月光の下で~願いと誓い~   作:イグアナの眼

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第3話_揺れる心

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星空の出来事からさらに数ヶ月後。

あの日から少し私は変わったのかもしれない。

何かと部屋で話しかけてくるミーナに、最低限の会話(まだ挨拶と向こうから話しかけてきたことに応えるぐらいだけど)をするようになった。

それに

「なあ、それ俺にも教えてくんないか?!」

対人格闘訓練のとき、ライナーと絡んできた死に急ぎ野郎こと、エレンの頼みに何故か頷いてしまった。

私らしくもないね、と思いながらもなんとなく夜の自主練習に付き合う時間がくるのを待っているを最近は自覚している。

今日も訓練所の裏でアイツがくるのを待っている。

私は約束時間より少し早くきたから。

アイツが来るのはいつも約束の時間ギリギリだ。

…なんだか癪にさわるね。

私がアイツが来るのを楽しみに待っているみたいじゃないか。

全く乙女をこんな暗いところで待たせるなんて、全く女の扱いがわかってない…。

一人でちょっと恥ずかしい、どうでもいいことを考えていると、

「よっ、待たせたな!」

なんて脳天気に死に急ぎ野郎は声をかけてきた。

「…遅いよ。」

さっきまで考えていたことを打ち消すように、わざと不機嫌な調子で返してやる。

「そんな怒るなよ、遅れてねえだろ?」

「フンッ、さっさとはじめるよ、きなっ!」

私が不機嫌なんてきっとわかっていないエレンに、私は急かすように促す。

「おおっ!」

 

 

 

 

 

「今日はこれくらいにしておこうかい…。」

ひとおりの練習を終えて、少し上がった息で私はエレンに声をかける。

「おぅ、今日もありがとうな、アニ!」

私が終わり切り出すとエレンは、屈託のない明るい笑顔でお礼を言ってきた。

 

「別にいいよ。」

そっけなくエレンのお礼の言葉に反応するけど、いつもこの笑顔に私の心は微妙に揺り動かされる。

知らずと私も表情が柔らかくなるのを感じる。

「やっぱりお前は笑った顔も可愛いな」

するとエレンが私の顔を見ながらとんでもないことを言った。

「な、何バカなこと言ってるだい!」

急にびっくりするようなことを言いやがるので、思わず蹴りが出た。

エレンの脛にクリーンヒット。

 

「い、痛ってなー。なんだよ本当に思ってること言っただけだろ。」

蹴られた脛を手で押さえながら、エレンは少し涙目で私を睨む。

 

「本当に鈍感バカだね、あんたは。」

…恥ずかしいからに決まってるだろ、それぐらい察しろバカ。

ハッハッ、とアイツの笑い声が聞こえる。

本当にこいつといるとペースが狂うよ…。嫌じゃないけどね。

 

なんだか悔しくて、アイツから顔をそむけるとふいに綺麗な星空が目に入った。

「…あんた、星空は好きかい…?」

自分でも唐突なこと言っていると思いながらも、そんな問いかけをエレンにしていた。

 

 

エレンがちょっと戸惑った感じが伝わってきたが、

「ああ、オレは好きだぞ!」

エレンは私から視線を星空に向けて、静かに、でもしっかりと言い切った。

「なんでだい?」

「だって綺麗だろ?」

何故そんなことを訊く?、みたいにエレンが言った。

「あんたは本当に単純だね…」

なんだか自分が色々考えているのが悔しくて、でもそんな単純に自信を持って言い切れるエレンが羨ましくて、ちょっと皮肉っぽく私はため息混じりに返してやった。

「馬鹿にしてんのか?綺麗なもの綺麗、そんな星を見て好きって思うことに難しい理由がいるか?」

皮肉を言った私を、真っ直ぐに見つめながら聞き返してきた。

最近、私の心を揺り動かし、そして穏やかにしてくれる明るく、優しい笑顔を浮かべながら。

「そうだね。私は色々と面倒くさいことを考えすぎるのかもしれないね。」

「…」

私もエレンも星空を見上げながら、少し言葉を発すことを止めた。しばしの沈黙が流れる…。

 

「私は綺麗な星空を見上げることで、心の中をからっぽにしたいんだ…」

先に沈黙を破ったのは私だった。

エレンは黙って聞いてくれている。

能天気で、鈍感で、事あるごとに巨人を駆逐してやる、なんてのたまう死に急ぎ野郎だけど、人の心の動きを察する能力は高いことに、最近私は気がついた…。

 

「私は星の綺麗な光に照らされて、そのまま時が止まって消えてしまいたいって思うことがあるんだ」

そう、ちょっと素直な気持ちを言葉を呟いたとき、自分でも気づかずうちに頬を涙が伝った…。

「……」

またしばらく、二人の間に沈黙が静かに流れた。

どのくらいの時間が過ぎたのか、夜空を見上げたままだった私にエレンが近づく気配がしたかと思うと、突然エレンが正面から無言で私の頭を抱きしめてきた。

 

「……。何しんてだい?」

 

暖かい…

いつもだったら言葉より先に蹴りが出そうな状況に関わらず、私の頭の中に浮かんだのはそんな感想だった。

「いいから今は泣いとけ。」

私はポロポロと涙をこぼしながらエレンの顔を見上げる…。

なぜ涙が止まらないのかもわからない。

「オレ、難しいことことはわかないけど、涙が出るときは出せばいいと思うぞ…」

そう言ってエレンはいつもとは少し違う、優しい笑顔で私を見つめてくれた。

「消えたいなんていうなよ。オレまで悲しくなるだろ。」

そう言ったエレンは私の頭を抱いて手を肩に回し、抱きしめた。

私は抵抗せずにエレンの腕に、暖かい場所に身体を預けたまま、

「どうしてあんたが悲しくなるんだい。」

私はまだ涙を流しながら問いかけるように、すがるようにエレンに言った。

 

 

「オレは鈍感らしいけど、大切な仲間が泣いてるのをほっととけるほど薄情じゃない。」

エレンの顔は見えないが、とても暖かい声色で応えながら頭を撫でてくれる。

 

「仲間が消えてしまいたい、なんて悲しいこといってるとオレまで悲しくなる。」

「う、う、うっ…」

私はエレンの腕の中で、その暖かさの中でただむせび泣くことしかできなかった。

=====

オレ、エレン・イェーガーは、腕の中で泣くアニの頭を撫でていた。

…なぜオレが目の前で泣くアニを抱きしめたのかは自分でもわからない。

ただ、そうしたいと思ったからだと思う。

この対人格闘がとんでもなく強く、無愛想な少女がなんで涙を流したのか、"消えたい"なんて口にしたのかは、オレには正直わからない。

でも、その泣いている姿を目にした時にオレは、とにかく"守りたい"と思った。

数ヶ月前から一緒に自主練をしていて感じたこと、それはこの少女の"わかりにくい優しさ"と凄まじく重い"何か"を背負っている、ということだった。

本当は、心の底は優しさで満ち溢れているのに、それを何か重いものが蓋をしようとしている、そんな風に感じた。

それはとても魅力的で、神秘的で、とても悲しいことのように思えた。

今はただ抱きしめて、頭を撫でることしかできない。

でもオレは、いつの日か、いやできるだけ早く、この少女の背中にのしかかり、心に蓋をしてる"重いもの"を一緒に重さを感じ、取り去ることができたら、と考えるようになっていた。

 

=====

 

私、アニ・レオンハートはエレンの腕の中に抱かれながら、表現のしようのない暖かさで目を閉じていた。

いつからだろうか、エレンの笑顔を見ると心の中に"暖かい光"が広がるように感じる。

最初、その笑顔を見たときは何故か苦しいだけだったのに。

"今"、この瞬間に感じたことを大切にしよう、と思ったときから、私はその笑顔を欲するようになった。

 

エレンは真っ直ぐに生きている。

本当に馬鹿みたいに。

鈍感、だと思うけどそれは心に邪念がないことの表れだと思う。

真っ直ぐだから、言葉に偽りがない。

笑顔も、言葉も暖かくてやさしい。

 

まるで太陽の光、いや木の葉があっても、それを包みこみながら地面に届き、やさしい光を周りに届ける"木洩れ陽"のような存在だ。

私とは違う、正反対のような人間だ。

 

だから私は、そんなエレンを眩しくおもい、惹かれているのだろう…

 

 

 

「ありがとう。」

以前の私であれば、そんなお礼の言葉なんて口にしなかっただろう。

でも、自然に口から出た。

「礼なんていいから、落ち着くまでもう少しこのままいろ。」

エレンの口調はとても穏やかで、暖かい。心が落ち着く。

ずっと、この暖かい腕の中で穏やかな気持ちでいたい、と願ってしまう。

それが"許されない"ことだとわかっていても。

"罪深い過去"を背負った私が、そんなことを願っていいはずがない。

エレンに"仲間"だと言ってもらう"資格"なんてない

 

 

でも、でも…。

だからこそ、この暖かさにすがりたい。

"今"だけでも、この暖かさに包まれて、穏やかな気持ちでいよう。

 

 

"今"、エレンの腕の中で涙を流していることも大切に。

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