誤字脱字報告ありがとうございます。
また、堅苦しい話ですが、今回はちゃんと悠が登場
2月9日(水)14:30
悠は何時ものように放課後、女子生徒達を巻いて校門の外へでると。
一台のリムジンの様な胴の長い高級車が待ち構えていた。
予め、連絡は受けていたのだが、ここまで派手な車が来るとは思わず、面食らっていた。
「………は、ハイカラだ」
高級車の窓から、美鶴が顔を出していた。
「済まないな。鳴上くん。早速だが乗り給え」
お付きの人がドアを開け、悠に乗るように促す。
車内で悠の前に飲み物が出され、美鶴が話しだす。
「鳴上くん、ドッペルゲンガーに関する今後の方針だが、君の立場が正式に決まったのだ。君の意向通りにね」
「そうですか、ありがとうございます」
「政府はドッペルゲンガー対策室を立ち上げ、正式に国を挙げドッペルゲンガーを追うことになった。我々シャドウワーカーもその中核を担うことが決定されている。
君はその組織に含まれず、組織外協力者という立場になる。君は自由にドッペルゲンガーを追うといい。但し、何らかの情報共有は必要だ。そこで政府から君に2名程、行動を共にする人間が派遣される事になる。その人物はなるべく組織との直接関係が薄く、組織内の身内だったりと関係者が選ばれる」
「……いや、俺は」
悠は政府から派遣されるという話に難色を示す。
「まあ、聞いてくれ、一人は、七草家当主七草弘一殿の娘。真由美殿だ」
「なるほど、七草には元々俺から協力してもらうようお願いしてました」
「ふむ。そうだったのか。そして、そのもう一人なのだが………まだ、決定されていない。一応君のお眼鏡に適う人物という条件が付けられているのでな。その件も含め。今からドッペルゲンガー対策室の主だったメンバーと顔合わせしてもらおうと思う」
美鶴は何かに納得し、話を続ける。
「りせの件はどうですか」
「安心してくれ、久慈川りせくんについてはペルソナ使いであることは知られていない」
「助かります。……ただ、りせは十師族ががっちりガードをしているため、思うように行動ができないそうです」
「それは、ラビリスから報告を受けている。久慈川くんは大分ストレスを溜めているようだとも。アイギスに比べ社交性が高いラビリスが困っていたぞ」
ラビリスとアイギスは桐条グループが所有する対シャドウ用兵器……いわゆる感情があるペルソナが使える自立型ロボットだ。姉機のラビリスのほうが旧型だが、感情の起伏が豊かなのだ。しかもなぜか関西弁。
「そ、そうですか」
悠の脳裏には、りせに愚痴を言われ右往左往するラビリスの姿が浮かんでいた。
「何れにしろ、人員が少ない中、ラビリスも我々の主要戦力だ。久慈川くんにずっと付けていくわけにもいかん。魔法協会は人員が豊富だからな。しばらく我慢してもらうしか無いだろう。……魔法協会もせめて女性をつけるぐらいの配慮はしてほしいところだが」
今、りせのガードをしてるのはあの十文字克人率いる魔法師部隊だ。
十文字克人と言えば、質実剛健、実直な性格、その風体も人を威圧するに十分すぎる。
「りせの能力は要です」
「それは分かっているのだが………君と久慈川くんでなんとかしてもらうしか無い」
「わかりました。なんとかします」
りせにこのまま伝えると、とんでもない方法を取りそうだと思う悠。
りせは芸能界に入り長い。少々世間からズレたところが有るからだ。
悠が連れてこられたのは、内務省庁舎のVIP会議室だ。
「鳴上悠です。よろしくお願いします」
悠は国防軍最高司令官。警視庁長官。九島烈。七草弘一。宮内庁長官、そして桐条美鶴の前で堂々と挨拶をする。
長官たちもそれぞれ、悠に自己紹介を行った。
まずは警視庁長官から悠に話しかける。
「第一高校襲撃事件での君の活躍は聞いている。本当なら、君には表彰を行わないといけないのだが、君に関しての情報は政府では秘匿することが決定していてな、申し訳ないが今回は許してほしい。
君にこうして来てもらったのは、桐条殿に聞いているかもしれんが、ドッペルゲンガーの対応を国を挙げて行うことが決定され、勝手ながらこちらで君についても幾つかの取り決めをさせてもらった。君の意向も盛り込んでだが………それに際して、君の能力や君の素性や素行などの報告を受けているが、我々も実際に君に会いたくてね。この様な場を設けさせてもらったのだよ。まあ、君は七草殿と桐条殿と昵懇のようだが」
警視庁長官はユーモアを交えて話を始めたのだが、七草弘一と桐条美鶴を見据えそう言った。
実際に悠と直接あったことが有るのは、弘一と美鶴だけだ。しかも頻繁にだ。
二人に対し牽制の意味も含めこういう言い方をしたのだろう。
国防軍最高司令官がそれに補足する。
「まずは、君のペルソナを見せてほしい」
「いいでしょう」
悠はその場で立ち上がる。
右手を前に出し手の平を上に、青白い炎と共に愚者のアルカナカードを顕現させ、それを握る仕草をする。
「イザナギ!」
悠の後方に黒いコート姿の4メートル程の攻撃的なフォルムの人形のペルソナ、イザナギが顕現する。
国防軍最高司令官や警視庁長官は目を大きくする。
「……見るからに力を感じる。修羅場を何度もくぐったオーラのような者を本人にも、そのペルソナからも感じる」
齢80歳を越える九島烈は、幾度となく紛争に立ち向かった歴戦の戦士でもある。悠の佇まいとそのペルソナを見て何かを感じたようだ。
「……まさに我が国の始祖神たる名を冠する真の式神……やはりあなたは…………」
宮内庁長官の驚きはひとしおだった。柏手を打ち一礼までしてしまう。
国防軍最高司令官はイザナギを見ながら美鶴に質問をする。
「桐条殿のペルソナと……発動の仕方が随分違うようだが………………」
「我々はこの召喚器(銃の形状をしたもの)を使い。強制的に内なるペルソナを呼び起こしていますが………彼は、自分の意志でペルソナを顕現させることができます。彼が最高のペルソナ使いである所以の一つです」
「CADも介さず、術式も介さず。召喚器なる物を必要とせずか………発動スピードが凄まじい…………これでは並の魔法師は手も足も出まい」
九島烈は唸るように漏らす。
美鶴と烈の言葉を聞き、国防軍最高司令官や警視庁長官、宮内庁長官、弘一ですら感嘆の声を漏らす。
今度は警視庁長官が美鶴に質問をする。
「桐条殿のペルソナとは大分姿形から雰囲気まで違うようだが……………」
「ペルソナは本人の精神を具現化した姿形を取ります。私のペルソナ『ペンテシレア』はギリシャ神話に登場する勇敢な女戦士を模しています。私の精神性がそうなのでしょう。彼のペルソナ『イザナギ』は日本の神を模しています」
弘一はついこんな質問をしてしまった。
「では鳴上くんは複数のペルソナを扱えるようだが……それはどういうことなのかな」
後で失敗だったと……これはこの場で上がっていなかった話題だったからだ。
他者より情報量を持てば持つほど、有利に働くからだ。現時点でこの事を知っていたのはこの場で弘一と美鶴だけだ。
「………彼は……そのスペシャルなのです。最高のそして最強のペルソナ使いである所以です。理由は…私にもわかりません」
悠はそれを聞いてペルソナチェンジを行う。
右手に隠者のアルカナカードを顕現させる。
「チェンジ、ヒトコトヌシ!」
悠の後ろに存在したイザナギがすっと消え、そこに葉っぱで覆われた巨人が顕現される。
それを見た瞬間、宮内庁長官は柏手を打ち、礼を何度も行い始めた。
国防軍最高司令官は唸るようにゆっくりと考え込むように口にする。
「……ペルソナによって、性質や使える魔法や術などが異なるという説明は以前、桐条殿から聞いていたが………複数のペルソナを扱える彼は、穴が無いということになる。どんな場面も苦にしないことになる」
「……………………」
しばらく、その場に沈黙が流れる。
悠はその間に、ペルソナを解除する。
「鳴上くん……君は、この能力を何故世間に隠していたのだ」
九島烈はその沈黙を破るかのように質問をする。
「……隠していた。確かにそうです。ただ俺はこの能力を普段の生活では必要のないものだと考えてます。俺は今は飽く迄も学生。将来は父、母と同じく、学問は違えど学者の道に、民俗学を学んで行きたいと思ってます」
「……それは、流石に君、勿体無い………いや、君は国防軍に入るべきだ」
「いや、警察組織に入るべきではないか?」
国防軍最高司令官と警視庁長官はそんな事を言ってしまう。
「二人共、それはこの場ではふさわしくない発言ではないのかね」
九島烈はその二人を睨みつける。
「申し訳ない」
「失礼した」
「わたしは、君がその様な巨大な力を持っているにもかかわらず。どの様な心持ちをしていたのかを聞きたかったのだ。そして、今の答えで十分であった」
九島烈は悠の答えに満足したようだ。
「彼は、報告にあった通りの好青年のようだ。鳴上くんは我々が懸念しているような暴発をするようなことは無いだろうと私は思う。それよりもだ。魔法を神聖視するあまり、馬鹿なことを行う輩が、この国の防衛に携わっているものに多いということの方が問題だと思うがどうだろうか?」
続けて九島烈は警視庁長官や国防軍最高司令官、しいては七草弘一に対して、きつい戒めの言葉を吐いたのだ。
弘一は前の話題を打ち消すかのように、一度手を叩き、悠に話しかける。
「鳴上くん、君は今後自由にドッペルゲンガーを追ってもらう事が決定されている……が、流石に全てとは行かない。バックアップも必要だろうし、情報共有のために君に政府から二人付けたいのだが……一人は家の真由美だ。これは君も希望していたのだからいいだろう。もう一人についてなのだが……」
「七草……いえ、真由美さんの件は非常にありがたいです。俺もそのつもりでしたから、もう一人については、俺から希望を言っていいですか?」
「……言ってみたまえ」
「アンジェリーナ・クドウ・シールズ……彼女を正式に付けてほしい」
「なっ!?」
「なに!?」
これには弘一と国防軍最高司令官、警視庁長官、桐条美鶴が驚いた。
「鳴上くん………流石に無理だ。君も知っているかもしれないが彼女はUSNA軍の軍人だ。しかもエリート部隊スターズだ」
弘一も流石にこの件は土台無理な話だと悠を説得にかかる。
「まずい、それは非常にまずい上に無理だ。USNA軍が彼女を預けるはずがない!」
国防軍最高司令官がそう言うのも無理はない。彼女こそUSNA軍スターズ最高峰の魔法師総隊長アンジー・シリウスにして、戦略魔法師の一人なのだから。
「………いえ、俺はUSNA軍のバランス大佐に許可を貰いました」
「なんだ……と!?」
「そんなはずは!?」
「ばかな!!」
弘一、国防軍最高司令官、警視庁長官はその言葉に衝撃を受け、大いに驚く。
「一介の高校生の君が!!どうやってだ!!それはあまりにも大言ではないのかね!!」
警視庁長官が悠に食って掛かる姿勢を取る。
「大人げないぞ長官………その話は本当だ。明日朝にでも、外務省より正式にこの話がくるはずだ。先程わたしのところに、この件について意見を求められたのでな」
九島烈は警視庁長官を諌め、悠の話を肯定した。
九島烈は軍歴も長く、ご意見番として色んな場所からも意見が求められる。しかも今回は九島烈の弟の孫にあたるリーナの件だ。外務省から予め意見を求められても自然である。
「君がアンジェリーナ・クドウ・シールズと知り合いだとは知っていたが……そこまでだったとは………どうやってUSNA軍を動かした?」
弘一はゆっくりとした口調で悠に問いかける。
「俺は普通に頼み、ドッペルゲンガーを倒すのにリーナが必要だと説いただけです」
「そうか……私は君をまだ過小評価していたようだ」
弘一はため息を吐き、椅子に深く腰をかける。
宮内庁長官は羨望の眼差しで悠を見据える。
まるで神が眼の前に顕現したかのように……
桐条美鶴はまるで、敵わないなと言うかのように微笑をこぼす。
国防軍最高司令官と警視庁長官は、まだ信じられない様な表情で悠を呆然と見ていた。
この後、悠はこの二人にはかなり警戒されると同時に、取り込み攻勢を強められる事になった。
「どうであろう、外務省からの正式な要請の前に決めてしまっては?わたしは賛成だ。この程のUSNA軍との協力体制に彼女のスターズは国防軍と連携をとることが決まっている。彼女の扱いは非常に難しいだろう。ならば、ここは思い切って鳴上くんに預けたほうが、軍内の憂いやひいては、このドッペルゲンガー対策室において、彼女の扱いを考慮せずに済むのではないかと考えるが…………」
九島烈はリーナを悠に付ける事に賛成の意見を出す。
「ふう、わたしは老師の意見に賛成しよう」
「わたしは、もとよりこの件については、皆さんに従うまでです」
「鳴上殿の赴くままに」
弘一は賛成し、美鶴は皆に意見をゆだね、宮内庁長官は悠の意見に従うと答える。
「………確かに、彼女の扱いは国防軍でも苦慮するところだ。しかし……いや、いいでしょう。老師に従いましょう」
国防軍最高司令官は躊躇しながらも賛成を決定した。
「……皆さんがそう言うならば……しかし、アンジェリーナ・クドウ・シールズは我が国の人間ではない。もう一人は付けさせてもらう」
警視庁長官はしぶしぶ賛同するが、リーナは例外として、正式に政府から派遣する人間をもうひとりつけるように言う。そもそも真由美以外のもうひとりと言うのは、警察組織にゆかりのある人物だからだ。
このドッペルゲンガー対策室のトップ6名は、国防軍最高司令官はもちろん国防軍側、七草弘一は国防軍側、九島烈も引退したとはいえ、国防軍側。警視庁長官はもちろん警察側、桐条美鶴も警察組織の一部のため警察側だ。宮内庁長官は中立な立場だ。
一見、国防軍側が人数的に有利に見えるが、桐条美鶴のシャドウワーカーが作戦のキーとなるため、立場的には、ほぼ同等となる絶妙なバランスで成り立っている。
よって、悠につける人間も国防軍側だけとなるとバランスを欠くことになるのだ。
この後、警視庁長官から、悠は派遣される人間の選定リストを渡される。
警視庁長官は部下に注釈と簡単な来歴を乗せたこのリストを作らせていた。
「………………千葉エリカ………彼女にしてもらえないですか?」
「千葉修次ではなく、千葉エリカなのはなぜかな?」
警視庁長官は聞き直す。
明らかに技量では千葉修次の方が上だからだ。
「この前の、第一高校襲撃事件でいい動きをしていました。何より連携がうまく取れました」
しかし悠の真の理由はりせにべったりだということだ。りせとの連携がスムーズであれば、ドッペルゲンガーを倒す事がエリカの技量であれば十分可能だと考えたからだ。
「わかった。そうしよう」
「俺はもう少し勧誘しようと思ってます」
悠はこんな事を言う。
「どういう事だね?」
国防軍最高司令官は悠に尋ねる。
「俺一人、いや4人だけでは厳しい場面が出てきます。あともう少し協力者を募ろうと思います」
「具体的に誰を考えているのかい?もしくはこちらから派遣させる必要があるなら言ってくれ」
今度は警視庁長官が悠に尋ねる。
「まだ、返事も貰ってませんが、司波達也、司波深雪」
その名前が出て、思わず国防軍最高司令官と九島烈、七草弘一は反応する。
国防軍最高司令官は、達也が軍属である事を把握しているため。これを受けるように達也の上司に命令しようと瞬時に画策していた。
九島烈は複雑だ。軍としては受けたいが、この兄妹があの四葉家の人間であることを知っているからだ。できれば四葉の介入を避けたいところなのだ。
七草弘一も九島烈と同じだ。司波兄妹を四葉家の人間ではないかと、前から疑っていたのだ。
しかし、弘一にはもう一つの感情があった。あの四葉真夜でもきっと鳴上悠を見誤ると。策謀家の真夜が悠に策謀を巡らせれば巡らせるほど不利に陥るのではないかと……その真夜の姿も見てみたいとも…………。
弘一は真由美の事以外では、鳴上悠とは腹を割って話す方針を打ち出した。この青年にはこの方針が一番であることを身にしみて体感したからだ。弘一は策謀を巡らせない。それがこの青年に対しての唯一の攻略方法だと確信している。真由美の事も、後押しするだけでなんとかなるだろうと考えていた。
「それと……吉田幹比古」
警視庁長官は悠が続いてだしたその名前に眉を動かす。
吉田家は警察組織に近い立場に有るからだ。
「鳴上くん…何れも高校生だ。だが、第一高校襲撃事件に活躍した人物だな」
弘一は悠が口にしたメンバーを聞いて、ある意味納得の答えでもあった。
「そうです。あの時の連携はかなり良かったと思ってます。彼らは元々ドッペルゲンガーを追っていたようです。俺の方から声をかけようと思ってます。もちろん危険が伴いますから、断って貰っても一向にかまわないとも思ってます」
悠のこの人選に何処からも否定的な意見は出なかった。
元々、国防軍側、または警察側の関係者もしくは組織の意向でドッペルゲンガーを追っていた人物だからだ。
「……君の意向はわかった。もし勧誘に失敗して、人手が足りなければ言ってくれ、またリストアップでもさせる」
弘一はこの話題の最後にそういった。
悠はこの後も幾つかの質疑応答を経て、今日の顔合わせを終え、美鶴に自宅まで送って貰う。
最後までこの会議室に残った九島烈と七草弘一は………
「我々を前にしてあの青年の堂々とした態度はどうだ。しかもあの能力だ。誰もが欲するだろう。……しかし一筋縄ではいかんであろう。不用意に手を出すと手痛い反撃を食らうかもしれぬ」
「老師もそう思われますか?」
「あの者には、手を出さないのがこの国にとっていい結果をもたらすだろう。……が…そうもいかんであろうな」
「……………」
「君の態度を見てもわかる。君が彼を相当慎重に扱っていることもな」
「お見逸れいたしました」
「わが国の危機には必ず英雄が現れる。彼がそうなのかもしれんが……きっと表には出ないだろう」
次は四葉かな?深雪かな?
それともエリカ達かな?