アイドル課に飛ばされた   作:寝台

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注意!

本作品はフィクションです。現実の会社でこんなことしたら怒られるじゃ済まないので、良い子はマネしないでね。


始動

「我が346プロダクションは、大改革をする。手始めに現在進行中の全プロジェクトを解散する」

 

その日、346プロに激震が走った。

新たな常務の元宣言された非情な采配に、誰もが耳を疑った。

ある人は再考を願い出た、ある人は反発を口にした、しかし上司の決定が覆ることはなかった。

「譲歩が欲しいのであれば、結果を出してたまえ」

 

その言葉は首の皮を繋げたと解釈した者もいれば、生き残りたければ自分たちの方針に従うことを強制していると声をあげる者もいた。

だが、プロデューサーの中で共通した認識もあった。

それは、常務は自分たちの敵であること。

 

そして、常務の隣にいる人形も自分たちの敵であることだった。

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ、やれやれだぜ」

 

俺はプロデューサー室の椅子に背中を預けながら、愚痴るように言った。

その様子を見ていた速水は、アイスコーヒーを片手にからかうように言ってきた。

 

「あら、随分お疲れのようね。常務の操り人形さん」

「その言い方はやめてくれ。もう散々陰口叩かれて耳に蛸が出来そうだ。もううんざりだよ、たくっ」

「仕方ないじゃない。他から移籍してきて数ヶ月のプロデューサーが、新たなプロジェクトを任されたんだもの。うがった見方をされるのものよ」

「まあな」

 

本当にその通りだ。

実際は今回のプロジェクトの権限はすべて俺にある。しかし、俺はモデル課から移籍してきて数ヶ月。しかもその移籍を後押ししたのが常務という噂まで立ち始めた。

そんな話になっていれば、実権は常務が握っていて、俺はハリボテのプロデューサーだという話が出てきてもおかしくはない。半ば予想はしていたが、こう自分の知らないところで虚実が広められているというのは、心にモヤモヤとしたものがくすぶる。

これが勝手にデマを流される芸能人の気持ちか。また一歩近づいてしまったな。だからどうした、マジで。

まあ、正直陰口ぐらい慣れてるのでどうってことないのだが……。

 

「速水。今日クローネのメンバーが何人来るか知ってるか?」

「ええ。私はリーダーだもの。LINEで出欠は報告受けてるけど……むしろプロデューサーは知らないの?」

「知ってるぞ。渋谷さんが出席、アナスタシアさんは他の仕事で欠席だ」

「何でその2人だけなのよ……」

「人間なんて、いつまでも心はガキなのさ」

 

諦めたように、ふっと影のついた笑いがでる。

その表情から大体の事情は察したのか、速水は顔をしかめた。

そう今日はクローネのメンバーの顔合わせを本来行うつもりだった。

しかし、誰にどの時間に予定が入っているまでは俺も把握できていなかったた。そのため、参加の是非を問うメールを社内パソコンを通じて各プロデューサーに送ったのだ。

だが、返信してくれたのは武内さんのみ。他は無視である。

武内さんマジで神。後で常務にシンデレラ・プロジェクトは残すべきと進言しておこう。多分聞く耳持たれないけど。常務と武内さん仲悪いし。

そんなわけで、俺は今日来るメンバーが誰なのか把握できていなかった。

いい歳した大人が気に入らないからって仕事放棄するなよ。魔王(常務命令)召喚したろか、マジで。

 

「大変ね」

「そうだなぁ。まぁ、後で常務に相談してみるよ。スケジュール調整が(他のプロデューサーが協力してくれないから)ままなりませんって」

「一瞬で解決しそうだわ」

「まさに魔王の一喝だな」

 

代わりに俺の好感度はさらに下がり、腰巾着ポイントはうなぎのぼりである。すでにカンストしてる? 知ってる。

俺は自嘲しながら。

 

「まあ、俺1人の力なんて大したことないからな。だから、使えるものは使わないとやっていけない」

「ふふ。ささやかな抵抗も、権力をふりかざして踏み潰すなんて、完全に悪役ね」

「解釈が悪意的すぎる!?」

 

 

たしかに自分が悪役サイドにいる自覚はある。

しかもわりと小者系の悪役だ。

もしこれが、漫画や小説の世界なら、主人公サイドを見下しながら散々嫌がらせして、最後は黒幕に見捨てられて発狂して死ぬんだろうなぁ。

いや、俺やっぱり死んじゃうのかよ。

 

「ところで何の話だったかしら?」

「今日来るメンバーだよ」

「ああ、そうだったわ。今日来るメンバーは、ありすとフレデリカ、あとさっきプロデューサーが言っていた凛ね」

「少ないなぁ。俺がメール送ったの10日前なんだけど……」

 

それだけあれば、よっぽど重要な仕事以外は調整可能のはずだが。元より調整する気がないんだろうなぁ。

やはりというか、クローネへの風当たりは強い。

気持ちは分からなくもないが、アイドルたちを大人の都合で振り回すなよな。

呆れを隠しきれず、ため息がでる。

 

こんな調子で本当に大丈夫なのかね……。

 

 

 

 

しばらくすると、プロデューサー室のドアがノックされた。

よそよそしく入ってきたのは、渋谷凛だった。黒いロングの髪をしていて正統派の美少女である。

渋谷は、俺のことを視点で捉え。

 

「ええっと、はじめましてだ……ですよね? 渋谷凛……です。これからよろしくお願いします」

「クローネの担当プロデューサー、支だ。これからよろしく」

「は、はい」

 

つっかえつっかえだった。緊張もあるんだろうが、おそらく敬語を話す経験が少ないんだろうな。

 

「敬語に慣れてないなら普通に話していいぞ」

「え、でも」

「俺は最低限のマナーがあれば、礼儀にあれこれうるさく言うつもりはないからな。速水もタメ語だし」

「そうね」

 

そもそも、こいつ初対面からタメ語だったからな。そう考えると、なんとか敬語を使おうとする渋谷に好感すら覚える。

 

「あ、でも。お偉いさんには敬語使えよ? 常務とか、常務とか。俺の給料お小遣い並みに減らされちゃうからね?」

「ふふっ。なにそれ」

 

わりと笑い事じゃないんだよなぁ。

あの人容赦ないから、バッサリカットされそう。

 

「なんだか聞いてた話と大分印象違うね」

「どんな話をきいてたんだ? あ、やっぱり聞きたくない」

「協調性がない厄介者とか、結果しか見ていない冷酷な功利主義者なんかは聞いたことがあるわよ」

「何でお前が言っちゃうの? 気を使えよ。オブラート忘れるなよ」

「でも、プロデューサー。あ、シンデレラ・プロジェクトの方のプロデューサーが、支さんは信用できる人なので安心してくださいって言ってたよ?」

 

武内さん……(感動)! やっぱりあんたええ人や。

 

「まあ、武内さんほど優秀ではないけどな」

「あら、プロデューサーもしかして照れてるの?」

「感極まってる」

「気持ち悪いわ」

「泣きそう……」

「私に罵られて泣くほど嬉しい? よかったわね」

「おいこら。初対面の相手に俺が特殊性癖を持っている誤解を与えようとするな」

 

ただでさえいい噂ないのに、その上ドMなんて言われたら会社いられんわ。

渋谷は俺たちのやり取りを微笑ましげに見ながら。

 

「2人とも仲良いんだね」

「ええ、そうよ」

「まあ、俺の担当外れると勘違いして泣きそうになるほどだからな……いててて!?」

「余計なことを言う口はこれかしら?」

「ほんひょうのことだろうが!? いひゃい、いひゃい!?」

 

俺が頬を引っ張られているとき、ドアがノックされた。

 

「失礼しまーす!」

「失礼します」

 

元気よく入ってきたのは宮本フレデリカ。フランス人形のような外見をしているが、中身はコテコテの日本人だ。

続いてクールに入ってきたのは橘ありす。小学六年生で、クローネのメンバーの中では最年少である。

 

「ほほう。これは、おもしろそうな状況ですなー?」

「んなっ!?」

 

2人は俺が速水に頬を引っ張られている姿を見るやいなや、宮本は興味深そうに顎に手をやり、橘は単純に驚愕していた。

2人が入ってきたからか、速水は俺の頬から手を放した。

あー、頬がジンジンする。俺はおそらく腫れているだろう頬に手を当てながら。

 

「はじめまして。プロジェクトクローネを担当する支だ。よろしく」

「よろしくお願いしまーす」

「よろしくお願いします」

 

宮本は聞いていた通りフリーダムな性格が挨拶に見え隠れしていた。

橘も大体聞いていた通り同年代より落ち着いている雰囲気だった。ちょっと怪訝な顔されてるけど。

 

「これで全員だな」

「あれ? クローネのメンバーって15人くらい、いなかった?」

 

渋谷が聞いてきた。

 

「本当なら、今日はクローネのメンバーの顔合わせをしようと思っていたんだが、生憎みんな忙しくてな。今日はこの4人のみだ」

「ふーん。そうなんだ」

 

 

腑に落ちていないさそうだったが、それ以上は聞かず渋谷は引き下がった。

会話の流れが止まったとき。

「あの、1ついいでしょうか?」

 

橘が手を挙げてきた。

 

「どうした? 何か質問か?」

「はい。私はこのクローネはアーティスト面を重視するプロデュースをすると聞いたんですけど、バラエティ番組に出ないで売れることってできるんでしょうか?」

「その心は?」

 

先を促されると思っていなかったのか、橘は目を見開いていた。しかし、すぐに我に返り。

 

「最近のテレビの流行はバラエティ番組が中心です。特に売れているアイドルはバラエティ番組で何本もレギュラーを持っていますし。正直、時代遅れのように思います」

「……うん。なるほど」

 

思ってたよりしっかりした疑問だった。

ちらりと他に視線を向けると、宮本も渋谷も似たようなことを考えていたのかこちらを真剣に見ていた。

利発そうな見た目をしているが、そのまんま頭がいい子らしい。

そして、大人にも自分の意見を言える強さ。これが彼女の個性か。

そして相手が本気なら、俺も本気で返さなくてはならない。

 

「ぶっちゃけ、俺も時代遅れだと思うよ」

「ええ!?」

 

俺のぶっちゃけに、橘はキャラにない素っ頓狂な声を上げる。傍観していた渋谷や宮本も驚いていた。

 

「まずアイドルの性質的にバラエティ番組は相性がとてもいい。アイドルはどうしても親しみを与えるキャラが好まれる傾向にあるから。その上でバラエティは人間味を笑いに変えながら出せるからね。効率よく人気を上げるならバラエティはとても有効な一手だ」

 

一度水を含む。

 

「でもね、それで上げられる人気は、プロジェクトクローネの求める人気とは違うんだ」

「求める人気……ですか?」

「そう。クローネの真の目的は、アイドルの新たなファン層の開拓なんだ。そのためにはバラエティを定期的に見ている層ではなくて、純粋なアーティストを好む層を取り込まなくてはならない。だからあえてリスクの大きな制限をかけることをコンセプトにしているんだ。……納得してもらえたかな?」

「はい。なんとなくは」

「まあ、難しい話だからな。一回で全部理解できないのは仕方ないさ」

 

俺はアイドルたちを一見して。

 

「俺は、まだまだプロデューサーとしては未熟な存在だ」

 

「人望もないし、能力もない、実績もない。ないない尽くしだ」

 

「それでも、泥舟を見分けられないほど愚かではない」

 

「俺はこのプロジェクトは必ず成功すると思っている」

 

俺は手を前に差し出して。

 

「こんな俺だけど付いてきてくれるかな?」

「あら、私は元よりそのつもりだけど?」

 

速水はそう言いながら他の3人に目を向けると、3人は静かに頷いた。

 

「オッケー。まだ全員じゃないが、プロジェクトクローネ始動だ!」

「オー!」

「「オ、オー ……」」

「ふふ。楽しそうね」

 

お前ら、そこは合わせろよ。

 




基本的にはフレデリカ、ありす、トラプリ娘がサブキャラとして登場します。

基準は自分の好みです。
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