アイドル課に飛ばされた   作:寝台

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歌詞の転載って駄目らしいけど、歌い出しの少しも駄目なのだろうか?


デビュー目指して、その3

右折曲折ありながらも、ついにやって来た速水の初番組の収録日。

俺と速水は、当てられた楽屋でリハーサル待ちをしていた。

担当アイドルの初番組とあって、俺は柄にもなく緊張していた。

出演もしない俺でこれなのだ、速水も緊張しているだろうと思っていた。

 

「プロデューサー、お茶を淹れたけど飲むかしら?」

「あ、ああ。ありがとう。わるいな」

「気にしないで、好きでやっていることだもの」

 

そう言って微笑む速水。

そう速水に緊張した様子は見られなかった。むしろ、いつもより機嫌がいいまであった。

お茶を淹れてもらうなんて初めだ。

ちょっと感動。

俺は少し涙ぐみながら、速水が淹れてくれたお茶を飲んだ。

 

「ぶふふふっっ!!? にっがあ!?」

 

思わず吹き出してしまう。

それくらい淹れてもらったお茶は濃かった。

「えぇ!? ……ごめんなさい、茶葉の分量間違えてたみたい」

 

急須の中を確認した速水は、本当に申し訳なさそうにしていた。

いつもの速水ならこんなドジは踏まないだろう。

そもそもお茶を淹れるなんてしないだろう。

そして心なしか行動が落ち着かない。要するに……。

 

「お前顔に出さないだけで、実は緊張してるだろ」

「………………そうね」

 

認めながらもけして表情は崩さない様子に、俺は笑うしかなかった。

「笑うな……」

 

顔を赤くしながら抗議してくる。

しかし、まったくこわくない。それよりも萌える。

「お前も緊張することがあって、安心したよ。速水も普通の女の子なんだな」

「喧嘩を売っているのかしら? 今は余裕がないから、いつもより仕返しが過激かもしれないわよ」

「おお、こわいこわい」

 

笑い半分に返すと、速水は拗ねたように顔をそっぽ向かせた。

緊張を吹き飛ばすには、怒りが一番らしい。

その証拠に速水は、すでに緊張した様子はなく、いつも通りだった。

そういう意味では、俺の行動はもっとも正しいといえる。

しかし、これ以上は終わった後のことがこわいので止めておこう。

俺は話題を変えた。

 

「そういえば速水。どうだった、俺の考えた歌詞は?」

 

時間的な問題でプロに任せることが出来なかったので、歌詞の原型を考えたのは俺だった。

自分で言うのもなんだが、自信作だった。

 

「ああ、あれね。アイドルに歌わせる歌じゃないって、トレーナーさんも苦笑いだったわよ」

「それ初耳なんだが……。どこが悪かったんだ? 俺の中の速水のイメージをそのまま書いたんだが……」

「もし本当にあれが私のイメージだと言うなら、プロデューサーは相当な変態ね」

「なんで!?」

 

たしかに際どい言葉も書いた気がするが、そこは確認してもらったから問題ないはずだ。

なのに変態って……。

 

「でも」

 

速水は、続けて。

 

「プロデューサーが、私のことを理解しているのは伝わったわ」

 

そう言った、いつもながら見惚れる笑顔で。

褒められたので、俺の顔も緩んだ。

 

「それはよかった」

「だけど1つだけ違うところがあったわね」

「違うところ? どこだ?」

 

速水は、「ふふ」と軽く笑い。

 

 

 

 

 

「私はどこかに行く気はないわよ、プロデューサー」

 

 

 

 

 

 

 

「武内さん。うちのアイドルがかわいすぎる件について相談が」

「大丈夫です、支さん。あなたは正常です」

「対応が冷たい……」

「自慢話を聞いている時間がないので、すいません」

 

つれないことを言って、武内さんは書類に目を戻した。何だかんだ、話すときはこちらを見てくれるから、嫌われてるわけではない……と思う。というか思いたい。今の俺は、アイドル課に武内さんほど話せる人がいないから。嫌われたら、俺泣いちゃう。

とまぁ、俺の人間関係は脇に置いておくとして、 書類を確認しよう。

今俺が手に持っている紙は、今日の番組のルールだ。事前にさわりは伝えられているが、こちらは順位決定などの細かなことだった。

 

この番組は生放送だ。

新人アイドルに生放送なんて酷だと思うかもしれんが、録画の場合審査員をたてて、その評価で順位を決めることになる。

だがアイドルは、どんなにプロの評価を得ようとも、最終的にはファンに受け入れられなければならない。

ならば、生放送で直接ファンの投票で決めてもらおうという話だ。

投票方法は、テレビのDボタン投票やホームページを使ってのネット投票。

固定ファンの少ない新人アイドルだから、公平性を保てる方法だな。

書類に書かれたルールとと自分聞いたルールとに違いがないことを確認し、もうすぐ本番だと速水を呼ぶために控え室へ戻ろうとしたときだった。

 

「すいません、支さん!」

 

番組AD大慌てで呼び止めてきた。

俺はその剣幕に、内心頚を傾げながら。

 

「どうかしましたか?」

「じ、実は1番目と2番目に出演予定だったアイドルが、倒れてしまったんです!」

「なっ!?」

 

たしかにその二人のアイドルは、リハーサル中も顔色はよくなかった。

いつか倒れるのではないかと心配だったが、まさか本当に倒れるとは。

 

「幸いにも過度の緊張で倒れただけなので、休めばぎりぎり番組には間に合うと思います」

「それはよかったです。……しかし、それではその二人の順番を後ろに回すしかないですね」

「……開始に間に合わなければ、そうなります。その場合、3番目に出番予定だった速水さんなんですが、最初に繰り上げになります。なので、心の準備をお願いします」

 

ADは足早に去っていった。

おそらく、俺と口論になって話が拗れるのをおそれたのだろう。

だが、俺に怒るような余裕はなかった。

最初、3番目というのはいい順番だと思っていた。

1番、2番によってステージが暖められ、テレビの投票者も飽きずに見ているという条件のいい番号だった。

 

だが、このままなら1番目。

それは避けたい所だった。

なぜなら、番組というのは中盤がピークで視聴者を増やすもの。

しかもステージは空気が出来ていない。

人前で初めて歌う速水には、悪条件しかなかった。

俺は、重くなった足を引きずって、控え室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう」

 

それが順番の繰り上げを聞かされた速水の言葉っだった。

あまりに簡素で、感情を感じられない返事にどう反応していいか困ってしまう。

俺は戸惑いながら。

 

「それだけか? 倒れたアイドルに文句を言ってもいいんだぞ。よくも倒れやがって、うちの速水に迷惑かかるじゃないかって」

「それはプロデューサーの文句じゃない」

 

おっと、つい本音が。

誤魔化すように小さい咳をして。

 

「それは冗談としても、本当に大丈夫か?」

「正直に言って、不安はあるわ」

 

だろうな。ないほうがおかしい。

 

「でも、それ以上に楽しそうじゃない」

「楽しそう?」

 

何とも状況にそぐわない言葉に、俺はオウム返しに言った。

 

「えぇ。だって私は、他のアイドルとは違うんでしょ? なら、ステージが何色にも染まってない最初を私の色に染め上げるのって、おもしろそうじゃない」

 

速水の口ぶりは、本当に楽しそうだった。

頼もしい担当アイドルに、俺の重かった足も羽が生えたように軽くなっていった。

速水なら大丈夫だ。

そう確信したとき、楽屋のドアがノックされた。

 

「速水さん出番です。お願いします!」

ドアが閉められた。

速水は、羽織っていた上着を脱いで、俺に渡してくる。

まだ、生暖かい。

「嗅いじゃだめよ?」

「嗅ぐかぁ!」

 

お前の中で、俺はどんな変態認定されてるんだ。

右腕だけ組むように、上着を抱えていると。

 

「プロデューサー。どうかしら、この衣装?」

 

速水は、今回のソロ曲の衣装を両手を開いて見せてくる。

紺色にキラキラとした装飾のドレスは、速水のJKらしからぬ色気を引き出していた。それこそ前に撮った写真をも越える妖艶さ。

 

「率直に言って、エロい!」

「帰るわ」

「待って、いや待ってください! 本当にすいませんでした!」

 

出演アイドル怒らせて、生放送に穴をあけたなんてことになったら、俺のクビが社会的に飛ぶ。

必死になって年下の女子高生に頭を下げ続ける、スーツ姿の男がそこにいた。

というか俺だった。

「はぁ」

 

速水は、呆れたようにため息をついた。

そしてプロデューサーに対して、ごみを見るような視線を送ってきた。

 

「あなた学習しないわね」

「すいません」

「そういう言われ方は嫌いって、私伝えたはずよね?」

「その通りです」

「だけどそのバカ正直さが、プロデューサーらしさよね」

「すいま……ん?」

 

流れに違う言葉が混ざっていて、俺は疑問符を浮かべた。

下げていた頭を上げると、速水は、すでに会場へと歩いて行っていた。

コツコツと靴の音を鳴らしている、きらびやかな後ろ姿は、シンデレラ……ではなく魔女のようだった。

すべてを魅了する魅惑の魔女。

俺にとっては、がんばり屋のシンデレラよりも応援したくなる、ガラスのように脆い魔女。

魔女こと速水は、ステージの舞台袖前の階段まで歩いて、俺のことを半身で見た。

 

「ちゃんと見ててねプロデューサー。私の私らしいステージを」

「ああ、見てるさ。当たり前だろ、俺はお前のプロデューサーなんだから」

 

俺の言葉に、速水は笑顔を見せた。

魅惑でなく、年相応の可愛い笑顔を。

速水に続いて、俺も舞台袖に待機する。

スタジオに立てられたステージには、さほど大きくないとはいえお客が客席いっぱいに入っていた。

袖にいる俺ですら、その暖まっていないステージに疎外感を感じてしまう。

大丈夫か、不安だ、そんな気持ちが浮かぶのも当たり前のことだろう。

だが、速水は、堂々としていた。

綺麗に頭を下げて挨拶をして、自己紹介をした。

しかし、観客の反応は思わしくない。

まばらな拍手が聞こえるだけ。

まるでアウェイの会場に迷い混んだようだ。

だが、曲がかかれば関係ない。

司会者が速水の曲を紹介する。

 

「それでは歌ってもらいましょう。速水奏さんで『Hotel moonside』です!

音楽がかかる。

EDMという電子音が特徴的な音楽は、アイドルらしくないリズムを奏でていく。

見せろ、お前の感じた世界を。

魅了しろ、そのアダルティな色気で。

楽しめ、会社の勝手で、俺の不甲斐なさで、ドタバタな大舞台だけども、お前には関係ないのだから。

 

だから……

 

 

 

「がんばれ、奏」

 

 

『one、two、kisskiss……』

 

その日速水は最高のステージを魅せてくれた。

 

 

 

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