ペルソナ使い鳴上悠と魔法科生   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

ようやく、堅苦しい話が無くなってきます。


第三十八話 次なる蠢き

2月10日(木)

 

日本政府はドッペルゲンガー対策室を正式に発足させた。

場所は旧渋谷区、区役所庁舎。

今は各組織の人員と機材持ち込み等の大規模な移転作業が行われていた。

 

午前中に発足式を終わらせ、まず取り組んだのは、全国の魔法科高校及び魔法大学分校への警備体制の強化を行うことだった。魔法師部隊を持つ地方警察署や国防軍部隊に常駐警備をおこなわせ、厳戒態勢を指示することだった。

第一高校襲撃事件以降、全国の魔法科高校は独自に魔法協会へ応援を要請し警備体制の強化を図ってはいたのだが……今回の件で、正式にこの様な体制を敷かれることになった。

 

ドッペルゲンガーの狙いは魔法師及び魔法適正者だ。

今回狙われたのは東京八王子の第一高校であったが、同じ手口で地方の魔法科高校などがドッペルゲンガーに襲われないとも限らない。

彼らが東京でなければならない理由が有るのかも不明だ。ただ単に人口の絶対数が多いのと、魔法適正者や魔法師の絶対数が多いために狩場にしていただけなのかもしれない。

今までは東京近郊だけの行動範囲だったが、今回の事件を機に全国に飛び火しないとも限らないからだ。

 

 

2月3日からの今日までの1週間、悠は悠で独自に捜索しながら、りせを通じて、東京近郊のエネミーサーチを掛け、ドッペルゲンガーの行方を追っていたが全く足取りが掴めなかった。

その間、国防軍や警察にも被害届けや、それらしき被害者、被害状況も確認されなかった。

 

 

悠はこの日の晩、りせからのヒミコによる秘匿通信で会話をしていた。

 

「りせ……俺の方でも、気になる場所を歩き回ったのだが……この一週間ドッペルゲンガーの足取りが全くつかめない………」

 

『悠先輩……ミアさんの事があったから、結構精密に頑張ったんだけどあれから全く反応ない。もう東京近郊には居ないのかな』

ミアの件とは、USNAのエージェントのミアに成り代わっていたドッペルゲンガーがミアの本体を生かしたまま憑依していたのだ。そのため、りせの広範囲エネミーサーチにも引っかからず。近くで精密なエネミーサーチを行っても極微量な反応しか示さなかったのだ。

 

「りせ……外に歩き回っても大丈夫なのか?十師族のガードを巻いたのか?」

 

『ううん。流石にあのガードマン(十文字克人)を巻くと後で厄介だから、自宅からエネミーサーチを行ったの』

 

「りせ、広範囲のエネミーサーチの精度が上がったのか?」

 

『そうなの!悠先輩褒めて!盲点だったの。ここは異世界じゃなくて、現実世界。だから何も情報は自分の目だけじゃなくてよかったの。だ・か・ら♡。街にある沢山の監視カメラを一気にジャックして、そのレンズ越しに精密なサーチを掛けたの!』

 

「……………りせ……そんな事も可能なのか?」

 

『うん!携帯電話の通信も改ざんできるし、電波や通信とも相性が良いみたい!だって、ヒミコ自身アンテナみたいなもんだし!』

 

「す、凄いな。………流石はりせとヒミコ」

悠は通信越しだが、額に汗を滲ませていた。

もはや、りせ一人で警察組織全体情報網を超えているのではないかと思えるレベルだ。

 

『てへへへ。悠先輩に褒められちゃった♡…でもそれでも見つからなかったから、私が精密サーチ掛けた23区以外にドッペルゲンガーは逃げちゃったかも、流石にエネミーサーチの範囲はこれ以上広がらないし、今は地方のお仕事は自粛されてるし……』

 

「………りせ……人工衛星とか……成層圏プラットフォームにアクセス出来たりするのか?」

悠はりせの話を聞いて思いついた事をりせに聞く。

 

『どうかな?……うーん……やってみるね。ヒミコ!行っくよーーー!!』

 

……………………

 

『わわわ!!凄い!!!今、私の頭の中に、関東全部の位置情報が入ってくる。……あれ……日本全域!?…………うううう、気持ち悪い。これ酔いそう』

 

「大丈夫かりせ!!」

 

『あああもう!!……悠先輩。人工衛星と成層圏なんとかにアクセスできたけど、情報量が多すぎて、頭がパンクしそう!ヒミコは耐えられるみたいだけど私の頭がダメ……うーん。ヒミコと話し合って、必要な情報だけをピックアップしたり、慣れが必要みたい……でも、コツは掴んだわ!!』

 

「そ……そうか」

悠は自分で言っておきながら、背中に冷たいものを感じるのであった。

もはや、りせに調べられないものは無いのではないかとも思われた。

この人工衛星や成層圏プラットフォームを利用する事に慣れ、使いこなせるようになったりせは、もはや、誰にも手が付けられない存在になるのではないかとも…………

 

 

 

 

時を同じく

深雪と達也は四葉家当主、四葉真夜とTV通信で会話をしていた。

 

『政府は正式にドッペルゲンガー対策室を本日付けで立ち上げたわ。官房長官をトップとしているけど、実質は幹部を中心に動くはずよ。幹部は国防軍最高司令官。警視庁長官。九島烈。七草弘一。桐条美鶴。宮内庁長官のこの6人よ。九島先生と七草氏が幹部の時点で四葉が入る隙がないわ。

それと彼、鳴上悠の扱いは、独立遊軍部隊……組織から離れて独自に動く権限を与える事が決定されたみたい。政府も大胆なことを行ったようね。桐条美鶴の入れ知恵かしら。それとも九島先生の?』

 

「……そうですか」

達也はその話を聞いて、焦りと脅威を覚える。

先日、鳴上悠の戯言のようにしか聞こえなかった。あの構想が現実になったからだ。

 

『さらに、その独立部隊いえ、彼の私的な人物の集まりだから独立チームかしら……それには、七草真由美、アンジェリーナ・クドウ・シールズ、千葉エリカが選ばれたそうですのよ。アンジェリーナ・クドウ・シールズについては、政府も大分混乱したそうですが、USNAから鳴上悠個人に協力させる様にと正式に通達があったと聞いていますわ。………彼、どんな魔法を使ったのかしら?』

 

「……な……そうですか」

達也の思考は、リーナの名前を聞いた時点で一時停止していた。頭の中では驚きが支配し、そして悠のあの脅威を微塵も感じさせない振る舞いを思い浮かべ………体全身から冷たい物が吹き出る思いがした。あの笑顔の裏には何が有るのかと……

達也はあの話を本人から聞いた時は不可能だと考えていた。しかし、今現実のものとして全てが、彼の構想通りなのだ。

この感情が恐怖だということは達也自身も認識出来ていなかった。

 

「……鳴上さん」

その横の深雪の口元は緩んでいた。

 

『そこで、お二人には、していただきたいことがありますわ。鳴上悠を近くで監視していただけないかしら。実は国防軍から正式に、達也さんだけでなく、深雪さんも、鳴上悠はその独立チームに入ることを要請してきたわ。どうやら彼が直接、ドッペルゲンガー対策室の幹部に願い出たようですのよ』

 

「………」

「わたくし達をですか?」

 

『そうですの、深雪さん。鳴上悠のチームに加わり、ドッペルゲンガーの情報を、できましたら捕縛していただきたいですが、それでは警戒されますわね。それはこちらで手配いたします。鳴上悠の情報と、彼が四葉にとって有用かどうかを見極めてくださいまし』

 

「ご当主様……彼は、鳴上悠は危険です。………第一高校襲撃事件の情報もそちらに入っていることでしょう。彼のペルソナは……戦略級の範囲と核に匹敵する威力を誇っています。………それだけではありません。あの九重八雲が彼のペルソナを見て、関わるなと忠告するぐらいです。深雪は外して頂けないでしょうか」

 

『あの九重八雲がですか……ならば尚更ですわね。達也さんは深雪さんを全力で守りなさいな。それがあなたの役目のはずです』

 

「ご当主様。お兄様。深雪は鳴上さんのチームに入ります」

深雪は何かを決意したような表情をしていた。

 

『さすがですわ深雪さん。達也さんもそれでよろしいですね』

 

「……了解いたしました」

達也はそう言わざるを得なかった。

 

 

そこで通信が終了する。

 

「深雪なぜ……」

 

「お兄様は考えすぎです。鳴上さんは悪い人ではないです。ご当主様は、鳴上さんを利用されようとされてますが……多分、難しいです。鳴上さんは、魔法師のこの閉鎖された世界観とは真逆な方です。考え方も何もかもが………だから、リーナも、七草先輩も鳴上さんに協力しているのだと思います。私もその一端に触れ……協力したいと思っております」

 

「深雪……」

達也は深雪が自分の意思で明確に本家に対し、この様な意見を言っている姿を見たことが無かった。

 

「そんなに心配されずとも大丈夫です。お兄様。お兄様も一緒について居てくださるんですから」

 

「そうだな深雪」

 

 

 

 

通信を終えた四葉真夜は………

「葉山さん。東京の勝成(新発田)さんにドッペルゲンガーを捕縛するルート作りと、ドッペルゲンガー対策室の動向及び桐条の動向を探るように伝えてください」

 

真夜は手元の資料を見ながら……

「あの九重八雲が警戒をする………やっかいですわね。…………しかしそれだけの力量だということですわ。取り込みたいですわね。……既に弘一(七草)さんのところが、目を付けているようだけど……なびかなければ舞台から降りてもらいましょうか。

鳴上悠の動向は貢(黒羽)さん……いえ、津久葉家に達也さんと深雪さんに悟られない距離を保ってもらわなければ………彼の両親は海外出張中………後の親族は二人だけ。意外と近くですわね。こちらを貢(黒羽)さんに監視を頼もうかしら。あの子達ならば、小さな町に潜入しても違和感が少ないわ………貢さんに堂島親子の監視を」

 

そう言って、花菱という執事に命令を下す。

真夜の手元の資料には、悠の叔父、堂島遼太郎と10歳年下の従姉妹、笑顔を振りまく堂島菜々子の写真が添付されていた。

 

 

 

 

 

2月11日(金)15:30

 

「……なんで達也がここに居るのよ」

リーナは仏頂面で対面のソファーに座っている達也に顔を合わせてしばらく経ってから言う。

 

「俺は深雪の付添だ」

 

「……このシスコン」

 

「……………」

達也は仏頂面のまま、悠の自宅のソファーでじっと座ってる。

 

 

キッチンでは………

「鳴上さん、すみません。急に訪問させていただきまして」

深雪は自前のエプロンを掛け、悠の隣に並んでいた。

 

「いやいい、シュークリームの作り方を教えるって約束したしな」

 

「………鳴上くん、これぐらいでいい?」

真由美も深雪とは反対の悠の隣で、たどたどしい手付きで、卵を割っていた。

 

「七草はあまり料理したことがないのか?」

 

「た…たまにはするわ。クッキーとかぐらいは焼けるわ」

 

「お嬢様だからな七草は………なぜ急に?」

今まで、真由美は悠の家に来て、料理を手伝ったり、習おうとはしなかったのに、深雪が悠の家に来て、シュークリームの作り方を習うと聞いて、急に言いだしたのだ。

 

「良いじゃない。私も料理ぐらい出来ないとと思っただけです」

何故か真由美は頬を膨らませていた。

 

「深雪は慣れてるな。普段から料理をしてるのか?」

 

「はい、お兄様の食事は私が用意してますので」

 

「偉いな。……そこは、氷で冷やしながらボールを回し、素早くかき混ぜる」

 

「はい」

深雪は嬉しそうに返事をする。

 

「な…鳴上くん。こっちは?」

真由美は頬を膨らませながら、そんな深雪と悠をみて、悠の袖を引っぱり、こちらに顔を向かす。

 

「……こうやってこねると。生地がふんわりした感じになる」

悠は真由美の手を取り、一緒にこねる。

 

「………うん」

ふくれっ面だった真由美はうつむき加減に顔を赤らめる。

 

 

 

一方リビングでは………

「リーナはなぜ、鳴上さんに協力するんだ?」

 

「別に達也には関係ないわ」

 

「いや、俺も鳴上さんに誘われたのでな。参考にまでだ」

 

「知ってるわ。……深雪だけでいいのに」

 

「よく上が許したな」

達也が言う上とはUSNA軍の上層部の事だ。

 

「良いじゃない。なんだって………悠が説得してくれたの」

リーナは達也にツンとしながらも、後にポツリと小声で言う。

 

「……わからないな。なぜそれで許される」

 

「達也は一生かかってもわからないことよ」

リーナはぶっきらぼうに達也にそう言って、紅茶を一口飲む。

 

それを聞いた達也は、キッチンで楽しそうにしている深雪と、顔を赤らめている真由美を見、そして悠をじっと見据える。

 

 

 

 

その晩、深雪から電話で悠に、司波達也、司波深雪両名が協力する旨を伝えた。

 

 

翌日2月12日早朝、悠のもとにドッペルゲンガー対策室から正式に達也、深雪、そして、千葉エリカ、吉田幹比古が悠に協力体制をとる追加メンバーとして伝えられる。

 

 

 

 

 

第一高校襲撃をあと一歩のところで失敗に終わったドッペルゲンガーは姿を隠し潜伏し、とある作戦の準備を進めていた。

 

最大の障害は鳴上悠ただ一人。

その排除に向けて……………




ややこしい話はようやく前回で終わりです。
ついに自体が動き出しますね。


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