アイドル課に飛ばされた   作:寝台

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わりと独自解釈が入ってます。


伝えられたその後

支Pが部長室を出た後のこと。

今西部長はいつもの柔和な笑みをなくして、代わりに険しい顔をしていた。

そして、心なしか機嫌が良さそうな美城常務に問いかける。

 

「どういうつもりなんだい?」

「どういうつもりとは? 主語がないのでお答えしかねます」

「とぼけないでくれ。支君のことだ。私が君から聞いた話では、モデル課で飼い殺しされかけている優秀な人材だった」

「その通りです。私は彼の能力は高く評価しています、それこそ私の夢を託せるほどに」

 

自他共に認める短気な性格で、自分のことは自分でやり遂げなければ気が済まない。そんな我の強い美城常務が、夢を託せるとまで言ったことに、今西部長は驚きを隠せなかった。

「……驚いた。君がそこまで支君を評価していたとは」

 

今西部長も支Pのことは一定の評価をしている。

モデル課時代の下積みがあるとはいえ、マネージメントとプロデュースは似ているようで、まったく異なるものだ。それでも彼は、デビューして間もない速水奏を人気アイドルまで押し上げた。

優秀だと思うし、わざわざモデル課から引き抜いた理由も分かる。

それでも美城常務の方が能力としては勝っているし、もっと言うなら他のプロデューサーでも彼よりも優秀な人材は探せばいくらでもいる。

それなのになぜ、常務は彼を評価するのか。とても不可解だった。

その考えを察したのか、常務は話を繋げる。

 

「たしかに彼よりも能力面経験共に優れた人材は、うちのプロダクションには何人もいるでしょう」

「では、なぜだい?」

「簡単な話です。星には空という輝くべき場所がある。しかし、いくら輝くべき場所を用意しようとも、輝かさ方を間違えればその星は二等星にも三等星にもなりうります」

 

遠回しな表現に、今西部長は少し解釈に苦しみながら。

 

「要するにアイドルにもプロデュースの相性があると言いたいのかな? しかし、それならば現状のプロダクションの方針で問題ないと思うがね」

「たしかにシンデレラ・プロジェクトが顕著なように、今の346プロダクションはアイドルたちの個性に合わせたプロデュースを重視しています。支君にも伝えたように、私はそのやり方を否定するつもりはありません。しかし、マンネリ化していることは否定できないでしょう」

「マンネリ化?」

「ええ。王道というのは必要です。道が用意されていれば、迷うことはない。だが、敷かれた道を選択肢と考えずに漫然と進んでしまっては意味がない。それは個性に合わせたプロデュースと名乗ってはいるが、結局は優れた先人の後を追っているにすぎません」

 

そう言って、常務は一枚の紙を差し出した。アイドルの名前観客数や売り上げなどの言葉と数字が羅列されていた。

 

「これは?」

「先月デビューしたアイドルたちのCDやライブチケットの売り上げなどをまとめたものです。これを見る限り、たしかに346プロは高い水準で売り上げを記録している。ですが、何か気がつくことはありませんか?」

「……売り上げが安定し過ぎているというところかな。一人一人のアイドルで大差ないね」

「その通り。我がプロダクションのアイドルは、一部の特別な人気のあるアイドルを除き横一線。要するにファンが増えているようで、実質増えてはいない」

 

簡単に言えば、Aさんという人がいたとする。そのAさんはアイドル甲のファンだったが、似たように好みのアイドル乙が出てきたのでそちらのファンにもなった。

要するに、数字上は固定客が増えたように見えても実際は1人が2人分に数えられているに過ぎないということだ。

 

「要するにアイドルに興味がない層には、見向きもされていないということです。しかし、他のプロデューサーたちはそれに気がつかず、漫然と売れると勘違いしているプロデュースを続ける。私はこの思い上がりを何とかしたいと考えています」

「なるほど、君のプロジェクト解散への意見は理解できた。しかし、それでも私は強引過ぎると思う。もっと、プロデューサーたちと意見を交わしながら、修正して行く道もあると思うのだが」

「甘いですね、今西部長。もしも明日、日高舞が現役復帰をしたらどうしますか?」

「君らしくないね。そんな微小の可能性もない夢物語の話をするなんて」

「夢物語ではありません。もっと言うならば、日高舞のような1人で芸能界を変えてしまうようなスターが現れたら、我が社の固定客はどうなるでしょうか? 聞くまでもありません、減少の一途を辿るでしょう。小さな光は集まろうとも、さらに大きな光には飲み込まれてしまいます」

 

常務の言葉に熱が入っていく。

 

「だから作りあげる! 日高舞のようなスターを! そのために私はプロジェクトクローネを立ち上げました」

「できるのかい?」

「やってみせます。何としてでもね」

「そうか」

 

今西部長は諦めたように、ため息を一つつく。常務はもう止まらない、少なくとも自分には止められない。そのことを悟ったからだ。

 

「でも、分からない。君がそこまで入れ込んでいる企画に、経験は浅い支君を抜擢するのかが」

「先ほども言ったでしょう? 星には輝かせ方があると。では、もしも他のプロデューサーにクローネを任せた場合どうなると思いますか?」

 

クローネのコンセプトは、バラエティー部門を縮小させ、アーティスト風の売り方を重視するものだ。

言ってしまえば、敷いてあったレールが落石によって塞がれてしまったようなものである。そうなればどうなるか、答えは自然と辿り着く。

 

「力を出しきれないだろうな。なんせ手が限られてしまうのだから」

「その通り、私の求める結果は得られないでしょう。しかし、彼は違います。彼はバラエティーに頼らない売り方を熟知している。……まあ、それを身につけざるおえなかったのが、346プロが原因というのは複雑ですが」

「そうか。まあ、元より私は君の決定に異議を唱えるつもりはないけどね」

「では、どうして聞いてきたのですか?」

「なぁに、ただ納得したかっただけさ。老人のちょっとしたたわ言ぐらいに流してくれ」

「そうですか。では、私は仕事が残っていますので。これで失礼します」

 

そう言って、常務はヒールをならしながら部長室を去っていった。

「やれやれ。大変なことになりそうだ」

 

1人残った今西部長は、疲れた表情で椅子に背中を預けた。

 

 

 

 

 

 

部長室を後にした俺は、プロデューサー室に戻ってきていた。

中に入ると、速水がソファーに座って寛いでいた。はて? まだ集合時間まで30分ほどあるはずだが?

それに今日の最初の仕事は雑誌のインタビュー、撮影、レッスンと特に早入りして準備するようなものはない。

 

「どうした速水? まだ雑誌の取材の記者さんが来るまでけっこう時間あるぞ? 時間間違えたか?」

「間違えてないわよ」

「じゃあどうした? なんか相談事が?」

「違うわ。本当に分からない?」

「はて? はっ! まさか昨日の俺のファッションセンスを改めて笑いに来たのか!?」

「何で私が、プロデューサーのダサいファッションを笑うために朝から来なくちゃいけないのよ。仕事中でもいいじゃない」

 

結局弄る気なのかよ! この悪魔! あ、こいつ小悪魔系で売ってたわ。

 

「誤魔化さないで。部長さんに呼びされたんでしょう? 私を新しいプロジェクトに参加させるために」

「お前知ってたのか?」

「ええ。昨日、会社からメールで伝えられたわ。詳しい内容は書いてなかったけど、私を新しいプロジェクトのリーダーとして参加してほしいとね」

「そうか」

 

そういうことは俺を通して伝えてほしいんだが。この辺りの報連相がおざなりになってるよな、うちの会社って。

「それでどうするんだ? そのプロジェクトには参加するのか?」

 

参加は任意らしいから、一応速水の意思を確認するつもりで聞いた。まあ、きかなくても答えは分かってる……。

 

「……正直気が進まないわ」

 

速水は表情を暗くしてポツリと呟いた。

あ、あれ? 上昇志向の強い速水なら、喜んで受けると思ってたんだが。以外に迷ってるのか? なぜ? 迷う理由なくないか?

 

「でも、断ったらプロデューサーの立場が悪くなっちゃうんでしょ?」

「んん?」

 

はて? たしかに、プロジェクトを任されたプロデューサーの担当アイドルが参加しませんとなったら、笑い話だが。それでも別に速水の担当を外れるわけではないし、さほど問題ないと思うのだが?

 

「私のわがままでプロデューサーに迷惑をかけるのは本意じゃないもの」

「いや、速水。あまり大げさに考えない方がいいんじゃないか?」

「考えるわよ! 私はあなたにプロデュースしてほしいと思ってるの! あなたは違うの!?」

「いや、だからどっち道俺がプロデュースするから、どっちでもいいんだけど……」

「え?」

「ん?」

 

あ、なるほど。勘違いしてたのか。

 

「どういうことかしら?」

「ああ。要するにお前が参加する新プロジェクトを担当するのは俺だ。だから、速水が参加しようがしまいが担当プロデューサーは変わらないぞ?」

「……聞いてないのだけど?」

「なんせさっき聞かされたからな。俺も最初はネガディブな話しかと思ったが、蓋を開けてみれば新プロジェクトに大抜擢だ。人生何が起こるか分からないねー」

「あうあう……」

 

要するに速水は、新プロジェクトに参加させられることで俺と離されると思っていたのだ。まあ、内容書いてなかったっていうし、不親切なメールが悪いよ。よって速水は悪くない。速水かわいい……おっと間違えた。

速水は自分の勘違いにようやく気がついたのか、真っ赤に染まった顔を手で隠していた。

「それにしても、まさか速水が俺にプロデュースしてほしいなんて言ってくれるとはな〜。いつも弄ってくるのは、信頼の裏返しだったのかな?」

「も、もうその話はやめて! 性格悪いわよ!」

「ふふっ。いつも散々弄ってくるくせに、自分は弄られないと思ってるのが甘いんだよ! ほら、速水。さっき言ったセリフをもう一回言ってごらん。ほらほら」

「本気で怒るわよ!?」

「そらそら〜」

「〜〜〜〜!! もう知らないわ!」

 

この後、速水さん1日口を聞いてくれなかった。

事情を知った青木さんから、わりとガチめな説教を受けたので、調子に乗るのもほどほどにしようと思います。

すいませんでした。

 

 

 




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