「どーかこの通り!頼むっ!!!」
「いや、あのぉ…」
「俺からもこの通りだ!頼むぅ!!!!」
何だこの状況…。
ここは俺の勤める会社だ。
俺は新卒社員なのでまだまだ下っ端のぺーぺーだ。そのはずだ。
で、そのぺーぺーであるはずの俺の前でなぜか社長と課長が土下座している。光ってますよ、頭。
で、要件ってのが…。
「勅使河原建設様との契約!これはわが社にとっても大きなチャンスだ!その条件として君が必要なのだ!」
社長のスーツは土下座していたせいで汚れている。高そうなのに…。
しかし、勅使河原建設との契約に俺が必要ってどういうことだよ…。
「あの…協力するのはやぶさかではないのですが…私は何をすればよいのでしょうか?」
「いや、それがわからんのだ」
課長が正座しながら言う。いい加減居心地が悪くなってきた。
だってここ、普通の職場なんだから。司とか笑いをこらえながら見てるんだよ!
「わからないとは…?」
「言葉通りだ。とにかく勅使河原建設の社長さんが立花に会いたいと…」
「それって…」
「頼む!君だけが頼りなのだ!」
営業的なやつやんと言おうとしたら社長が改めて土下座した。
これは断れそうな雰囲気ではない…が、これではいわかりましたでは面白くない。
「わかりました…。ご期待にそえるかはわかりませんが、努力します」
まぁ何をがんばりゃいいのかわからんけど。
「つきましては…」
「あぁ。もちろん考えておる」
やっぱり昇進あるいは昇給とかないと割に合わないよね。
「この男に代わって課長なんかどうだ?」
「しゃっ、社長!?」
やったぜ。
というわけで、現在勅使河原建設株式会社本社の応接室にて社長様を待っている。
勅使河原建設の社長、勅使河原克彦は大学を卒業してすぐに家業である土建屋を継ぎ、勅使河原建設という一零細企業を業界に名をはせるベンチャー企業として会社を引っ張ってきた、業界の風雲児である。
そして、俺はその勅使河原建設と言う会社のことをこの業界について知る前から知っている。
なぜなら、この勅使河原建設の発祥は糸守町であるからだ。
よって糸守についていろいろと調べたりしてた俺はこの会社についてよく知っているわけだ。
もちろん、スケッチの中には糸守にあった時代の勅使河原建設の画も描かれている。なぜ…?
「おぅ!君が立花瀧君か!」
坊主頭で大柄な男が入ってきた。
服装はなぜか作業着。
「あ!どうもはじめまして!お呼ばれして参りました、立花瀧です!」
「そうかしこまらんでえぇぞ。今日は君と話がしたくて呼んだんや」
「はぁ…話…というと?」
「まぁとりあえずは…せやな、敬語やめてみろ」
「はい?」
何かデジャブ。
それにしても、この人もやっぱり糸守出身なんだなぁ。かなり訛っている。しかも三葉よりも。
「えぇから。何か敬語やとしっくりこんのや…」
「はぁ…ならば…何を話せばいいんだ?」
「それや!瀧!」
「はは!克彦!」
「いや、テッシーでえぇで」
「…」
テッシー…?どこかで…。
「どした?そんなにおかしいか?」
「い、いやそんなことはないぞ!テッシー」
「せや。それでえぇ。で、瀧。お前にとって建築デザインとはなんだ?」
いきなり哲学的なことを聞かれた。
「人生!」とか答えたらダメな奴だよな…えっと…。
「生きがい」
あんまり変わんねぇ…。
「そうか。具体的に建築の何が生きがいなんや?」
「それは…」
わからない。
何ていえばいいのか。
生きがいってのは確かにそうだ。でも、どうして生きがいなのか?どこが生きがいなのか?
それがわからない。
俺は思ったことをそのまま話す。
「わからない。ただ、俺はそれを見つけるために今この仕事をしている」
「ほぅ。つまり、お前はこの仕事に人生をかける理由が欲しいんやな?」
「まぁ…大げさに言っちまえばそうだな」
「ははぁ…なるほど。今日呼んだのはほかでもない。これを見ろ」
そう言ってテッシーは一枚の紙をテーブルの上に置いた。
そこにはかつて俺が描いたデザイン画が描かれている。
「うわぁ…なんつーか恥ずかしいなぁ…」
何が恥ずかしいって、建築のイロハのイの字も知らないような設計図やらデザインやらであることだ。
耐震やら利便性やらをガン無視で、ただ自分の作りたい建物を書きなぐっただけのお粗末な設計図。
こんなもの建築のプロに見せれたものじゃない。
しかし、克彦は言った。
「うまい」
「は?」
うまいってのはおいしいとかそういう意味の「美味い」なのか?
それとも…。
「俺のよりも…見る人の心を動かすデザインや。これ、お前のやろ?」
「あ…あぁ。高2のときに少し思いついたまま描いてみたんだっけ…」
「…えぇ画や。こんな建物作ってみてぇ」
「やめとけ。震度3で倒壊するぞ」
「それでもえぇ。いつか壊れるもんや」
建築会社の社長の口からトンデモナイ発言が飛び出しちまったぞ…。
しかし、当のテッシーは少年のような瞳で俺を見ながら言う。
「俺もいつかこんな建物を建ててみたいんや。俺も建築デザインやら設計図やら色々描いたことはあったが、なかなか納得のいくもんはできんかった…でも、これは…しっくりくる」
「それは、ありがたいが…」
「そこで相談や。俺と、一緒に仕事をしてくれんか!」
「は?」
それはえっとつまり…社員の引き抜きというやつか?
される側としては困ったものだ。
「何もお前を引き抜こうって言うんやない。お前んとこの社長さんにはお前がうちとタッグを組む許可はとってある!」
「え!?そんなこと社長一言も言ってなかったぞ!」
「今からとる!」
そしてテッシーはすぐさまスマホをとりだし電話をかけた。
「あ、もしもし?社長さん?あぁ。うん。気に入ったで。せやからこの瀧君貸してくれん?え?もちろん。うちとおたくはいつまでも一緒やで。おぉ!えぇんか!ほんじゃな!…というわけや」
「なーんか。お前、すげーな」
「社長なめんなよ!」
何だろう。この懐かしい感じ。
不思議と馬が合う。はじめてあったはずなのにはじめてな気がしない。
三葉と会った時と同じ感覚がする。
どうやら、テッシーも俺や三葉の記憶の断片を握っていそうだ。
「別に、俺は働くのは構わないんだが…給料とかは?」
「安心しろ。お前んとこの社長は多分俺が一言いえば給料1億ぐらいにしてくれるで」
「1億!?」
うへへぇ…1億ぅ…どんな生活が送れるんだろうなぁ…。
「いや、1億ってのは冗談やが、昇給昇進ぐらいは俺が言えばあの社長聞くで。安心しろ」
「助かる。それで、一緒に仕事するってったって、どうすりゃあいいんだ?」
「それはまたおいおいってことにする。こちらもすぐにってわけにはいかんからな。とりあえず今日はお前と話がしたかったんや」
「そうか。それで?まだ話があるんだろ?」
「…察しがえぇな」
「いかに鈍感でも察しがつくぞこれぐらい」
糸守のことだ。
どーせ糸守なんてド田舎だ。町人全員知り合いレベルだろう。
しかも、テッシーは三葉と同じ年齢のようだ。
三葉のことを知っているはずだし、もしかしたら三葉を通して俺のことも知っているかもしれないことぐらい想像がつく。
「せや。三葉からも話は聞いとるで。三葉の彼氏なんやってな?」
「彼氏とかまだそんなんじゃねーよ」
「ほぅ。まだかぁ。まだねぇ…」
「あ…」
「ハハっ!三葉と同じ反応でほっとしたわ。お前なら三葉を任せられそうやな!」
「三葉とは…どういう関係なんだ?」
「…親友かな?」
「そうか。あいつを、どう思う?」
テッシーは俺の質問に一瞬目を見開いた後、答えた。
「あいつは、よくわからん奴や」
「わからない?俺にしてみればわかりやすいやつなんだが…」
「最近会った三葉は、以前の三葉とはちがっとった。よく笑うやつやった」
「…」
それは四葉ちゃんにも言われたことだ。
最近のお姉ちゃんはよく笑う。その笑顔を作ったのは瀧さんです。ってな。
「あいつは、かわいそうな奴や」
テッシーは悲し気に言う。
かわいそうとはどういうことだろうか?
彗星災害のことならば、テッシー自身も被災者なので、テッシーが三葉をかわいそうと言うのは変な話だ。
三葉には何があったんだろうか?
それを聞こうとしたんだが、ちょうどそのとき一人の女性が入ってきた。
「テッシー!お客さん来とるよ!」
「あぁ!すまん!せやった。少し話しすぎた!悪い瀧、また今度連絡する!」
そう言ってテッシーはせわしなく出て行った。
部屋には俺とその女性だけが残された。
目鼻立ちは整っていて、ボブヘアの茶髪がふわふわと揺れている。
その女性は俺をしげしげと眺めて言った。
「あんたが、瀧君やね?」
「はい。そうですが…」
「私は名取早耶香や。一応テッシーの婚約者ってことでえぇんかな?」
「はぁ」
「…三葉にはもったいないなぁ」
「いや…三葉こそ、俺にはもったいないっすよ」
「…テッシーにしたのはちょっと早計すぎたかもしれんなぁ…」
結婚前なのに何言ってんだという発言だが、早耶香の顔は言葉とは裏腹に笑っていた。
その顔を見て瀧は思った。
三葉は、俺のことを人にどう言ってるんだろうか?
遅れました!ごめんなさい!
次回も遅れる見込みですが、よろしくおねがいします!