ペルソナ使い鳴上悠と魔法科生   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は番外編みたいなものです。
しかも皆さんの予想を裏切るかもしれません。


第三十九話 手を出してはいけない

2月12日(土)

 

 

「あの子が今回の監視対象?」

 

「なんか可愛い子だね。ヨル姉さん」

 

「ヤミちゃん。そうね抱きしめたくなるっていうかお持ち帰りしたいわ。でも、どう見ても普通の子よね。ご当主様はなんでこの子の監視を?」

 

愛らしい顔立ちの一緒の姉妹が並んで辺鄙な町中を会話しながら、とある7、8歳ぐらい女の子を尾行していた。

ゴシックロリータ調の服を派手にした魔法少女の様な格好をしたヨル姉さんと呼ばれたちょっと痛い少女が黒羽亜夜子。

大人しめのワンピースを着ているヤミちゃんと呼ばれた少女が黒羽文弥……こう見えても弟、男の娘である。なぜ女の格好をしているかというと……それには深い訳がある。

この双子姉弟は、四葉家分家筋で四葉家の諜報部門を統括している一族、黒羽家の長女と長男。まだ、15歳の中学3年生ではあるが、諜報活動に於いて、一流の実績を残している。

長男文弥は四葉の次期当主候補の次席に入るほどの実力者だが………とてもそうは見えない。

この二人は任務の際、亜夜子はヨルと偽名をつかい、文弥はヤミと偽名を名乗る。そして、変装と称して、亜夜子は痛い格好をし、亜夜子の命令で文弥は可憐な女装を何時もしているのである。

 

どう見ても……この姉弟、この閑散とした商店街に不似合いな格好をしており、浮いた存在なのだが…………

 

この二人以外に、遠巻きに黒羽一族の諜報員が多数息を潜めている。

もしかしたら、この二人は、諜報員達が悟られないように、わざと目立っているのかもしれない………ということは無い様だ。

 

そして、この二人と配下の諜報員達は、四葉家当主、四葉真夜の命令で、とある少女を尾行し監視をしていた。

少女の名は堂島菜々子。8歳……悠の従姉妹である。

 

 

「ヨル姉さん。流石にその格好はここでは目立つんじゃない?変装の意味が無いと思うけど」

 

「ふふふふっ、浅はかねヤミちゃん。ちょっと目立つぐらいがいいんじゃない!そんな目立つ可憐な女の子が尾行などしてるとは誰も思わないわ!」

ビシッと指を立てて得意げに文弥に宣言する。

 

「ちょっとどころじゃないんだけど…………」

 

「そうだ!良いことを思いついたわ。ヤミちゃん。あの子に声かけましょう」

 

「ええ?何言ってるんだよヨル姉さん」

 

「あの子とお友達になれば、堂々と監視できるわ!」

 

「その格好で?逃げられちゃうんじゃないかな?」

 

「大丈夫よ!ほら行くわよヤミちゃん!」

 

「はぁ、僕…って振り回されてばっかりだよ」

 

「ああ、ヤミちゃん!今はわ・た・し、僕って言っちゃダメよ」

 

「…………もう、なんでもいいけど」

 

二人は菜々子の行先を先回りをし、さり気なく声をかける。

「あのー、僕……私達、観光でここに来たんだけど、道に迷っちゃって」

「そうなの。同じ様な風景ばっかりで困ったわ」

 

「お姉ちゃんたち、迷子なの?」

 

「そ、そうなんだ。えーっと、この辺で有名なレストランとか無いかな?」

「そうなの、一緒に探してくれないかしら?私はヨル、こっちの子はヤミよ。あなたのお名前は?」

 

「堂島菜々子……レストラン?うーん。ジュネスの屋上にあるよ。菜々子も今からジュネスに買い物に行くの。一緒に行く?」

菜々子は二人に笑顔を向ける。

 

「うん。ありがとう菜々子ちゃん!」

「ありがとう菜々子ちゃん!」

文弥と亜夜子はその笑顔に癒やされる。

 

文弥と亜夜子は菜々子と話しながらジュネスへと向かう。

 

「ヨルお姉ちゃんのお洋服、ラブリーンみたいで格好いいね。菜々子もお姉ちゃんみたいになりたい」

 

「ななななにこの子、超かわいいんだけど……こほん、菜々子ちゃんもきっとなれるわ」

亜夜子は菜々子の天然発言にデレる。

 

「ヤミお姉ちゃんは、お兄ちゃんだけど、すごく美人のお姉ちゃんなんだね。菜々子しってるよ。それね。女装っていうんだよ。悠お兄ちゃんが教えてくれたの。なんか素敵だね」

 

「な、菜々子ちゃん…それには深い事情が」

菜々子にバレた上にフォローまで入れられ。ショックを受け、気分が沈む文弥。

 

 

そこに、正面から奇妙な物体が、ポヨポヨと変な足音を立てながらこちらに向かってきた!

 

「な?なんなのあの奇妙な物体は!………着ぐるみ?にしては動きが機敏だわ!」

亜夜子はその物体にギョッとする。

 

「……トリコロールカラーに頭の天辺にアンテナ!まさか。100年前の伝説のロボットアニメ、ガ○ダムのコスプレ!」

文弥はそんな事を言っている。どうやら実際のガ○ダムを映像として見たことが無い様だ。

 

「クマさんだよ」

菜々子は答える。

 

「クマ?ってあの熊?」

亜夜子は菜々子に聴き直す。

 

「うん!菜々子のお友達!」

そう言って菜々子はこっちに向かってくるその奇妙な物体……クマに手をふる。

 

「………」

 

 

「菜々ちゃ~~ん!」

 

「クマさん!こんにちは!」

 

「こんにちはクマ!……このナイスなコスプレ少女と可愛らしい男の娘は誰クマか?」

 

「ヨルお姉ちゃんとヤミお姉ちゃん!迷子だから、ジュネスまで連れて行ってあげるの」

 

「……………これ、動いてる?」

「何これ……着ぐるみにしてはリアル」

文弥と亜夜子の二人はクマの体をあちこちと触り始める。

 

「くすぐったいクマ~!最近の若い子は大胆クマ!モテ期到来クマ!クマはいつでもウエルクマ(ウエルカム)よ!」

 

「…………」

しばらくクマを触っていた二人はパッと手を離し沈黙する。

(………何これ?生きてる?)

(……目とか鼻とかリアルに動いてるんですけど)

 

「そんな事をしてる場合じゃ無かったクマ!!菜々子ちゃん、一緒に来てほしいクマ!!」

 

「どうしたのクマさん?」

 

クマは菜々子の手をとって走り出す。

 

文弥と亜夜子は呆然としていたため、反応が遅れる。すでに菜々子を見失うギリギリの距離で正気に戻る。

「しまったわ……ヨル姉さん!もしかして!あれがうわさのドッペルゲンガー?」

「妙にあの着ぐるみリアルだったわ!きっとそうよ!菜々子ちゃんが攫われたわ!追うわヤミちゃん!」

二人は加速魔法を使い菜々子とクマを追う。

それと同時に、息を潜ませていた黒羽の諜報員も動き出す。

文弥と亜夜子はようやく今回の任務に合点がいった。この堂島菜々子という子がドッペルゲンガーに襲われるかもしれないため、自分たちが派遣されたのだと。菜々子を助け、ドッペルゲンガーを捕縛することが真の狙いなのだと………

それは大きな勘違いなのだが………

 

 

クマは人気のない方へと進路をとり菜々子を抱き上げて連れ出す。

 

「あのクマなのかよくわからない着ぐるみ!あんな走り方なのに!速い!」

「ドッペルゲンガー確定ね!これで菜々子ちゃんも助けられて!あのクマをとっ捕まえたら!任務完了よ!!」

 

 

クマは菜々子を抱き上げたまま、住宅街を抜け山道を走る。

 

 

「ヨル姉さん!急に霧が出てきた!」

「達也兄様の報告書に合った通りね!ドッペルゲンガーの霧の結界って奴よ!」

二人はクマを追いかけていたのだが、不意に霧があたりから立ち込めてきたのだ。

 

 

 

 

「オヨヨヨヨヨヨ!誰クマか?」

 

 

クマは菜々子を抱き上げたまま、急に立ち止まる。

しかし、クマの前には………奇妙な仮面をした黒服黒マントが5人現れたのだ。

 

 

「……同胞?いや、妙な感覚だ。しかしこんな奴は聞いていない。お前は誰だ?」

その内の真ん中に居た獣の仮面をした大男がクマに話しかける。

そう、仮面をした黒服黒マントたちこそが正真正銘のドッペルゲンガーである。

 

 

「尋ねる前に、自分が名乗りんしゃい!」

クマは珍しく啖呵を切る。

 

「どうやら、同胞ではないようだ。その子を渡してもらおうか……大事な人質にするんでね」

どうやらドッペルゲンガーは菜々子が目的のようだ。口ぶりからすると悠に対しての人質にするようだ。

 

「いやクマよ!菜々子ちゃんは誰にも渡さないクマ!!………ペルソナ!!キントキドウジ!!!」

クマの後方に丸っこいフォルムをした手足が短いペルソナ、キントキドウジが現れる。

 

「な!!こいつペルソナ使いだぞ!!」

「我らも!!」

「そいつを倒して、人質を奪い取るぞ!!」

 

そして、真ん中の獣の仮面はビッグフットのような姿に変貌したクマのドッペルゲンガーだ。

2体は巨大な狼人間へと変貌。オオカミのドッペルゲンガー。そして、残りの2体は空高く舞い上がり、大きな翼を持つワシと人間が融合したような姿に変貌する。

 

 

「オヨヨヨヨヨヨ!!」

 

 

 

 

ちょうど文弥と亜夜子もその現場に到達し、遠目でその様子を見ることが出来た。

「何あれ?化物!!もしかして………あっちの化物が本物のドッペルゲンガー?」

「じゃあ、あの着ぐるみは?………式神を出してる。古式魔法師?……いいえ、報告にあったペルソナ使いなの?」

「どうするヨル姉さん?」

「……少し様子を見ましょう。敵の戦力もわからず戦闘するのは愚かだわ。どうやら連中は菜々子ちゃんに用があるようだし菜々子ちゃんを傷つけないはずよ。あのクマの着ぐるみには悪いけど」

二人は離れた場所から様子を見ることにした。

その後に、黒羽の諜報員も続々と集まってくる。

 

 

 

そして、ドッペルゲンガーは案の定、クマとオオカミ、ワシの眷属を多量に呼び出し、地上から空からクマと菜々子を囲む。

 

「さあ、大人しく渡してもらおうか!!」

 

 

 

「菜々ちゃんを狙うなんてひどいクマ!!クマもプンスカクマよ!!みーんなー来んしゃい!!」

クマはそう叫びながら菜々子を抱き、キントキドウジを前に出し菜々子をガードする。

 

 

すると…………

 

「コノハナサクヤ!!全てを焼き尽くせ『マハラギダイン!!』」

空を覆い尽くすワシの眷属に向けて、煉獄の炎が降り注ぐ。

その中心にはチアリーディングのユニフォームを着た様な女性らしいフォルムのピンク色のペルソナが翼を広げるかのように突如として現れたのだ。

辺り一帯の空は真っ赤に燃え広がり、空を覆っていたワシの眷属を尽く燃やし尽くす。

その炎で2体のワシのドッペルゲンガーも黒い液状となり消滅する。

 

そして、クマと菜々子の前に、和服姿の純日本美人が扇子を持って舞を踊るかのように現れる。

「菜々子ちゃんを狙うなんて許せない!」

天城雪子は明らかに怒りの表情を見せていた。

 

 

「手加減なしかよ天城、相当切れてるな!まっそりゃそうだな!俺も行くぜ~久々!ジライヤ!!『マハガルダイン!!』」

陽気な声とともに、ヘッドホンを首に巻き、今流行りのコーディネイトに身を包んだ青年花村陽介はクマの後ろに颯爽と現れ、派手な忍者のようなペルソナを顕現させ、巨大な竜巻を起こし、地上に居る周囲の眷属とドッペルゲンガーを吹き飛ばす。

 

その竜巻に割って入るように人影が突っ込んでいく。

「トモエ!!いっくよーー!!ドーーーーン!!」

竜巻で吹き飛んだ一体のオオカミのドッペルゲンガーに向け、そんな掛け声とともに猛ダッシュし強烈なケリを放ち、空の彼方へと吹き飛ばす。

空の途中で一体のオオカミのドッペルゲンガーは力尽き、黒い液状と化し、消滅する。

 

「直斗くんの言ったとおりドッペルゲンガーが現れたわね。それにしても菜々子ちゃんを狙うとは許せない!」

緑色を基調とした服を着こなす里中千枝はそう言って、カンフーの構えのまま、クマの横に立つ。

その前には、黄色い甲冑を来たかのような女性フォルムのペルソナ、トモエが薙刀を構えている。

 

 

残りのオオカミのドッペルゲンガーと熊のドッペルゲンガーは辛うじて立ち上がる。

眷属も、もはやわずかしか生き残っていない。

 

 

「クマもプンスカね!!キントキドウジ!!『マハブフダイン』」

辺り一帯にブリザードの嵐が吹き荒れ、森の木々ごと、ドッペルゲンガーと残った眷属を尽く凍らせた。

 

 

「な…なんなんだ貴様らは………」

なんとか生き残った熊のドッペルゲンガーは立っているのがやっとの状態だ。

 

 

そして、空から白い外套を纏った少女が降りてくる。

「……彼が守ったこの地に災いをもたらすもの、この子を害するものは許さない。あなたなんかキライ!」

 

外套のフードを取り、エメラルドグリーンの目で、熊のドッペルゲンガーを見据える。

 

「…………バカな!バカな!このオーラは神なのか」

その少女、マリーの姿を見た熊のドッペルゲンガーは恐れおののく。

 

「不要な霧は消え……そして無に帰せ『火雷』」

 

少女が手を振り下ろすと同時に、辺り一帯を覆っていた霧は晴れる。そして熊のドッペルゲンガーには裁きの雷が降り注ぎ体を焼かれ消滅する。

 

 

 

 

 

 

この様子をマハラギダインの予熱とマハガルダインの突風の余波やマハブフダインのブリザードの余波にさらされながら一部始終見ていた文弥と亜夜子はまったく動くことが出来なかった。

(これが魔法?…なんて凄まじい威力だ。でも綺麗だ。まるでアート……でもこれは夢?)

(……全員戦術級魔法師?なんて威力なの……………何なのこの人達は?)

 

 

「おい、お前らもこいつらの仲間か?」

茫然自失気味の文弥と亜夜子の後ろから不意に声がかかる。

振り向くと、黒羽の諜報員が全員のされていたのだ。そこにはガタイがデカく、いかつい顔だが、黒縁眼鏡に七三分けの髪型とガリ勉風のかなり似合わない格好をした妙に威圧感のある男が立っていたのだ。

その後ろには巨大な全身黒ずくめのいかにも恐ろしげな巨大な式神、いやペルソナタケミカヅチが気絶した諜報員を片手で4人ずつ掴んでいた。

 

「………あ、悪魔だ」

「……う、なんなの」

二人はその姿に恐れおののく。

 

「ああ!?誰が悪魔だ!!きゅっとしめるぞ!!ゴラ!!」

巽完二は二人を更に威圧する。

 

 

そして、その後方から……

 

「さあ、目的を話してください。……もう逃げられませんよ」

ボーイッシュで小柄だが豊満な胸を持つ少女が、中年男に銃を突きつけながら現れる。

 

「いやー、まいったな。君たちはなんなんだい?」

銃を突きつけられた中年男、文弥と亜夜子の父黒羽貢が両手をあげ降参のポーズを取っていた。

 

「それにお答えする必要性は無いですよ」

ボーイッシュな少女白鐘直斗は冷静にそう答える。

 

「確かにそうだよなー」

 

「お、お父さん?」

「お父様?」

 

「……すまん二人とも、コッソリ、バックアップしようと思ったのだけどこのお嬢さんに見つかって……逃げられなかった」

 

 

黒羽親子3人は稲羽のペルソナ使い6人にペルソナ6体、さらに現人神に囲まれる。

菜々子はその光景を不思議そうに見ていた。

 




黒羽親子に幸あれ………

まあ、手を出したらまずいですよね。

悠が登場しないので、番外編ですかね。
今回は上、次は下かな。字数が多くなると中になるかもです。

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