誤字脱字報告ありがとうございます。
悠はドッペルゲンガーの解決の為に尽力するお話です。
2月4日(金)9:30
翌日早朝、桐条美鶴は警視庁へ向かう。
警察組織のパラサイト対策チームの長と警察の上層部と内務省の高官が顔を揃えていた。
美鶴は第一高校襲撃はドッペルゲンガーの計画された奇襲制圧である事を説明し、先日はかなり危機的な状況だったと話す。
たまたま、その現場に、ペルソナ使いである鳴上悠が居合わせたため、これだけの被害ですんだ事、下手をすると、横浜事変とは比べ物にならないほどの被害が出ていた可能性があったこと………そして、ドッペルゲンガーの目的が、神や悪魔の降臨だということを………
美鶴はペルソナ使いがどのようなものかを説明し、その際、自らのペルソナ、ペンテシレアを顕現させ、周囲を驚かせていたが………鏡に閉じ込められる生徒達、異世界の門、ドッペルゲンガーの素性、神や悪魔のような存在の降臨などの話が、あまりにも突拍子も無い話だったため、信じてもらうことは出来なかった。
因みに悠の立場は美鶴の協力者だという事で収めている。
美鶴は警視庁の後にその足で、国防軍庁舎に向かい軍上層部数名と軍側のオブザーバーとしての立場の七草弘一と十文字家当主が会談する。
「お初にお目に掛かります。警視庁対シャドウ部隊シャドウワーカー隊長を務める桐条美鶴です」
「七草弘一です。貴方はその前に桐条グループの総帥という立場がお有りでしょう」
こんな自己紹介から始まり、第一高校で起こった事象を説明し、たまたまペルソナ使いである鳴上悠がその場にいたため、ドッペルゲンガーを退けることが出来たと話す。
この時も、美鶴はペルソナ、ペンテシレアを顕現させて見せ、そして警察組織と同様の話をする。
軍上層部の人間は警察組織とほぼ同じ反応をし、美鶴の話を信じてもらうことが出来ず一笑される。
ただ、七草弘一だけは、その話を表情を変えず真剣に聞いていた。
2月5日(土)9:05
第一高校の現場調査が行われる中……調査の進行状況を確認するために、警察組織、軍組織上層部や政府高官そして、魔法協会……いや、十師族の関係者が現地査察に訪れる。
美鶴達シャドウワーカーも警察組織側の人間として参加。
七草弘一、十文字家現当主、さらに、十師族九島家の元当主九島烈、一条家、三矢家、五輪家の当主など錚々たるメンバーが顔を見せていた。
そこには独立魔装大隊隊長の風間少佐の姿もあった。
魔法科高校は魔法師の卵の学校といえども、戦力的には、軍一個大隊に匹敵すると目算されている。それをたった7体のドッペルゲンガーにほぼ無力化されるまで陥った事実に、事の重大さを認識する。
そして、目を引いたのは……ドッペルゲンガーが行った破壊工作とされる練習棟の破壊状況と、野外訓練場奥の森に、地面には巨大な何かが争った様な跡となぎ倒されている木々、そして突如として現れたかのようなぽっかりと開いた直径100メートルの巨大な穴だ。
これらを見た、現場調査スタッフは戦慄する思いだったと言う。
七草弘一、十文字現当主、風間少佐等や警察組織上層部の査察団も、これを見て………今までの認識が如何に甘かったかを思い知らされる。
そして………先日、美鶴が語ったドッペルゲンガーと異世界の門などの話が現実味を帯びてくるのだ。
実際は……これらの破壊は悠がやったのだが…………今はその事は当事者達しか知らない。
2月5日(土)18:30
悠は七草弘一から直接連絡を受け、七草宅の応接間に通される。
応接間には、七草弘一、長男智一、次男孝次郎、そして真由美が待っていた。
悠は弘一に促され、弘一の対面、真由美の横に座る。
「……君はパラサイトいや、今はドッペルゲンガーか……奴らに対して何らかの対抗手段を持っていると疑っていたが……これ程深く関わっていたとはな………」
弘一は開口一番、悠にこう言ったが、怒り等の感情は見受けられない。
「すみません。騙すつもりはありませんでした」
「……いい。君にも立場があったのだろう。未だに信じがたいが、我々が追っていたものが異世界の化物だったとはな。どうりでうまく行かないはずだ。我々の行動は最初から間違っていたのだろう……人や魔法師とは全く異なった存在を相手取っていたのだからな」
弘一はため息をつきながら悠に言う。
「なぜ我々に言わなかった」
次男孝次郎が悠に鋭い視線を向ける。
「………この事件に関してはペルソナ使いである自分の領分だという考えからです。また、当時の俺はここまでの事態になるとは予想してませんでした。」
「我々魔法師では対抗できないと考えたのだな……舐められたものだ」
「……俺はドッペルゲンガーと同じ存在と数度戦った事があります。その経験の差は大きい」
「そもそも、ペルソナ使いなどというSB魔法は聞いたことがない。……なんなのだ」
孝次郎は悠を責め立てるように言う。
どうも孝次郎は悠が気に食わない様だ。
「……ペルソナ使いは、ドッペルゲンガーのような、闇や異世界からの来訪者と戦うすべを持つ能力です。………そのような連中が現れない限り、必要のない能力です」
「ふん……………真由美は知ってたんだな」
孝次郎は矛先を真由美に向ける。
「……知ってたわ」
「なぜ、言わなかったんだ!」
孝次郎は声を荒げる。
「俺が黙ってくれるように頼んだんです」
「………もし、あの時点で鳴上くんが特殊能力者だと知ったら、兄さん達は鳴上くんをどうしてたのよ!」
真由美も孝次郎に向かって声を大にして抗議する。
「なんだと!?」
「孝次郎やめんか……真由美もだ………過去のことはもういい」
「「…………」」
孝次郎と真由美はお互い顔をそむける。
「鳴上くん、見苦しい所を見せた。すまない。………ここに来てもらったのは、改めて君と話がしたくてね。……幾つか聞きたいことがあってのことだよ。そうかしこまらなくてもいい」
「話ができることであれば」
「そうか……君はペルソナ使いというSB魔法師……いや、特殊能力者なのだな」
「そうです」
弘一は悠の答えを聞いて、話し出す。
「あれからペルソナ使いについて、調べさせて貰った。確かに警察組織の末端に特殊事象案件を対象とする部隊が公に存在していた。内容もペルソナを使用する特殊部隊だとも………ペルソナについても、霊障や非現実事象の対応可能なSB魔法としか書かれていない………先日、ペルソナについて桐条美鶴嬢に説明を受けた。シャドウという存在に対抗するための能力だと…………異世界の化物や神話に登場するような神や悪魔などにも対抗する手段だとも………桐条グループは実際にそれらを研究するために莫大な予算を注ぎ込んで居た………未だに信じられない事だが、実際に彼女のペルソナを見て…………これが現実ということは……かろうじて理解できた。ただ、話があまりにも突拍子が無さ過ぎる。………異世界から神や悪魔を呼び寄せ、人類に災いを起こすなどと………政府高官や軍上層部は信じていないだろう。………しかし、これまでのドッペルゲンガーの事件、鏡の中に人を捕らえる行為…真由美が実際に囚われている。今回の事件の生徒達もな……、魔法や現代科学では証明できない事象だ。私は……桐条美鶴嬢の話をただの与太話だと、一蹴できない。
そして、今日私は、第一高校の惨状を見てきた………特にドッペルゲンガーが行ったとされる森に開いた大穴……あれはどうやったものか見当もつかない………破壊力ならば魔法でも可能だが、周りにほぼ影響を与えずあれだけの破壊を振るうなどと……しかも破壊された断面を見るにそこにあったものがまるごと消滅したような跡だった。そのような魔法………私の記憶には無い」
続いて、弘一の横に座る長男智一が話し出す。
「……真由美にも詳しく話を聞いたが……真由美の話も突拍子も無かった。霧が立ち込め、それが外部との行き来を遮断……ドッペルゲンガーは7体だが……その7体が多量の化物を生み出し、生徒達を襲ったと……その化物にさえ、魔法師の卵である生徒達は抵抗出来ずに捕まり……サイオンを奪われた……魔法師からサイオンや生命力を奪うなど、どうやったのかもわからないが………七草家の家人も、そんな状態で今も何人も入院してる………これは事実だろうと判断出来る。
どれも、普通ならば信じがたい話だが、霧についても、実際に結界に阻まれ、軍も警察も暫く第一高校に突入出来なかった。
ただ、真由美の話は全て、辻褄が合うんだ」
「第一高校内でのドッペルゲンガーとの交戦だが、やはり君がかなり活躍したようだね。
留学生のアンジェリーナ・クドウ・シールズも何体か撃退しているらしい。彼女がUSNAスターズであることは私も把握している。他の魔法師とは比べ物にならない力を持っているため、対処可能だったのだろう。
真由美に聞く限りは、魔法師でもドッペルゲンガーに対処出来ると……
真由美が言うには……君の指示や指揮で、魔法師でも、ドッペルゲンガーと生み出した化物に対処出来たと言っていた」
ドッペルゲンガーとの交戦内容は詳しく報告されていない。ただ誰が倒したか等を報告されたに過ぎない。
実際はりせが行った事も、悠にすり替えられ報告されている。
これは、りせを庇うためにあの場にいた全員が徹底した。
「ドッペルゲンガー、ペルソナ使いはシャドウと呼ぶ存在ですが、俺の場合、過去に似たような交戦経験があったため、指示や指揮が可能だったんです」
「なるほど……ペルソナ使い…いや、君が居れば、魔法師でも十分戦えるということだな」
「魔法師が今までドッペルゲンガーと対峙した経験が無かったため、遅れを取っていたに過ぎないと考えています」
「いや、桐条美鶴嬢が君のことを、ペルソナ使いとして極めて優れた才能を持っていると言っていた。並のペルソナ使いでは、第一高校を襲撃してきたドッペルゲンガーを退けることが出来なかったとも」
「………」
「……私もそれを感じている。何にも動じないその精神力、……君には悪いと思っていたのだがね………君を疑っていたため、真由美を助けて貰ってから、優秀な間者に尾行させていたのだが尽くまかれた。君も気がついていたのだろ」
「お父さん!」
真由美は弘一に抗議の声を上げる。
「………」
悠は苦笑するしか無い。
「しかし……今の状態では、軍上層部や政府は、ドッペルゲンガーに本腰を入れないだろう。なにせ桐条美鶴嬢の話は荒唐無稽過ぎる。神や悪魔の存在、シャドウという妖怪、幽霊や心霊現象などの大本となる存在など、誰が信じよう。ペルソナ能力もどのようなものなのかも全容が不明だ。古式魔法の式神に毛が生えた程度の認識だ」
弘一は現状では、政府は本腰で動かないだろうと判断していた。
「実際、第一高校はドッペルゲンガーの襲撃を受けてます。そして、生徒全員から生命エネルギーを奪い、異世界の門を開こうとしていました。それは事実です」
悠は弘一に訴えかける。
「事実として、340人もの生徒がサイオン欠乏のうえ、謎の生命維持機能の低下状態だ。それは事実として受け止められる。………ドッペルゲンガーが百歩譲って、異世界の存在だとしよう。………だとしても、神や魔、大厄災や人類滅亡など、誰が信じよう」
弘一は尚も、それだけでは政府を説得するのは難しい事を示す。
「…………」
「さっきも言ったが、私は彼女の話が、すべて虚構だとは思えない。もし、桐条美鶴嬢の話が事実であれば、大規模厄災など起き、日本は国力が低下するだろう。そうなる前に我々は対抗手段を得なければならない。………そこでだ。ドッペルゲンガーに対抗し、そしてシャドウという異世界の化物と交戦してきた君の力を見せてほしい」
弘一は悠に、ペルソナ能力を見せるように言う。
確かに、存在が証明することができないシャドウや神や悪魔を論じるよりも、それに対抗してきた人間の力を見ることで、相手の力量を測る指針になる。………飽く迄も指針だが…………
「父さん!そんな与太話信じるに値しない!」
「孝次郎、お前はゴースト事件に関わってこなかったから、わからんだろうが……今まで相手取ってきた連中とは明らかに異なる。手応えがまるで無いのに、被害だけは被るのだ。……そして、鏡の中に閉じ込めるなどという話も、最初は信じられない話ではあったが、今ではそれが事実として認識されている。
もし、神や悪魔の存在が本当であれば、取り返しの付かない事態になるだろう。何もせず否定するばかりではな………
実際に目の前に、そういう連中と戦ってきたと言う青年が居るのだ。見極めるには丁度良いではないか………もし、彼が偽物であれば、それまでの話だ」
「……わかった。兄さんはどうなんだ」
孝次郎は渋々といった感じで了承し、兄の智一にも聞く。
「僕も、神や悪魔などと信じられないが、ドッペルゲンガーが強敵で、脅威になることだけは認識している。第一高校の惨状を見れば余計にね。日本政府には動いて貰う必要性を感じるよ」
智一はゴースト事件の現場指揮を1ヶ月以上行ってきており、さらに第一高校の襲撃跡を見てきている。神や悪魔の降臨などと言う話を別にして、ドッペルゲンガーの脅威を十分理解していた。
「どうだろう。鳴上くんの力を……私達にペルソナ能力を見せてくれないか……それによっては私からも政府に働きかけることが出来るかもしれない」
弘一は悠の実力を見せるように言う。
「……わかりました」
悠はそれを了承する。
「鳴上くん………」
真由美は悠を不安そうに見るが、悠はその視線に気が付き、大丈夫だと頷いて見せる。
七草家の敷地内に存在する魔法訓練施設に場所を移動する。第一高校の練習棟と同じ規模の物だ。個人でこれだけの施設を所有できるとは、流石は十師族と言ったところだろうか。
「鳴上くん。この孝次郎と手合わせして見せてくれ」
弘一は訓練施設に入ると同時に悠と孝次郎にそう言った。
「ふん、少し痛い目に遭ってもらうぞ」
孝次郎は目をギラつかせている。
「よろしくおねがいします」
悠は平然と応える。
悠と七草孝次郎は屋内競技場クラスの広さをもつこの訓練施設の中央で20メートル程離れ対峙する。
弘一と智一、真由美は訓練施設の端にある観戦席に立つ。
この試合、悠は孝次郎に勝つことが目的ではない。
悠は弘一にその力を認めさせ、日本政府に危機的状態だと交渉させなければならないのだ。
「………鳴上くん」
「では、始め!」
智一が開始の合図をする。
孝次郎はCADを操作しながら、構え魔法を発動する。
悠に複数の氷の礫が迫り来る。
「ペルソナ!ゲンブ!」
悠は巨大な亀のペルソナ、ゲンブを顕現させ氷の礫を無効化させる。
「な、なんだ?式神か………」
孝次郎がそう言いながら次の攻撃魔法の準備をする。
悠の周りに氷の礫が多量に現れ、悠に向かって一斉に放たれる。
しかし、放たれた氷の礫はゲンブによって全て無効化された。
「なに!?ならばこれならば!!」
今度は孝次郎は火炎放射器のように、炎を周囲に撒き散らす。
「チェンジ!スザク!」
悠はペルソナを巨大な炎を纏った鳥スザクにチェンジし、受けた炎を全て反射する。
「な!?」
自ら放った火炎が跳ね返され迫って来る様子に孝次郎は慌てて防御障壁魔法を展開。
悠はその間、反撃もせずその場に立ったままだ。
「ちっ、これならどうだ!」
電撃が悠の頭上から、次々と降って来る。
「チェンジ!イ・ザ・ナ・ギ!」
悠は、イザナギを呼び起こし、電撃を無効化させる。
弘一は厳しい眼差しでこの様子を見ていた。
「……………孝次郎の魔法が尽く無効化される。………いや、反射していたものもある。どういう事だ」
『マハジオ』
イザナギは左手を天井に向かって掲げると、この訓練施設の約半分の領域で一気に多量の雷光が光の柱の様に降り注ぐ。
孝次郎は障壁魔法を展開しそれを防御する。
悠は既に孝次郎の眼の前まで来て、右手の名刀【薄緑】を突きつける。
それと同時に、イザナギも孝次郎の後ろで、刀を構えていた。
悠は元々、孝次郎にマハジオを当てるつもりはない。
目くらましにし、その一瞬のすきに一気に迫ったのだ。
「………そこまで!」
智一は終了の合図をする。
「くそっ」
孝次郎は悪態を吐きながら、その場に膝を付く。
悠が構えている【薄緑】とイザナギはその場でスッと消える。
「………孝次郎がこうも簡単にやられるとはな………なんだあの領域魔法の発動スピードは……魔法も尽く無効化、若しくは反射される。しかも、鳴上くんは余力が随分あるようだ」
「父さん……あの動き、かなり戦い慣れてます。我々よりもずっと………」
弘一と智一は驚きの声を上げていた。
悠は弘一や智一が観戦している場所に向かう。
「……鳴上くん、孝次郎もかなりの使い手なのだが、こうもあっさりと倒すとは……ペルソナ使いとは大したものなのだな」
弘一は悠をねぎらうように言葉を出すのだが………
悠がそれに答えた言葉はこれだった。
「第一高校で戦ったドッペルゲンガーはあんなものじゃなかった。特に野外訓練所奥の森で戦った相手は……60メートル級のヘビの怪物……神話に現れる本物の怪物でした。………奴を倒すために……あの大穴を開ける程の攻撃を放ったのは俺です」
「………あれを君が…」
「60メートル級の怪物……あの戦闘の跡はそれだったのか……そしてあの大穴……戦術級……いや、使いようによっては戦略級の破壊力がある。それを君が」
弘一と智一は悠の言葉に大いに驚いた。
2人は実際、現場を見てきたのだ。その破壊の跡を見、その凄まじいまでの威力を目の当たりにしたと言っていいだろう。
しかし、その次の悠の言葉に更に衝撃が2人を襲う。
「それでも、本物の神や悪魔を倒すには至らない」
「…………それ程なのか」
「なっ…………」
「ドッペルゲンガーが神魔を降臨させる前になんとしても、阻止する必要があるんです」
悠は静かに弘一と智一に向かって頭を下げる。
「…………これは早急に対策を打たないとまずいことになりそうだな。鳴上くんすまなかった。君を試すような真似をした。検討した上で、上層部にかけ合おう」
「お願いします」
この次も七草家との話し合い。
そして………USNA編………達也編と
ちょい、この辺の話が暫く続きます。