ご存知の方もいらっしゃると思いますが、今作は題名と各話のサブタイトルは実在するアーティストのジャンヌダルクさんの月光花という歌の歌詞をモチーフにしております。
自分の文章力がついていけてないので拙い文章です。
雨は別段嫌いではない。むしろ好きだ。
雨は天からの恵である。我々が生きる上で欠かせない水を恵んでくれる。
昔はそれを神からの恵みとし、雨乞いという形で雨を降らせようとしていた。
他にも、街でデートしてるカップルにいきなりの雨が降って困ってるのを見ると気分がいいし、大雨ともなれば家でダラダラ過ごす最高の口実となるからやっぱり雨が好きだ。
しかし 現代では雨は完全に厄介物扱いである。通勤通学の時に濡れるだの、交通機関が止まるだの、滑るだの理由は様々。現代人には雨のありがたみを分かっていない。古代の人にとっては雨は非常に重要なものであった。もし降らないなら自分達の命にかかわるのだ。
しかし今の現代人は
多少 雨が降らなくても生きていける。
ここ数百年で人類は驚異的な進歩を遂げた。知識 技術の圧倒的進歩は多少の大雨程度は何の問題でもなくさせた。
事実 うちの親も例え嵐であろうと出勤しているし、社会は動き続けている。
それを見て 俺はまた社畜にならないことを心に誓うのだ。
そんな雨が今日は降っていた。
正確に言えば今日もと言った方がよいだろう。そろそろ梅雨も終盤に差し掛かっているし地域によっては明けてくるころだ。けれども千葉上空の梅雨前線は未だに健在であった。
雨は好きだと言ったが、学校へチャリ通の俺にとっては雨の日は少々通うのが面倒になるのが雨様にとって多少八幡的にポイント低いのであった。(その部分は認めざるえない)
こう言った日は、バスに乗って登校するのが普通である。
学校に着いてしまえば、あとは普段通りだ。いつものように授業を消化し、部活に行くというルーティーンだ。
なんの変哲もないただの日常である。
ただ今日は少し違った。
少し気分が乗らないと言うのか、心が沈んでいると言うのだろうか。
授業もなんとなくら上の空であった。
原因は分かっていた。
昨日 雪ノ下陽乃との一件だ。
あの後 彼女を送った。
そして別れ際 彼女から俺が雪ノ下陽乃に問うた1番最初の答えが返ってきた。
それは 予想通り雪ノ下家のことだった。 雪ノ下の長女としての自分。今までの自分。そしてこれからの自分。
彼女の周囲の期待と意向に沿った生き方しかできない自分。
要約すると雪ノ下陽乃には自由はない。
常に雪ノ下陽乃は周りの期待に応え続けなければならない。
そのことを話す彼女は、別に悩みの相談事のような感じでは話さなかった。
己の事実を自己紹介のように述べていった。だから 彼女は1度として助けてほしいとは言わなかった。ただ事実を言っただけだった。
それが今の俺の心に引っかかることだった。
雪ノ下さんは 橋で最初に見たのを最後に 涙を見せたり弱さをだすような表情も態度をそれ以降一度も見せなかった。
まるであの表情は嘘のように、何も気にしていないかのように。別れるその瞬間まで 普段通りの雪ノ下陽乃だった。
でも悲しげな表情を見る限りそれは偽りで本当は何か問題を抱えていることは明白だった。雪ノ下陽乃は現状を言った。でもそんなことは今までと同じことだけだった。彼女が話したことだけならばここまではならない。今まで通りなはずである。
つまり彼女はまだ全てを俺に話していない。雪ノ下陽乃を悩ませる決定的何かを。
だからこそ、なぜか納得しきれなかった。他人のことだし、おまけにあの雪ノ下陽乃のことだ。気にすることなんて何一つない、なんなら無視を決め込むまである。
でも 今回は違った。普段と違う雪ノ下さんが自分が思う以上に印象的であり、そして他人に気をかけてしまうほどに奉仕部での生活が俺を変えた。
人を知った。人を頼ることを知った
人に頼られることを知った。
大切なものを知った。人を助けることを知った。
でも今回の一件は奉仕部内の人間でも、身内でもましてや学校内の人間ですらない。3歳も年の離れた先輩で異性。おまけに俺のような庶民とは違う。県議会議員かつ社長を父親に持ついわゆる名家の令嬢であるという。そもそもの住む世界が違う人間である。
首を突っ込むこと自体 かなりヤバイ。そして相手が雪ノ下雪乃ならまだしも相手はあの雪ノ下陽乃である。
もはや関わらないのが普通である。
一日中考えを巡らせてみたもののやはり分からない。
今ここで考えても何にもならない。
俺がどうするか決めるには大き過ぎる問題であった。
奉仕部
受験生だと言うのにあまり集中できない一日だった。
なんとか授業とホームルームを終え
部室に着いた。
雪ノ下はいつもの定位置に着き読書をしていた。まだ由比ヶ浜は来ていないようだった。
なら都合がいい。
「なぁ 雪ノ下」
「なにかしら?」
「最近実家に帰ったか?」
「どうしたのいきなり」
「すまん先に質問に答えてくれ」
「帰ってないわよ」
「そうか… じゃあ最近雪ノ下さんに会ったか?」
「姉さん? 最後に会ったのは先週かしらね。 本当にどうしたの?他人の家を詮索するなんてストーカーかしら?通報されたいの?」
「んなわけねぇだろ。気になっただけだ。」
「気になったくらいであなたがそんなこと聞くのかしら?他人に興味をあまり持たないあなたが」
「まぁ 確かにそうだが…」
「姉さんと何かあるの?」
「どうしてそう思う?」
「あなたが苦手なはずの姉さんのことを聞いてきたからよ」
「まだ 何もないと言われたら嘘になるな」
「また 姉さんに何したの?」
「まて、なんで俺が雪ノ下さんに何かしたみたいな言い方なんだ 普通逆だろ被害者俺だろ
まぁ 今回は何かされたわけではないが」
「では何なの?」
俺はことの顛末を説明した。
「そう そんなことが…
珍しいわね あの姉さんが…」
「だろ?最初見た時は雪ノ下さんって気づかなかったわ」
「姉さんが泣いてるところなんてもうずっと見てないわ、なんなら見たことないと言ってもいいかもしれない。」
「どんだけだよ お前の姉ちゃん…
となるともう10年は人前で泣いてないんじゃないの?」
「そうかもしれないわね。人前では気丈に振る舞ってるし、常に人から慕われている人だもの。弱い部分は見せられないのでしょうね」
「まぁ とりあえず、こうなった雪ノ下さんの原因は分かるか?」
「あの姉さんが問題を抱えているのなら恐らく家のことでしょうね、普段の交友関係で姉さんが問題を抱えるのは考えられないし」
「あぁ それは俺も同意見だし、家庭的なことだとは
雪ノ下さん本人も認めていた。」
「そう……
でも最近は家に帰ってないからあまりよく分からないわ…
今年に入って姉さんも大学三年生よ。卒業後の進路を考え始める時期だし何か動きが家の方であったのかもしれないわ。」
「やっぱりそうなるよな…
雪ノ下さんの今後については何か聞いてるのか?」
「いえ 特には聞いていないわ。
姉さんはそこまで自分のことは話さないもの。」
「まぁ そうだよな
現状どうしようもねぇか」
「そうね… でも私の方でも一応調べてみるわ 少し気になるもの。」
「ああ 頼む」
「それにしても どういう風の吹きまわしかしら?今までのあなたならこんなこと聞きもしなければ関心すら持たないでしょう?」
「確かにな…. 正直 俺自身も驚いてる。それだけあの人の憂いた顔が印象的だったんだろうな」
「まるで人ごとみたいな言い方ね。
それとも何?傷心につけ込んで口説こうとでもしてるのかしら?」
「んなわけねーだろ。魔王を口説くとか虫を口説くより難しいわ」
「どうかしら?あなたは姉さんに好かれているじゃない」
「前も誰かに言ったが あれは好かれてるんじゃなくて ただからかって楽しんでるだけだから。対人関係が苦手なぼっちを虐めてるだけだろ
そもそも 俺と陽乃さんなんてつり合うわけがない。」
「まぁ そうね 言われてみればそうね
引きこもり君と姉さんなんてありえないものね」
「つり合わないと言ったのは俺の方だけど なんでわざわざ貶されながら同意されてんの?泣いていい?」
俺と雪ノ下との会話は 雪ノ下さんの話題がでたものの普段とほとんど変わることはなかった。
いつも通り雪ノ下が貶し 俺がそれを返すというお決まりのパターン。
あれ やっぱりこれおかしいよね?
イジメだよねこれ?
だが 雪ノ下に事情を話したところで現状が変わったわけでも真の原因が明らかになったわけではない。雪ノ下が事情を探るとは言ったものの恐らく主だった成果は得られないだろう。
あの家のことで、あの雪ノ下さんのことだ。別居してる妹に詳しく話したりするとは思えない。
この件に関して変に介入するべきではない。そんなことも分かってる。仮に介入したところで俺に何かできるという算段もない。おまけに家庭事情ならなおさらなにもできないだろう。
雪ノ下陽乃はあの夜に何を思ったのだろうか?なぜあんな中途半端な説明しかしなかったのか?もし説明したくないのならなぜ会った時に俺を無視してあの場を去らなかったのか。なぜ場所を変えたのか。
分からなかった。雪ノ下陽乃の心意が。普段から何を考えているか分からない人だが、今回は特にそうだ。行動に一貫性がない。考えれば考えるほど分からなくなる一方だった。
帰路に着く。自転車に跨りいつものように交通量が減った道を駆け抜ける。とはいかなかった。今日は生憎の雨である。
俺はバスか歩きでしか今日は帰れない。普段なら総武高校の前にあるバス停から乗るのだが、途中まで歩いて帰ることにした。なぜかバスに乗りたくなかった。1人になりたかったからだ。
雨は好きだと言ったが
雨降る道を帰るのは面倒である。
小さい頃は雨が降ってできた水たまりに足を突っ込みよく遊んだ。だから雨は大好きだった。
学校や人間関係など面倒ごとが増え始めた10代になると同時に雨の中歩くのは面倒に思えてきた。
雨のことをこんなふうに思ってしまうのはやっぱり俺は悪くない社会が悪い。
やはり専業主婦しかねぇな。
リア充を困らせたり、家にいられる大義名分を与えてくれる雨は好きだが、面倒ごとを増やす雨は嫌いな俺だ。
今は後者なのにもかかわらず 歩いて下校している。矛盾した行動だ。
でも昨日の一件に思考を巡らせようとするとバスに乗ろうとは思えなかった。
歩いて15分。昨日 雪ノ下さんと会った橋にさしかかった。
もしかしたらと思い 周囲を見回す。
いない。
あるのは俺と耳うるさく響く雨音と車の音だけ。
歩道を歩いているのは俺しかいない。
まぁ そうだ。2日連続も同じところにいるわけがない。か弱い少女ならまだしもあの雪ノ下さんだ。あれほど強い人が同じ場所で連日もいるなんてあり得ないことなど戸部だって分かる。
どう見たってあり得ないことなど分かってることなのに気にしている自分がいてどうもむず痒い…
馬鹿か俺は…
ため息を一つ吐く。
そして俺はもう一度 周囲を一瞥して
止めていた歩みをもう一度始めた。
夜は明けた。
ただその空には太陽はなかった。
昨日より黒みを帯びた雲は昨日よりも強い雨と風を生み出している。
家の窓を風と雨がガタガタとうるさくさせる。
時刻は午前9時 本来なら学校にいるはずの時間だが今はまだ家にいた。
理由は簡単 この暴風雨の影響で京葉線はストップ、その他交通機関にも運休や遅延が出ていておまけに暴風警報 大雨警報が出ているため学校側から自宅待機命令が出たのだ。
最高だ雨よ。やはり俺はお前が好きだ。
面倒くさい学校に行かなくていいのだ。俺は待機命令を知ると、またすぐに自室に戻った。
何をするかって?
んなもん寝るの一択。2度寝の気持ち良さは異常。もはや麻薬レベル。
愛しのマイシスター小町に寝ると告げて階段を登る。妹のジト目が見えた気がするが気にしないことにする。
1人 部屋に入り そのままベッドに沈む。
そこから夢へ行くにはそう時間はかからなかった。
ごみぃちゃんの声で目が覚めた。
もちろん声の主は妹の小町だ。
時計を見ると午前11時過ぎ、あれから約2時間そど惰眠を貪っていたらしい。
猫のように伸びとあくびをし、なんだよと小町に問う。
「雨と風がさっきより弱まったから午後から登校だって だから起きて」
そう言われて窓の外を見る。
相変わらず雨は降っているが、確かに朝ほどは強くなかった。
小町が言うには警報も注意報に変わったらしい。
本音を言えばもう少し寝ていたいのだが、まぁ2時間も寝れたということでよしとし、リビングに降りる。
朝に着かけてそのままソファに捨てられた制服を着て 席に着く。
小町は少し早めの昼食を作っていた。
今年から入学した 総武高の制服を着てキッチンでせっせこと料理をする小町の姿を見るのもようやく慣れてきた。
やはり我が校の制服を着ていても可愛い。さすがラブリーマイシスター。
そのまま一生 俺のご飯を作って欲しいまである。
ただそんなこと言ったら キモいって一蹴されるんですけどね☆
まぁそんなことはさておき 小町が作った昼食をたいらげ登校準備をする。
まぁ そこまで準備らしい準備はない。テキスト類やノートはバッグに入れっぱなしだし おまけに今日は午前の授業はないためむしろ無用のテキストを取り出す作業の方が多い。
簡単な作業を終え、準備完了。
時刻は12時くらい 1時までに登校だから時間的にはちょうどいい。
小町を連れ 家を出る。
まだ雨が降っているので自転車には乗れないため最寄り駅まで行ってバスに乗る。やはり昼時は通勤ラッシュ時とは違うので空いていて席に座れた。
まぁ特にすることもないので、適当に窓の外を眺める。バスで学校までは20分程。ぼーっとしていればすぐに学校に着く。
学校の正門の前にあるバス停で降りる。
いつもと違う時間帯の登校は少し新鮮だ。だがやることは普段と変わらない。いつもの通りに昇降口で靴を履き替え、廊下を歩き教室に向かう。
今日まで約2年間続けたこのルーティーンワークを変わらず続ける。
そしていつものように教室に入ると、だいたい半数程度の生徒が既に登校していた。現時点でのクラスの様相は普段とさして変わらない。各々が好きに過ごしている。人と会話している者、授業の準備をする者、勉強する者。
じゃあ俺は?もちろんイヤホンを耳にさし机に突っ伏して寝る。
フッ 我ながら流石の一言である。
ブレない俺かっこいい。 全く普段と変わらない、例え普段と日程が違ってもブレずにいつも通りに行動できる俺。やはりぼっちを極めているだけある。なんなら大災害であっても寝ているまである。(超嘘)
突っ伏して寝るというのは教室に居づらいぼっちにとって切り抜けるための最高の手段である。
突っ伏しているために 視界は無い。
よって周りからの視線に気にしなくていい。おまけにイヤホンで音楽を聴けば、完全に外界から自分をシャットアウトできるのだ。あとは時が過ぎるのを待てばいい。なんならそのまま夢の中へダイブもできてしまう程の有用性。ジャパネットたかたもびっくりである。
「フフフ」
やだ笑っちゃった。自分の妄想で笑ってしまった。
みんな想像してほしい。陰キャが机に突っ伏した状態でいきなり厨二病みたいにフハハハと笑い始めるのだ。
うんキモいな…
自分でもそう思う。
なんなら滑稽なまである。
このあと このことを見ていた由比ヶ浜が雪ノ下にチクリ 2人に散々罵倒されたのは言うまでもない。
最近はこれといった 相談は奉仕部に寄せられないので特にすることもない。
あるとすればお悩みメールの返信くらいだ。8割はあの材なんとかって人からなんだけどな。
なので 部室にいる時は雪ノ下の淹れた紅茶やお菓子に舌鼓をうちながら読書をするか勉強をするかのどちらかだ。
アホの子 由比ヶ浜さんと雪ノ下さんは相変わらず百合百合してらっしゃる。
と、まぁ とりあえず部活では平穏な日々を送っている。
ただそんな時間は早く過ぎ去るものだ。
最終時限まで授業があれば 部活をしていられる時間は長くても2時間ほど。
穏やかな時間は一瞬のように終わる。
いつものように部活を終え、それぞれが帰路につく。小町は友達と遊びに行くからと言って部活には参加せずに早々に下校している。なので俺1人での下校だ。
てゆーか 全然小町と下校できてなくない?何 俺嫌われてんの?
愛しの小町と帰れないことに悲しみを覚えると同時に
昨日から依然と降り続いている雨はまさに俺のこの悲しみを形容しているかのようだった。
やだ 私ったら文学的じゃん。
なんてアホなことを考えながらバス停に向かう。
昨日は乗らなかったバスだが 流石に2日連続で乗らないという選択肢は流石に今日の俺にはない。だって歩くの面倒だもん。なんなら昨日 後悔したもん。あのあと歩くの超面倒だったんだぞ。
だから今日は乗る。絶対に乗ってやる。もう歩くなんて言わないもん。バス様様です。愛してるぜbus。ブスじゃないよバスね。ちゃんと英語勉強しような!
無生物のバスに愛を囁いても仕方ないのでこの想いは胸の内にとどめておこう。だから俺ができるせめてもの愛情表現として運賃を払って乗車する。
まぁ 正確にはまだ乗る時Suicaでタッチするだけなんだけどな。
バスに乗り込むと 車内はそこそこに混んでいた。まぁ下校時間とも被ってるし、ちょうど6時半過ぎともあってなにかと帰宅する人も多い時間帯だ。
残念ながら席にはつけないので、とりあえず開いた空間を見つけて吊革に捕まる。そしてバスが発車すると、ぼやっと窓の外を見る。朝と同じだ。なぜなら俺には他の人間と違って喋る人間がいないからだ。何それ悲し…
まぁ もう慣れたことだから気にしない。雨の日だけに見るバスからの景色をただ眺めながら物思いにふける。
バスに乗る時間は20分ほどなのでぼーっとしてるにはちょうどいいくらいの時間だ。
今日のことを振り返る。
と言ってもあんまり内容があったわけではない なんせ登校が午後からだったため午前はずっと寝てたし それ以外も
別になんてことない1日だった。
いつものように午後の授業を受け、部活に言って罵倒される。
うん いつも通り。なんの変哲もない。
おそらく家に帰宅するのは7時くらい、小町もそれまでには帰ってきていると思うし 帰ったら風呂に入って小町の夕食を堪能し 撮り溜めたアニメを…………と、思ったのだが。
ふいにそれまでほ思考が停止した。
俺の脳が何かに反応した。
そして反射的にその何かに気付いた俺は、何かに突き動かされるように動き出す。
思考が追いついていないのに身体だけが何かに取り憑かれたかのように動いていた。
まだバスに乗って10分ほどだ。本来の乗車時間からすればまだ半分ほどで、
いつも降りるバス停は見えてすらいない。
だが俺は急いでボタンを押し、走行していた場所から最寄りのバス停に停車すると、人混みを掻き分けるようにして下車する。
そしてそのまま走り始める。
追いついていない脳を必死に活動させようとする。はっきり言って自分でも何してるのか分かってない。
けど俺は車窓から見た一瞬の何かに身体が反応した。
その何かに確証はない。
曖昧なものを思い出しながら
バスが走ってきた道を走る。
雨が降っているが 走るのに邪魔なため傘はささない。
いや
傘をさすことも忘れていたのかもしれない。ただ俺は必死に走っていた。
俺の記憶を頼りにその何かがいたであろう場所に着くと、ようやく俺が曖昧に見たものが確証した。
やっぱり… とそう思うのであった。
「何…… してるんですか……」
はぁ はぁ と息を切らしながら声をかける。
一瞬 静寂が訪れたかのような時間。
でも 本当は車の音も雨がアスファルトに打ち付けられる音もしているはずだ。
だが彼女の作り出す空気感と、その姿をじっと見つめそれを捉える脳が周囲の音はシャットアウトし2人の世界を作り出す。
「こんなところで 何してるの?」
「質問に質問で返さないでくださいよ… しかもそれ俺と同じ質問ですよ…」
覇気のない声だった。
普段とはどう考えても違う声のトーン。
その主は あの雪ノ下陽乃であった。
場所は偶然なのか 一昨日と同じ場所。
傘もささずに立ち尽くしていた彼女を俺はバスの中から見つけたのだ。
やはりそうだった。もしやと思ってバスを飛び出したが予想は的中していた。
「風邪…ひきますよ……」
とりあえずコミュ症の俺でも言える気遣いの台詞を口にして傘をさしてやる。
だが返答はない。
彼女は先ほどから一貫して俺に背を向け続けているため表情は一切見えない。
でも 表情が見えないが、気持ち猫背気味になっな身体を見ると雰囲気は一昨日と似ている気がした。確証はもちろんないが、やはりいつもの雪ノ下さんと違うことは明らかである。
「雪ノ下さん…本当に風邪「ねぇ」」
突然声を遮られるように声をかけられる
「なんですか…」
「本物なんてあるのかな?」
「…」
思わず声を詰まらせてしまった。
デジャブ… いや違う
これと同じことを以前も言われたことがある。その時はまだ冬だったか…
随分昔のことのように思える。
でも その言葉は鮮明に覚えている。
本物なんてあるのか?
いつか俺が奉仕部の2人に言ったこの言葉の意味を また今ここで雪ノ下陽乃に再度問われる。
全てを解を知っていて あえて魔王は問うてきているのだろうか?
黒歴史であるこの言葉であるが、普段口に出されると恥ずかしくて悶えたくなるのだが、今 雪ノ下さんに「本物」というワードを言われても恥ずかしさはなかった。それよりもこのいつもと違う非常な事態への困惑の方が大きかった。
「そんなの分かりません…」
今、質問の返しはこれくらいしか思い浮かばない
「そっか…」
「はい… とりあえずこんなところにいたら風邪引くので場所を変えましょう」
返事はない…
けど彼女は身体を初めてこちら側に向ける。了承したということでいいのか?とりあえず歩き始めた。 すると無言のまま付いてきたので とりあえず傘をかけてやり誘導を始める。
ヤバイ 場所を変えようと言ったはいいがアテがない…
おまけに雪ノ下さんは傘を持っていない。とりあえず雨をしのげる場所へ…
お互い雨にうたれて濡れているし、雪ノ下さんに関しては最初から傘をさしていないため、びしょ濡れである。よって近くの店などに入るわけにもいかない…
仕方ないので、 記憶を頼りにこの場所から近い屋根のあるベンチに向かうことにした。
雪ノ下さんをベンチに座らせ
そのまま急いで
近くのコンビニでタオルと暖かい飲み物を買い雪ノ下さんに渡す。
それを受け取った雪ノ下さんは
終始無言のまま タオルでノロノロと身体を拭き始めた。
今は既に6月もあと数日で終わろうとしている。よって初夏であるために日本特有の蒸し暑い気候になるがゆえにもう多くの人が半袖の服を着ている。
雪ノ下さんは部屋着なのか 半袖シャツにパーカーを羽織り ショートパンツといういつもと違ってとてもラフな格好である。よって普段よりはるかに露出度は高く おまけに雨に濡れて色っぽく見えるために雪ノ下さんを直視できない。並以下の男になればそのまま押し倒して襲っているかもしれないが俺は黒歴史で塗り固められたエリートぼっちであるためそんな間違いはおこさない。
以前この人に言われた理性の化け物とやらをフル稼動させて邪念を振り払う。
まぁ雪ノ下さんの場合は仮に俺が欲に負けて襲ったとしても返り討ちにしそうだから問題なさそうなんだけどな…
雨の調子は変わらない。
晴れてくれれば助かるのだが、残念ながら予報を見ると明日まで雨は止まないらしい。しばらくはここにいることになりそうだ。
タオルで身体を拭く雪ノ下さんの動きもどう見たって機敏だとは言えない。
完璧超人であるこの人からしたら少し考えにくい状況だ。
社会人ともなりゃ
「乗って行くかい?」の決まり文句と共に華麗に車に乗せてそのまま暖かい飲み物とタオルを用意しつつ見事に家に送迎して、クサイ口説き文句をさらっと放って万事解決。良ければそのまま女の子を落とせちゃうという流れになるのであろうが、残念ながら俺は社畜の両親から生まれたしがない庶民である。
女の子を乗せる助手席も無ければ、口説く度胸もない。今はチャリの荷台すらない。
つまり俺にできることは、数少ないお金でタオルと飲み物を用意することくらい。はっきり言って誰でもできるようなことしかできていない。
「比企谷くん は私のことどう思う?」
「えっ?」
なんだその問いは?あれか?それはよくリア充が使う恋愛的意味での問いなのか⁉︎ んなわけないか(笑)
いや分かってるよ 恋愛的な意味じゃないことくらい 俺はぼっち極めてるんで!でも勘違いしちゃうからそういう問いかけ方はやめてね!
「部活仲間の姉」
「ありゃ ひっかからないか
今まで この問いをした男の人たちはみんな恋愛的な意味で捉えてたのに」
なるほどそうやって思わせ振りな態度をとって数多くの男を死地に追い込んだんですね! 分かります。
口から出る彼女の言葉はいつもの雪ノ下陽乃の調子に近かった。
おそらくわざとそうやって振る舞っているのだろう。とりあえず俺はその調子に合わせることにした。
「は、なめないでください。
言っているでしょう。俺はぼっちです。負けることに関しては俺が最強。
そんな言葉に惑わされるわけがない。
俺はその辺の男子と一緒にしないでください」
「フフ やっぱり君は面白い。
私の目に狂いは無かったみたい
今まで見てきた人達とは全然違う」
「分かってるなら、そんな質問はやめてくださいよ… ちょっとドキってしちゃうじゃないですか…」
「お、いいこと聞いた。君でもドキッとするんだね?」
「ま、まぁ ぼっちですけど 一応普通の男子高校生なので それくらいはまぁ…」
「そっかー じゃあ雪乃ちゃんとかにもドキッとするのかな?」
「なんでそこで雪ノ下が出てくるんですか?」
「あれ、違うの?それじゃあ雪乃ちゃんと違って胸の大きいガハマちゃん?それとも小悪魔みたいな会長の子?」
「いやいやなんですかそれ…
そんなわけないでしょう…」
「あれ?どうして?一年近くも一緒にいるんだからそれくらいあるでしょ?」
「いや まぁないことはないですけど、本人達がいないところでそういうの言うのは…」
「あらら 君は優しいんだねぇ、でも別に男に言うわけじゃないんだし、なんなら私は雪乃ちゃんの姉でもあるんだよ?身内よ身内、だから大丈夫だよ」
「それでもですよ…
流石になんか罪悪感ありますし、普通にはずかしいです。」
「えーー 教えてよぉー」
「そうやって聞き出して、後でそのネタを使って俺達を揶揄おうとしてるんでしょう? だからできません…」
「そんなことしないよー」
この人の場合この手のことはあまり信用できない。ついウッカリとか言って雪ノ下達の前で言おうものなら俺は散々に罵倒された挙句に社会的(奉仕部内で)に死ぬ。そんでまた黒歴史が増えると。
やばい 未来を完璧に読めてしまった。
もう絶対 この人には教えない!
「仕方ないなぁ どうしても教えないって言うなら 今日のところは見逃してあげるよ」
「いや 今日だけじゃなくて今後もずっとやめてください。俺死にたくないです(精神的に社会的に)」
「それはできかねるなぁ〜」
そう言ってケラケラと笑う。
本調子を取り戻してきたのもあって
言葉のキャッチボールのペースが上がっている。(キャッチボールというよりは雪ノ下さんがノーコントロールの豪速球を一方的に投げてるだけなんだけどね)
でも、このやりとりをしている雪ノ下さんはやはり仮面だろう。
本心が表層に現れないように振舞っているだけ、実際 今のこの会話も普段と似たような内容だ。
つまり 一昨日と一緒。意図的に核心の話題が出ることを避けている。
その話題が出るのが嫌なのか、不都合なことでもあるのかは分からない。
でも一昨日からの流れを見て
雪ノ下さんが俺が本題に触れないわけがないということくらい分かっているだろう。
雪ノ下さんの行動に一貫性がないことに少し混乱する。
聞くべきなのだろうか?
一昨日に一度終わった話題を掘り返していいのか?
内心 聞きたいのが本音だ。
一昨日の一件が無ければこんなことはしなかった。いくら魔王と言えど、あんな表情を見せられれば いくら俺でも気にはなるのだ。
だが興味本位で聞いていいのだろうか?と、また一昨日と同じ内容で悩むことになった。
迷いのせいで 一昨日と同じく 沈黙が訪れた。
記憶だけタイムリープしてるかのようにここまでの流れが ほぼ一昨日と一緒だ。
よって気分は振り出しに戻されたような気分である。
そして聞くべきか否かの迷いも一昨日以上の難問と化している。
はっきり言って自分でこの悩みの解を見つけられそうにない。
今の俺にはただ答えが出もしない問題に考えを巡らせるだけしかできない。
そしてその状態のまま 時は過ぎる一方だった。
「聞かないの?」
沈黙を破ったのはまさかの雪ノ下さんだった。そしてこの沈黙を終わらせたのはまた質問であった
だが 今までの会話内容とは違い、そしてこの問いには主語がない。
でも何が主語だなんて分かりきっていた。
「聞いてもいいものなのか分からなかったもんで」
「ということは聞きたかったんだね」
「その言い方はズルいですね。でも事実ですね。」
「別に君ほどじゃないよ」
「そうですか…」
聞かないの?と聞いてくる時点で、聞かれる覚悟はしてたのだろう。
このまま黙っててもなにも始まらないし、ダメ元でやってみるかと数秒置いて…
「じゃあ 聞いてもいいですか?」
「ふふ 仕方ないなぁ〜 比企谷くんがそこまで知りたいって言うならちょっとだけ教えてあげるよー」
「その言い方はちょっと変ですよ…」
本題に入ろうというこんな時でも
彼女の声の調子はいつもと変わらない。
彼女の意地をなのだろうか、雪ノ下陽乃の仮面の強靭さを改めて思い知るのだった。
日は沈んだ。
雪ノ下さんと別れ帰路につく。
また一昨日と同じような感じになってしまった。
違うと言えば 雨が降っていることと心の靄が解けたことだろうか。
たが、だからと言って気分が晴々としたわけではなかった。むしろ難しくなったのかもしれない…
雪ノ下さんが言ったことが本当なら、彼女は喜ばしい状況ではない。
自分には関係のないことだと言えばそれまでなのだが、どうやら俺の心はそう簡単に踏ん切りがつきそうにもない。
雨は降り続いている。
雨のせいなのか、気分のせいなのか
普段より遅い足取りで進んでいた俺はようやく駅前に着いた。
先程、雪ノ下さんを見かけた場所、話した公園と比べれば繁華街で、天気に関わらず人通りも車の通りも多い。
連日の雨のせいか 普段より一段と騒がしい気がした。
そんな喧騒の中を雪ノ下さんとの会話に思いを馳せながら俺は人の間を縫うように歩く。
雨に煙る駅前は街灯や車のライト、建物の窓から漏れる光に包まれていた。それらに照らし出された雨粒は虚空に煌めき、雨音は絶え間なくメロディーを奏でる。
昔の日本人なら雨を上手く風流な言葉で表し愛でることがでしたのであろうか。現代のこの雨を見て昔の人々は同じように風情のあるものとして見れるのだろうか?
俺にはできそうにない。
俺にはそんな文学的才能があるわけでもないし知識もそこまであるわけでもない。
何より今の俺の気分は風情など感じることはできなかった。
俺は一つため息をつく。
そして何も見えるはずない空を見上げる。
夏も始まろうとしている。もう少しすれば本格的な蒸し暑さが出てくるだろう。
今日だって蒸し暑いと学校では多くの人間が言っていたし、今まで毎年 俺もそう思っていた。だが嫌いな体育の授業がが潰れたり、家でダラダラと過ごす口実となったり 今日みたいに学校の授業が潰れたりするからやっぱり雨は好きだ。
けれど 大好きな雨なのに 俺の頰に当たる雨はなぜか今日は冷たかった。