アイドル課に飛ばされた   作:寝台

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デビュー目指して、その1

まだまだメジャーデビューはしていないが、俺のパイプを駆使して速水は順調にメディアへ顔を売っていった。

最近ではパイプ外からも仕事の依頼が来るようになっていた。まだくるのは撮影の仕事が大半だが、それでも新人にしてはかなり早いキャリアらしい。

1度流れが来れば、俺の仕事はその流れを断ち切らずさらに大きな流れにすることだ。

しかし、やってることマネージャー時代と大差ないな。

だが、自分が担当しているアイドルが、他方から評価されるのは素直に嬉しい。それもモデル時代と同じだな。

しかし……。

 

 

『速水奏。CDデビュー案』

 

 

ここからは俺にとって未知の世界だな。

俺は、プロデューサー室で1人黙々と書類を見通すのだった。

 

 

 

 

◇

 

 

 

企画の説明をするために、俺はレッスン終わりの速水をプロデューサー室に呼んでいた。

 

「CDデビュー……?」

 

と、速水は信じられないとばかりに怪訝に言った。相変わらず現実観の強いやつだ、自分がどれだけ新人アイドルのステップを飛び越えているのか自覚がないらしい。

かくいう俺も、急な話しすぎで理解が追い付いていなかった。

なんせ、まだ速水の担当になって一月と少ししか経ってないのだ。

いくらアイドルをプロデュースするのが初めてでも、それがどれだけ異例なことかは重々承知している。

しかし、上からデビューを提示されては断るわけにもいかない。ここで変に先伸ばしにして、上の心証悪くして速水が干されるなんて話になるのはごめんだ。

なので、気は進まなかったが、速水にはこの特例処置に乗ってもらうしかないのだ。

 

「そうだ、CDデビューだ。歌詞と楽曲はまだ届いていないが、早くて一月遅くても二月後には、お前はCDデビューをすることになる。さらにそれに合わせてライブもすることになるだろう」

「……さすがに早すぎない?」

「お前の心配はもっともだ、俺すらもデビューなんて早いと思う。だが、上の提示を断るとこれからの活動に支障が出るかもしれない。分かってくれ」

 

覆せない決定事項なのだと伝えると、速水は不安そうに顔を歪めていた。

他のプロデューサーの話を聞けば、アイドルのCDデビューのタイミングはプロデューサーに一任されているらしい。

だが、今回の速水の件については直接命令されたのだ。これだけで、今件の異例さがよく分かる。

要するに上の判断では、俺に任せるのは不適切ということだ。

情けない……。自身の評価の低さで、担当アイドルに迷惑をかけるなんて。

俺は、気がつけば速水に頭を下げていた。

「……すまない、俺がまだ信用されていないばかりに、お前に負担を強いる結果になってしまって」

「……プロデューサーのせいじゃないわ。なんて言っても、あなたは救われないのよね」

「当たり前だ。今回の話は、俺の信頼度の低さが起こしたことだ。俺の責任以外あり得ない。お前が望むなら、出来る限りその望みを叶えるために尽くそう。それが、俺が出来る唯一の償いだ」

「償いだなんて、大袈裟ね……」

 

俺に呆れた視線を送ったあと、速水は数十秒考えて。

 

「そうね、ならデビューが成功して仕事が一段落したら、私の買い物にでも付き合ってもらおうかしら」

 

成功して……か。

 

「……そんなことでいいのか? もっと高い要求でもいいんだぞ、回らない寿司屋連れてけ、とか」

「いいわよ。これでも私高校生なのよ? 回らない寿司なんて気が引けるし、買い物で十分よ」

 

俺の知ってる高校生は、総じて寿司だ焼き肉だと奢らせまくったがな。

モデルとアイドルで精神年齢に差がありすぎる件について、いや速水が特別なのか。

 

「……そうか。ならその方向で検討しよう。まずはデビューを成功させなきゃな」

「えぇ、買い物がかかってるものね」

 

速水は買い物を妙に楽しみして張り切っていた。

意外に子供っぽいところがあるんだな。俺は少しほっこりとした。

 

 

 

◇

 

 

 

「それにしてもどうするか……」

 

 

俺はデビュー案の書類を見ながら頭を抱えていた。と言うのも。

 

 

『デビューに際してのステップ。

 

1、宣伝

 

2、ステージの確保

 

3、デビューライブ』

 

初めて見たときは、なめんなと書類を破いて捨てたくなったが、そこは理性を保ち直前で食い止めた。

簡素で分かりやすいが、それが逆に不親切だ。

モデル時代は、ステージの確保など勿論したことがないし、宣伝も写真を載せるのが最大の宣伝だった。

要するに何をどうすればいいか分からない。

八方塞がりだった。

速水は必死にボイス、ダンスレッスンを特訓しているというのに、俺はなんて情けない男なんだ。

おっと、マイナス思考になりすぎない。

俺の悪い癖だ。

「コーヒーでも買ってくるか」

 

俺は気分転換のために、自動販売機へと向かった。

 

 

 

 

◇

 

 

 

ガコンと飲み物が落ちてきた音が響いた。

俺は購入したブラックコーヒーを取り出すと、おもむろに口を開けて一気に飲み干した。

苦味が口の中に広がると、心なしか頭が冴えてくるような気がした。

 

「はは。いい飲みっぷりだねぇ」

「ブフッ! 今西……ゴホッ、部長……ゴホッ!」

「まぁまぁ落ち着いて」

 

俺は息を整えて、改めて今西部長に向き合った。

 

「お久しぶりです今西部長。お見苦しいところを見せてすいません」

「気にしていないよ。それよりも相変わらず喋りが堅いね君は」

「そんなに堅いでしょうか? 自分では畏まりすぎないようにしているのですが……」

「私はどちらでもいいと思うがね。人によっては、そういう喋りを快く思わないかもしれない」

 

そういうものか……。

俺は上司にはしっかりとした敬語を使うべきだと思っているが、それを堅いと感じる人もいる。

勿論フレンドリーなんて求めていないだろうが、距離がありすぎるのも違うということだ。

要するに堅すぎず馴れ馴れしぎない、中庸が一番いいということだろう。

「まぁ、真面目なところも君の長所だ。それを無理に変える必要はないさ」

「そう……でしょうか……」

「ああ。たしかに君を嫌う人間がいたかもしれないが、それ以上に君を好意的に思った人がいるだろう。速水くんが、あんなに早くメディアに出れたのも君の人望があってこそだ」

 

どうやら今西部長は、俺のパイプのことは知っているようだ。

そしておそらく過去も。

 

「だからこそ、デビューの話もきたんだろ? 」

「ご存知だったんですね。……はい、たしかに速水にはデビューの話がきました。本人もやる気になっています。ですが、自分はどう彼女を導いていいか分かっていません。どうしたらいいでしょうか?」

「……それは私に聞かれてもなぁ。すでに現場から身を引いた老兵だからね、すまないがお役にはたてないな」

 

申し訳なさそうに言われてしまった。

仕方ない、そんなに人生は甘くないということだろう。

諦めて、プロデューサー室に戻ろうとしたときだった。

 

「だが、君の求める答えを知っている人物なら知っているよ」

「……え!? そ、それは本当ですか!?」

 

予想外の言葉に、つい今西部長が少し引くぐらいつめよってしまった。

今西部長は、頬をひくつかせながら。

 

「あ、ああ。彼は現在多数の新人アイドルたちをプロデュースしている」

 

 

「シンデレラプロジェクトの武内くんだ」

 

 

 

 

◇

 

 

 

今西部長に連れてきてもらったのは、30階にあるシンデレラプロジェクトの事務所だった。

シンデレラプロジェクトとは、オーディションやスカウトによって集めた14人の新人アイドルを多方面にプロデュースするという、346プロの肝いりのプロジェクトだ。

そしてそれを任されたのがこの企画の発案者でもあり、これから会う武内Pである。

ドアをノックして入ると、中には誰もいなかった。アイドルたちは全員外出中らしい。

 

「今の時間なら、彼もいるだろう」

 

そう言って今西部長は、プロデューサー室と書かれたドアをノックする。

すると中から男の低い声で「どうぞ」と返ってきた。

ドアを開けると、中では目付きの鋭い男がこちらをジトと睨んでいた。

一瞬体が逃げそうになった。

 

「やぁ武内くん。プロジェクトの方は順調そうだね」

「ご無沙汰しています今西部長。いえ、まだまだだと思います。彼女たちの輝きはあんなものではありませんから」

 

……輝きとかデフォルトで言っちゃう人らしい。ヤクザみたいな見た目で、意外にロマンチストなのだろうか?

武内さんは、俺を気にするようにちらりと視線を向けた。

 

「……そちらの方は?」

「ああ、言い遅れたね。彼は支くん、最近モデル課から転属してきたんだ。聞いたことないかい?」

「いえ、名前は聞いたことがあります。速水さんの担当ですよね」

 

そう言って、武内さんは丁寧に頭を下げた。

 

「はじめまして武内といいます。支さんの噂は聞いています。とても優秀な方だと」

「それは違いますよ。自分はまったく優秀ではありません、自分の担当アイドルが優秀なんです。自分はデビューの手順も知らない素人ですから」

「というと?」

「実はね……」

 

そうして今西部長は、武内さんの俺の抱える悩みを話した。

武内さんは最後まで真剣な顔をして聞き、話が終わると数十秒考える格好をしてから。

 

「なるほど、デビューについてですか……。私も新人の時には大変苦労したので、支さんの気持ちはわかります」

「ありがとうございます」

 

こんな仕事の出来る人でも、右も左も分からないときがあったのか。

少し安心した。

 

「そうですね……。ステージの方は責任者との交渉でどうにかなるでしょうが、宣伝の方は……。やはりテレビ出演が効率的だと思います」

「それは自分も考えましたけど、今から枠を取るのは厳しいですね……」

「ネックなのは時間ですか。速水さんはかなり早いデビューとなるので、そうなるとどうしても時間が足りないですからね」

「それにライブの宣伝となれば、地上波が望ましいですからね。さらにハードルが上がります」

 

3人で深く唸っていると、武内さんが「そうだ」と呟いて、何やらファイルを取り出してきた。

そして、その中にあった書類を1枚手渡してきた。見てみると。

 

『アイドル発掘! きらめけ明日へのシンデレラ!』

 

と銘打ってあった。

どうやら346内のスタジオでやる企画らしい。内容は新人アイドルの発掘?

 

「それは、今度実験的に行う特番の企画書なのですが、デビュー前の新人アイドルたちに、歌やダンスを披露して順位を競ってもらうという内容です。そして優勝すれば、30秒の宣伝枠をもらうことが出来ます」

「ということは、これで優勝すれば、宣伝が可能と言うことですか?」

「そうです。シンデレラプロジェクトからも出演しますが、参加アイドルが少ないという話でしたので、速水さんなら審査も通ると思います」

「あ、ありがとうございます!」

 

俺は勢いよく頭を下げ、いてもたってもいられず部屋を飛び出た。

よし! デビュー成功のために頑張るぞ速水!

 

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