ペルソナ使い鳴上悠と魔法科生   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

ようやく我らの鳴上悠が到着です。
久々の戦闘ですね。

すみません。アップ後、ちょくちょく修正してます。
適切でない言い回しが結構あったので……


第五十六話 悠到着そして反撃に……

四葉家分家の当主の長男であり防衛省の役人である新発田勝成は、松戸基地内を一望できる第二発令所内で戦場分析と情報収集を行っていた。

新発田勝成は分家の中で屈指の戦闘力を誇る魔法師ではあるが、四葉家の親族であることを隠し、さらに防衛省内の動きを探るために後方事務方の仕事をしていた。

それもあって、ある程度ではあるが、防衛省内でも顔が利く。

そういう経緯もあり、真夜は勝成をこの基地上層部との伝令役に向かわせたのだ。

 

ドッペルゲンガーの眷属の猛攻に対し、現在、松戸基地は何とか第二防衛ラインを維持していたが、どう見ても旗色が悪い。

既に、ドッペルゲンガー側の初見殺しである【鏡の牢獄】により1割の戦力を奪われ、外壁である第一防衛ラインを突破された際にも、5%の戦力を失った。既に第二防衛ラインも所々突破され、防衛部隊も1割以上の損傷を出し、全体戦力では2割を損耗したことになる。

勝成は真夜の命令で防衛ラインの2割の損耗、若しくは第二防衛ラインの崩壊が迫る状況で報告するようにと、言い含まれている。

 

(流石に不味いな。何れ近いうちに第二防衛ラインは突破されるだろう。完全に包囲され、援軍も望めない状況だ。しかし、横浜事変時の大亜連合部隊を十分跳ね返せるぐらいの戦力を保持しているのだぞ。松戸基地の防衛戦力は2000、そして魔法師が300人だ。それがこの僅かな時間で……ドッペルゲンガーがここまでの力と戦力を有している存在だとは、甘く考えていた。……ご当主にそろそろ報告すべきか)

勝成は第二発令所に各所の戦況報告に訪れる兵士の報告を耳にしながら、強化ガラス越しに迫りくるドッペルゲンガーの眷属達を見据えながら、思考していた。

 

 

強烈な稲光が突如として勝成の目に映る。

 

その稲光は、松戸基地の外から第二防衛ライン正面ゲートに向かい、まるで一筋の雷槍のように……その稲光が通った後には、埋め尽くしていたはずのドッペルゲンガーの眷属が消滅し、道が開けたていた。

 

勝成はその光景を見てモーゼが海を割る光景を思い浮かべる。

 

 

第二発令所内の将校達もそれに気が付き、窓際に集まる。

 

 

勝成は遠見の魔法を発動し、ドッペルゲンガーが消滅し出来た道の先端を注視する。

 

そこには都立高校の制服姿の青年が刀を構え、さらに後方に巨大な式神を従えていたのだ。

(この状況で来るとはな)

 

「奏太、直ぐにご当主に報告差し上げろ。彼が来たと」

勝成はそばに従えていた姉弟のガーディアンの弟である堤奏太に命令を下す。

 

(鳴上悠。あの世界最強の一角である真夜様を無傷でひれ伏せさせ、四葉家本家を消滅させた青年。この戦いのキーとなる存在)

 

 

 

 

悠が松戸基地に到着すると、既に霧の結界が形成されていた。

りせからの報告では霧の結界が15分前に松戸基地に形成され、襲撃が始まっていた事は知っていたが、その戦力に悠は驚きを隠せなかった。

りせがエネミーサーチを行った結果、ドッペルゲンガーの眷属が凡そ1万3千。ドッペルゲンガーの数は24体だ。

 

直斗がドッペルゲンガーが非合法組織や他国の工作員を取り込んだ可能性があると言っていたことは、おそらく真実だろうと……

 

『悠先輩!やっぱり、囚人の中にクモのドッペルゲンガーが紛れ込んでた!しかも、入間に居た奴より強力なの、これって、第一高校に居た奴と同等かそれ以上かも、でも今、あの四葉のおばさんがなんとか抑えてるよ!』

りせがおばさんと称したのは、もちろん四葉真夜のことである。どうやらりせは、真夜が気にくわないようだ。

 

「そうか、真夜さんが……りせ、人が居ないルートを教えてくれ、突入する!」

 

『うん。悠先輩!気を付けてね』

 

悠はスッと眼鏡(クマメガネ)を掛け気を集中させる。

「ああ、……ペ・ル・ソ・ナ!!」

 

カッ!!

 

悠の右手には青白い炎と共に愚者のカードが現れ、それを握りつぶす。

背後には4メートルほどの、黒ずくめの鉢巻きをした悠のペルソナ、イザナギが顕現。

悠はさらに左手にペルソナ、ヨシツネを武器化させた名刀【薄緑】を携える。

 

そして、霧の結界内に足を踏み入れる。

 

 

【電光石火】

 

悠はイザナギと共に全身に稲光を纏い、剣技電光石火で結界内を埋め尽くすドッペルゲンガーの中を一気に突き進む。

 

 

 

悠はその剣技一閃で、無数の眷属を屠りながら突き進み、第一防衛ラインであった外壁から一気に松戸基地第二防衛ラインに到達。

 

悠は刀を振り下ろした状態で第二防衛ラインの固く閉ざされた門の前に立つ。

 

 

【ジオダイン】

 

イザナギが上空に腕を振り上げ、刀を掲げる。

悠の頭上上空から、強烈な稲妻が悠の周囲に降り注ぎ、空地問わず眷属共に直撃する。

 

【木っ端微塵切り】

 

イザナギはそのまま上空に舞い、ジオダインで打ち漏らした稲妻無効化属性のある眷属をその大きな包丁のような大刀を振り回し物理的に敵を消滅させる。

 

 

今の一連の攻撃で、600程の眷属とドッペルゲンガー本体の一体も消滅した。

 

 

 

 

松戸基地第二発令所では……

ここのトップである国枝少将は驚愕の面持ちで参謀役の部下に尋ねる。

「……こ、古式魔法師。いや、アレは何だ?人なのか?」

 

「少将、彼はおそらく長官が仰っていた、N案件です」

 

「……ペルソナ使いとかいうあれか!?」

 

「少将、相手は彼の登場で浮足だっています。今がチャンスです。第二防衛ライン正面部を下げ、広範囲焦熱兵器を使用しましょう」

 

「しかしまだ、脱落した兵は相手に囚われ生きてる可能性もある。外壁部には傷つき、助けを待ってる者もいる。それらを巻き込むことになる!」

 

「少将、我が兵力の損耗率は2割に達してます。もはやそんな悠長な事は言っておられません。多少の犠牲はやむなしです」

 

「ペルソナ使いはドッペルゲンガーに特化した魔法師と聞いている。噂の能力であれば、何とかなるやもしれん」

 

「確かに。但し、最悪の事態に備え、第二防衛ラインの正面を下げ、広範囲焦熱兵器の準備はしておきましょう」

 

「……わかった」

少将は悠がいる第二防衛ライン正面を見据え、しぶしぶと言った面持ちで参謀役の部下に返事をする。

 

 

 

 

悠は第二防衛ラインの外壁に沿うように攻撃を繰り返し、ドッペルゲンガーを次々と屠る。

数々の試練を乗り越えてきた悠にとっては、ドッペルゲンガーの眷属などは物の数にはならない。

 

そこにドッペルゲンガー側から悠に言葉が投げかけられる。

「ペルソナ使い!!そこを動くな!!こっちを見ろ!!」

 

 

黒ずくめの恰好をした人型形態のドッペルゲンガーが仮面を外しながら、第一防衛ラインと第二防衛ラインに存在する2階建てのコンクリート造の建物の屋上から叫び、悠を見据えていた。

 

悠は攻撃の手を止め、声の主の先にある建物の屋上を見据える。

するとその屋上には、ドッペルゲンガーに捕まった兵士たちが集められていた。

彼らは縄などには括られてない。意識はあるようだが、生命エネルギーを吸い取られ、身動きできないぐらいに衰弱してるようだ。

魔法師、一般兵を含め100人程度いるのが見える。さらにそこにはドッペルゲンガー本体数体が待機していた。

 

さらに、その建物の左右にも凡そ100人づつ地面に転がされ、同じくドッペルゲンガー本体が数体待機している。

 

ドッペルゲンガーは人質を取ったのだ。

凡そ300人の兵士を生命エネルギーをすべて奪わず、辛うじて意識がある状態で生かしていたのだ。

 

 

 

「貴様が鳴上悠だな!!よくここが本命だとわかったな!!……しかし、この通りだ。貴様が来る可能性は考慮していた。どうだ。これで手が出ないだろう」

仮面を外し、明らかに日本人とは顔立ちが異なる色白の男のドッペルゲンガーが愉快そうに悠に対して叫ぶ。

 

「………」

悠はジッとその色白の男のドッペルゲンガーを見据える。

 

「貴様の最大の弱点は、これだ。見捨てられないだろ?同胞を、見ず知らずの連中だと言うのに!!さあ、刀を捨て、ペルソナを解除してもらおうか!!鳴上悠!!10秒待ってやる。さもないと、100人ずつ殺すぞ!!」

 

「………」

悠は沈黙を守ったまま、イザナギを解除し、手にもつ、名刀【薄緑】を手放す。

 

「フフフフフッハー――ハッハー―――!!、鳴上悠!!貴様がたかがこんなことで、手も足も出なくなるとは!!こんな役にも立たない連中のためにな!!あのクモのミアでさえ倒せなかった鳴上悠が!!」

色白の男のドッペルゲンガーは優越感に浸り、狂気じみた形相で笑い続ける。

この300人程の人質は明らかに悠対策だ。

悠が来る可能性すらも計画にいれ、捕まえた兵士の生命エネルギーを全て奪わず、人質にするために生かしておいたのだ。

 

 

 

しかし……

 

(直斗の予想通りだな)

悠は刀とイザナギを解除しながら、直斗にりせのテレパスを通じて話しかける。

 

『はい、先輩の、鳴上悠の最大の弱点はこれです。先輩は人を見捨てることができない。先輩の今迄の行動を見るに、敵もこれを導き出してくることは予想してました。そして打てる手はこれです』

直斗は既にこの状況が起きることを予想していた。

そして、その対策も。

 

『悠先輩!!やっぱり現実世界の人には光属性の即死系のハマ関係は効果が現れない見たい。人質の人全員確認したよ。大丈夫!!それと人質の中に紛れ込んでるクモのドッペルゲンガーも確認したよ!!』

 

『やはり、敵も2重の罠を仕掛けていましたか、もし、何らかの方法で鳴上先輩が人質を解放した時のためでしょう、油断した鳴上先輩を襲うつもりだったのかもしれません。しかし、敵は知らない。こちらには久慈川さんという天の目にも勝る存在がいることを。その手は通用しません』

 

(直斗、りせ、助かる)

 

『現実と異世界では、ペルソナの能力が変化することはわかってました。ハマ、要するに破魔、魔を滅する術。人の善性を信じる鳴上先輩にとって人はすべて善であり、魔ではない。光魔法のなかでも聖とでもいうのでしょうか、それに属する術や魔法はすべて現実の人間には効果が無いことは、久慈川さんのエネミーサーチで実証済みです。そしてその最上級術は……』

 

 

 

 

「鳴上悠!!手を出すなよ!!こっちには人質がいるのだ!!ふはははははっ!!貴様には死んでもらおうか!!なぶり殺しだ!!」

色白の男のドッペルゲンガーは狂気じみた笑い声と共に、手を上げる。

 

ドッペルゲンガーの眷属たちが一斉に、無防備になって項垂れる悠を押し潰すように迫る。

 

 

しかし、悠の目は死を待つ人間の目ではなかった。むしろその瞳は自信に満ち溢れ、爛々と光を宿していた。

迫るドッペルゲンガーの眷属が悠に触れる瞬間。

 

「ペ・ル・ソ・ナ!だいそうじょう!!」

 

悠の気合いの言葉と共に握りしめた拳を頭上にかざしす。

その拳をかざした先には座禅を組んだミイラと化した高僧の姿をしたペルソナが現れる。

 

ペルソナだいそうじょうは、座禅を組んだ状態で光の粒子を放ちながらゆっくりと横に回転しながら上空へ登っていく。

 

【回転説法】

 

だいそうじょうが唱えるマントラが無数の光の帯となり、その場の空間を包み、さらに天から光の柱があちらこちらに落ちる。

光属性即死系最大術式【回転説法】、ありとあらゆる魔の存在を打ち消す術式。悠に魔と認識された敵はその聖なる言霊と光によって悉く消え去る。

 

そして、半径300メートルの大きな光の柱が形成され、その光に触れたドッペルゲンガーとその眷属は光の粒子となり消え去る。

 

その場に残ったものは人質と光無効化属性を持つ、色白の男の姿をしたドッペルゲンガーを含め3体だけ。

ドッペルゲンガーの眷属はすべて消滅し、人質を囲んでいた8体のドッペルゲンガーと、人質に紛れ込んでいた2体のドッペルゲンガー、そして、この周囲で指揮を執っていた3体、合わせて13体の内10体のドッペルゲンガー本体がこの悠の【回転説法】による攻撃で消滅したのだ。

 

 

「ば、馬鹿な!」

光無効化属性を持っていたことで辛うじて生き残っていた、色白の男のドッペルゲンガーがそう嘆くのも束の間。

 

【獅子奮迅】

 

上空からすでに悠の刀が目の前に迫り、強烈な突きをくらい、吹き飛ぶ。

 

「ぐはっ!」

 

【電光石火】

 

コンクリートの床をすべるように吹き飛ばされた先に、さらに回り込むように悠が眼前に現れ、稲妻を纏った刀で薙ぎ払われる。色白の男のドッペルゲンガーは本性を現す間も無く、叫び声さえ上げる事もできずに黒い液状と化し消滅したのだ。

 

回転説法を属性防御で生き残った人質を監視していた2体のドッペルゲンガーは、周りの眷属や同胞が一瞬で消された事に驚き、周りを見渡し一瞬茫然としていたが、状況を飲み込み直ぐに行動を開始しようとする。

しかし、既に時遅し、目にも止まらぬスピードで悠が迫り、剣技を繰り出し、反撃の間も与えずに薙ぎ払い、消滅させられたのだ。

 

 

 

この攻撃で眷属は凡そ3000体消滅、ドッペルゲンガー本体が消滅したことで、その影響でさらに4000体の眷属が消滅した。

これで残りの眷属は凡そ5000体とドッペルゲンガー本体は10体のみ。

 

悠が来て僅か10分も経たずに事態は好転へ。

 

 

 

 

 

松戸基地第二発令所でこの様子を遠見の魔法で見ていた新発田勝成は、驚愕の表情をあらわにしていた。

( ……人質を取られた状態だぞ、なんだあれは!?光属性のエレメント系の領域魔法か!?それとも司波達也と同じ分解魔法か!?しかも人質を巻き込んだ様に見えたが、人質は無傷だと!!対象を選択できる領域魔法か!?馬鹿な!!そんなものが存在するわけがない。存在したとしても、どれだけの演算能力が必要だと言うのだ。人一人の人間の脳の限界を圧倒的に超えてるぞ。達也の分解魔法どころの騒ぎじゃない。いや、ドッペルゲンガーのみにしか効果を表さない魔法とでもいうのか!?……四葉は一つ間違えば、あれに滅ぼされていたということか!!)

そして、自身の背中に冷たいものが流れ出る事に気がつく。

 

その直ぐ近くでは、同じくこの様子を見ていた国枝少将が驚愕な表情をし、手にした双眼鏡を取り落としていた。

参謀役の部下が取り落とした双眼鏡を素早くつかみ、眼にして自分でも状況を確認しようとする。

「……長官が言っていた。N案件には絶対手を出すなと。まさしくこれか……彼が、我々の敵ではなく、ドッペルゲンガーの敵であった事を感謝しなければな」

「戦略級魔法……いや、敵、味方を選別した。……凄まじい。日本に戦略級魔法師はこれで五輪と独立魔装大隊の隠し玉と、彼が加われば、大国にも引けを取らない」

少将は驚きのあまり硬直していたが、ようやく声にすることができた。参謀役は双眼鏡で状況を確認しながらニヤリとほくそ笑んでいた。

 

「とりあえずは彼の邪魔をせずに、防御態勢を立て直すのが良いだろう。……ドッペルゲンガーの大群相手に突撃してる魔法師はわが国のエースだ。彼の行動の邪魔を決してするな。第二防衛ライン正面の退避を取りやめ、人質となった兵士の救出を行い、再度防御態勢を立て直せ」

少将は苦笑したあと、伝令役の兵士に命令を伝える。

 

 

 

一方、収容所内でクモのドッペルゲンガーと対峙していた真夜の下にも悠が現れた事が伝わる。

 

「来て下さると思っておりましたわ。それにしても随分お早いお着きですね。そろそろこのクモとのダンスも飽きてきたところですの。もう少しだけ舞を踊って見せますわ」

真夜は持久戦を覚悟していたが、これほど悠が早く来たことに驚きと共にホッとした表情をする。

 

クモのドッペルゲンガーは魔法師としての知識と経験を持ち、さらにクモの特性である擬態や数々の属性防御を持っている。

魔法師にとって、これほど厄介な相手はいないだろう。

しかし、クモのドッペルゲンガーは自分の存在の優位性を十分理解し、相手を倒すための攻撃を繰り出しているのだが、目の前の四葉真夜を倒すことが出来ないでいた。

それどころか、ヒヤリとするような反撃もされるのだ。

そんな魔法による攻防のさなか、真夜は部下らしき若い男に報告を受け、妖艶な笑みを湛えていたのだ。

クモのドッペルゲンガーは何やら嫌な予感がしてならなかった。

 

 

 

 




松戸基地の攻防は次で終了です。


すみません。
ちょっと都合のいい解釈設定を追加させてもらってます。
【回転説法】だいそうじょう。
ハマ成功率アップというか……ほぼ100パー><
しかも人には効果無いとか><

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