瀧君がなぜお祖母ちゃんの言葉を知っているのか…?
「確認やけど、瀧君は高2のときの1度しか糸守に来たことはないんやよね?」
「あぁ。いや、行ったことはあるけど忘れちまっているって可能性も無きにしも非ずだが…可能性は低いんじゃないか?」
2016年の糸守にはすでに誰もいなかったはず…。
お祖母ちゃんも既に岐阜市に移り住んでいたので、瀧君がお祖母ちゃんに会った可能性はやっぱり低い。
じゃあなんで瀧君はお祖母ちゃんの言葉を知っているの…?
「ごめん。俺にもわかんないんだ。なんで三葉の祖母ちゃんの言葉を知っているのかは。突然、頭に浮かんだんだよ」
「瀧君はさ…何をしに糸守まで来たの?」
瀧君は少し考えて言った。
「…わからない」
「え?」
「興味を持ったから…でも説明はできるが、本当のところはどうなのかわからないからな…もしかしたらそれ自体、三葉と何か関係のあることなのかもしれない」
「私も…実は高2のときに東京に出かけたことがあるんよ」
「え?」
三葉が…東京に?
しかも俺と同じ高2のときに…?
ただの偶然かもしれないが、そこに何かしらの因果があるような気がしてならない。
「平日やったんやけどね。唐突に東京に行くなんて言い出したらしくって…それでやけに落ち込んで帰ってきたらしいんよ」
「落ち込んで帰ってきた?」
「うん。目的が達成できなかったんじゃないかな?」
「目的って?」
「ごめん。覚えてないんよ、それが」
私は高2の時に東京に行き、瀧君は高2の時に糸守に来た。
互いに目的は不明…もしかしたら互いに会いに行ったかもしれないのではないかと考えたけど、瀧君は彗星災害の3年後に糸守に来たわけで、そこに私がいないことぐらい十分に想像できるはずだ。
「お互いに、何が目的だったんやろね?」
「落ち着いて思い出していこうぜ?」
瀧君はやさしく私に言う。
「縒り集まって形を作り、捻じれて、絡まって、時には戻って途切れてまた繋がり…まるで俺たちみたいな気がしないか?」
「え?」
「俺たちは以前に何かしらの形で縒り集まって形を作った。互いに捻じれて絡まって…でもどこかで元に戻って途切れてしまい…でもまた今このように繋がっている…」
「確かに…まるで私たちみたい…」
「だろう?」
瀧君はにこっと微笑んで言う。
私は身を乗り出して瀧君にお願いする。
「ねぇ瀧君」
「?」
「さっき、糸守の以前の姿を描いたことがあるって言ってたよね?」
「あぁ…風景画は前から得意だったから…」
「見せて?」
私は迫真の表情で瀧君に迫る。
もしかしたら、瀧君の画を見れば何かが思い出せるかもしれない。
その一心で頼み込む。
ちょっ、近い!近いよ三葉サン!
その姿勢は胸の谷間とかいろいろ見えちゃうから!
そんな感じに焦ってた俺は適当に返事をした。
「あ…あぁ」
「ありがとう!で…どこにあるの?」
「…俺の家」
「行く!」
「え?」
私はほぼ初対面の男性の家に入れてくれと懇願していた。
いつもの私ならこんなことは言わないのだけど、鬼気迫っていたからだろうか。
「え…えっと、いつ?」
「この後!」
「えぇ!?」
「明日は休日だから!」
「三葉お前何言ってんだ!休日だから何なんだ!」
周りが見てるから!俺のことを見てるから!
俺、この店の常連なんだからあんまり変なこと言わないでよ!
「あ…ご…ごめん。ただ、見たかっただけなんよ」
「お…おう。なら、この後見に来るか?」
「え?」
「三葉にあの画を見てもらえば、俺にはわからないことがわかるかもしれないしさ。もしかしたら俺たちの過去を紐解くヒントになるかもしれないだろ?」
瀧君が私の意図を察してくれた。
本来ならわかってもらえて嬉しいはずなのに、なぜか私は嬉しくない。
なんでだろう?
嬉しいけど悲しそうな複雑な表情で三葉は返事する。
「う…うん」
「…どうしたの?」
「なんでもないんよ…少し考え事…」
「ふぅん」
瀧君は特に深く詮索しない。
やっぱり瀧君は優しい。
私にとっては理想の男性だ。特に気取っているわけでもなく、どちらかというとおっちょこちょいなところもあって…。あ…お互い様か。
私と瀧君は不思議なムスビで繋がっている。
でも…きっと私はそれだけの繋がりでいるのが嫌なんだ。
瀧君には過去の私ではなく今の私に興味を持ってほしい。
今の私を一人の女性として見てほしい。
きっとそうなんだろう。
あぁ…なんてことなの…私、なんで会ったばかりの人に…。
「変なこと言うかもしれないけど…聞いてくれ」
「?」
いきなり瀧君が改まってしゃべり始めた。何だろうか?
「俺は、今…すごく楽しい。今まで経験したことのない幸せを感じている。まるで赤ん坊の時のような、失ったものなど何一つとしてないと思えるほど満たされている」
私は瀧君の話を聞きながら、自分もそうであることに気づく。
私も今、とても満たされている。
「多分…俺の失ったものは三葉だったんじゃないかな?」
「…」
「俺には、彗星災害の後からなぜか、ずっと何かを失ってしまったような感覚がある。糸守に行った後からはさらにその感覚を強く感じてた。でも、今はそれが無いんだよ」
「…私も」
「え?」
瀧君が驚いて聞き返してくる。
瀧君は私に自分のことをありのままに話してくれた。
だから、私も話す。
「私も、彗星災害の後からなぜか、糸守の人々を救えたはずなのになぜか何かを失ってしまったような感覚があるの。でも、今はそれが微塵も感じられんのよ」
「…」
「失ってしまったものというのは…きっとあなた」
「俺は、もう二度と失いたくない」
「私も、もう二度と失いたくない」
「だから…!」
「でも、待って!」
「え…?」
俺の言おうとしたことを三葉が遮る。
待って!と言うからには俺が何を言おうとしていたのかわかったんだろう。
そう気づくと、俺は悲しい気持ちになる。
でも、三葉が言ったのは俺に対する拒絶の言葉ではなかった。
「まだ、言うのは早いんじゃないかな?」
「まだ…?」
「私たち、まだお互いのこと全然知らんよね?だから、もうちょっとお互いのことを知って、もっとお互いに理解しあえたときにその言葉を言ったほうが…もっと幸せになれるんやないかな?」
そう言う三葉の目には涙が浮かんでいた。
それが嬉し涙なのか悲し涙なのかは俺にはわからない。
私にもわからない。
瀧君の言葉を遮ったのも、ほぼ衝動的だった。
ただ、もっともっと私のことを知ってほしかった。
その時に言ってもらったほうが、今言われるよりも数倍幸せになれるはずだから…。
「だから、友達から始めよう?」
「あぁ…ゆっくり思い出そうって言ったのは、俺だしな。俺たちはまだ始まったばかりだ。友達から始めよう」
「友達のスタートに…ね?」
そう言って私はワイングラスを瀧君の前に突き出す。
瀧君は苦笑して言う。
「ハハ…なんだそれ、乾杯のし直しかよ?」
そう言って瀧君もワイングラスを私のワイングラスに当てた。
その音は、一切の雑音が無く、とても澄み渡った音だった。
そして私たちは心置きなく飲みまくった。
そして私は気づいた。
ワインって…あんまりガブガブ飲むもんじゃなかったことに…。
ワインを飲みすぎには注意しましょう
マジで気持ち悪い