アイドル課に飛ばされた   作:寝台

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ちょっと修正しました。


決心

 

 ()()のステージはとても素晴らしい出来だった。

 盛り上がりに欠ける観客を見事に自分の世界に取り込み、アイドルらしからぬ世界観に視聴者を魅了した。

 その証拠に投票結果は、武内さんのところの『凸レーション』に続いて二位だった。ハプニングや、アイドルらしからぬキャラクターを考えれば大健闘だろう。

 なぜならこの番組は新人アイドルの発掘企画。要するにこの番組を見ている層は、かなりのアイドル通が多い。そんな中で逆境を乗り越えて二位なのである。

 要するに実質速水が優勝! 異論は認めない!

 そんな親バカならぬ、Pバカなことを考えても結果は変わらない。

 

 結果発表が終わり、諸星さんが代表して優勝トロフィーを受け取ったところで番組は終了した。

 フィナーレを見届けた俺は楽屋に戻り、速水の帰りを待っていた。

 『頑張ったな』、第一声はそう声をかけようと決めていた。本当なら抱きしめて頭を撫でてやりたいところだが、そんなことをすれば通報待ったなしなので自重したい。

 なんてことを考えていると、コツコツと速水の靴の音が聞こえてきた。どうやら魔女様のお帰りらしい。

 速水が入るのと同時に声をかけようと心構えていたのだが、その魂胆は簡単に崩れ去った。

 なぜなら、楽屋に入ってきた速水は俺を見るなり抱き着いてきたからだ。

 

 ......ふえ? 

 驚きのあまり普段なら絶対出ないようなキモイ声が出た。

 ステージの上はやはり緊張したのだろう速水の服は少し汗で湿っていた。だが、体温はとても高い。昂っていたのだろう。

と冷静に分析しているが、正直言ってめちゃくちゃてんぱっている。仕方ないだろ、本当に予想外だったんだ。

 俺は戸惑いながらも抱き着いてきている速水に問いかける。

 

「ど、どうしたんだ速水?」

「......ごめんなさいプロデューサー。負けちゃったわ、私」

 

速見の声は震えていた。

その瞬間混乱していた頭は急速冷凍されたように冷静になった。

どうやら俺はとんでもない思い違いをしていたようだ。

俺は2位でも立派だと満足した。

もちろん速水なら1位を狙えると考えていたし、今も速水が一番だと思ってる。だが、そこには微かに1位を取る可能性は低いという諦めが含まれていたのだ。

しかし、速見自身は違った。彼女は1位しか狙っていなかったのだ。

だから、悔しくて涙が溢れてきてしまった。でもプライドが高い速水は、人に涙を見せたくなくて咄嗟に俺に抱きついてきたのだろう。

俺は何も声をかけられない。勝手に諦めて、知らず知らずとはいえ速水を裏切っていた俺にどんな励ましも白々しく感じてしまう。

しかし、これだけは言いたい。俺は胸元に埋まっている速水の頭を撫でながら。

 

「謝る必要なんてないぞ速水。……よく頑張ったな」

「……っっ。ありがとう、プロデューサー」

それから速水は、泣き疲れて眠ってしまうまで声を圧し殺して泣き暮れた。

 

 

 

 

 

車の窓から眺める東京タワーは、夜景に溶け込みとても美しかった。モヤモヤとした気持ちも少しは晴れた。

このままアクセルをふかせて嫌な気分など忘れてしまいたかったが、後部座席で眠っている魔女様を起こしてしまわないよう安全運転を心がけた。

赤信号に一時停止する。車の流れを確認していた時、ふととある屋外広告が目についた。それは最近ロードショーした恋愛映画の看板だった。

普段製作側に関わっているせいで映画には嫌悪感があるのだが、その煽り文句になぜか目を引かれた。

 

 

『あなたは知らない。私の本当の気持ちを』

 

いかにも感動系恋愛映画にありそうな一文。おそらく俺がもやついていることと、あの文の意味は一致していない。偶然言葉がマッチしているだけなのだろう。

それでも、俺は合点がいってしまった。

 

俺は知らない、速水がなぜ泣いていたのか。

 

俺は知らない、速水がなぜアイドルになったのか。

 

俺は知らない、速水がアイドルとしてどこを目指しているのかを。

 

何も知らない。その何も知らないことが悔しくて、もどかしくて、自分に苛立っているのだ。

1度気持ちをぶつけられた。それがなんだ。それだけでその人のすべてなど知れるはずがない。

機会はあった。時間もあった。なのにやらなかった。完全に怠慢だ。

真面目さが長所なんて、今後口が裂けても言えないな。

俺はもうモデル課のマネージャーじゃない。アイドルのプロデューサーなんだ。

 

プロデューサーの役割なんて1つしかない。

 

「俺が速水奏を絶対にトップアイドルにしてみせる」

 

そう口にすると、ハンドルを握る手の力が自然と強まった。

 

 

 

速水の家の玄関前に車を止めた。

そして、いまだに起きる気配のない眠り姫の肩を揺らした。

 

「起きろ速水。お前の家に着いたぞ~」

 

速水は、うぅん、と色っぽい呻き声をあげながら起きてきた。起き抜けで状況が飲み込めていないのか、速水は戸惑いの表情を浮かべながら辺りを見回していた。そして自分の服に目がいくと、さらに戸惑いを深めた。

 

「着替えた覚えがないのに服が着替えられてる……?」

 

おっとこれはとんでもない誤解をされている感じですかね。

速水は、顔色を髪色と同じ色にして自分の身体を守るように抱きながら言った。

「プロデューサー……あなたまさか寝ている私の服を……」

「してないから! ちゃんと女性スタッフさんに頼んだから! ……う、嘘じゃないし! 仕方ないだろ! 借り物の衣装にシワつけるわけにいかないし、お前まったく起きなかったんだから!」

 

速水は、俺にゴミを見るような視線を向けていたが、考え直したのか納得したような表情で。

 

「まぁ、初なプロデューサーに私の寝込みを襲う度胸はないわよね」

「う、うるせー! ほっとけ!」

「大きな声出さないで。近所迷惑よ」

 

じゃあからかうなと怒られる覚悟で怒鳴ってやろうかと考えたが、そこは大人の対応で我慢した。

本当にこいつは。あの楽屋の速水は実は偽者だったんじゃないの? こいつがあんな普通の女の子みたいに泣くはずないよ。そう思いたい。

はぁと1つため息を吐く。

「ほれ早く降りろ。もう夜遅いんだから」

「ええ、親には上手く言い訳しておくわ」

「何で言い訳する必要があるの? 仕事だよ? お仕事で遅くなったんだよ?」

「そうね。夜のお務めだものね」

「お前わざと誤解されるようか言い方すんな! 捕まるぞ! 条例違反で逮捕されるぞ!」

 

俺が!

俺の反応が面白かったのか、速水はふふと優雅に笑っていた。

こいつっ……!

 

「冗談よ、そんなに怒らないでちょうだい。それに今日は特別な日なのだし」

「……まぁ、速水が初ステージを踏んだ日だからな」

「結果は2位だったけどね」

「悪くはない。むしろかなりいい結果だが……」

「「満足してないぞ(わ)」」

「え?」

 

声が揃ったことなのか、それとも俺の言葉になのか分からないが、速水は驚いた顔をしていた。

俺は続ける。

 

「2位なんかじゃ、まったく満足できない。速水奏は、アイドルとしてもっと上に行ける。いや、行かなくちゃならないんだ。でも、上に行くのは色々な障害がある。一人じゃ難しい」

「じゃあ、どうするの?」

「俺が導く」

「できるの?」

「やるさ、絶対にな」

「……あなたは私をどこまで連れていってくれるの?」

 

俺は天を高く指して。

 

「トップアイドルだ」

 

俺の言葉に速水は数十秒開けて。

 

「そう」

 

静かに呟いた。そして……

「気持ちは嬉しいけど、お断りするわ」

 

……マジか、ふられた。

必死になって辿り着いた答えをあっさり断られ、俺は呆然としてしまった。

 

「ふふ、 そんな顔しないでよ。まだ私の話は終わってないわ」

 

速水は、妖艶な笑みを浮かべて。

 

「男の人におんぶに抱っこになって連れていかれるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……そうだったな。お前はそういうやつだったな」

俺は何を勘違いしていたのやら。

前人未踏の小悪魔系アイドル。すぐに男をからかい、そして手玉に取る悪女。それがアイドル速水奏のキャラクターだった。

 

「だから、一緒に頑張りましょうプロデューサー」

 

手を差し出された。

 

「ああ」

 

当然俺はその手を取る。

 

 

今度こそ導く、()()()()()()()()()()()()()、俺はそう誓った。

 

 

 

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