本題に入っていきます。
悠は冬休みに稲羽に帰り、叔父の堂島家でクリスマスから10日間ほど滞在した。
毎日、誰かしらと会い冬休みを過ごす。
りせは芸能生活で忙しい中、丸1日休みを捻出し稲羽の祖母の家に戻り、皆と楽しい時を過ごすことが出来た。
同学年の仲間内で悠以外大学進学者はいない。
花村陽介はジュネス(スーパーマーケット)への就職が決まっている。
里中千枝は警察官への公務員試験が控えている。
天城雪子は学力を惜しまれながらも、実家の天城屋旅館を受け継ぐため若女将に。色々思う所があり、現在料理教室と外国語学校に通っている。
一つ下の学年では、巽完二は地元の大学に進学するために、勉学に励んでいる。意外にもこの2学期末試験で学年10位以内に食い込んだらしい。
久慈川りせは、そのまま芸能活動へ、映画の主演の話も来ているが、今は断っているとのこと。
白鐘直斗は高校卒業後、東京に戻り、大学へ進学するつもりらしいが、どこに行くかはまだ決めてない。
テレビの中(虚ろの森)の住人であったクマは、陽介の家で居候しつつ、ジュネスで今もチーフアルバイターとして励んでいる。
悠は皆にペルソナ能力が七草真由美に見られた事と、現在の状況を話す。
りせは案の定、自分を責めていたが、皆がりせのせいではない事を諭し何とか落ち着かせる。
特に現状では大きな問題は無いことを付け足すが、七草真由美との仲を疑われ、女性陣からは何故か怒られる始末。
悠は滞在中にマリーにも会っていた。
彼女もあの霧に覆われた事件に大きく関わった存在だ。イザナミによって生まれ、そして捨石にされた神……
クスミノオオカミという神である彼女はこの地方の土地神となり、稲羽近隣を見守りつつ、現在、久須見毬子と言う名前で地元テレビ局でお天気お姉さんをしている。不思議系陽気キャラが受けて、かなり売れっ子だ。
「何か嫌な感じがする。気をつけてね。君が傷つくと私は悲しい」
マリーは悠にそう忠告を残した。
そして、2096年1月3日(水)悠は皆と別れ、東京に戻る。
2096年1月6日(金)PM
真由美は十師族七草家として、年末からとある事件を追っていた。
真由美は悠と会うのを日に日に楽しみにしていたが、彼は冬休みを遠く離れた叔父の家で過ごすと聞き落胆していた。
しかし、丁度冬休みに入る前から、魔法師もしくは魔法適正者が襲われる事件が東京近郊で次々と発生したのだ。
七草家はこの事件を重く見、関東守護者として、この事件に介入したのだ。
本来警察組織がこの事件を追っていたのだが、完全に横槍状態になる。
双方の立場上、お互い引く事も出来ず。
結局、七草家と同じ関東守護者の十師族十文字家と共同し、警察組織とは別にこの事件を追うことになる。
父七草弘一の命令で、真由美は七草家の一員として、この事件を長兄智一と共に現場指揮を取ることになった。
真由美は悠にどうせ会うことが出来ないのだから、丁度良かったのではないかと思う。
しかし、事件は思った以上に困難であった。犯人の手がかりが一向に見つからないのだ。
それだけではない。捜査に参加した七草家の魔法師がこの10日間で6名襲われ、4人が行方不明。2人が帰らぬ人となり発見されたのだ。
遺体となり発見された魔法師はいずれも外傷は見当たらず、死因も不明。
司法解剖を行った医師によれば、ショック死ではないかと言う見解だが……それもかなりあやふやなものらしい。
真由美は事件の解決への糸口が全く見つからない現状と、家人を死なせてしまった事に、精神的にも肉体的にも参っていた。
「……鳴上くん会いたいな。もう、東京に戻ってる頃かな?」
自然と車を悠を連れてよく行くレストランの近辺に向かわせていた。
真由美は携帯端末を悠の電話番号に合わせたまま、ジッと画面を見つめている。
「……冬休み中に…どう言って会えばいいのかしら」
そして、一度、携帯端末の画面を消し、ふと車の窓の外を眺めると、偶然にも会いたいと思っていた人物が街中を歩いていたのだ。
「鳴上くん!」
真由美は喜色を浮かべるが……
悠は楽しそうに横に寄り添って歩く女性と会話をしていたのだ。
「あっ………」
その女性には見覚えがあった。帽子にメガネをかけていたが、今、テレビでも話題のアイドル久慈川りせだった。
「…………車を出してください」
しばらくその様子をみていたが、真由美はお抱えの運転手にそう告げた。
その顔には悲しみの色が濃くでている。
真由美は二人が歩きながら話す姿はとても自然に見え、お似合いのカップルに見えてしまった。
(鳴上くんが……他の女の子と、あの久慈川りせと、……後輩で親友だと言っていた。だから一緒にいてもおかしくないのに)
(なんで、こんなにも悲しい気持ちになるの?)
(私と鳴上くんは……知り合い?……友達?……鳴上くんと私は何なのかな?私をどう見てくれているのかな……どうして……)
(私もあんな風に鳴上くんと話したい。一緒にいたい…………でも、鳴上くんと私は……)
真由美は答えの出ないこの陰鬱とした気持を心に抱えたまま、今日も事件を追うことになる。
2096年1月8日(日)PM
悠は国立図書館での調べ物を終え、歩いて帰宅している途中であった。
見慣れた高級車が悠の前に止まり、後部座席の扉が開く。
悠はてっきり真由美だと思っていたが、出てきたのは、ブランドスーツを着こなし淡いサングラスを掛けた中年の男性だった。
「君が鳴上悠くんだね」
「はい、そうですが…あなたは?」
「いかんな。私は七草弘一。七草真由美の父だ」
「!……」
悠は警戒の色を濃くする。
七草弘一といえば、十師族七草家の当主。直斗が言うには、かなりのやりての人物だということだ。
もしや、横浜事変での事がバレたのではないかと……
「そう警戒しないでもらいたい。確かに私は十師族の長という立場があるが、今日は娘の真由美の父という立場で君を訪ねたのだよ」
「……そうですか。それでご用件は?七草さんは一緒ではないのですか?」
「ちょっと込み入った話になりそうでね。場所を変えさせてもらえないだろうか?」
弘一は悠を高級車の後部座席へと誘う。
「……」
悠は弘一を見据えたまま沈黙をもって拒否をする。
「……えらく警戒された物だ。私の立場がそうさせているのだろうが……鳴上くん。真由美が一昨日から行方知れずになった。君が何かしたとは思っていない」
悠は弘一から焦りのようなものと、敵意がないことを感じ……真由美が行方不明になったことは真実だろうと判断する。
「七草が行方不明……わかりました。お話をお伺いしましょう」
そう言って、後部座席へと乗り込む。
車を少しだしたところで、七草弘一から悠へ話を切り出す。
「昨年の11月頃から、家の者に黙って、誰かと会っていたことは知っていた。まあ、私としては娘の好きにさせていたのだが、こういう事態になり、そうも言っていられなくなってね。君のことを少し調べさせてもらった。
反魔法団体とつながりも無い。そんな思想も持っていないごく一般的な家庭環境で過ごし、学業成績優秀、スポーツ万能非の打ち所が無い。ただ、魔法適正は無いようだ。……なぜ真由美が君に会っていたかは分からないが、今はそんなことはどうでもいい話だ。
君に率直に尋ねる。真由美は君に何か言っていなかったか?」
「?……七草さんが何処にいるのかを尋ねないんですか?無論俺は知りませんが……今年に入り、1・2回電話で会話したのみで会っていませんしね」
「君が関わっていないのも知っている。詳しくは言えないが、行方不明になった理由だけはわかっている」
「どういうことですか?」
「すまないがそれは言えない。ただ、手がかりがほしいのだ。真由美が君に何か話していないか……藁をもつかむ思いで、君を訪ねた」
「もっぱら世間話ですよ。ただ、思い悩んでいましたね」
「何をだね」
「大学で、自分がやりたいことが見つかるかを……」
「あの娘がそんなことを……そうか」
弘一は悠が情報を持っていないと判断し、落胆したように肩を落とす。
「こちらからもいいですか?」
「なんだね?」
「七草さんは一昨日の何処で、何時頃行方がわからなくなったんですか?」
「……本当は言えないのだが、君には迷惑かけたし良いだろう。……一昨日の22:00以降だ。渋谷郊外の公園に向かっていた事だけはわかっている」
「そんな時間に何を……」
「すまないがそれ以上は言えない。……何か思い出したらここに連絡をしてくれ」
「……わかりました」
悠は連絡先が記載された名刺をもらい弘一と別れる。
「七草……」
悠は高級車から降りてから、右手で左胸を抑える。
自らの心の中にある女帝のアルカナがざわつくのを感じたのだ。
確かに出会い方は真由美からの一方的なものであったが、何度も会う内に絆はこうして出来上がった。
ならば悠がこれから起こす行動は…………
もちろん。
決まっている。
真由美さんは女帝のアルカナですね。
氷結魔法得意
じゃあ、深雪さんは?
月かな……