今回はサブタイトルの通りです。
ストーリーとしては進みません。
2096年1月11日(水)PM
悠は放課後に、自宅近くの昔ながらの商店街へと買い物に行く。
ベットの上で暇を持て余しているだろう七草真由美に、ケーキか甘いものでも焼いて、見舞いに行くつもりであった。
ちなみに悠の料理の腕前はプロ顔負けである。
「え?カードが使えないの?」
「お嬢ちゃんは外人さんかい?困ったね~、ここらの店はさ~、みーんな現金での買い物が常識なんだよ」
馴染みの豆腐屋の女将さんが困った顔で、目の前の変わった制服を着た金髪ツインテールの女子高生に説明をする。
この時代、カードや携帯端末での支払いが普及しており、現金での取引を行う場面はほぼ無いに等しいが、この下町に位置する昔ながらの商店街は、未だ現金での取引が主流なのだ。
「ど、どうしよう……現金なんて持ってないし……シルヴィに買い物頼まれたのに」
女子高生は想定外の事に、オロオロとしていた。
「うーん…………あっ、悠ちゃん。ちょうど良いところに、この子、外人さんみたいなんだけどさ~、現金を持ってなくって」
ちょうど通り掛かった悠に豆腐屋の女将が声をかける。
「ああ、おばさん。任せてくれ」
悠は大体を察し、即答する。
「悠ちゃん助かるよ。まだ銀行も開いてる時間よ」
「え?」
変わった制服…魔法大学付属第一高校の制服を着た金髪の女生徒が振り返り、大きな碧眼の目を大きく見開いて、驚いた顔で悠を見つめる。
「おばさん、ここは俺が払っておく。この人を銀行に案内してくる」
悠はそう言って、表示された金額を硬貨で払い。豆腐を受け取る。
「えええ?」
「悠ちゃん、今度おまけしちゃうから」
「行こうか」
悠はそう言って困惑気味の女生徒の手を取り歩きだす。
「えええええ?」
金髪の女生徒は益々困惑している。
悠は困惑したままの女生徒を商店街の入口付近にある銀行に連れていき、案内係のスタッフに事情を説明して、女生徒を預ける。
「……あの、助かりました」
金髪の女生徒は無事日本円に換金することが出来、銀行の外で待っていた悠にお礼を言う。
「ああ、君はこの辺は初めて?」
「はい……これ…ありがとうございます」
女生徒はさっき悠が豆腐屋に払った分の硬貨を渡す。
「どういたしまして」
そう言って悠は持っていた豆腐を女生徒に手渡す。
女生徒は豆腐を受取り、チラッと悠の顔を見て、うつむき加減になる。
「俺は鳴上悠。…君は第一高校の生徒だよね。何故この辺に?」
「……アンジェリーナ・クドウ・シールズです。その最近、第一高校に、日本に留学してきたばかりで、右も左もわからなくて……でも、なぜ第一高校の生徒だと?」
透き通るような白い肌に金髪碧眼、整った顔立ち、長い髪を青いリボンでツインテールにまとめ、モデル顔負けの身長に制服の上からもわかる魅惑のプロポーションを持つ絶世の美少女だ。
リーナも身長が女性にしては高い方だが、悠は身長が180cm強あるため、横に並ぶとちょうどお似合いのカップルに見える。
「その制服」
「この制服。そう」
リーナは自分が着ている明らかに一般の学校とは異なる派手な制服を見て、先ほどまで悠に警戒しているかのような表情をしていたが、なぜかホッとしたような表情をする。
「……そういえば、何処かで会ったこと無い?」
「え!……今月日本に来たばっかりだから気のせいですよ。ハハハハッ」
リーナはビクッとして慌てて否定し、わざとらしい笑いを見せる。
アンジェリーナ・クドウ・シールズと名乗った女生徒。
確かに今年から第一高校へ一年生として短期留学で来ていた。
その実は、世界に認知されている13人の戦略級魔法師の1人にして、USNA軍のエリート魔法師部隊スターズの総隊長、アンジー・シリウス少佐その人だ。
そう、悠が先日出くわした。怪しい仮面の女性は彼女だった。
姿形があまりにも異なるため、悠は認識できなかったが、それは彼女の対抗魔法パレード(仮装行列)によるものだ。パレードは幻体で姿形を変えるだけでなく、彼女の情報自体をありとあらゆる角度から偽装し、精神干渉系魔法を筆頭にあらゆる魔法から身を守る極めて高い性能を持つ魔法の一つだ。
彼女はそれらの魔法を操る事ができるUSNAが誇る最高峰の魔法師だった。
とある目的のため、短期留学を隠れ蓑に日本に来訪したのだ。
ちなみに先程名乗った名前は本名である。
彼女が最初に悠の顔を見た時のリアクションは昨晩会った人物が目の前に現れ、驚いたからだった。
そして、昨日の今日で何故自分に近づいてきたのかと……正体がバレたのではないかと、内心焦っていたのだ。
「?……大変そうだな。……誰かに買い物を頼まれたみたいだけど手伝おうか?ついでだ」
「その、大丈夫で…って、あれ」
彼女は断ろうとしたのだが、悠はまた強引に彼女の手を取り、既に買い物に付き合うきまんまんだ。
「買い物頼んだのはルームメイトか?ルームメイトにはなんて呼ばれてる?」
「リーナの愛称で……」
「じゃあリーナ、俺は……アメリカだったら名前呼びか……悠でいい」
「ええ?」
強引に笑顔で話を勧めていく悠にタジタジになるリーナ。
ナンパまがいの行為に見えるが悠は、ただ単に困っている人が見過ごせないだけだった。
「……日本語上手だね。なぜ日本に留学に?」
「……その、わたしのルーツの一つに日本の血筋があるからそれで、興味があって」
リーナはもっともらしい理由を述べるが、まんざら嘘でもない。彼女の祖父は十師族の九島家前当主の弟なのだ。
「それで、ミドルネームがクドウか……そういえばリーナって何年生?俺と同じ3年生だと思ったけど、今の時期の留学だと2年生か1年生……留学だから年と学年は重ならないか」
「1年生16歳……」
「リーナは大人びて見えるな」
悠主導でこんな会話を続けながら、次々と商店街で買い物を済ませていく二人。
リーナは現金での買い物をしたことが無かった上に、こういう個人商店での買い物も初めてだったようだ。
「その、鳴上さんは……普通の高校生なんですか?」
「悠でいい。一般人だし普通の都立高校。リーナは交換留学に来るくらいだから、優秀な魔法師なのかな?」
悠の質問は的が外れていた。本来高レベル魔法師は海外に渡航することが出来ない。旅行すら認められない。高レベル魔法師はそれ自体が、一つの最新兵器と同じ扱いだ。
もし海外先で、高レベル魔法師が捕まったり亡命してしまうと。その国独自、もしくはその個人独自の魔法を奪われ研究されてしまうからだ。
状況によっては一人の魔法師の存在で戦力バランスが崩れる恐れもあるのだ。
よって、高レベル魔法師の留学などありえない。何らかの裏取引が国家間であった事が伺える。
「悠は一般人なんですね。……魔法師が怖いとか無いのですか?」
「なぜ?」
「え?……だって」
USNAでも、魔法師に対しての一般市民の感情は良いとは言えない状況だった。
一般人にしてみれば、魔法師は常に銃器で武装した人間と同じなのだ。
特にリーナは世界でもわずかしか存在しない戦略級魔法師。核兵器、それ以上に匹敵する威力を個人で有している。
「リーナは悪いことに使うわけじゃないだろ?」
「……そう…ね」
そう言うリーナの顔は苦しく歪んでいた。
昨日、リーナの部下が眼の前に居る悠を殺害するように進言したからだ。結局はリーナがその意見を否定し、止めたのだが………
悠は、買い物した荷物を持って、リーナを今住んでいるマンションの下まで送って行く。
「困った事が合ったら、連絡してくれ」
「ありがとう」
電話番号とメールアドレスの交換をさり気なくしていた。
リーナはマンションに戻ると……
「すみません。買い物なんて頼んでしまって」
USNA軍エリート魔法師部隊スターズのシルヴィア・マーキュリー・ファースト准尉が私服姿で、出迎える。
彼女は情報分析に優れた魔法師でリーナの補佐官だ。
また、部隊の中では、まだ、リーナと年が近い事もあって公私共にリーナの補佐をしている。
「良いのよ。シルヴィ」
リーナが現在、シルヴィアと共に暮らしている3LDKのマンションで、スターズの拠点も兼ねている。
「何かあったのですか?」
シルヴィアは疲れ切ったような表情をしていたリーナに気がつく。
「……昨日報告した作戦中に遭遇した一般人と思われる青年に、今会って、買い物を手伝ってもらっていました」
「はぁ?」
シルヴィは思わずこんな声が漏れる。
リーナは今日、悠と出会った経緯をシルヴィに話す。
「少佐、すみません。リサーチ不足でした。まさか今時、現金で取引などしている場所があるなどとは思いませんでした」
シルヴィアは申し訳なさそうにしながら、リーナに紅茶を用意する。
「大丈夫よ。私も驚いたから」
「少佐の身分は…………」
「バレて居ない…と思う。彼は一般人ね。都立高校の制服も着ていたし……昨日の彼が私達を見ても堂々としてたのは気になっていたけど……今日の彼の私への対応を見ていると、あれは彼の自然の振る舞いのようね」
「そうですか、一応、その鳴上悠なる人物を情報部にリサーチかけておきますね」
「そうね。この近所に住んでいるみたいだし、また顔を合わすかもしれない」
リーナはシルヴィアと共に夕食を済ませた後、全身真っ黒の戦闘服に身を包んでいた。
「少佐、今日の捜査プランですが……」
「了解……」
こうしてリーナは今日も部隊を率い、何かを捜索しに夜の東京を彷徨うのであった。
次回は戦闘かな?
12話では終わらないなこれ><