ペルソナ使い鳴上悠と魔法科生   作:ローファイト

59 / 60
ご無沙汰しております。
ようやく、一歩踏み出せました。
なんとか年末までに終わらせたいと思ってます。


第五十九話 追跡

悠のペルソナ北欧神話の主神オーディンが聖槍グングニルを天に掲げると、松戸基地上空に雷鳴が鳴り響き、竜巻と激しい嵐が巻き起こる。

竜巻と暴風は四方から魔獣サンダーバードを包み込み、暴風の球体を形成する。

 

【万物流転】

ありとあらゆる事象と物質を虚無へと帰す絶技。

その様子は、まるで創世期の荒れ狂う地球のような有様だ。

 

オーディンは聖槍グングニルを振り降ろすと、激しく雷鳴が鳴り響き、嵐が巻き起こる空が嘘の様に一気に晴れ、青空が広がる。

 

 

その空には猛威を振るっていた魔獣サンダーバードの姿は無い。

魔獣サンダーバードは【万物流転】により跡形もなく消え去ったのだ。

 

 

その光景を目の当たりにした誰もが呆気にとられ、しばらく声を上げる事さえも出来ない。

勿論、達也も例外ではなかった。

「……まだ上があるのか………」

達也は、悠が第一高校で放ったメギドラオンと同等か、それ以上の威力の術儀に驚きを隠せない。

 

 

悠はオーディンを戻し、再びコウリュウを召喚した。

「チェンジ!ペルソナ!コウリュウ!」

基地上空を覆いつくす程の巨大な黄金の龍が再び現れる。

 

 

コウリュウはその巨大な体を金色に輝かせ、基地全体を眩い光で覆いつくす。

 

【メシアライザー】

現代の奇跡を起こす。

 

悠は最高峰の回復術儀を基地全体に放ったのだ。

これにより、魔獣ウイーウィルメックがまき散らした毒や、死骸に内包している瘴気や毒素を完全に浄化。

さらに、傷ついた兵士達は重症、軽傷問わず一瞬にして全員回復。

これを奇跡と言わず、なんと例えられるだろうか?

 

第二発令所でこの様子を見ていた指揮官は茫然自失に床に膝を付き、参謀役は錯乱気味に取り乱していた。

「神か………」

「………馬鹿な……あり得ない……何なのだ?これは何なのだ!?」

 

この二人がこのような状態に陥るのはある意味致し方が無い事だろう。

まだ、正気を辛うじて保っていただけ、マシな方だ。

魔法師や軍事に関わる人間ならば、これがどういう意味を持つのかを理解できるからだ。

 

メギドラオンや万物流転などの圧倒的な攻撃力は、まだギリギリ魔法師でも理解が出来るかも知れない。

流石に物質を無に帰す事は出来ないが、単純な攻撃力として、戦略魔法でこれに近い現象が確認され、認知されているからだ。

だが、この最高峰の回復術儀メシアライザーは規格外にあり過ぎた。

現代魔法でも治癒は存在する。

だが、魔法での怪我の治療は、継続して魔法をかけ続けなければ、元に戻ってしまうのだ。

そのため治療にも時間を要し、怪我の程度にもよるが、通常の医療と織り交ぜて行うのが基本である。

例外中の例外ではあるが、達也のBS魔法再成は、致命傷であっても24時間以内であれば、24時間前の状態に一瞬で戻す事が可能であった。

怪我の治療というよりも、怪我をする前の状態に戻すと言う意味合いだ。

但し、再成を施した相手が負った傷の痛みが、達也に濃縮して返って来るというリスクがあった。

しかし、悠が放ったメシアライザーは、一瞬にして完全回復と状態異常回復を施すなど、現代魔法ではありえない現象な上に、さらには基地全体を飲み込む程の広範囲でそれをなしとげるなど、奇跡としか表現ができないだろう。

 

 

同じく、第二発令所でこの様子を見ていた新発田勝成も次々と悠が起こす現象に、足元から崩れ去りそうになるが、何とか踏ん張っていた。

「………信じられない。これ程の力………分解・再成どころの騒ぎじゃない。これ程の力を一個人が持っていいものなのか……彼は神だとでもいうのか?」

 

真夜は勝成の独り言の様な言葉に、微笑みながら答えていた。

「いいえ勝成さん。鳴上悠さんは神ではありませんわ。神様はこの30年間、わたくしを助けて下さらなかったもの。こんなわたくしでさえ、人として救いの手を差し伸べてくださった彼はどこまでも優しい人ですわ」

真夜にとって、悠は四葉の呪縛から解き放ってくれた恩人であり、忘れかけていた生きる喜びを与えてくれた人物でもあった。

 

 

この奇跡の術儀を放ったのが悠である事は、当然後に軍上層部、日本政府上層部にも知れ渡る事になる。

戦場を一変させる程の術儀を次々放つ悠の扱いについて、頭を悩ませる事になるだろう。

悠自身は基地での惨状を目の当たりにし、ただ、ドッペルゲンガーにより傷ついた人を助けたいがために行った事だったのだが、半年前の悠であればここまで広範囲にメシアライザーを放つ事が出来なかった。

成長したのは何もりせだけではない。

横浜事変から、今まで現世でペルソナ能力を幾度となく行使し、最高峰の術儀も数度放ってきたのだ。

悠自身もこの数か月で更に成長を成し遂げていたのだ。

 

 

 

そして、奇跡を起こした張本人の悠は、役目を終えたコウリュウを戻し、上空からゆっくりと降りる。

 

その悠の姿を見た仲間達は悠の元へ駆け寄る。

だが、悠は地面に降り立つと同時に片膝を付く。

「悠!」

「悠くん大丈夫なの!?」

「鳴上さん!」

そんな悠の姿に心配そうにリーナ、真由美と深雪は声を掛ける。

悠のこの様な姿を皆は今まで見た事がなかった。

今迄に無く、ピンチに陥っていたと言う事だ。

 

「………」

達也は周りを見渡し、ウイーウィルメックがまき散らした毒が浄化され、兵士達が回復する様を見、無表情であったが内心は驚きと焦燥感にかられていた。

これ程の力を一個人で持っていてもいい物なのかと……。

 

「大丈夫だ。皆来てくれて助かった」

悠は息を整えつつ立ち上がりながら、はにかんだ笑顔を皆に向ける。

 

「悠、無茶し過ぎよ」

「……大丈夫なのね」

「鳴上さん……」

リーナと真由美、深雪はそんな悠の笑顔にホッとする。

 

「なんとかなった……だが、まだだ」

悠は皆の顔を見渡した後、ドッペルゲンガーが撤退していった先を見据える。

 

そして悠は、自宅から皆のサポートを行い続け、今もこちらの会話を聞いているだろうりせに声を掛ける。

「りせ」

『はーい、悠先輩は休んでて、今度は私の番」

「後は任せた…」

『まっかせて!絶対尻尾を掴んでやるんだから!』

 

決して表に出してはいけない、知られれば世界の国々が震撼する程の能力者がここにいた。

久慈川りせ……。

国際社会において、彼女のペルソナ能力はある意味、悠よりも脅威だろう。

 

 

りせは入間特殊刑務所から撤退したドッペルゲンガーと、今しがた松戸基地から撤退したドッペルゲンガー全てをエネミーサーチでマーキングし追跡していた。

ヒミコは人工衛星や成層圏プラントのカメラや、街中の監視カメラ等を通してエネミーサーチを行いながら、ドッペルゲンガーを追い続けていたのだ。

 

りせは悠からバトンタッチを受け、自宅のリビングで高々と声を上げる。

「今度は逃がさないんだから!ヒミコ!!いっくよーー!!カンゼオン!!まだまだ!!さらにコウゼオン!!」

りせはヒミコを一気に最終形態のコウゼオンまで転生進化させた。

 

りせの発想と機転で、現世にてその能力が爆発的に成長し続けるりせのペルソナ ヒミコ。

りせ自身もヒミコの成長と共に、莫大な情報量を処理するための脳内情報処理能力が格段に向上していた。

その演算能力は戦略級魔法師に匹敵、それ以上であるだろう事は、以前リーナと真由美とヒミコの情報を共有した際に判明している。

そのヒミコを更に転生進化させたのがカンゼオンである。

カンゼオンはヒミコの能力をそのままにパワーアップさせた、いわばヒミコの正統進化版と言った様相のペルソナだ。

見た目の形状も、頭部のアンテナが複数展開された形状に進化しているが、全体のフォルムとしては大きくは変わらない。

だが、更に最終転生進化形態ともいえるコウゼオンはその見た目の変化からも、ただ単にヒミコやカンゼオンの能力向上版ではない事が伺い知れるだろう。

 

「流石に情報量が多すぎ、でも逃げたドッペルゲンガーはまだ追えてる!」

りせはコウゼオンが取得する大容量の情報に苦心しながらも、何とかコントロールし、ドッペルゲンガーを捉え続ける。

コウゼオンに最終転生進化したりせのペルソナは、ヒミコ同様女性らしいフォルムをしてはいるが、頭部は今迄のアンテナの様な形状から天体望遠鏡の様な形状に大幅に変化、腕は6本に増え、そしてまるでコウゼオンが宇宙を支配しているかのように周囲に天体が浮遊し周回していた。

このコウゼオン、宇宙の全てを見通す力を持つと言われている最強のペルソナの一体だった。

りせ本人はその事を全く知らないが……。

 

コウゼオンは、現在マーキングしたドッペルゲンガーをどこまでも捉え続けていた。

コウゼオンに一度マークされた対象は、どんな秘境に隠れようが、人工衛星や監視カメラからのエネミーサーチが届かない場所に逃げようが、例え異界に逃れようが、コウゼオンの目からは逃れられない。

いわば、絶体追跡能力と呼べるものだった。

 

だがこの能力、数週間前、直斗とりせの何気ないこんな会話から生まれたものだった。

「直斗って推理で犯人見つけるでしょ?どんな感じてやってるの?」

「推理を行うのにも、いろいろと事前に必要な事があります。聞き込み調査や痕跡調査などの地道な調査が物を言います。そこから犯人の足取りを推測します」

「それでも分からないときはどうするの?」

「例えば何ですが、犯人が次の犯行を行う現場を推測して、待ち伏せしたりおびき寄せます」

「じゃあ、犯人が沢山いて、アジトを突き止めたい時はどうするの?」

「簡単に言いますと、めぼしい犯人をマークし、相手を泳がせながら、気が付かれないよう追跡します。犯人がアジトに入った所で一網打尽にするのがセオリーです」

「ふーん、マークして、追跡かぁ……ヒミコ出来る?」

りせは心の中でヒミコに聞くと、マーキングは出来る事が判明、追跡についてはコウゼオンならば絶対追跡が可能だと答えたとか…………。

りせならではのペルソナとのコミュニケーションの取り方だ。

この絶対追跡能力、これだけでも破格の能力だが、コウゼオンの能力の一端に過ぎないのだ。

 

 

りせが追跡していたドッペルゲンガー共が次々と地下へと潜っていく。

「ああっ!やっぱり地下に潜ったわ!下水路?地下鉄?違う……ここは何?」

りせは、コウゼオンで撤退するドッペルゲンガーの行動を捉え続け、地下に潜るのを確認。

ドッペルゲンガーが今まで、りせのエネミーサーチから逃れるとすれば、地下である可能性が高いと踏んでいた。

それも考慮し、今までりせは、地下鉄や地下防水路の監視カメラからエネミーサーチを行い、隠れ潜むドッペルゲンガーの居所を探してきたのだが見つける事が出来なかった。

既にエネミーサーチにも捉えきれない場所に潜伏してしまったドッペルゲンガーを探し出すのは困難として、りせは悠と直斗と何度も相談し、次にドッペルゲンガーと対峙した際、ワザと逃がし、りせのペルソナ能力で逃がしたドッペルゲンガーをマーキング追跡し、ドッペルゲンガーの根城を突き止める作戦を練っていたのだ。

この作戦は、りせがこの短期間でペルソナ能力を爆発的に向上させた事で初めて実現可能となったものだった。

 

そして、りせのペルソナ コウゼオンはドッペルゲンガーをマーキング追跡することで遂に撤退経路を突き止める。

だが、りせにはその場所が何なのかわからなかった。

 

「久慈川さん。ドッペルゲンガーは地下の何処に?」

隣で、ペルソナでドッペルゲンガーを追い続けるりせを黙って見守っていた直斗が、そんなりせに声をかける。

 

「直斗くん、これ見て」

りせはコウゼオンがもたらす数々の情報を処理しながら、リビングのテレビに追跡中のドッペルゲンガーの一体の様子を映し出す。

 

「これは……」

直斗が見たものは、煉瓦やブロックで積まれたトンネルの様な場所を獣の姿となったドッペルゲンガーが突き進む姿だった。

「旧世紀の地下鉄跡、いや、下水道跡かも知れません。放置されたままの過去の遺構です。まだ残っていたとは、しかもこれだけの規模で……」

 

「昔の!?やられたわ。昔の地下鉄とか下水道には監視カメラが無いからヒミコのエネミーサーチにも引っかからなかったのね。直斗くん、しかもここ、霧に覆われてる…異界化してるわ」

2096年現在、関東近郊の鉄道は全て地下に埋設され、防犯や防災、事故防止の観点からすべての場所に監視カメラが取り付けられている。

同様に地下下水道や地下配電配管経路にも監視カメラや各種センサーが取り付けられていた。

しかし、凡そ100年以上前に作られていた下水道や防水路、地下鉄や地下通路はそのほとんどが廃止され、新たに作られるか全面的に改装されていた。

特に昭和の時代に作られ廃止された物は、そのまま放置されていたケースが多い。

そんな廃止放置され、忘れさられて遺構と化した下水道や地下鉄路線に、監視カメラどころか現代の通信機器など置かれているはずもない。

さらには人の出入りも無いだろう。

ヒミコによる人工衛星や監視カメラ網のジャックからのエネミーサーチでは捉えられなかったのは、こういう理由だった。

しかも、その遺構と化した場所は霧の結界同様に異界化されていたのだ。

 

「……この分だと、この地下遺構群は東京近郊全域に広がってる可能性が高いですね。神出鬼没のドッペルゲンガーのカラクリはこういう事ですか……」

直斗はりせの言葉と、コウゼオンによってテレビに映し出される異界化した地下遺構を進むドッペルゲンガーの姿を見据えながら、今まで何故ドッペルゲンガーを捉えきれなかったのかを考察し、答えを導き出す。

今迄、ドッペルゲンガーは突如として現れ、魔法師や魔法適正者を襲っていた。

更には悠らとの戦闘で撤退する際、直ぐに反応が途切れるのだ。

能力向上前ではあったが、探索が得意なりせのペルソナ ヒミコでさえ見失っていたのだ。

当時から、何らかの理由があると踏んでいたが、結局今迄分からなかった。

 

だが、りせとコウゼオンは遂に、ドッペルゲンガーの神出鬼没な移動方法を突き止め、隠れ家へと迫る。

 




ようやく、書く事が出来ました。
次回は、謎だったドッペルゲンガーのブレーンが遂に……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。