月光花
悲しげに咲く花に 君の面影を見た
陽の高さも 冬に比べはるかに高くなり
梅の花から始まり、桜が咲き 新生活の嚆矢となっていたその花が散ったのもはるか昔。大学、高校 中学校 小学校の各学校では新入生が、はたまた新たな社畜として新社会人になるものが、新たな新生活への期待と不安、憂鬱さを持ちながら新たな門出を迎えた春はとうに終え 本格的な梅雨に入ってからも かなり経った。
新学年に入り数ヶ月が経った。
新しいクラスにもようやく慣れ始める。
クラス替えはハエのように集まる習性を持つリア充共にはかなりの問題であろうが、長年ぼっちを極めている俺、比企谷八幡にとっては No ploblem
なんの問題もない。
ぼっちであることは変わらないし、むしろ静かでぼっちな安寧な生活を謳歌できるのならむしろウェルカムである。
リア充共が蔓延る 五月蝿いクラスなどゴメン被るのだ。だからリア充は爆発すればいい。
と言っても 高3にもなればだいたいどのクラスも文系 理系にクラスが別れ、さらには私立文系 国立文系に別れるのでそこまでクラスとしても大きな変動はなかった。この学校の生徒の多くが私立文系ということもあり、このクラスはほぼ持ち上がり状態であった。
よって 今年のクラスも去年と変わらない様相を見せている。
リア充代表のような葉山隼人を中心に、獄炎の女王のあーしさん、男子を見ては鼻血を撒き散らす海老名さん、何かと五月蝿い戸部 アホの子 由比ヶ浜。
そして マイエンジェル戸塚。
もう戸塚さえいれば安泰なまである。
と、去年とほとんど変わらないクラスであるが、他にも変わらないものがある。そう、奉仕部である。雪ノ下雪乃 由比ヶ浜結衣と俺 そしてよく遊びに来る一色いろは。
あれ お前 サッカー部のマネージャーはどうしたの?
こんなところに入り浸ってていいのん?
だがそんな後輩はどうでもいい
今年からは新たに奉仕部に1人増えた。
そう ラブリーマイシスター小町である。そう、晴れて小町は総武高校に無事合格し、戸塚+小町と学校に天使が2人もいるという最高の学校になったというわけである。小町は正確には部員ではないが、ほぼ毎日奉仕部には足を運んでいるため準部員みたいな感じになっている。
そして 今日も変わらず いつものメンツ
が部室に集う。
6月ももう終わろうとしているこの日は、連日の雨が明け晴れている。
しかし雨の上がった直後は非常に高い湿度と空から刺すような日差しにより、気持ちが悪いほどの暑さを感じる。
長年ぼっちを極める俺にとっては
もっとも忌むべき季節である。
そんな今日の部室は まだ6月出ないからという理由で冷房が使えなためこの蒸し暑さを 扇風機一つで耐え忍んでいるという有様であった。
「暑い〜〜〜〜〜 超暑いです先輩
どうにかして下さ〜い」
「なんで俺に言うんだよ
どうにもできるわけねぇだろ
文句あるなら 部活行け部活」
「それ もっと暑いじゃないですかー
なんにも解決になってませんよ」
「お前 サッカー部のマネージャーだろうが なんでここにいんだよ」
「 だって暑いんですもん…
こんなに暑いと、先輩が大好きなか弱い後輩は蒸し焼きになってしまいますよ?いいんですか?」
「別に どうでもいいわ」
「酷いですよ!可愛い後輩がピンチなのに!」
「はいはい あざとい あざとい
そんな屁理屈言えるくらいだし心配する必要性皆無だわ」
「今日も いろはちゃんとヒッキーは仲良いね…」
「ホントですか!? やっぱりそう思いますか?!」
「んなわけねーだろ
今のどこが仲良いんだよ むしろこっちは迷惑を被ってるくらいだわ」
「さっきから 酷くないですか!?」
「あなた達はともかくとして、周りから見れば仲よさ気には見えなくもないわね
でも 一色さん気をつけなさい
その男にケダモノのように襲われないようにね」
「んなことするわけねーだろ…」
「まぁ でも確かにいろはちゃんが言うとおり 今日はすごく暑いよね…
授業受けてるだけで汗かいてきたよ…」
「もうすぐ夏だものね おまけに今は梅雨だし、湿度も高いから気持ち悪いのは仕方がないわよ どこかの誰かさんみたいに」
「おい こっち向きながら言うんじゃねーよ どんだけ俺を罵倒すれば気がすむんだよお前は」
「あら、あなたの方を向いて言っただけで あなたには言ってないわよ?」
「もういいですよ…」
「先輩はともかくとして、やっぱりもうすぐ7月ですし、梅雨は早く開けて欲しいですよね〜 汗かくと本当に気持ち悪いですし 髪はうまくいかないし最悪ですよ」
「7月といえば!もうすぐ七夕じゃん!」
「そういえばそうね」
「何のお願いしようかな〜♪」
「気が早すぎだろ… だいたい七夕とか特に祝日とかに指定されてるわけじゃないんだから そこまで楽しみに思うような要素ねーだろ」
「すぐそうやって捻くれたこと言う…。でも今まで 七夕にお願いごとくらいしたことあるでしょ?」
「そりゃもちろん 家で静かにのんびりと過ごせますように だな」
「うわっ それもういつもじゃん…」
「流石 引きごもりヶ谷くんね
自堕落さに関しては他の追随をゆるさないわ」
「家で過ごす何が悪い。おまけに俺が家で自堕落だと?失敬だな俺は非常に有意義に過ごしてるぜ」
「昼までダラダラの寝て 起きてもゴロゴロと寝転がってアニメやゲームをしてるのを有意義とは言わないと思うわよ?」
「仮にそうであってもだ。家での俺の過ごし方をとやかく言われる筋合いはないだろ」
「でもさ、家だけじゃなくて外で遊ぶのもいいと思うよ?」
「外とか嫌に決まってんだろ、暑いし人混みとかも嫌だし 疲れるし いいことないわ」
「むーー」
「由比ヶ浜さん この男に何を言っても無駄よ ヒキガエル君だもの、言葉は通じないわ」
「お前 人が黙ってりゃ次々に酷いあだ名で呼びやがって…」
「でも 事実でしょう?」
「くっ……」
こんなたわいもないやりとりで
つつがなく今日の部活も終わった。
あれ たわいもない?つつがない?
俺 罵倒されてばっかりじゃない?
これのどこがつつがないの?結構問題じゃない?裁判になれば勝てますよね?
まぁそんなことはもう慣れっこなので荷物をまとめたらさっさと学校を出る。
雨が止み久しぶりに晴れた今日は非常に気持ちの悪い今日であったが、陽も幾分か沈み始めた6時過以降は日中よりも少しは過ごしやすい。おまけにここ総武高校は千葉市にある幕張新都心をはじめとする臨海地区に立地しているため海風が吹くため、蒸し暑い日を過ごした身体には非常に心地よい。
その風を求めて今日は普段通学する道とは違う 海沿いの道を通って帰っている。海沿いは繁華街から少し離れているため夜はそこまでうるさくなく交通量も特別多くはない。よって程よい静けさと海からの夜風に当たりながらの帰り道はチャリ通の俺にとっては非常にありがたい。
時刻は7時を過ぎた
千葉は6月の下旬はほぼ7時に日の入りするためもう陽は沈む。
しかし、自転車をこぎ始めて10分弱
美浜大橋にかかった時、俺はもう一つの陽が沈んでいるのを見た。
陽が沈んだという表現には語弊があるかもしれない。その陽というのはもちろん空から我々を照らす太陽ではなく、人間である。その人は、まるで陽のように人前で輝き注目を集める。その輝きはその容姿だけでなくあらゆるもので他より秀でていて、周りから期待 視線 興味などあらゆるものを集める。ただその陽は時として闇を見せることがある。それは深く不気味な闇。太陽のように人々の常に上に君臨するからであろうか、圧倒的な自然の力の前ではあらゆる生物がひれ伏すようにその闇は俺に圧倒的な畏怖の念を呼び起こす。全てを見通すかのような瞳、そして嘲笑うかのような口元はいつも俺の体力ゲージを限界まで削る。
だが今日は違った。太陽のように光り輝く方でも、底知れぬ闇を見せるかのような冷酷な方のいずれでもなかった。
最初にその人を見た時は 普段との雰囲気の差に誰だか分からなかった。
だが やはり何度見直してもその姿はその人であった。
自分が所属する部の部長であり完璧超人の雪ノ下雪乃の姉にしてその上位互換である雪ノ下陽乃である。
常に周りに笑顔を振りまき、慕われる彼女の姿はどこにもなかった。ただ静かに物悲しげに橋から水面を眺めていた。
そして彼女の頰に光るものを見た気がした。
そんな彼女を見て 自転車を止めてしまった。これが奉仕部の人間なら声をかけられただろう だが相手は雪ノ下陽乃である。普段の彼女を知っている俺からすればできるなら関わりたくない人物である。それに雪ノ下陽乃は家柄もよく社会的地位は俺よりはるかに高い。よって俺なんかが話しかけるのはおこがましいなどという勝手な理由をつけてその場を去ろうとした。
しかし その時 ふと彼女と目があった。
(ヤバい…)
と本能が言った気がした。ドキりと胸がなる。このまま雪ノ下陽乃に捕まりいろいろと付き合わされると覚悟をした。
だが彼女は何もしてこない。
お互い目があったことには気付いている。しかし彼女は俺の顔を一瞥してまた水面に目を落とした。
なんだよこれ どうしたらいいんだよ
あの人飛び込む気なのか?いや陽乃さんはそんな愚かなことはしない…
脳内で良心と雪ノ下陽乃への恐怖心が錯綜する。
まさに究極の選択だ…
「どうしたんですか?そんな顔して」
選ばれたのは良心でした☆
だってもしここで無視して後日
雪ノ下や雪ノ下さん本人に色々言われたら嫌だもん。
どちらに転んでも俺にとっていいことはなさそうなので。ダメージを最小限に抑えるために俺は良心に従うことにした。
「あら 来たんだ。さっき目が合った時、嫌そうな顔してたらそのまま行っちゃうかと思ってた。」
「やっぱり気づいてましたか…。普段と雰囲気違かったので、気になりましたし もし無視したら後日殺されそうなので」
「君は私のことをなんだと思ってるのかな?」
「どうでしょうね、とりあえず知り合いの姉ってところでしょうかね」
「それだけで殺されるとかあるわけないじゃない」
「まぁ そうですね。じゃあとりあえずご想像にお任せしますとだけ言っておきますよ」
「あ、ずるいなぁ そういう返答するんだ〜」
「回答に正解とかあるんですかね、仮にもし本当のこと言ったりしたらそれこそ終わりな気がしますけど」
「普通ならそうだね、でも君は今 こうやって無視しないで話しかけてきてくれたし、それに免じて許してあげようかな」
「さいですか…。 でもよかったんですか?」
「どういうことかな?」
「どんな形であれ雪ノ下さんの普段見ない顔を見た気がするので、そんな時に話しかけていいのかということですよ。もし1人でいさせて欲しかったなら俺みたいな奴が話しかけるのもどうかと思ったんで」
「あーそういうことか…
んーどうだろうね、他の人なら嫌だったけど君になら別にって感じかな」
「どういう意味ですかそれ?」
「君に嘘をついて普段の雪ノ下陽乃に戻ったところで見透かされるだろうし、無駄だと思ったしね
あ、今の あなただけに私の弱い部分を見せるんだよ?みたいな展開予想した?(笑) 残念そんなお姉さんを落とすのは甘くないぞ?(笑)」
「別にそんなこと思ってませんから
伊達にぼっち極めてないんで
ていうか あなたこそ僕のことどう思ってるんですか 買い被りすぎですよ、
人を簡単に見透かせるようなら 人間関係はこんなにも複雑化しませんよ」
「そうかな? 強化外骨格だっけ?
雪乃ちゃんから聞いたよ〜 お姉さんショックだったな〜」
「そのわりには全然 ショックそうには見えませんけどね」
「そんなことないよ〜 お姉さんだって女の子なんだぞ?傷付くことくらいあるんだからー 大事に扱わないと〜」
(傷付くじゃなくてあなたが人を傷付けるの間違いじゃないだろうか…? まあ言わないけど)
「あ、今失礼なこと考えたでしょう?」
「は、まさか… (この人なんだよエスパーなのかよ…)」
「まぁいいや。話を戻すけと私はこれでも君を高く買ってるんだよ。さっき言った強化外骨格。そんなこと初見の人に言われるなんて初めてだったもん。実際それは事実だし十分君は私の中では評価するに値する人間だと思ってるよ」
「友達がいないんで人から自分が評価されることがほとんどないために そう言われるとどう反応すればいいのか困りますね…」
「ハハ 君は相変わらず面白いね」
普段と何も変わらないような ふざけた会話。はっきり言って楽しくなんてない。人の汚い部分を話してるような内容が俺と彼女のいつもの会話。普通の若者がするような会話じゃないことくらい分かってる。でも 俺と彼女は知っている。今 俺たちが生きる世界がどれだけ脆いものなのか、どれだけ汚く醜いものなのかということを。どれだけ笑顔を振りまき どれだけ会話が増えようともこの世界は上っ面の関係がほとんど。誰もが本当の気持ちを心の奥底にしまいこみ、社会という集団生活を円滑に進めるためにその気持ちを仮面で隠す。その気持ちを打ち明けようものなら簡単にも人間関係は崩壊し、孤立する。原始人とは違い自給自足の生活ではなく、仕事をし、その稼いだ金で生活をする社会という檻の中でしか生きられない現代人にとってそれは死を意味する。このことはおそらくほとんどの人間が分かっている。でも口には出さない。心に押し留める。もしくはそれについて考えることすらも放棄する。そしてそのことには永遠に向き合わず心の奥隅に追いやり忘却させる。いや忘れたように振舞っているだけなのかもしれない。じゃないとやっていけないのだ。そんな程度に俺たちの取り巻く環境は脆い。一度でもヒビや動揺を与えれば積み木とように一瞬で崩壊する。
でも人間はこれらのことについて普段の社会生活で言及することなんてほとんどない。言ってしまえば自分達の本音や醜さが見えてしまうから、下手すれば今まで作り上げてきた関係は崩壊すらしてしまうからだ。
だが 雪ノ下陽乃は常に俺たちに問うて来る。
「この世界とは?」
「人間関係とは?」
そして
「そして本物とは?」
俺が以前 奉仕部の2人に言ったこの言葉は今でも俺のなかで大きな意味を孕んだ言葉としてうずいている。
俺が2人に求めた本物。
感情が昂るままに咄嗟にでたこの言葉の意味を、どんなものなのかを、未だに見つけられずにいる。
もしかしたら永遠に見つからないのかもしれない。
それでも俺は欲している 求めてる 探している。確証もない答えを。
「雪ノ下さん そろそろ本題に入りませんか?まぁ答えられないなら大丈夫ですけど。」
「フッ そうだね 今のもお見通しだったのかな?」
「ええ まぁなんとなくですけど」
お見通し、それは今までの会話のこと。
最初に話しかけた時に俺が聞いた
どうかしたのか?という問いに彼女はまだ答えていないのだ。
彼女はそらしていたのだ。話を。
お見通しとはそのそらしたことについてのことであってるはずだ。
「比企谷君はなんでも、分かっちゃんうんだね…………………… まぁいいや いいよ話そうか。と、その前に場所変えようか」
そう言って彼女は歩き出す。
今の雪ノ下陽乃を見てもほとんどの人はいつもの雪ノ下陽乃だと思うだろう。
俺自身も今の数往復の会話のやり取りをするだけでは先ほどの表情なんてなかったことかのように思えた。
どちらがあなたの本当の顔なんですかね?
雪ノ下陽乃の後を追うようにとぼとぼと歩き始める。どこに行くかなんて聞いてない。でもとりあえずついて行くことにした。はっきりいって俺らしくもない一連行動である。どうなるかなんて分かったもんじゃない。
まぁ取って食われるようなことはないだろうと、足を進めた。
千葉ポートパーク、
敷地内にある千葉ポートタワーとあわせて千葉県民500万人突破記念として1986年にオープンした港湾環境整備施設である。この地は「千葉港発祥の地」であり、現在でも港を行きかう船を見ることができる。公園は、市民の憩いの場として利用されている。
雪ノ下陽乃に連れられてきたのはここであった。
夜は人が少なく、また敷地も広いため意外と場所としてはいい場所かもしれない。少し家から遠いところに来てしまったが…。
さて 黙ってついて来たものの、今までここに来るまで俺たちの間には会話はない。
別に喋るなとか何も聞かないでだなんて言われたわけではない。ただなんとなく、まだ話しかけるのは違うなという直感と雪ノ下さんの表情が今は何も聞かないでほしいと言っていそうに見えたからだ。ならば話しかける必要はないだろう。まぁ話しかけるのなんてエリートぼっちの俺には苦手分野なんだけどな…
ポートパークには円形芝生広場と言った大きな広場がある。休日などは家族連れだったり若者達の憩いの場であるこの場所も今の時間にはさすがに誰もいなかった。また街灯もこの場所は他と比べて少ないため広場の中央は闇に包まれていた。
雪ノ下さんはその広場にあるベンチに腰を下ろす。
そして 「あなたも座りなさい」
と言うかのように俺に目配せをする。
普段なら拒否るが 今はおとなしく従うことにした。まぁ拒否権なんてないんだけどね。
エリートぼっちの俺は陽乃さんと約2人ぶんのスペースを空けてベンチに座る。リア充どもなら迷わず すぐ隣に座るのだろうが俺は違う。それは黒歴史から学んだ予防線である。変に期待しないようにするためだ。
「やっぱり君は面白いね」
「は?」
「わざとスペースを空けて座ってるんでしょ? 普通の男の人ならこんな綺麗なお姉さんがいるんだから迷わずもっと近くに座るんだけどな〜」
「残念ながら 俺はぼっちなんて
そんなリア充みたいなハードルの高いことなんてできませんよ。」
「ははは うんうん いいね
君のそういうところ好きよ
他の人とは違う。君の過去の経験から
生まれたその性格はいつも私を楽しませてくれるね」
「いや、楽しませられたら今頃クラスの人気者ですから。むしろ真逆の立場なんで。」
「人気者かー そうだね君が人気者だったらつまんないだろうね。」
「なんですか俺をdisってるんですか?」
「いやいや 君だけに限った話じゃないよ。人気者なんてどれもつまんないってことだよ。」
「どういうことですか?」
「言葉の通りだよ。
人気者ってさ、ようは周りからウケのいい人のことでしょ?みんなから共感されて慕われる。 でもさ そんなの本当だと思う?私には嘘くさいようにしか見えないんだよね。」
「あ〜なるほど。分かります
そういうのは俺も考えたことありますね」
「あ、分かる? それにさ、だいたいいつも周りから共感されるなんてないと思うんだよね。人間なんて本性はもっと面倒くさくて汚いものだしね。つまり人気者は自分に嘘をついて人気者を演じてるだけ。そんなのつまんないよ。」
「つまりそれは…」
「「 本物とは呼ばない 」」
「フフ 本当に君はいいね。よく分かってる。」
「買い被りすぎですよ。俺なんて雪ノ下さんが思ってるほどたいした人間ではないですよ。」
「人の賛辞はちゃんと受け取りなさいよ」
「………まぁ 気が向いたら…」
沈黙が訪れる。
周りに誰もいないこの場所で聞こえるのは虫の音色と2人の息だけ。
俺はただぼーっと目の前に広がる広場を見つめ、彼女は空を見上げている。
やはり美しい
月と彼女は非常に映える。
絵になるとはまさにこのことだろう。
ただその姿を見ていると
憂い、哀しみを帯びた表情になっているような気がした。
「さっきのこと 自分のことですよね」
「やっぱり分かった?」
「まぁ 普通に考えればなんとなくは」
さっきのこと、
それはそう、人気者のこと。
自分のこと、雪ノ下陽乃のこと。
つまり 自分のことを彼女は言っていたのだ。
「今日 あなたを始めて見た時のあの表情もそれが関係してるんですか?」
「まぁ そうだね」
「なんだか珍しいですね
あなたがそんなことになるなんて」
「いや 私だってそれくらいあるよ
悩みだってするし悲しんだりもする」
「なんか泣いてるところとか想像つかないですけどね」
「まぁ そうかな人前でもうずっと泣いたことないかも。最後に人の前で泣いたのも、もう覚えてないな。」
「それも人気者の弊害というやつなんですかね」
「そうね、人気者を演じることが私の生き方だからね。常に人の上に立って愛想を振りまいて人気者で居続けることが私の義務。それが雪ノ下家の人間としての生き方なんだよ。」
「随分とまぁ 苦しそうな生き方ですね。俺なら数分でゲームオーバーですよ」
「きっと慣れってやつだよ。何年もこんな生活してるから私はもう慣れちゃったよ」
「でしょうね。」
「おそらく悩みって家のことですよね?」
「どうして?」
「あなたが人間関係、交友関係 はたまた進路とか一般人が悩むようなことで悩むなんて考えられない。そして今までの会話から推察して、人気者だったりあなたの生き方についてだったりを考慮した結果、全てのルーツである雪ノ下家じゃないかという結論に至りました。」
「……まぁ 正確だね。君の推察は全部あってるよ。」
「…そうですか……」
再びの沈黙。
再び俺は広場を見つめる。
別に何かあるわけではないのに。
月が照っている。
満月なんかではない。
とても中途半端な形である。
月光など現代都市の中で直に感じることなどないだろう。
街は街灯に照らし出され完全な闇を探す方が難しい。我々の目が物体に当たって反射した光を視覚として捉えているのなら、今の状況で視覚できるものはほぼ全てが街灯によって照らされたものだろう。
そんな中学生レベルのことは分かってる
でも 分かっていたはずなのに
俺たちのベンチのすぐ隣にに
咲いていた名も知らぬ花は
美しく月に照らされているかのように見えた。
俺がそういったふうに考えたかっただけなのかもしれない
我ながら似合わぬことをするもんだと思う。
今日の俺は少しおかしい。
原因なんて分かるはずないので
その花から1度目をそらしてからもう1度見る。
その花は妖艶に、そしてどこか悲し気に咲いていた。
なぜかそんな花に人の面影を重ねて見ていた自分がいた。