ペルソナ使い鳴上悠と魔法科生   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。
何時も助かっております。

今回も推理パートですが魔法科高校一年生サイドの話です。
少々長くなってしまってます。


第二十二話 達也達の推測

1月29日(日)18:30

 

リーナは悠の自宅から日本での自宅兼スターズの拠点であるマンションに戻ると……

 

「し、少佐お邪魔してます」

 

「リーナ、おかえりなさい。戻るのが遅かったですね」

 

シルヴィアとミアがダイニングテーブルでティータイムを過ごしていた。

 

「ミア、来ていたのね。私も紅茶いただこうかしら」

リーナはミアの横の席に座る。

 

ミアと呼ばれている大人しそうな20代そこそこの黒髪の女性、本名はミカエラ・ホンゴウ。

日系アメリカ人である。

彼女は、USNA軍情報局の人間で、スターズとは別行動をしている。

彼女は魔法師としての実力はそれほどではないが、研究者としてはそこそこ腕が立つ。

11月中旬に行われたUSNAのとある重要な大規模実験に参加するぐらいの評価だ。

その実験は失敗し、それに関わった軍関係者の内12名が行方不明になりドッペルゲンガーに成り果てたのだが……彼女はその後普通に生活し、11月末に【灼熱のハロウィン】容疑者捜索員に任命され、日本へ潜入捜査のため密入国している。日本では本郷未亜という名で、魔法大学や魔法科高校などに魔法測定機器や練習機器などを卸している外資系魔法機器メーカーのエンジニアとして働きながら、情報を集めているのだ。

 

彼女のような捜査員がメインで、今も日本全国各地で潜入捜査を行っていた。

 

その彼女は、リーナ達と同じマンションの隣の部屋で生活しており、シルヴィアと年も近いとあって、こうして、ティータイムを楽しみによく来るのだ。

 

「少佐、その、申し訳ないです」

 

「いいのよ。今はプライベートなんだから、堅っ苦しくしないで」

 

「いえ、その少佐が先日大変な目に遭ったとお聞きしているのに自分はこうしてのんびりと……」

 

「そもそも、ミアは情報局じゃない。毎日忙しくしているのでしょう?」

 

シルヴィアはリーナに紅茶を出しながら……こんな事をミアに言う。

「ミアは気にしなくていいのですよ。リーナは、今、ボーイフレンドの所に遊びに行ってたのだから」

 

「ボ、ボーイフレンド?…あの、この前に言っていた近所の一般人の男の子ですね」

ミアはシルヴィアやリーナの会話で何度か話題に出た事を思い出す。

 

「そうよ、友達の家にちょっとね」

 

「そう言えば、少佐は最初に比べると、随分リラックスしている様に見えます」

ミアは日本に来たばかりのリーナが気を張り、余裕が無いように見えていた。

 

「流石に日本に来て1ヶ月経とうとしているのですもの、慣れてくるわ」

 

「それだけですかリーナ?」

シルヴィアは意味深な言い方をする。

 

「なによ。シルヴィ」

 

「ミスター鳴上……いえ、鳴上悠さんは、私の目から見ても、素敵な男性ですよ。背が高いし、やさしそうですよね」

シルヴィアはわざとこんな言い方をリーナにする。

 

「そ…そうかしら、ただのお節介焼きの世話好きなだけよ。料理や家事も万能で、どっかの家政婦みたいな感じなんだから……何でそこで悠が出てくるのよ!」

リーナは顔を横に向けながら、シルヴィアに文句を言う。

 

「丁度いいじゃないですか、料理も家事もまったく出来ないリーナとお似合いですよ」

シルヴィアはリーナをどうやらからかっているようだ。

リーナとシルヴィアは上司部下の間柄だが、プライベートでは手のかかる妹を優しく諭す姉のように接している。

 

「私だって!料理ぐらいやれば出来るわ!」

 

「そうですか?本当にそうですか?」

 

「ちょ、ちょっとだけなら」

リーナは自信なさげだ。

 

「少佐は、その鳴上くんが好きなんですね」

ミアはそんなリーナとシルヴィアの会話を聞いて、こう結論づけた。

 

「な!?何を言ってるのよ!ミアは!!」

 

「す…す、すみません」

ミアは慌ててリーナに謝る。

 

「そんな事あるわけないじゃない!!」

 

「そういう事にしておきましょう」

 

「シルヴィ?ちょっと、何よそんな事ないわ!」

 

リーナの自宅でも楽しげな雰囲気に包まれていた。

 

 

この数日後、リーナは司波兄妹との一件、とある上級幹部の鶴の一声でお咎め無しの沙汰がくだされる。

 

 

 

 

 

1月30日(月)7:30

 

「リーナ…無事だったのね」

深雪はリーナの姿を見て心底安堵した表情をする。

深雪は校門近くでリーナが登校するのを待っていたのだ。

 

「無事って、あなた達兄妹から勝負を吹っかけてきたのよ?よく言えるわね」

リーナは不機嫌そうに答える。

 

「それはそうなんですけど……でも、あの恐ろしい何かから………貴方を置いてきてしまいました……ごめんなさい」

深雪はリーナに申し訳なさそうに、頭を下げる。

 

「………わたしも、あの後気を失って、何が起きたかわからないわ……それにしても、あなた達兄妹があんなに強いなんて……次は私が勝つわ深雪」

リーナはそう言って、強気の笑顔を深雪に向ける。

 

「そう……先日のは引き分けよ。リーナがあそこ迄出来るとは、私も思っていなかったもの。次は私も負けない」

深雪も微笑みながら答える。

深雪は最愛の兄に敵対するかもしれないリーナに、何故か悪感情を抱くことが出来ないでいた。何方かと言うと好意に近い何かを感じていたのだ。自分と同じ魔法力を持つ存在だからなのか、自分と境遇が近い存在だからなのか、はたまたライバルと言う存在としてなのか、それはわからない。

 

 

 

深雪は達也に助けられた後、暫く放心状態であった……

悠のペルソナ【シヴァ】を目の当たりにし、今まで感じたことがない威圧感をまともに受けてしまったからだ。

ただ、しばらく安静にしていると、立ち直ることが出来た。

なぜだか、あんなに恐ろしい目にあったのに恐怖が湧いてこないのだ。

それよりも、リーナをあの様な場所へ置いてきてしまったことを後悔し、無事で居てくれることを祈っていたのだ。

 

 

 

 

1月30日(月)12:30

 

「達也くん、朝に言ってた話なんだけど」

 

「ゴースト事件の犯人に出会った件か……犯人はどんなやつだったか?」

 

達也とエリカ、幹比古、それに美月が昼休みに屋上で食事を取りながら、話し合いを始めていた。

美月はこの件には全く無関係だが、友人として一緒に聞いている。

 

「あれはやっぱりパラサイトだよ。人間から狼男に変身したんだ!」

幹比古は興奮気味に達也に話しだす。

 

「幹、狼女も居たから、狼人間よ」

エリカはそんな幹比古に思わず突っ込む。

 

「何だそれは?狼男、狼女?」

2人は達也に狼人間などと言っていたが、正確にはコヨーテ人間である。

コヨーテと狼の判別は普通は難しい。

 

「うん、信じられないけど、最初は仮面被った人間だったんだけど、本当に変身したんだ」

 

「変身?それは精神干渉系の幻惑魔法ではないのか?」

達也はリーナの対抗魔法パレードを思い出しながら聞き返す。

 

「たぶん違うと思う。あの刀を合わせた感覚……本物ぽかった」

「精神干渉系なら僕も得意だから……あれはそんなものじゃなかったと思う」

エリカと幹比古も魔法ではないかという達也の問を否定する。

 

「そんな事が………いや………最初から順を追って話してくれ」

達也はリーナから、ドッペルゲンガーについての情報を得ていた。

さらに、師匠の九重八雲の話では、パラサイトとドッペルゲンガーは同じカテゴリーのものだと、俗に言う悪魔や妖怪の類だと聞いていた。

それならば、狼人間がいたとしてもおかしい話ではない。

リーナと八雲の話が逆に真実味を帯びてきたのだ。

 

 

幹比古は語りだす。

 

「最初から話すと……変な仮面の黒服黒マントのレオを襲ってきた連中と同じ格好の奴を、僕が街中で発見して、エリカや他の捜査員に連絡してから、後を付けていくと、新宿の都立高校に入っていったんだ。とりあえずエリカと捜査員を待ってから、捜査員2人とエリカと僕で二手に分かれて高校に侵入したのはいいんだけど、何故か敷地内は霧に覆われていたんだ」

 

「霧?大きな池でも有るのか?」

達也は疑問を持ち口を挟む。

 

「敷地内に入る前は、霧なんて立ち込めて無かった。入った途端そんな状況で視界が悪かったんだ」

 

「どういう事だ?」

 

「原因はわからない。けど霧が立ち込めていた。魔法の可能性を探って見たんだけど、魔法ではなさそうなんだ」

 

「で、どうした」

 

「捜査員二人と連絡がつかなくなって、もしや奇襲や待ち伏せなのかもしれないと思った僕は、エリカとグラウンドの中央に陣取って、様子を見ていたんだ」

 

「なかなかいい判断だ」

 

「そしたら、変な仮面の黒ずくめ黒マントの人影が3体現れ、その内の2体が僕らに襲いかかって来たんだ」

 

「待ち伏せだな。そいつらは何か言ってなかったか?」

 

「たしか…………僕らの事を外れだとか、何とか言っていた」

幹比古は思い出しながら答える。

 

「彼奴等、人のことを外れと言ったのよ」

そこでようやくエリカが口を開く。

忌々しそうにそういった。

 

「……奴らは魔法師を選別しているということか……襲って魔法師の何かを狙っているということだな

………その選定基準は能力なのか、特殊な魔法の使い手なのか…………」

達也は幹比古とエリカの言葉を聞き、パラサイト(ドッペルゲンガー)が魔法師の中から、何かを探していると判断した。

 

 

幹比古はそのまま続ける。

 

「襲ってきた2体は、最初は僕らも知っているような現代魔法を使っていたんだ。しかもCADを使わずにかなりのスピードで魔法を放ってきた………それでも、僕とエリカはそれに対処できたんだけど………」

 

「CADを使わずに魔法を?高レベルな魔法師、又はBS魔法師か……いや、もしかすると…………」

達也はまたしても考え込む。

通常、魔法師は魔法の起動式の記録と演算補助を行うCADを使用しないと効率のいい魔法運用が出来ないのだ。CADを使わずにスピーディーに魔法を展開するには特殊な技能を習得しているか又は特殊能力者以外では、魔法師本人に負担が掛かり、難しいのだ。

 

「続きいいかな、達也」

 

「すまん幹比古」

 

「その2体が、徐々に苛立ってきて、今度は、影から狼を生み出して襲ってきたんだ」

 

「式神かなにかか?」

 

「いや、式神でも魔法でも無いように思う。何なのかわからないけどやけにリアルだった」

 

「意思を持って襲ってきた。私もとても式神には見えなかった」

エリカも幹比古と同意見を言う。

 

「……式神ではない。魔法でもないか…」

達也は一瞬先日に出会ったとんでもない存在…【シヴァ】が頭によぎる。

 

「エリカがそれも何とか対処してくれたんだけど、その狼を倒すと、パラサイト達が怒ったように、狼人間に変身して襲いかかってきたんだ。それが人間の姿だった頃に比べると体も巨大化し、スピードも増していた」

 

「力もね。……段違いにパワーアップしていたわ」

 

「……それで、どうなった?」

 

「僕が油断して、エリカに攻撃が集中しようとした瞬間に、助けが入ったんだ」

 

「誰なんだ?」

 

「……その人はエリカと狼人間の間に立ち塞がるように入って、狼人間の1体に大ダメージを与え、直ぐにエリカを抱きかかえ、安全な場所に降ろしてから応戦に入ったんだ……」

幹比古はそのまま話を続ける。

 

「凄まじい刀の使い手よ……私なんかよりも数段上、修次兄様と同等か……もしかするとそれ以上かも…」

エリカはその時の様子を思い出すかのようにポツリポツリと話しだす。

 

「エリカよりも上、【イリュージョン・ブレード】千葉修次に匹敵、それ以上……凄まじい使い手だな」

達也は珍しく驚く。

エリカの次兄千葉修次は近接戦闘に置いて、世界でも十指に入る使い手と言われ【イリュージョン・ブレード】の二つ名を轟かせる屈指の魔法師だ。

 

「スピードが速すぎて、古式魔法でフォローする間も無い程だったよ」

 

「幹比古が捉えられないほどか……」

 

「その後、人型の巨大な式神を召喚して、強烈な電撃……いや落雷を放って、パラサイトを1体消滅させたんだ。あんなに僕らが手こずった相手を苦もなくだよ。もう1体も瀕死だったけど、何かに引っ張られるように空中に急速に飛んでいって、逃げていった。戦いに参加していないパラサイトも同じく逃げていった」

 

「幹比古!!その人型の巨大な式神とはどういう奴だった!!」

達也はその話を聞いて、急に幹比古の両肩を持ち迫る。

 

「え?達也何?」

達也の急変に幹比古は戸惑う。

 

「す…すまん。幹比古……その式神はどんな姿をしていたんだ?」

達也は幹比古の両肩を離し、何時もの落ち着いた雰囲気で聞き直す。

 

「見たのは一瞬だったけど……黒い式神…えーっと大きな刀を持っていた」

「刀というより、大きな包丁のような形ね。長ランのような黒い服装をしていたわ。あと鉢巻をしていた。身長は4メートルぐらいは有ったように見えたわ」

幹比古とエリカはその式神(イザナギ)の印象を説明する。

 

「……そうか」

達也は残念そうなホッとしたような表情をしていた。

そう、達也は、リーナと深雪の勝負の最中に現れた【シヴァ】ではないかと、思ったのだが……姿形や大きさが違った事で、別物だと判断したのだ。

達也はあの【シヴァ】が気になって仕方がなかった。現状では何故あの場に現れたのかもわからない上、2人の魔法をああも簡単に消し去り、さらにあの威圧感だ。

九重八雲も関わるなと言った程のものだ。

 

達也はあの後、【シヴァ】について色々と調べるが……信仰の対象や破壊を司る神などという。宗教的な情報しか集まらなかった。【シヴァ】を模した式神を使用する古式魔法師が存在するかを検索に掛けたが、見当たらなかったのだ。

 

達也にとって、深雪を害する恐れがある存在を認めるわけには行かず、八雲の忠告を聞き入れず【シヴァ】を探していたのだ。

ただ、深雪は、今後、このゴースト事件には関わらせないようにしようと考えていた。

 

「で、その式神を操る剣術使いは誰なんだ?」

 

「……仏頂面じゃない達也」

「……爽やかな達也くん」

幹比古とエリカは同時に答える。

 

「プクップククククッ…ご、ごめんなさい。つい」

今まで黙ってこの話を聞いていた美月は、幹比古とエリカの同時の答えに、つい笑いを我慢できず漏らしていた。

 

「…………何の冗談だ?」

達也は鋭い目つきで2人を見据える。

 

「冗談じゃないって、だからレオが言ってた人だよ」

「そう、彼奴を助けた人よ。…たぶんだけど。ほんとレオが言ったとおりだったから驚いたわ」

 

「!…レオを助けた人物と同じか…その人物は誰だったんだ?」

 

「いや、名乗ってくれなかったし、一応助けてもらったお礼は言ったんだけど、逃げるように去って」

 

「私も千葉家の剣術使いのデータベースを見たけど、流派内もだけど、流派外の有名な剣術使いも探ってみたけど、居なかったわ。あれ程の使い手が無名なのはおかしいわ」

エリカは家に戻ってから、助けてもらった人物を千葉家の情報データを閲覧し探ったが見つからなかったのだ。

 

「そうか……」

 

「でも格好良かったな。ピンチの時に颯爽と現れて、用が済んだらすっと居なくなる。昔のヒーローみたいだった」

「確かにそうね」

エリカも幹比古の意見に納得したようで、神妙にうなずいている。

 

「そうか、2件ともその人物が助けに入り、パラサイトを撃退したということだな。その人物はパラサイトの事を詳しく知っている可能性が高い。

そして、パラサイトを独自に退治して回っていると言うことか………どうやら1人で行動している様だが…………何者なのか………もしくは軍や十師族の秘密工作員又は知られていない魔法師なのかもしれないな」

達也はそんな憶測を話してしまう。

事実、達也自身が十師族四葉家のその立場なのだから……

 

「ん?……そう言えば、狼人間のパラサイトがあの人の事を知っている風だったよね」

幹比古は重要な事を思い出した。

 

「どういう事だ?」

 

「そういうばそうね。狼女の方があの人を見て、かなり殺気立って怒鳴っていたような………えーと

『あの時のペルソバツカイか』?だったかしら」

エリカはうろ覚えのようだ。ペルソナという単語自体馴染みが無いため間違えても仕方がないだろう。

 

「そんな感じだった……ような」

幹比古もエリカと同じらしい。

 

「ペルソバツカイ?何のことを指しているのかわからないな」

エリカが変な言葉使いをしているため、流石の達也もそれが何の単語なのかわからない様だ。

 

「ペルー蕎麦使い?……ペルー側仕え?」

エリカは意味ある言葉に変換しようとするがしっくり来ない。

 

「……それ、ペルソナ・使い。…じゃないかな」

いままで黙って聞いていた美月がここでようやく口を開く。

 

「ペルソナ?」

「ペルソナって何?美月」

幹比古とエリカは美月の方に向き直り聞いた。

 

「ユングの心理学の考え方で、元来は古典劇の仮面を意味する言葉なんだけど……」

美月は簡単に答える。

 

「なにそれ?ユング?美月よくそんな心理学とか知ってるわね」

エリカは感心したように言う。

 

「私、本が好きだから、前にそれに因んだ本を読んだことがあって…………でも、ペルソナの後の言葉に使いって付くから、意味が通らないから違うのかも」

言った本人である美月は自信なさげだ。

 

「いや、あながち間違いではないかもしれん。ペルソナという意味自体ではなく、それを模った何らかのBS魔法のことなのかもしれないな。それならば意味が通る。しかしペルソナという魔法や能力は…聞いたことがないな」

達也は美月の意見を肯定的に捉え補足する。

しかし、達也自身ペルソナやペルソナ使いについての知識は無い様だ。

 

「ということは、あの人に狼人間はかなり殺気立っていたし、一度対決した事があるのか、それともそのペルソナとかいうBS魔法の使い手は奴らの天敵なのかもしれないね」

幹比古は意見をまとめる。

 

「ああ…飽く迄も推測の域を脱しないがな」

 

「何にしろ、あの人を探し出して、色々と聞いた方がいいと思うわ。改めてお礼もいいたいし」

エリカは至極まっとうな意見を出す。

 

「そうだね」

「そうだな」

幹比古も達也も同意見のようだ。

 

「みんな聞いていい?なんで、その人名乗らなかったのかな?良いことをしているのに」

美月は皆にこんな質問をする。

 

「それは?……なんでだろう?…恥ずかしがり屋?」

「うーん、秘密のヒーロー?だから?」

幹比古とエリカの答えはこれだ。

 

「……世の中には俺たちが知らない事情を持つ人間も居るということだろう」

達也はこう言ってこの話題を締めくくった。

 

 

 

 

 

 

1月30日(月)15:30

 

放課後、大ホール議事堂にて生徒会による緊急全校集会が開かれ、半強制的に全員参加となる。

生徒たちは渋々と言った面持ちで参加していた。

 

「皆さん、突然に招集いたしましたことを、まずはお詫びいたします。緊急且つ私達の第一高校にとって重要なお話があります」

小柄な生徒会長の2年生の中条あずさがまずは、全校生徒の前で挨拶をする。

 

「第一高校始まって以来、初めての試みです。全国の魔法科高校でも例のないお話です。タレント、アイドルとして大活躍中の久慈川りせさんを来たる3月に一日生徒会長として、お呼びすることになりました」

 

すると、生徒達から驚きの声や批判の声などが上がり、ざわめきが起きる。

アイドルの久慈川りせが来ることに称賛や興奮の声を上げる生徒。

そんな事で招集されたことに、批判の声を上げる生徒。

皆が知るトップアイドルが学校に来るというよりも、一般人をこの学校に、ゲスト扱いで何故、来させるのだろうという疑問の声も出ている。

 

普通の高校であれば、称賛の声と共にりせの歓迎ムードとなるところだが、やはり、魔法科高校、普通の高校とは生徒の反応が異なる。

 

 

珍しく、理事長が全校生徒の前に登場し、趣旨を伝える。

「大々的にマスコミも入ることでしょう。皆さんは魔法師の代表として選ばれました。魔法師のクリーンなイメージを国民の皆さんにお伝えするいい機会です。皆さんは魔法師の代表として、失礼のないよう励んでください」

 

更に中条生徒会長から話が続く。

 

「急な話ですが、4日後の2月3日に、ドキュメンタリー番組を作成するために、久慈川りせさんが来客され、校内を見て回り、授業風景などもみられるかもしれません。授業に参加などという事もあるかもしれません。また、カメラや多数のスタッフも入ります。もしかすると生徒の中から突然のインタビューを受けるかもしれません。皆さんには魔法師として第一高校の生徒として恥ずかしくないような行動を心がけてください」

 

 

この後、生徒会副会長の深雪から、注意事項などが語られる。

 

 

その間、大ホール議事堂の3階席では………

「美月!りせちーが来るんだって!」

珍しくエリカは興奮気味だ。

 

「エリカちゃん。結構好きだもんね」

 

「りせちーの歌を聞いてると元気が出るのよ!」

どうやら、エリカはりせのファンらしい。

 

その横では、幹比古と達也が真面目な話をしていた。

「達也、これって…………」

 

「ああ、明らかに魔法師のイメージアップ戦略だろうな……この頃、魔法師絡みの事件が立て続けに起きている。内務省あたりが重い腰を上げたのだろう」

 

「やっぱり、そうなんだ。でも、よく久慈川りせみたいな大物呼べたね」

 

「そうとう大きな金が動いたのだろう。魔法協会も最早なりふり構わないようだ」

 

「まあ、僕としてもアイドルを生で見られる機会があって良かったと思うけど、そう聞くと少し複雑だね」

 

「幹比古もファンなのか?」

達也は隣で騒いでいるエリカを見ながら幹比古に問いかける。

 

「まあ、ファンってほどじゃないけど、普通に歌とか聞くしね。復帰後は大人びて、今のアイドルの中では一番かわいいし」

 

「そうか……しかし、イメージアップ戦略としてこの学校はどうだろうか?……校内でもいざこざが絶えないというのにな」

 

「……うん。そうだね。一科生と二科生の軋轢をどうするんだろうね。前に比べるとましになったけど……」

幹比古がこういうのも無理はない。

魔法大学附属第一高校では、魔法の優劣で一科生と二科生に振り分けられる。

それが差別を生み、エリート意識の高い魔法師はそれを当然のごとく容認する。

一科生は二科生を補欠や劣等生などと見下し、一科生生徒は自らをブルーム(優等生)と呼び、二科生をウィード(劣等生)と蔑む。

前生徒会長である真由美が奔走し、いくらかは差別意識は改善されたが、数十年という歳月で出来た差別意識はそうたやすく払拭することが出来るわけもなく、今も根強く残っているのだ。

そんな事を大々的に全国に知らされると、さらに魔法師に対しての批判が高まるのではないかという不安が有るのだ。

 

「そうも言ってられないな…忙しくなりそうだ」

達也はボヤく。

風紀委員である達也は警備や校内巡回などの強化などの仕事を行わなければならないだろう事は想像に難しくは無かった。

 

「風紀委員は大変だね」

 

 

 

 

この後、案の定、風紀委員の達也に緊急招集がかかる。

生徒会、風紀委員会、部活連の合同会議だ。

そこには、元生徒会長の真由美や、元風紀委員長の渡辺摩利、元部活連会頭の十文字克人も参加していた。

 

4日後のスケジュールの確認等が次々と行われる中、警備の話になり、りせの直接ガードを誰が行うかの話になる。メイン2人とサブ2人を選ぶことになる。

 

「私にさせてくれないかしら」

真由美は間髪入れずに立候補する。

もちろん、りせと悠をサポートするためだ。

 

「七草先輩がやっていただけるなら何も心配はいりません」

中条生徒会長はホッとした表情をする。

 

「ならばメインのもう一人は、私がやろうか……どうせ、2月は授業もないしな」

元風紀委員長の渡辺摩利が立候補する。

 

「あの……すみません。渡辺先輩、立候補して頂けたのはありがたいのですが、サブでお願いしたいんです。実はメインは決まってまして……学校側からも要望があり……その司波くんにやってもらいたいんです」

 

「え?り…久慈川さんのガードは女性の方が良いのでは?男性の達也くんだと何かと不都合があるのでは?」

真由美は達也が指名されたことに焦る。りせ、いや悠の側に達也を置くのは非常に危険だ。万が一に悠の存在がばれないとも言い切れないため、一番避けたかった事態だからだ。

 

「聞いてもいいですか?なぜ俺なんですか?」

達也も疑問に思ったのか中条生徒会長に聞き返す。

 

「その言いにくいのですが、司波くんはこの場での唯一の二科生です。学校側からもその辺の……配慮が必要だとかで……是非お願いしたいのです」

 

「……そういう事ですか…わかりました」

達也はそれだけを聞いて納得する。

要するに、二科生の達也をりせの近くに置いておくことで、差別意識が無いイメージを作りたいのだ。さらに、そんな状況に出来わしても、フォローできる人間がりせの側に必要だと言う計算があるようだ。

それで、生徒会、風紀委員会、部活連の中で唯一の二科生である達也に白羽の矢が立ったのだ。

 

そう言われると、真由美は何も言うことが出来なかった。

確かに理に適う人選なのだ。

戦闘力も高く。二科生である達也はこれ以上ない人選なのだ。

(……ごめんなさい!鳴上くん、りせさん)

真由美は心の中で悠とりせに謝る。

 

サブは渡辺摩利と生徒会書記の光井ほのかが選ばれる。

ほのかは達也と一緒に仕事が出来る事に顔が緩んでいた。

ほのかは達也に片思いをしている。当然ブラコンの深雪はそれを快く思っていないが、生徒会副会長としての仕事があるため、自分が立候補するわけにも行かなかったのだ。

 

 

 

 

 

そして、日は過ぎ…………りせが取材に第一高校に訪れる当日を迎えることになる。

 

 

その間、ドッペルゲンガーは現れることは無かった。

りせのエネミーサーチにも引っかかる事もなく、被害者も出ることは無かったのだ。




次は遂にメイン、魔法科高校編です。
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