横浜が大亜細亜連合軍の侵攻によって、火の海へと変貌していく中、横浜の中心で孤軍奮闘しているペルソナ使い鳴上悠の姿があった。
『イザナギ!』
悠は侵攻してくる敵軍をペルソナ能力と刀技で倒しながら、逃げ惑う人々を保護し、シェルターに誘導していた。
『悠先輩!50メートル先のビルに7~8人逃げ遅れた人がいる。その先100mにシェルターがあるわ。そちらの方は敵軍は今はいない』
『了解』
悠はりせのナビゲーションにより、正確に敵の位置と市民の居場所を把握できるため、逃げ遅れた人たちの救助は順調に進んでいる……それでも、最初にいたシェルターから300mしか進んでいない。
『……なにこれ…ものすごいスピードでそっちに向かってるわ。数は18人。気をつけて先輩!たぶん敵は魔法師!』
『わかった』
現れた軍隊は人間では考えられないスピードで現れた。
加速魔法だ。時速60キロ程度は出ていた。
その部隊の隊長らしき男がどこかに通信をする。
「玄武第3班。異変のあったα地点に到着。若い男が1人、友軍はすべて倒れている。この男が倒した者と判断。魔法師の可能性が高い。今から排除を開始する」
敵軍魔法師達は数体の大きな黒い犬や炎を纏った大きな鳥などを顕現させる。
古式魔法の式神(化成体)だ。
どうやら、敵の魔法師によるエリート部隊のようだ。
そして、悠めがけて一気に襲い掛かる。
『イザナギ!!』
悠の後ろに4メートルは有ろうかという巨大な人型のペルソナ(イザナギ)が現れる。
『マハジオンガ!!』
イザナギが手を天に向かって突き出す。
襲い来る式神達を広範囲に強烈な稲妻が降り注ぐ。
式神は電撃を受け一瞬ですべて消滅する。
「なんだあの大きな人型の式神は!」
「何て威力の電撃だ……」
「間違いない奴は名の知れた戦術級の魔法師だ」
敵兵は一瞬驚くが、戦闘態勢は維持したままだ。
「怯むな!手数で押し切れ」
18人の敵魔法師は陣形を組みつつ、遠距離魔法を展開し、悠めがけて一斉照射をする。
そして、炎の玉、氷の礫、電撃の矢、風の刃等の多数の魔法が悠に一斉に迫る。
『アヌビス!!』
悠は右手の平に青い炎を纏わせ審判のアルカナカードを出現させ、それを握り潰す。
悠の頭上に犬の顔をしたエジプトの神を模したペルソナが現れる。
アヌビスは持っている天秤を前に掲げると魔法反射障壁(マカラカーン)が悠の回りに展開する。
迫り来る多数の魔法は悠の手前で、反射し向きを180度変え、放った魔法師へと返っていく。
「なっ!」
「なに!」
「防御術式展開!!」
魔法師達は戻ってくる魔法を防御術式でかろうじて防ぎきる。
『モト!!』
悠は右手の平に青い炎を纏わせ死神のアルカナカードを出現させ、カードを握り潰す。
悠の頭上には黄金の棺桶が現れる。
棺桶の隙間からは禍々しい悪魔の手と凍て付くような視線が現れ、魔法師たちに向け、呪いを発する。
「ああっあああっ」
「うわーーーーー!」
「ううっううううう」
魔法師たちは呪いにより圧倒的な恐怖を植えつけられ、恐慌状態に陥り、あるものは蹲り、あるものはその場で固まり、あるものは発狂したように叫ぶ。
『イザナギ!!』
悠はそのまま魔法師達の下へ猛スピードで迫り、魔法師達の手前でゴルフクラブを大きく振り、地面に衝撃波を放ち大きく土埃を上げる。
それだけで、恐慌に陥った魔法師達はほうほうの体で逃げ出していく。
『先輩!周囲に敵はいなくなった。周囲の住民も避難も終わったわ』
「りせ、他は…情勢はどうなっている?」
『各地で起こってた戦闘も随分終息してきているわ。味方の軍か魔法師が何とかしたみたい。先ほどまで一般の人を多く引き連れて移動していた集団は救助ヘリと合流してここから離脱しているわ………それと今も、空から飛んできた複数の味方が敵と交戦しているの………』
「そうか……」
悠はホッと一息つき、戦闘態勢を解除する。
『先輩……』
『ああ、後は軍に任せよう……』
『先輩お疲れ様』
『ああ、りせもお疲れさん』
悠は瓦礫が散乱している通りを歩きながら、りせの元に戻る。
その間漸く、このブロックにも警察組織らしい味方が駆けつけ、救助活動やら、戦闘警戒などを行っていた。
悠も警察に声を掛けられ、大丈夫だと言ったが、りせのいるシェルターまで送ってもらう事になる。
悠が戦っている間、りせの方も大変だったようだ。
シェルター内でアイドルの『久慈川りせ』だとばれてしまったようで、握手などを求められる始末。結局、皆を落ち着かせるために1曲アカペラで歌ったそうだ。
ペルソナで探査しながらも器用な事だ。
悠は結局その日、警察やら軍に質問を受けることなく帰宅する事ができた。
ペルソナ能力を警察や軍に直接見られることが無かった事が幸いしたようだ。
りせのマネージャーさんが事件を知って焦って、車で向かいに来てくれたため、渋滞に巻き込まれながらも東京に戻る事ができた。
2095年10月31日(月)AM
翌日のニュースでは横浜事変について大々的に行っていた。
横浜では住民被害(死傷者や行方不明者)が相当出た事……
侵攻してきた軍は大亜細亜連合の軍隊だった事……
国防軍が最終的には侵攻軍を壊滅させた事……
その中で明るいニュースとして……
りせが住民避難の誘導に貢献した事が報道された。
どうやら、あの避難シェルターに居た人の証言らしい。
まだ、りせやりせの所属芸能事務所からの正式なコメントは無いようだ。
悠はりせはしばらくさらに忙しくなるなとニュースを見ながら苦笑する。
こんな事件があった翌日だ。東京にある悠が通う都立高校も生徒の無事の確認や情報収集などで、休みとなる事が連絡が入っていた。
悠の仲間のコミュニティーも心配する声が前日から上がったが、皆にあらましをちゃんと説明した。
陽介に「無茶するな」と怒られたり。
千枝にも「鳴上くんは意外と無茶するから、やめてよね」と怒られる。
雪子には「無事でよかった」と心配させていたようだ。
クマは「流石先生」と褒められたり
完二には「俺も行けばよかった」とか……
直斗は「先輩なら大丈夫だと信じてました」とか何とか言っていたが心配していたようだ。
後で、りせからは
「先輩、今度はちゃんとデートに行きましょうよ」
と……
あんな事に巻き込まれたが、元気そうで悠はホッとする。
もちろんこの後、従妹の堂島菜々子からも心配する電話がかかってきていた。
2095年11月10日(木)PM
一年間稲羽市で過ごし、元の東京の都立高校に戻ってからは、1年生だった頃に比べて、周りの状況が変わっていた。
一年生の頃はよく一人で居る事が多かったし、目立たないタイプだったのだが、今は周りからはよく声を掛けられるようになる。特に女子からだ。
休み時間の間や昼休みは悠の周りは女子で溢れ返っている。
今日もラブレターを貰い。いつものようにやんわり断りを入れた所だ。
女子の間では、悠を誰が落とすのかの話題が絶えない。
悠は放課後いつものように素早く女生徒達を巻いて学校を出る。学校の校門外に黒塗りの高級車が止まっていたが、特に気にせずに素通りしようとした……
高級車の後部座席のドアが開き、どこかの学校の上品そうな小柄な女生徒が現れ、悠に声を掛けたのだ。
「鳴上悠さんですね」
女生徒はにっこりとした笑顔で悠に話しかける。
その女生徒は、この辺りでは見られない変わった制服を着ていた。ちょっとしたコスプレではないかというような煌びやかな制服だ。
「そうですが、なにか?」
悠は女生徒の顔をまったく知らない。
しかし、どこの生徒なのかはその変わった制服でわかった。
八王子にある魔法大学付属第一高校の制服だ。
そう、魔法師養成のための高校、そして目の前の女生徒は魔法師なのだ。
「始めまして、わたしは七草真由美と申します。急に呼び止めて申し訳ございません」
その女生徒は自己紹介をし、深く頭を下げる。
「ご丁寧に、改めて鳴上悠です。そちらは自分の事を知っているようですが、何か用ですか?」
悠も丁寧に挨拶を返すが、魔法科高校の人間がワザワザ一般の高校を訪ねてくるなんてことは普通はありえない事だ。
差別意識があり、魔法師はエリート意識が強く一般人を下に見ている風潮があるからだ。
逆に、一般人は魔法師に対し、何らかの悪感情を持っている人が多い。
「その、お伺いしたい事がありまして……」
「なにか?」
「いえ、ここではちょっと、出来れば場所を変えてお話しさせてください」
真由美は周囲を見渡しながら、悠に言う。
いつの間にやら、周囲に人だかりが出来てしまっていたのだ。
下校途中の生徒やら、悠を探していた女生徒達だ。
「はぁ、わかりました。この近所の喫茶店で良いですか?」
周りでは、「そんな!」「悠くん!その女は誰!」「あの鳴上がついに落ちた!」「悠くんを捕らないで!」
などと声を上げていた。
悠は勧められるがまま高級車に乗り、真由美の横に座る。
しばらく車を走らせ、街中で止まり運転手は車を降りる。
今、車の中は悠と真由美だけだ。二人だけで話したいということなのだろう。もしくは、知られたくない何かを話すつもりなのか?
今の悠には見当が付かなかった。
「すみません。急にこんな真似をしてしまいまして……」
「俺に何の用ですか?俺は貴方の事を知らない……貴方は俺の事を知っているようですが、悪い人には見えなかったから話を聞く気になったんです」
「ありがとうございます。その、横浜で……あの横浜事変で鳴上さんをお見かけしたので……それで話を聞こうと……」
(ペルソナを見られた?……この子もあの現場にいた?いや、周囲には居なかったはずだ)
「人違いでは?」
「そんなことはありません。私はこの目で見ていました。貴方が大亜細亜連合の魔法師を複数人相手にしている姿を……」
(あの時か……しかし、周りには確かに誰もいなかったはず)
「……それこそ人違いではないですか、確かに俺は横浜にあの時いましたが、俺はこの通り一般人です。魔法師相手に戦えるはずが無い」
「……わたしは輸送ヘリから、貴方の活躍を見ていました。魔法を使って……」
(ヘリ?……りせが言っていた。輸送ヘリで脱出した集団があったと)
「それは見間違いでしょう。俺に魔法適正はないです」
「すみません。色々と貴方のことを調べさせてもらいました。確かに魔法適正は高校入学時点で無かったようですが、急に成長や覚醒する事もあります。そうでなくては辻褄があいません。私はこの目で確かに貴方を見たの!」
「仮に、俺が魔法適正があったとして、どうするつもりですか?」
「……あっ、すみません。少し声を荒げてしまいまして……何もしません。私のただの興味本位です」
「興味本位?」
「あの事件で、私達の高校の生徒も多数巻き込まれました。幸いにも犠牲者は出ませんでしたが、他校の生徒からは……そして、私の目の前でも……貴方の事が気になり調べましたが、貴方の事がなかなかわかりませんでした。それで事件そのものについても調べました。貴方が居たあの場所では犠牲が他のブロックに比べ圧倒的に少なかった。それで、事件のあの場にいた方々の調書や報告を確認した所、やはり、人々を助け、シェルターに導いた人が居ました。年恰好も貴方と一緒……それでも、貴方にたどり着く事は出来ませんでした」
「学校の生徒が軍関係者や警察関係者でもないのに……どうしてそんなことが?」
悠の疑問はもっともだ。たかが学生が調べられるレベルを超えているからだ。
「すみません。私は十師族七草家の子女ですので……」
十師族、魔法師の頂点に立つ家柄だ。この日本を裏側から支配していると噂されるほどの力を持っている。それならば可能なのかもしれないと悠は納得する。
「そうですか」
「貴方は私が十師族と名乗っても気後れしないのですね」
「いや、驚いてますよ」
「続きですが……丁度ひょんな所から、久慈川りせというアイドルが横浜事変で人助けをしていたと言う記事を何気なしに見ていたのです。その事は有名でしたから知ってました。ただその記事が、りせさんがアイドル復帰からの軌跡を追っていたものだったの。そこに……久慈川りせさんの友人の一人として、コンサートに出演していた貴方を見つけたのです」
(まずい…これはほぼ確信して接触を図っている。興味本位というからには個人的な話なのだろうか?…しかし、りせまで能力者だとばれるのは避けたい)
「りせは俺の元後輩で今も親しい友人です」
「では、あの場に居たのは、鳴上さんなのですね!」
「……それでも、俺は魔法師じゃないです」
「そんなはずは……そうでないと、あれだけの数の魔法師を倒すなんて事は、ありえません。……敵の魔法を跳ね返していたようにも見えました!」
(あの最後の魔法師との戦いだけを見られていたようだ)
「確かに、俺は逃げ惑う人々をシェルターへ誘導しました」
「ではあなたは魔法を使っていたと……新手のBS魔法師いや、SB……?」
「……七草さん、個人的な興味といってましたが、誰にも知られたくない事が一つや二つあると思います。この事はもう、調べないで貰っていいですか?もちろんりせや俺の友人や家族にも知られたくない」
「……あなたはなぜ隠して……それは愚問ですね……本当に私個人だけの話です。もっとも知人に話しても信じてもらえませんでしたが………、誰にも言いません。勿論家族にもです。話して頂いてありがとうございます。……でもなぜ、あのような事を……戦ったのですか?」
「魔法が使えようが使えなかろうが、魔法師だろうが魔法師では無かろうが、人を助けたいという思いは一緒だとおもいます」
「そうですか、貴方とお会いしてよかった。思ったとおり……それ以上の人でした」
こうして、悠は七草真由美との話し合いを終える。
悠は今後はもっと慎重に行動しなければと新たに思いをめぐらせる。
ただ、今の話で、真由美自身悪い人間ではないと感じていた。
できるなら、この事は彼女自身の心の中だけで収めてほしいと……
その後、彼女はこの事を誰にも言わなかったのか、悠が懸念していた軍や警察関係者、もしくは魔法協会などからの接触は一切無かった。
ただ……
「鳴上くん、今日はお暇かしら?」
「七草さん……一応お互い受験生です」
「私は大丈夫よ。鳴上くんも大丈夫よね。わたしは君の成績が相当優秀なのも知っているもの」
真由美は最初に会ったときに比べ大分砕けた話し方になっていた。
なぜか、真由美は翌週から高級車を校門まで乗り付けてくるようになり、拉致……いや、強制的に連れて行かれ、高級レストランの個室でお茶をするはめになったのだ。
初めて会ってから、これで4度目だった。
真由美さん登場
誤字脱字報告は非常に助かりますのでよろしくお願いします。