アイドル課に飛ばされた   作:寝台

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デビュー目指して、その2

 

「速水。お前のテレビ出演が決まった」

 

 ある日俺は速水をプロデューサー室に呼び出して、唐突にそう伝えた。

 速水は一瞬ぽかんとし、すぐに我に返ったが微妙な表情で。

 

「......また突然ね。それも上からの指示かしら?」

「違うよ、これは俺が取ってきた仕事だ」

 

 正式に決定した番組の企画書を手渡す。

 

「『新人アイドル対抗歌合戦』。優勝者には三十秒の宣伝タイム。内容は各自自由......ね。なるほど、最近プロデューサーが忙しそうにしていたのはこれのせいだったのね」

「まあな」

 

 本当に大変だった。さすがに知名度もまったくないアイドルを出しても視聴率はとれないので、速水の実績をまとめた書類を作成して、速水の魅力を説明して、歌唱力ダンス力などもビデオで見せて、ようやく審査が通ったのが分かったのが今日なのだ。

 武内さんは簡単に言っていたが、なかなか厳しいものだった。いや、アイドルの番組出演はいつもこれぐらいなのかもしれない。

 モデルは大体バラエティーしか出ないが、アイドルは幅広いからな。これからも覚悟が必要になるな。

 

 

「要するに私にはこれで優勝して商品をかっさらえばいいのね」

「かっさらうって、お前......。他に言い方あるだろ」

「じゃあ、強奪かしら」

「......ああ、うん。かっさらうでも強奪でもいいから、とりあえず優勝狙おうな」

「ふふ、そうね。頑張るわ」

 

 俺の投げやりな態度に、速水は楽しそうに微笑んでいた。 

 そして話は番組で使う曲に移る。

 

「今、ボイスレッスンでやっているのは『お願いシンデレラ』、『とどけアイドル』だったな。なら、このどちらかを使うのがベターだが......」

「何か問題があるの?」

「まあな。他のアイドルたちも新人だからな、同じ曲を使う可能性が高い。そうなると一つでも自分の曲を持っているアイドルが有利になる」

 

 実際武内さんのプロジェクトのユニットは、デビュー曲を初披露するって話だからな。それで、もし優勝できなくても宣伝になるってことだ。やっぱりあの人やり手だわ。

 そして理由はもう一つある。

 

「それと、その二つの曲は速水のイメージに合ってない」

「イメージ?」

「ああ。その二つの曲はどちらも爽やかというか、元気な女の子の曲なんだ。だが、速水のイメージはそれとは違う」

「じゃあ、私はどんなイメージなの?」

「色気たっぷりのエロいおん......待て、待ってくれ! 俺が悪かった、だからその携帯を仕舞え!」

「......セクハラよ。担当アイドルにセクハラなんて、この変態」

 

 ごみを見るような視線を送ってくるが、まったくゾクゾクしない。むしろ別の意味で寒気が......。

 あと赤面して純情ぶってるが、初対面でキスしようとしてきたのに今更だと思う。

 前はこのくらいの軽口笑って流してたのに、どんな心境の変化なんだ。

 

「すまんすまん。だが、イメージが違うのは本当だ。だから、お前にはこの番組で新曲を歌ってほしい」

 

 横に置いてあった機械を机に乗せて、イヤホンを速水に渡す。

 速水はぶすっとした顔をしていたが、イヤホンを素直に受け取っって耳につけた。

 俺は耳が痛まない程度に音量を上げて、原曲を再生した。

 そして約4分ほどの曲を聴き終わると。

 

「......たしかに、いい曲ね。とても大人っぽいメロディーだわ」

「あとは歌詞を付けるだけだが、イメージはもう伝えてある」

「......気が進まないけど、聞いた方がいいのよね。どんなイメージ?」

「恋人とホテルで夢のような一y......」

 

 速水は俺が言い切る前に無言で部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

「アイドルとケンカしました」

「そうですか、大変ですね」

「最近は口も聞いてくれません。でも仕事はこなしてくれます」

「何だが、夫婦喧嘩みたいですね」

 

武内さんのよく分からない言動はスルーさせてもらう。

どこが夫婦だよ。

真面目に相談しているのだから、ちゃんと乗ってほしい。わざわざシンデレラプロジェクトの事務所まで来たのに、こんな塩対応は堪えるぞ(本人にそのつもりはなさそうだが)。

 

「どこが悪かったんでしょう……。自分は彼女が輝くイメージを伝えたつもりだったのですが」

「私には、その時の状況を知らないのでハッキリとしたことは言えません」

 

と前置きして。

 

「ですが、あなたの抱く速水さんへのイメージと、速水さん自身が目指すアイドル像にどこかズレがあったのかもしれません」

「イメージのズレ……ですか?」

「はい。私たちはあくまで彼女たちを輝かせる手助けを、言わばシンデレラに魔法をかける魔法使いのようなものです。しかし、シンデレラがその魔法を気に入るかどうかは、保証されていません」

 

言葉がキラキラしていて今一緊張感に欠けるが、武内さんの言葉は何となく理解できた。

マネージャー時代も何度か同じことがあった、といってもクライアントとだが。写真の構図や衣装をめぐってクライアント相手に大喧嘩して、仕事を潰してしまうこともあった。あの頃は若かったな……。

「私が思うに、モデルは見た目で人々を魅了します。しかし、アイドルは見た目だけでなく内面から溢れ出てくる輝き……笑顔で人々を楽しませるものだと思います」

「見た目でなく、中身」

 

そういう意味では、俺は速水のことを最初から見た目しか見ていなかった。

大人っぽい、歳不相応な色気、勝手な自分の解釈で進めてしまった。

今俺が相手しているのは、モデルじゃない。速水奏という人間なのに。

 

「これが俺の愚かさなんだろうな……」

 

俺の呟きに反応するように。

 

「……昔、あなたと同じ壁にぶつかった男がいました」

 

突然何かを語り始めた武内さんに、俺は面を食らったように驚いた。だが、口を挟めない。そんな空気を感じた。

武内さんは話続ける。

 

「その男は、アイドルたちを輝かせるために自分が持てる力を全て尽くしました。それにアイドルたちも答えるように人気を上げていきました」

 

「しかし」と武内さんは、そこを強く読んだ。

 

「その男は、壁にぶつかりました。それはアイドルたちと自分の考え方のズレ。兆候はありました、だんだんと彼女たちは心からの笑顔を見せなくなっていたのです。しかし男は自分が頑張れば、彼女たちも笑顔に戻ると信じていました、愚かにも」

 

そこで武内さんは、トーンを落とした。

 

「そして気がつくと、アイドルたちは殆どいなくなっていました」

 

俺はごくりと喉を鳴らした。

なぜならそれは俺もあり得ることだから、そして()()()()()()()()()()()なのだと分かったから。

 

「彼女たちには総じて言われました、キラキラしたステージのはずなのに楽しくないと」

 

呆然とする俺をよそに、武内さんは顔を上げて。

 

「支さん、あなたはまだやり直せます。速水さんと向き合えば、今なら戻れるはずです。以前のあなたたちに」

 

その時の武内さんの顔は、どこか寂しそうだった。

 

 

 

 

 

次の日、俺は速水の高校の前に、車を停めて待っていた。

スーツ姿の男が立っているのが珍しいのか、下校中の生徒たちから視線を感じる。しかも、大体が好奇の目で見てくる。

そろそろキツいな……と思ったときだった。

横から肩に手をかけられた。

 

「君、ちょっと話を聞こうか?」

 

声の方を見ると、警察の方が犯罪者を見る目で睨んでおりました。

 

 

 

 

 

「ですから、自分は346プロ所属のプロデューサーなんです! 今日はここの高校に通ってる、担当アイドルを迎えに来たんですよ! 会社に確認してもらえば分かりますから!」

「はいはい、多いんだよね最近、そうやってプロデューサーだって言い訳する人」

 

警官は俺の話をまったく取り合ってくれない。

しかも運の悪いことに、今日は名刺を忘れてしまい、会社の人間だと証明できない。

まずいな、このまま連れていかれたらどうなるんだ俺?

どうすればいいか分からなくて、警官の追求に冷や汗をかいていると。

「プロ……デューサー……?」

 

久し振りに聞いた声に、俺は救いの女神が現れたかのように勢いよくその方を見た。

アイコンタクトなど出来ないが、俺は目で必死にこう言った「助けてください」と。

そして。

 

「えっと。よく状況は飲み込めないけど、多分誤解だと思うわ」

「先程、女子高校生の身体を舐め回すように見る怪しい男がいると通報があったのですが」

「お巡りさん。この人です」

「待ってくれえええ! 誤解だあああああ!」

 

この後、滅茶苦茶言い訳した。

 

 

 

何とか警官の誤解を解いた俺は、速水を連れて近くの駐車場のついたカフェに入った。

そして席に案内された途端に、俺は椅子にもたれ掛かった。

 

「ああ……疲れた……」

「バカね。スーツ姿の男が、校門の前に立ってたら誰だって不審に思うわよ。しかも女子高校生をじろじろ見てたら事案で決定だわ」

「誤解があるようだが、俺はイヤらしい目で見てたわけじゃない。ただ、つい女性を見ると仕事のことを考えて、観察してしまうだけだ」

「十分不審者じゃない」

 

……何にも言い返せなかった。

 

「それで、急にどうしたの? たしか今日はオフのはずでしょ。何か急な仕事でも入った?」

「いいや、違う。今日はお前と話がしたいと思ってな」

「ふーん。……話……ね」

 

速水は目を細くして、こちらを睨むように見てきた。

敵意ではない、俺を試すような、そんな目だった。

 

「最近お前が俺に対して不満があると思う」

「そうね」

「そして、その不満とは俺がお前にイメージを押し付けたことか?」

「いいえ。私は押し付けられたとは思ってないわ」

 

そこで否定が入った。

俺は、予想外で少し驚いたが、自分の予想など当てにならないのを知っているので、すぐに立ち直った。

速水は言葉を繋ぐ。

 

「もっと言えば、小悪魔系アイドルは自分にぴったりだと思ってるわ。そこに不満はないし、むしろ誇りに思ってる」

 

『じゃあ、何で……?』

と聞きたかったが、聞くのも失礼に感じて躊躇われた。

そんな俺の心情を見透かしたように、速水は微笑んだ。

 

「私ね、高校生に見られないの」

 

いきなり何を言い出すかと思えば。

たしかにその通りだった、俺も初見では速水の歳は間違えだと思ったものだ。

 

「中学生の時の修学旅行では引率の先生に間違えられたし、小学生のときはバスの運転手に小学生料金を断られたわ」

 

しかも、中学生のときは制服だし、小学生のときはランドセルをしょっていたらしい。

それは……さすがにすごいな。そんな小さな時から、色気を持っていたのか。ちょっと速水の昔の写真に興味がわいた。

 

「けっこう傷ついたのよ。回りのみんなは『奏は大人っぽいから』って言ってくるけど、何だか私だけ違うって宣告されている気持ちだったわ」

 

今思えば、速水が仕事の時にいつも制服姿だったのも、そのせいかもしれない。

自分のことを正しく知ってほしいと思っていた、ということだろう。

 

「しかも、そんなせいか男の人からの誘いが多くて、面倒だったの。そのせいか、制服着るのが癖になってしまったわ」

 

……らしい。

もう、予想したくなくなった。

 

「でも、プロデューサーは違ったでしょ?」

「そうか? 俺も速水のことは大人っぽいと思ったぞ?」

「そうじゃなくて、しっかり高校生として私を扱ってくれたじゃない。遅くなる前に帰らせるし、なっても送ってくれるし、それに軽々しく距離を近づけてこないしね」

「そりゃあ、仕事だからな」

「それでも、けっこう嬉しかったのよ? こんな男の人もいるんだって、思えたわ」

 

そう言って、速水は顔を綻ばせる。

思っていたよりも高評価で俺も照れ臭かった。

 

「だから、CDイメージの時に言われた言葉はショックだったわ。何だか裏切られたみたいな気持ちになったもの」

「……悪かった」

「いえ、もう気にしてないわよ。反省もしてるみたいだしね。それに私のことを考えて言っていたのは分かってたもの」

 

それを聞いて、俺は救われる思いだった。

言いたいことは終えたのか、速水は身体を伸ばしながら。

 

「こんなに自分のことを人に話したのは初めてだわ。プロデューサーに私の初めてもらわれちゃった♪」

「楽しそうに誤解を生むことを言うな。捕まるぞ、俺が」

「その時は面会ぐらいは行ってあげる。着替えを持ってね」

「お前は俺の奥さんか……」

「ふふ。それも面白そうね」

 

一瞬飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになったが、ギリギリで持ちこたえた。

そして速水を恨みがましく睨みながら。

 

「お前なぁ……」

「冗談よ。そんなに照れないでよ」

 

そう言って席から立つ速水、俺もつられるように椅子から立ち上がった。

「家まで送っていくよ。俺は、お前のプロデューサーだからな」

「そう、ありがとう」

 

会計を済ませて、俺は速水を車に乗せて家まで送っていった。

 

「着いたぞ」

 

そして、家に着いたので車の後ろドアを開けると、速水は外に出た。

そして門に入ったところで後ろを見て。

 

「二度目はないわよプロデューサー。しっかりと私を見てね」

 

と、世界中の男が見惚れる笑顔で言ってきた。

 

なるほど、『内面から溢れ出る輝き』ね。こういうことか。

 

俺はその日、プロデューサーの道の1歩目を踏み出したような気がした。

 

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