ペルソナ使い鳴上悠と魔法科生   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

更新、遅くなりましてすみません。
前回の続きです。



第五十五話 松戸基地攻防戦

 

2月24日(木)

悠の不在を狙ったドッペルゲンガーによる時間差襲撃は八王子特殊施設群から始まり、入間特殊刑務所群、そして今、松戸基地収容所でも1万に上るドッペルゲンガーの眷属による攻勢が始まったのだ。

 

八王子特殊施設群を襲撃した4体のドッペルゲンガーは、特別遊撃隊の面々によって全員消滅させられた。

投入されたドッペルゲンガーの数とドッペルゲンガー自体の能力が低い事もあり、間違いなく囮であろうと想定された。

 

次に入間特殊刑務所群は、11体のドッペルゲンガーによる襲撃だった。

狙いは間違いなく、ここに収容されている魔法犯罪者たちだ。

ドッペルゲンガーの1体は受刑者の中に擬態していたのだ。

まさかの内部からの襲撃に、担当していた警察組織及びシャドウワーカーは戦力を分散せざるを得なくなり、戦闘は優位には立っていたが、全滅させることはかなわなかった。

収容されていた魔法犯罪者の半分以上が既に、受刑者に擬態したクモのドッペルゲンガーに襲われ、エネルギーを奪われるか、持っている鏡に捕らわれていったのだ。

ドッペルゲンガーのここでの真の目的は擬態したクモのドッペルゲンガーによるエネルギー確保と仲間になる素質を持った魔法師を捕える事。外からの襲撃は囮だったのだ。

まんまと、策に嵌った警察とシャドウワーカーは、戦力を分散させ収容所に急行させようとするが、囮のドッペルゲンガーに阻まれ、収容所へと進むことが困難であった。

しかし、ドッペルゲンガー及び警察、シャドウワーカーにも誤算があった。

半ば、ドッペルゲンガーの思惑が成就しようとし、半分以上の受刑者がその魔の手に落ちたところで、受刑者として収監されていた足立透がペルソナ能力を振るったのだ。

類まれなるそのペルソナ能力でクモのドッペルゲンガーを圧倒し、消滅させる。

だが、すでに捕らわれた受刑者は、跡形も無く消え去っていた。クモのドッペルゲンガーが手にしていた鏡と共に。

 

そして、今、松戸基地が多量のドッペルゲンガーの眷属により襲撃を受けているのだ。

ドッペルゲンガー対策室と悠達の共通認識では、ドッペルゲンガーの現存数は20体前後とみていたが……八王子、入間と既に15体のドッペルゲンガーが確認されている。残りは5体前後のはずなのだ。

しかし、松戸基地を襲撃するドッペルゲンガーの眷属の数を見るにそれをゆうに超えていることは明らかだ。

 

 

 

「予想をはるかに上回る敵の襲撃にも関わらず、国防軍の方々も意外と頑張りますわね」

四葉真夜は加速魔法を使い、収容所のある施設に向かう。

松戸基地の第2防衛ラインはまだ維持され、地上から襲撃するドッペルゲンガーを抑えていた。

上空へは、遠距離魔法に優れた魔法師部隊や化成体(式神)や対空砲でけん制していた。

しかし、数があまりにも多いため、全てをカバーできず。上空からの侵入を所々許していた。

 

真夜は、そんな侵入する眷属を魔法で撃ち落としながら進んでいた。

 

「なるほど、異界の化け物というわけですか、相手の物質構造がまったく読めませんわ。構造干渉もできませんね。ミーティア・ラインはこれでは封じられたのと同じですわ。達也さんが力を発揮できないのも仕方がありませんね」

真夜は少々眉を顰めながら、独り言ちる。

真夜を最強の魔法師たらしめるミーティア・ラインという領域魔法は、相手の物質の光透過率に干渉する魔法なのだが、異界の化け物であるドッペルゲンガーやその眷属の物質構造は真夜には把握できない。達也も同様だ。達也の分解魔法は相手の分子構造を把握する必要があるからだ。真夜と達也はドッペルゲンガーとは相性が悪いと言っていいだろう。

しかし、達也と真夜の違いは、真夜はミーティアライン以外の魔法も高レベルで習得、発動できる点であろう。

 

「貢さん。国防軍の損耗率は10%と言ったところでしょうか?収容所の外に連絡要員を置いてください。20%又は第2位防衛ラインが破られる気配がある場合は、直ぐに連絡させるように、では突入いたしますわ」

真夜は収容所正面入り口に到達し、黒羽貢に命令を下す。

敵の大群が予想をはるかに上回っていた事で、この防衛ラインが何時まで持つのかを凡そ算段をしていた。

さらに少数精鋭で活動してきた四葉は、奇襲や暗殺などの隠密稼働や一撃離脱を得意としているが、多数の敵と守るべき味方が入り交じった防衛戦には向いていない事は真夜は十分理解していた。

味方の防衛ラインが切られる前に、体制を整え、有利な位置取りをするためだ。

霧の結界が形成された時点で、外への脱出路は閉ざされ、援軍は期待できない事も理解している。

 

そんな状況下でも、真夜は全く悲観していなかった。

真夜はある確信をしていた。

必ず彼が来ると……

 

それまでに、自分がやる事は、収容者を襲うだろう内部に潜んでいるドッペルゲンガーを止める事だ。

 

「かしこまりました。ご当主様」

貢は真夜に返事をした後、部下に幾つかの命令を指示する。

貢は数人の部下を残し、真夜直属のガーディアンの女性と共に真夜の後に続く。

 

 

 

 

 

収容所では、男が通路を歩き、個室収監室の重厚な扉を開け放っていた。

そして、中にいる戦時犯罪者に鏡を向け、鏡の中へと取り込んでいた。

 

その男が急に時が止まったように凍り付く。

真夜が放った振動・減速系高難易度魔法。ニブルヘイムだ。

領域内を均等的に冷却する魔法だ。男の周囲を空気ごと冷却したのだ。

凍結魔法と言っていいだろう。

 

「やはり、居ましたわね。収監服を着てる事からも、犯罪者を装っていたようですわね。しかし、戦時犯罪者ばかり収容されてるこの施設に、どのように入れたものなのでしょう?」

真夜は凍り付いた男を見ながら、黒羽貢に尋ねる。

 

「横浜事変以降、難を逃れた地下へ潜伏した兵士も後日捕縛され、ここに収容されております。それ以外にも、大亜連合のスパイなど、大亜連合関連の犯罪者はすべてここに収容されております」

 

「なるほど、そういう事ですか。大亜連合関連の犯罪者と戦犯者を一気に管理、確かに合理的ですね。それを狙われたということなのですね」

 

「そうなります。やはり、かなりのやり手が裏で手引きしてるとしか思えません」

 

 

そんなやり取りをしてる中、凍結した男から黒い霧が漏れ出始め、そして凍った肉体が爆発し四散する。

真夜達は咄嗟に防御魔法を展開し、防御。

 

黒い霧は、そのまま見る見るうちに膨れ上がる。

 

「そう簡単には、いかないようですわね」

真夜はそう言いつつ、黒い霧に向かって氷の礫の攻撃魔法を繰り出す。

部下たちも一斉に攻撃魔法を放つ。

 

しかし、黒い霧はそれらを阻みながら膨張し、霧散する。

中からは、入間特殊刑務所と同じく、禍々しい姿の巨大なクモのドッペルゲンガーが現れる。

 

「ふーー、いきなり攻撃されるとは思っていなかった。お陰で人間の抜け殻を失ってしまった。……かなりの魔法師だ。日本にはこれほどの魔法師がまだまだいると言う事か」

クモのドッペルゲンガーから落ち着いた男の声が漏れる。

 

「あなたはどこの何方様で?」

真夜は臆せずクモのドッペルゲンガーに問いかける。

 

「この姿を見ても恐れないとは、対した度胸ですね。人に尋ねる前に自分が名乗るべきでは?」

巨大なクモの頭があるべきところに、人の上半身が生え、その顔にある六つの目が、真夜を見据える。

 

「人ですか……。まあ、いいですわ。こういうのは得意ではないのですが、正義の味方をしなければならない身ですので、……四葉家当主、四葉真夜ですわ。以後お見知りおきを」

 

「……アンタッチャブル四葉……しかも、その当主ですか、また予想外もいいところで、そんな大物と出くわすとは、運が悪いですね」

クモのドッペルゲンガーの声色は如何にも驚いたようであった。

 

「出会ったばかりなのですが、ここでお別れですわね」

そう言って、真夜はCADを操作しながら魔法を展開していく。

 

「いいえ、あなたはこちら側に着くべきだ。もっともあなた自身ではなく、その影がですが」

クモのドッペルゲンガーは真夜の魔法に備え、人間の上半身から生えてる6本の腕を上げ属性防御態勢をとる。

 

そして、真夜が放った魔法を無効化していく。

「確かに厄介ですわね。深雪さんが苦戦したのも頷けますわ」

真夜が攻撃魔法を放つ間、ガーディアンは防御魔法を展開し、相手の反撃に備える。

収容所の廊下という狭い空間では、回避行動は困難だ。

しかも、近接による魔法戦だ。何方の攻撃が相手の防御を上回るかの勝負となるが、クモのドッペルゲンガーは属性無効化など、多彩な防御形態を保持しているのだ。

長引けば、四葉側が不利だろう。

 

「流石は四葉といったところですね。……この身でなければ、その一撃で蒸発していたでしょう。その力、是非欲しい」

クモのドッペルゲンガーは眷属のクモを影から多数生み出し、さらに、雷撃魔法を放ってきた。

 

そして、四葉対クモのドッペルゲンガーによる近接による魔法攻防戦が始まろうとした。

 

 

 

 

 

 

時を遡る。

 

鳴上悠はこの日の朝、確かに受験会場入りした。

しかし、隠密行動を取り、直ぐに会場を出て、新宿で待機をしていたのだ。

悠は事前にこの段取りを決めていた。

この事は特別遊撃隊と四葉真夜と七草弘一にしか知らしていない。

敵の狙いは入間特殊刑務所群又は松戸基地だろうと……しかし、絞り切る事が出来ずに、中間地点である新宿に待機せざるを得なかった。

 

そして、八王子特殊施設群が襲われ、その後に入間特殊刑務所群が襲われた際に、悠は入間に駆けつけるつもりであった。

 

『鳴上先輩。……もう少し様子を見ましょう。二点での、この時間差攻撃に違和感を持ちます。純粋にエネルギー確保や魔法師の確保が目的ならば、二点同時攻撃の方が有効です。先輩が最初から介入することが前提であれば、八王子にも入間と同じだけの戦力を向けてもいいはず。まだ何かあるかもしれません』

直斗がりせのヒミコを介して悠にそう言って、入間行きを思いとどまらせていた。

 

直斗は前日から、りせの自宅に泊まり、今もりせの隣で、状況分析をし、りせや悠のフォローをしていたのだ。

 

「松戸基地か?」

 

『いえ、まだそうとは言い切れません。何にしろドッペルゲンガーの戦力は有限です。これでおしまいという事も十分あります。しかし……』

直斗は何かにずっと引っかかっている様子だ。

 

『この反応は……悠先輩!入間刑務所の中の囚人にドッペルゲンガーが一体混ざってた!しかもクモのドッペルゲンガーよ!』

りせがそこで大声で悠に声を掛ける。

 

『な!?どうやって……そうか、クモのドッペルゲンガーの特性か、かなり前から綿密に計画を……外からの攻撃は囮、本命は内部からのエネルギー確保と囚人魔法師の捕縛です!』

直斗も一瞬、驚愕した表情を浮かべる。

囚人にドッペルゲンガーが入り込んでいたことは、予想外だったようだ。

しかし、直ぐに冷静さを取り戻し、敵の動きを予想し、判断する。

 

「本命は入間か、不味い。このままだと、美鶴さん達の防衛計画が大きく狂う。りせ、美鶴さん達にこの事を伝えてくれ!俺も行く!」

悠もそのりせの報告に焦りを覚える。

 

『悠先輩。風花さんにもう伝えた!……あれ?これ足立さん?足立さんもここに居る。どうして?』

りせは山岸風花に受刑者の中にドッペルゲンガーが居る事を伝えると同時に、受刑者の中に足立透が居る事に気が付いた。

 

『足立透。まさか、ドッペルゲンガー側に!?』

 

『ううん。足立さんにシャドウの反応はないよ』

 

『という事は、足立がここに囚人として移送されていたと言う事ですか……厄介なことにならなければいいのですが』

 

「そうか……足立さんがそこに」

悠は感慨深そうに呟く。

 

『どうする悠先輩』

りせは不安そうに悠に尋ねる。

 

「足立さんなら大丈夫だ」

悠は自信を持って言う。

 

 

『鳴上先輩がそう言うならば。……しかし、久慈川さん、その入間の囚人に成りすましているクモのドッペルゲンガーが誰をベースにしているのかわかりますか?』

 

『うん。クモのドッペルゲンガーは本人の体を乗っ取って、成りすましてるから、本人の体もそこにあるの。本人の体から正確にアナライズができる。ちょっと待ってね。……竹内正彦って人、国際反魔法政治団体OPPO(Ordinary People Political organization)の構成員。実態はUSNAに拠点がある国際犯罪シンジゲートで、日本では反魔法政治団体ブランシュの構成員としても活動してたみたい。2重スパイ?3重スパイ?そんな感じ』

 

『……!?鳴上先輩!!かなり、ひっ迫した状況です。残りのドッペルゲンガーは20体程度だと踏んでいましたが、それ以上存在します!!下手をするとその倍、いやそれ以上に!!』

直斗はりせがアナライズした情報を聞き、驚きと共に何かに気が付き、そして、慌てたように悠に報告する。

 

「どういうことだ直斗!?」

 

『ドッペルゲンガーは非合法に日本で活動してる魔法師を取り込んだんです!!警察も国防軍も躍起に探してるような連中です!!うかつだった。魔法師は何も、登録されてる魔法師だけでなかった。しかも日本人だけでもないです。日本で非合法に活動してるマフィアや、危険思想を持った団体はいくつもあります。しかも、他国のスパイも居るはずです!!』

日本国内に居る魔法師は登録された魔法師だけではない。マフィアや他国のスパイも魔法師を擁しているのだ。しかも必ずしも日本人という事ではないのだ。下手をするとジェネレーター(人間を改造手術によって魔法を行使できるようにした感情を持たない生体魔法兵器)を多数保有してる可能性がある。

 

「しかし、警察も国防軍も探しきれないような連中だ。どうやってドッペルゲンガーが?」

 

『ドッペルゲンガーがそれのいずれかの手引きを受けた可能性があるという事です。なぜドッペルゲンガーがUSNAから日本に非合法に来れたんですか?しかも元のドッペルゲンガーはUSNA軍魔法師部隊の人間のシャドウです。旅客機や一般船舶では日本には侵入できないはずです。日本に一般客として搭乗できるはずがない。それこそ裏ルートで犯罪組織の手引きが無いと』

 

「しかし、その組織はなぜ、ドッペルゲンガーを?」

 

『理由はわかりません。USNA軍の脱走者か何かと言う名目だったのかもしれません。それは後の祭りです。既にその犯罪組織も、ドッペルゲンガーに取り込まれたと言う事です!!』

 

「!?……まずいな」

 

『鳴上先輩!松戸基地も襲われるかもしれません!いえ、可能性は非常に高い!!しかし、入間も放っておくわけには……いやしかし、それだと』

 

「直斗、入間は大丈夫だ。足立さんが内部のドッペルゲンガーを倒してくれる。俺はそう信じている」

 

『いやしかし……』

 

「入間と同じで、松戸基地も内部に囚人に紛れてドッペルゲンガーが潜んでいる可能性が高いんだな。そして、外から入間以上に大規模に攻められる可能性がある」

 

『はい。それと鳴上先輩を倒す策を仕掛けてくる可能性もあります。いや、八王子にも、入間にも鳴上先輩は現れていない。そこに相手の油断があるかもしれません。鳴上悠は受験を今も受けていると。それでも十分注意してください』

 

「わかった。松戸基地に行く……真夜さんのところか、今のうちに知らせておく」

 

『悠先輩、バックアップは任せて!』

『鳴上先輩、相手は相当のやり手が裏についてます。十分気を付けてください』

 

「じゃあ、行こうか」

悠は松戸基地へ向かう。

ドッペルゲンガーによる松戸基地襲撃の30分前だった。

 




前回から直斗くんが登場。
真夜さんも戦闘に参加。

かなり、時系列が前後しましてすみません。
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