君の名は、   作:柚子丸

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いつぞやにわが県で私立高校一般入試が始まりましたよというお話を書きましたが、今日は公立高校の入試の日です。
私の母校にもたくさんの生徒が受験に来ていて、近所のお子さんも受験するようです。
ぜひとも合格を勝ち取ってほしいものですね。

さて、今回はanotherside storyを読んでいないと、なかなか読みにくいと思います。
ですので番外編ということにしました。


番外編1 

「二葉…」

 

宮水俊樹は墓前でつぶやく。

 

「お前は目には、三葉はどう映った?」

 

ここは岐阜県岐阜市。

糸守町が被災したため、義母の宮水一葉と共に現在は岐阜市に住んでいる。

墓地には誰もいない。時刻は夕方、いわゆるかたわれ時だ。

まもなく夜なので、お化けとかが出るかもしれない。

でも彼はじっとして、墓を見つめる。

ただ、彼は虚空に向かって話しかける。

 

「三葉は、俺が見ない間にいつの間にか…子供になってた」

 

三葉の笑顔。

見たのは何年ぶりだろうか?

俺が父親としての責務を果たさず、何もしてやれなかったがために娘は心に深い傷を負った。

俺がもう少しちゃんとしたことをやっていれば…!

今でも時折、そう後悔する。

でも、同時に俺が糸守町長としてあの場にいたのは、運命であり定めであったということも予想がつく。

俺があの日町長として町民全員を避難させられる立場にいたからこそ、死者を0にできたのだ。

二葉は生前、こう言った。

 

『あるべきようになるから』

 

彼女は亡くなる前にこう言った。

その当時は、自分は死ぬものだという発言だと俺は受け取り、そんなのはおかしいじゃないかと言ったものだが、そういう意味ではなかった。

彼女は何でも言い当てる人だった。

この世のありとあらゆる問題の解決法が記された本を持っているかのように、人々の相談に的確な答えを出して人々を救ってきた。

糸守の人々はそんな二葉を、まるで神のようにあがめた。

彼女は俺の前では一時たりとも神だったことはなかった。

俺はそんな彼女が好きだった。

でも、糸守の人々は違った。

二葉が亡くなったとき、糸守の人々は

 

『二葉さんが定めやと言うんならそうなんやろう』

 

とぬかした。

おかしい。

彼女だって人間だ。もっと悲しめよ。なんでお前たちはそんなに平然としてるんだ?

当時の俺はそんなことばかり考えていた。

そんな俺は一つの結論を導き出した。

二葉が人間らしく死ねなかったのは、宮水神社を中心とした糸守の独特な観念のためだと。

今は21世紀だ。そんなのは時代錯誤なのだ。

だから、俺は糸守そのものの社会を大きく作り変えるために町長になった。

二葉はそこまで見抜いて『あるべきようになるから』と言ったのだ。

自分が死ぬことも、それを受けて俺が町長になることも。

さらには、三葉が糸守を救うことも…。

でも…

 

「二葉、お前は一つ過ちを犯した。それは、娘を悲しませてしまったということだ。お前はそれさえも定めだと言うかもしれない。でもな、それでもお前は三葉に謝罪しなければならないと思うぞ?」

 

あの日の三葉はなんだか変だった。

昼頃に町長室に面会に来て「彗星が落ちる」と言った三葉は、三葉ではなかった。

三葉の姿をした誰かだった。

一挙手一投足すべてが、娘のものではなかったのだ。

しかし夕方、彗星が空に見え始めたころにやってきた三葉は三葉だった。

あの間、三葉になにがあったのか…?

 

「どうせお前は、全て知ってるんだろうがな…」

 

俊樹は立ち上がる。

もうすでに金星が輝き始めている。

そろそろ帰ろう。

そう思って墓に背を向けたそのとき…

 

『…あなたがかわって、謝っておいてくれるかしら?』

 

声がした。

俺の愛した人の声だ。

美しくて可憐で流麗な、とにかく俺にとって心地のいい声。

完全に体が硬直してしまって後ろを振り返ることさえできない。

こわばって動けないんじゃない、動かないのだ。

ただ、口だけを動かす。

 

「二葉か…?」

 

『えぇ。夜中の墓には霊が出るのよ?知らないの?』

 

嬉しそうな弾んだ声。聞き覚えがある。

 

「民俗学者にそんなオカルトな話が通じるとでも?」

 

俺はそっけなく返事をする。泣いてしまいそうだけど、なぜか涙は出ない。

 

『宮水家そのものがオカルト満載な家でしょう?』

 

「…まぁ、それはとにかく。不思議と体が動かないのだが…動かさせてくれないか?お前の顔が見たい」

 

ぐぬぬ…と体を動かそうとするけど、一向に動く気配がない。

 

『また、今度ね?今度、三葉が彼氏さんを連れてきたら会わせて?』

 

「そうか。なら、あともうちょっとでお前の顔が見れそうだ」

 

俺はニヤリと笑う。

 

『え?まさかあの子に…』

 

「さぁな?楽しみにしておけよ?」

 

『ふふ…そうね。楽しみにしておくわ』

 

「これは夢か?」

 

『そうね…夢…みたいなものね。覚めたらきっと忘れてしまう…でも、それでも伝えておいてくれるかしら?三葉にごめんねって』

 

「…約束する」

 

『さて…あんまり長話もしてられないし…最後にこれだけ言っておくわ…』

 

息を吸い込む音が聞こえる。間違いない。二葉はここにいる。

息遣いも体温も、全てが生々しく感じられる。

俺は絶対に聞き逃すまいと耳を澄ます。

 

『愛してるわ』

 

 




こんな話があったらいいな的なお話です。
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