような顔をしていたんだろうな。

 

「どうか、三葉のことをよろしく頼む。あの子には君しかいない」

 

もう答えは用意してある。

たとえ、ややこしい過去がなくたって、俺たちは結ばれている。強く強く結ばれているのだ。

だから、俺と三葉は二度と離れないほど強く結ばれなければならない。

 

「当然です。あいつには俺しかいないし、俺にはあいつしかいない」

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