ゆっくりですが、続けていきます。
数日後の夜。
「キレイ…」
私は何故か星空を見上げるために、夜、外に出ていた。
こんなことをしようと思ったのは初めてかもしれない。
「でも、寂しい」
こんな台詞が口から出て、自分の瞳が涙で潤むを感じた。
こんな自分の、私らしくない。
私はこんなに弱い人間ではない…
私は強い、はず。
でも、月と星の光に照らされて、どんどん自分の心の中の弱い、いや素直な部分が見えてくる気がした。
今度はしっかりと頬を涙が伝うのがわかった。
涙が落ちるのが嫌で、私は星空を見上げる。
その時、後ろから声をかけられた。
「ミカサ…?」
私、ミカサ・アッカーマンにそう声をかけたのは訓練兵同期のアルヴァ・コールだった。
「アルヴァ…どうしたのこんな時間に?」
私は溢れている涙に気づかれるのが嫌で、星空を見上げたまま問い返す。
「星と月を眺めに時々来るんだ…。ミカサこそ珍しいね、初めてここで会ったね」
ゆっくりと私の問いかけに応えたアルヴァは同期の中でダントツの座学の成績を誇っている。
アルミンより頭のいい人間がいることに、最初かなり驚いた。
「私も星も見に来た、初めて。」
そう私が返すと、アルヴァが頷いた気配はあったが何も言葉にしなかった。
しばしの沈黙を周りを包む。
きっと、察しのよいアルヴァのこと、私が泣いているのには気づいているはず。
でも何も聞かないでいてくれる。
私は最初、頭だけが良いツマラナイ人間かとアルヴァのことは思っていた。
私にとって訓練兵の人間は、エレンとアルミンという家族とそれ以外の人間と、いう区別の仕方だった。
アルヴァも"その他"の人間の一人だと思っていた。
でも違った。
アルヴァは人の心のわかる人。
座学が得意、という共通点があったからか、私たちの中で最初に仲良くなったのはアルミンだった。
そして、何かと人とぶつかることの多いエレンまでもが仲良くなった。
私はエレンとアルミンが仲良くアルヴァと話すのをただ聞いているだけだった。
しばらく私とアルヴァは、それだけの関係だったが、次第にアルヴァがエレンとアルミンのことを大切な仲間として接していることに気がついた。
それは、あたかも家族のような優しさと、裏表のない気遣い、そして本気の心配だった。
私にはそれがすごく新鮮だった。
他人になぜそこまで、心を開けるのか疑問だった。
かと言って、他人の心にずかずかと踏み込んでくるような真似は決してしない。
相手を思いやることができる人だった。
そして、その"思いやり"は私にも向けられていることに気がついた。
それはまた新鮮で、嬉しいことだった。
私にエレンとアルミン以外に、心を許すことができる人間がいたことに驚いた。
私はうまくアルヴァに話すことができているかどうかはわからない。
でも、"それ以外の人間"と話すときのような面倒臭さは一切感じなくなっていた。
アルヴァも私の話しを、私が話すペースを崩さずに聞いてくれる。
エレンやアルミンとも違う安心感をアルヴァには感じていた。
だからなのかもしれない、
次の瞬間に、私の口から弱音が出たのは…。
「寂しい…。エレンが私から離れていってしまう。」
そう口にした時、私は涙が頬を伝うのをもう隠そうとしなかった。
「アニとのこと?」
「うん・・・。
私は最近感じている、いやわかってしまった。
エレンとアニとの間が急速に縮まっていること、そしてエレンが…アニのことが好きなこと、アニも恐らくエレンに好意を抱いていることを…。
「エレンとアニはお互い魅かれ合っている。お互いの気持ちを伝え、通じ合えば…エレンに私は必要なくなる。」
言葉にすると、胸がしめつけられ大粒の涙が止まらない。
「確かにエレンとアニは魅かれ合っていると僕も思う。」
ゆっくりと優しい口調で、しかしはっきりとアルヴァは言った。
「でも、例え二人が気持ちを通じ合わせたとしても、エレンは変わらないと思うよ。」
私はアルヴァの言葉を噛み締めながら、続きを静かに待つ。
「エレンとアニが恋人同士になったとしても、ミカサとエレンは"家族"じゃないの?」
「で、でも」
「エレンは自分の大切な人を"必要ない"なんて思う人かな…?」
私の動揺を包み込むように、優しい声色と表情でアルヴァは私に語り続ける。
「それは…」
「エレンが"家族"を、"仲間"をどんな風に思う人間なのか…、僕なんかよりもミカサの方がよく知っているよね?」
私はアルヴァの言葉を聞いて、思考を整理する。
確かにエレンは"家族"を大切にする人だ。
たとえアニと恋人同士になったとしても、アルヴァの言うとおりエレンと私は家族・・・。
私が再びアルヴァに言われたことを噛み締めていると、アルヴァは微笑みながら言葉を続けた。
「ミカサも自信を持って。エレンの"大切な家族"だということに。」
「・・・」
アルヴァの言葉はとても優しく、そしてとても強く私の心に染込んできた。
「・・・ありがとう。」
「私は強い、強く生きる。」
「自分のために。・・・そして"大切な家族"のために。」
「だから受け入れる、エレンがアニのことを想う気持ちを・・・。」
自分でもびっくりするくらいはっきりと言葉にできた、迷いと恐怖が消えた自分の気持ちを。
「そうだね、ミカサは強い。」
アルヴァはゆっくりと私に話しかけてきた。
「でもねミカサ・・・」
アルヴァは私の名をよんだ後、少し間を置いて
「人に弱い自分を見せることや、頼ることも"強さ"なんだと僕は思うよ?」
私はその言葉を聞いた瞬間に、自分の心が暖かいものに包まれるような、我慢していたことが溢れ出すような感覚におそわれ、声をあげて泣いていた。