ペルソナ使い鳴上悠と魔法科生   作:ローファイト

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感想ありがとうございます
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回りせ回ですね。



第十六話 ヒミコ

「行くぞ!!」

 

 

悠とリーナと真由美は悠の外側から見えにくいマンションの非常階段から一気に飛び降り地面に着地する。

 

 

「魔法師を誘導しているドッペルゲンガーを先に追う」

 

「わかったわ」

「了解したわ」

 

『悠先輩!シャドウ…囮役のドッペルゲンガーがさっきの位置から北と西に二手に分かれたわ!』

 

「了解だ!」

 

「え?りせの声が直接頭に聞こえてくる…………?」

「な、なに?どういう事?」

 

『真由美さんとリーナにリンクしたわ!これも私の能力なの!誘導は任せて!』

 

「……悠のペルソナも驚いたけど、りせのペルソナ能力は現代魔法の常識が崩れる思いがするわね…………」

「…こんな事も……これはでも…………」

リーナと真由美はりせの能力に驚きっぱなしである。

魔法が主体となる現代戦術においても、通信妨害やハッキングなどは重要な役割を果たしている。

各国は最新の通信妨害装置や魔法を、常に相手の上をいくために、躍起になって開発を続けているのだが………りせの前ではそれらは全くの意味をなさなくなるのだ。

 

「リーナは西の方を!俺と七草は北を追いかける!何かあったらりせに知らせろ!」

 

「わ…わかったわ」

リーナは驚きが冷めないうちに返事をし、パレードを発動させ第一高校の制服姿から、コートを来た赤髪の仮面の女へと変貌し、加速魔法で一気に進む。

 

「行くぞ七草!」

「りょ、了解」

悠はペルソナによる身体強化で加速し、進んでいく。

真由美も加速魔法でついて行く。

 

「ついて行くのがやっとだわ……魔法無しでそのスピードは……」

真由美は悠の後を離れずについて行くのがやっとだった。

 

 

悠と真由美は北に進む囮役のドッペルゲンガーとそれを追っている2人の男性が見えてきた。

 

「あれは、いつぞやの警部さんね。確か千葉警部」

真由美はマルチ・スコープという先天性の魔法能力で、遠くの実物体を多角的に見ることが出来る。

今、こちらの黒コートを着た人間形態のドッペルゲンガーを追っているのは、千葉寿和警部、千葉エリカの兄である。もうひとりは、部下の稲垣警部補だ。

ドッペルゲンガーはこの2人をギリギリ追いつかれない距離を保ちながら、3体が罠を張っている公園へと迂回しながら誘導していたのだ。

 

 

「やはり警察か、……りせ!」

 

『ドッペルゲンガーの方は…ハイ・アナライズ!(探査)……烏?……なにこれ、シャドウに何かが憑いている?』

りせは警察が追っているドッペルゲンガーをアナライズしたのだが……今まで感じたことが無いような反応を示していた。

 

「10日程前に遭遇したもう一体の烏人間か……しかし、どうするか」

悠は烏人間らしきドッペルゲンガーを追っている警察をどう対処するかを考える。

2人に追いつき、罠だから追わないようにと言っても、信じて貰えないだろう。

こちらが先にドッペルゲンガーに追いついて、倒してしまっても、後で何かともめそうだ。

 

「鳴上くん。あの2人を足止めすればいいのね」

真由美は加速魔法で走りながら悠の横に並ぶ。

 

「何かいい手があるか?」

 

「任せて!」

真由美はそう言いながら、腕に巻いたブレスレット型のCADを操作する。

 

真由美の頭上に、ドライアイスの塊が生成され、それを小さな用水路に高速で射出する。

すると、用水路は水柱が立ったように、水が一気に吹き飛び、あたり一面霧に覆われる。

射出したドライアイスを用水路に到達する直後に一気に二酸化炭素に蒸散させ、爆発的に霧を発生させたのだ。

真由美の魔法【ドライ・ブリザード】の応用だ。

 

これにより、2人は視界を遮られ、完全に足止めさせられる。

追っている相手であるドッペルゲンガーに、警察2人はしてやられた様な顔をしていた。

実行したのは真由美だが、気がついていない。

 

それを見た悠は、烏人間のドッペルゲンガーに後ろから追いすがる。

悠は左手に【塔のカード】顕現させ、ヨシツネを武器化した名刀【薄緑】を抜く。

 

更に加速し前方に大きく飛び一気に肉薄する。

それに気がついた烏人間は振り向き驚きの声を上げるが……

「お、お前は!」

 

「いくぞ!」

悠は人間形態の烏人間に空中から斜め下に体ごと飛び込むように鋭い突きを放つ。

剣技【獅子奮迅】

 

「ぐわっ!!」

人間形態の烏人間は身体を貫かれながら地面に叩きつけられる。

 

「これで終わりだ!」

悠はそのまま電撃を纏わせた刀を上段から振り下ろす。

剣技【勇猛果敢】

 

「ががぁ……」

人間形態の烏人間は肩口から真っ二つに切り裂かれ……黒い液状となり消滅した。

 

 

悠は真由美が発生させた霧が晴れる前に、その場から移動し、真由美と合流する。

 

「七草、助かった。……意外と大胆なんだな」

悠は真由美が躊躇なく大胆にこんな方法で相手を足止めすることが意外だったようだ。

 

「そう?それで鳴上くん敵は?」

 

「無に帰した」

 

「え?」

 

「奴らは、精神の集合体のような連中だ。行動不能に陥ると黒い液状となり消滅する」

 

「そ、そうなんだ」

真由美はドッペルゲンガーを短時間で倒したことに驚いていたのだが……悠には意図が通じていなかったようだ。

 

『流石は悠先輩!』

そこにりせの声が響く。

 

「りせ!リーナの方はどうなった?」

 

『悠先輩、ちょっとまずいかも、……リーナは、ドッペルゲンガーを追っている内の1人に、ドッペルゲンガーの仲間だと勘違いされて、攻撃を受け足止めさせられてるの。それでもう1人は、今もドッペルゲンガーを追っているわ』

リーナのパレードの姿、怪しい仮面の女性は、ドッペルゲンガーの仲間と勘違いされても仕方がないだろう。

しかし、リーナ程の魔法師がその対応に苦慮し足止めさせられるとは、相手もかなりの実力者なのだろう。

 

「りせ、リーナは持ちそうか?」

 

『それが、相手をアナライズしたんだけど、リーナと同じ学校の子みたいなの。それでリーナは本気で攻撃が出来なくて防戦一方で……』

 

「りせさん、どんな子かわかる?」

 

『千葉エリカ、16歳 高レベルの剣士。魔法と剣術を融合させた攻撃スタイルみたい。防御魔法とかは得意じゃなくて魔法による遠距離攻撃が弱点なんだけど、距離をすばやく詰めて、魔法を打たせないようにしてるみたいなの』

 

「え?どこでそんな情報を?」

真由美はりせにリーナが対峙している同じ学校の生徒の断片的な情報を欲し、そこから誰かを予想しようとしていたのだが、りせが知らせた情報が、真由美の知らない情報なども含まれ、予想を遥かに超えた内容であったために驚いたのだ。

 

「くっ、七草はリーナの方に行ってくれ。俺はドッペルゲンガー囮役の方を何とかする」

 

「なっ……鳴上くんわかったわ」

悠の声で真由美は我に返る。

 

悠は囮役のドッペルゲンガーの方へ、真由美はリーナと千葉エリカが戦っている場所へとそれぞれ向かう。

 

 

『あっ!悠先輩!!公園で待ち構えているドッペルゲンガーが物凄い速さで離れていく!なにこれ?あれ?反応が消えた…………悠先輩逃げられたみたい!』

 

「仲間がやられ、こちらに気がついたか……状況判断も早い。りせ!囮役のドッペルゲンガーは?」

 

『悠先輩そっちも!急加速した!あっ、探査範囲なのに途中で反応が消えた………』

 

「逃げられたか……りせのエネミーサーチから反応が消えるとはどういうことだ?烏人間は烏に変化したが……そうなると、反応も烏と一緒になり、シャドウの反応を拾えなくなるのか?それとも、異界に逃げ込めるのか?……リーナが先か。…りせ!リーナに撤退するように言ってくれ」

 

りせに指示を出しながら、真由美の後に追いつき、リーナが戦っている方へ向かう。

 

『うん!……あっ!悠先輩まずい!エリカって子に援護が!リーナが完全に押されだした』

 

「りせ!」

 

『うん!!任せて悠先輩!!』

りせは、元気よく返事をする。

悠はりせにある特殊能力を使うように促したのだ。

ヒミコの特殊能力【絶対逃走】。

りせの探査範囲内の仲間の逃走補助をする能力だ。

実際には相手の感覚を一瞬狂わし、知覚や感覚的に仲間を感知させないようにする。いわゆる目

くらましだ。さらに、逃走経路の確保と加速補助を行うものだ。

 

『悠先輩!リーナの逃走成功!リーナがそっちに行くわ。ちょっと怪我しているから回復お願い!』

 

「りせ、助かる!」

 

 

 

その後、直ぐにパレードの仮面の女性姿のリーナが悠と真由美の前に現れる。

「悠、ごめん。ドッペルゲンガーを逃しちゃった」

 

「大丈夫か?」

 

「ちょっとやられたわ………エリカがあんなに強いなんて………危ないところだったわ、達也も援軍に来たみたいだし…………りせに礼言わないと」

リーナはそう言いながら対抗魔法パレードを解くと、元の姿に戻る。

負傷したのか左肩を抑えて、若干苦しそうな表情を浮かべていた。

 

囮役のドッペルゲンガーの前に追いつき、現れたパレードの仮面の女性姿となったリーナをドッペルゲンガーの仲間と勘違いしたエリカが猛然と襲いかかってきたのだ。

不意打ち気味ながらも、それを受け流し行動不能にさせようとしたのだが、エリカのスピードが予想よりも早かったのと、それにもまして、鋭い剣撃が雨あられのように振るわれ、リーナは防戦を余儀なくされたのだ。

リーナは早く囮役のドッペルゲンガーを追いつかなければという焦りと、エリカへの攻撃を躊躇したせいもあり、力が出しきれずにいた。

さらに司波達也が現れ、エリカの援護を行うためにリーナに魔法を放つ。リーナのパレードがその魔法を防いだのだが、隙が出来た所をエリカに一撃入れられ不覚をとったのだ。

 

「千葉さんに……達也くんまで……」

真由美は小さな声を出す。

 

「リーナじっとしていてくれ、…ウンディーネ!」

悠はペルソナ【ウンディーネ】を顕現させ、回復スキル【ディアラマ】をリーナに掛ける。

 

「鳴上くん……そのペルソナは?」

真由美は悠がイザナギ以外のペルソナを扱う姿に驚いた表情をする。

 

「……痛みが引いてきた…傷がなくなってる…………悠…」

リーナは痛みが引き、肩口の傷が消えているのを手で確認し、不思議そうな顔をし悠を見る。

 

「戻る…撤退だ」

リーナの治療を施した悠は、2人と共に悠の自宅に戻る。

 

 

 

 

 

 

「おかえり!みんな!」

りせが皆を玄関まで出迎える。

 

りせは、既にリビングのテーブルに飲み物を準備して待っていてくれた。

 

「悠先輩ごめん!ドッペルゲンガーを見失っちゃった」

 

「いや、りせが居てくれて助かった。どうやら、奴らは俺たちをかなり警戒しているようだ。逃走手段も確保していたのだろう。1体は倒し、犠牲者が出なかっただけでも良しとしよう。ただ、りせのエネミーサーチから漏れる何らかの手段を持っている可能性が高い」

 

「もっと近くにいれば分かるのに…くやしーー!」

りせは悔しそうな表情をする。

普段のりせはこの様に喜怒哀楽をストレートに出すタイプの少女だ。

 

「りせ、逃げるのを助けてくれてありがとう……でも、あれはなんなの?」

リーナはりせにお礼をいった後、どうやって助けてくれたのか聞いた。

 

「ああ。あれね。ヒミコで逃げてーって感じで応援するとね。相手が一瞬リーナを認識しにくくなるの。後は逃げやすいルート選択ね」

 

「応援?…………どういう事?」

リーナはりせの言っていることが理解が出来ないでいた。

りせ自身も説明は難しいだろう…………

 

「りせさん……あなたの能力……異常だわ」

真由美は真剣な顔でりせに言う。

 

「え?」

りせは一瞬何を言われたのかわからず、ポカンとした顔をしていた。

 

「ご、ごめんなさい。そのあまりにも凄すぎて、どう言って良いのかわからなかったの………りせさんから受けたサポート能力……それは全部、現代魔法ではありえないレベルの代物なの。正確に敵を見つける能力から、その探査範囲。相手のプロフィールを調べる能力に、弱点まで調べられるなんて…………そして、頭に響く通信…テレパス……先程のリーナさんに行った逃走補助………どれをとっても、軍や魔法師が喉から手が出るくらい欲しがる能力よ…………」

 

真由美が言ったことは事実だ。もし、りせの能力が何らかの形で軍や十師族などに漏れる事があれば、りせの争奪戦が始まってもおかしくない。最悪りせを無理やり拉致しかねないだろう。

何れにしろ、りせにとって望むべきものではない。

 

「そうなの? 悠先輩………」

りせは真由美の話を聞き、悠の顔を不安そうに見る。

 

「大丈夫だ。俺もついている。七草とリーナはこの事を誰かに漏らしたりしない」

 

「……りせ、私も幼い頃から軍に関わってきたわ。でも……りせの様な能力者に会った事もない。もし、あなたの能力があれば全ての任務が安心して遂行できる。それこそ、あなたが居る軍は、数倍以上の戦力差があったとしても、かなり有利に働くものよ。あなたが軍に所属したなら即戦略室のエース、その国の切り札になり得るわ。政治的価値は、戦略級魔法師と同じ………いえ、それ以上の価値があるかもしれないものよ…………」

 

リーナがこう言うのも無理もない。今までなかなか見つける事が出来なかったドッペルゲンガーをこうもあっさり発見することが出来、さらに、数々のサポート能力だ。もし、りせが居たならば、リーナが今まで行ってきた数々の任務も苦労せずに遂行出来ただろう。

そして、政治的価値は計り知れない。なにせ、りせの前では魔法師はその能力を丸裸にされるのだから………

 

 

 

「そんなにか……」

 

「うそ……私のヒミコが……」

 

「ごめんなさい。不安がらせてしまって……誰にも言わないから安心して、りせさん」

真由美は申し訳なさそうにりせと悠を交互に見ながら言う。

 

「言ったところで、ペルソナにしろ、りせの能力にしろ、誰も信じてくれないだろうけど……私も言うつもりはないわ」

リーナも悠とりせにそう言った。

 

「………うん…ありがと…」

りせはまだ、不安そうではあったが2人にお礼を言う。

 

 

「それと悠も悠だわ。あの治癒魔法はなんなの?普通、治癒魔法というのは継続して魔法を掛けていないと、傷口は元に戻ってしまうのよ。それが悠が使った治癒魔法は、一瞬でしかも、その一回で完全に治ったわ」

リーナの言った通り、現代魔法に置いて、治癒魔法とは、一時的に元の状態に戻す現象であり、傷そのものを治すものではないからだ。

 

「そうなのか?魔法は不便だな」

悠、りせもだが、魔法については知識はかなり薄い。

一般の学校では魔法について、学ぶ機会は少ないからだ。

 

「悠がおかしいだけだから」

リーナは思わず突っ込む。

 

「鳴上くん、さっきのペルソナはイザナギじゃなくて別のペルソナだったわ。1人で何体も持てるものなの?鳴上くんの説明では、1人一体のような印象を受けたのだけど……」

真由美は先程リーナを回復させたウンディーネの事を指して質問をする。

 

「悠先輩が特別なの、私はヒミコだけ」

悠に代わり、りせが答える。

 

「鳴上くんが特別なのね」

 

「ああ、俺本来のペルソナはイザナギだが……それとは別に異なるペルソナを複数扱える。さっきのウンディーネは回復と氷結が得意なペルソナだ」

それこそが悠のペルソナ能力、無限の可能性を引き出す【ワイルド】の特性だ。

 

「他のペルソナも特性とかが違うの?」

 

「ああ、それぞれ特徴がある」

 

「……悠は1人でいろんな事が出来るってこと?…………逆に弱点が無い……」

 

「もしかして、鳴上くんはりせさんのようなペルソナも使えるの?」

 

「近いことは出来るペルソナもいるが……エネミーサーチのようなものは出来ない上、精度は段違いに低い。りせのヒミコは特別だな」

 

「悠先輩~」

嬉しそうに悠を見つめるりせ。

 

「そ、そうなの」

真由美はホッとしたような、残念なような複雑な表情をしていた。

 

 

 

「りせが居れば、今後ドッペルゲンガーを見つける事は容易ね」

 

「そのことだが……りせには本当はこの件に関わらせたくなかった。せっかく芸能界復帰し、今大事な時期だ」

 

「悠先輩、私も協力させて……シャドウ…ドッペルゲンガーが暴れて、また、世界の危機が訪れたら……仕事どころじゃないから……」

りせがこういうのも無理もない。

悠達はシャドウが関わる事件が世界の危機に直結してる可能性があることを知っている。

シャドウの活動の裏では神や悪魔が関与している事も考えられ、彼らが動く際には人類にとって大きな厄災を招く事があるのだ。

 

「しかしりせ」

 

「仕事もちゃんとやるよ。悠先輩。東京にいる間は仕事場からエネミーサーチをこっそり掛けて、ドッペルゲンガーの場所を知らせることぐらい出来る。もちろん仕事がオフのときは一緒に戦わせて」

 

「……わるい、りせ」

悠は申し訳なさそうにりせに頭を下げる。

 

「あと、リーナ達が悠先輩に手を出さないように見張らないとね!」

りせは頬を膨らませ2人に釘を刺すように言う。

 

「な、何言っているのりせ!?」

「そ、そんな事しません」

リーナと真由美は顔を真赤にして、りせに抗議していた。

 

 




ひさびさにP4Uの技がでました。

次回も戦闘回です。

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