月光花   作:八咫倭

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やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」シリーズ作「月光花」の続きです。

この物語を書くにあたって
書いている感想と言えば、
とりあえず難しい……
めちゃくちゃ難しいです…(僕の能力不足の可能性も多大にありますが…)

小説書くこと自体がまず難しいのですが、陽乃さんを書くにあたってはそれがさらに難しくなってしまっています…

それは俺ガイルの中でラスボス的な立ち位置(個人的にそう思っている。)にいる陽乃さんと八幡の関係性を描くのが何より難しいからです…

由比ヶ浜だったり雪乃 いろはあたりならまだ八幡にデレの要素が多少なりとも原作に兆しが出てるのですが、陽乃さんの場合はそれがゼロに近いということで、完璧にオリジナルで関係を発展させていかないといけないのと、なるべく原作に忠実にという個人的なモットー(なるべくシリアスに)により、陽乃さんのキャラが崩壊しないように苦心していたら、とてつもない難しさになっておりました。

自分のものを書く能力的に判断して難しすぎる内容、設定になってしまっています…。

言い訳みたいになってしまうのですが、上記の理由により投稿期間が空いてしまったり、拙い文章により上手く世界観が表現できていない場合がございます。そこのところをあらかじめご了承の上に楽しんでいただけたら幸いです。


そして 今回の話「ため息一つ」
は前編 後半に分けて投稿しようと思っています。この月光花シリーズは何度も申し上げています通り、ジャンヌダルクさんの月光花という歌がモチーフになっていて、各話のタイトルも全て歌詞から来ていて、おまけに各話のタイトルは全て本来の歌詞と同じ順番にしているため、どうしても今回は物語の都合上、複数回に分けて投稿することになっています。

そして今回の話が一番書くのが難しかったです…。
陽乃と八幡の関係性の描写と発展の経過は表現するにはあまりに難しすぎてもしかしたらぎこちなくなってしまっているかもしれません…



夜に揺られて溜息を[前編]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏の暑さも本格的になり、汗によって肌に張り付く服に不快感を示す季節に差し掛かってきた。

日本は温帯湿潤気候のため、夏は雨であろうとも体感気温はそこまで変わらない。それはこの湿度の高さが原因であり、仮に雨や曇りであっても熱中症の危険性が大いにあるのだ。

だとするならば、外出する時は特に気をつけなければならない。

 

特に夏に外で待ちぼうけを食らわされるとなると、それはとんでもないことであり非常に危険なことである。

だからもし待たされたならば、訴えれば勝てる(嘘)。

とまぁそんな冗談は置いておいて、

俺は今まさに総武高校最寄りの稲毛海岸駅で待ちぼうけをくらっているのだ。

 

現在時刻は午後6時18分。

だが待ち合わせ指定時刻は6時。

部活を予定より早く切り上げ、待ち合わせ指定時刻より15分早く到着して待っていたものの肝心の待ち合わせている人間が予定時刻を過ぎても現れないのだ。

既にここで待って30分は過ぎている。

天気は相変わらずの曇りではあるものの20台後半の気温と高湿度により何もしなくても自分の体温を帯びた汗が流れてきて非常に不快である 。おまけに手持ちの水筒にあるお茶は底をつき飲む物がない。

つまり俺は命の危機に瀕している。

だから帰っていいよねこれ?

後で問い詰められても 来なかったし命の危機だったので帰りましたって言えば絶対許されると思うんだよね。

 

 

よし帰ろう。待ち合わせている人間が来る前に帰ろう。帰ったもん勝ちだこれは!まさに天の時!この機を逃せば我が比企谷軍(ちなみに隊員1名)は総崩れとなる。よし行け!八幡!

回れ右!これより我が軍は撤退を開始する!

これは敗走などではない戦略的撤退である。我が軍(隊員1名)は一時的に作戦本部(自宅)に戻り体勢を立て直し万全な体勢を整えるのだ。いや、俺ほどになれば体勢を立て直しても戻ってこないまである。

 

善は急げだ! 撤退開始!

 

「比企谷くーん」

 

『隊長!我が軍(隊員1名) 後方から砲音を確認!』

 

『何っ?! 馬鹿な!さっきまで敵の軍はいなかったはずだぞ!背後を完全に取られる前に、怯まず撤退を続行せよ!』

 

「比企谷くん? おーい 聞いてる?」

 

『ダメです隊長! 砲音(ただの声)に怯えて隊内(隊員1名)は混乱!撤退できません!』

 

『くっ… ならば仕方ない動ける者だけでいい迎撃体勢をとり直ちに迎撃を開始!』

 

 

「人違いじゃないですか?

僕 今日 用事あるんで失礼します」

 

これぞ我が軍必殺の用事あるから帰ります作戦!

この作戦で幾多の戦線(黒歴史になりかねない事案)を切り抜けてきたのだ!

 

「あれー?何言ってるのかな?(笑) そのアホ毛と制服はどう見たって比企谷君でしょ」

 

『ダメです隊長!通用しません!』

 

『ま、まさかここまで我が軍が研究されているとはっ!』

 

『もはやここまでか… 日本人としてここは潔く自決を…』

 

『戯け! いいか!この命変えてでもここで敵の侵攻をここで阻止するのだ!

絶対に作戦本部への侵攻を許してはならん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

30分後………

 

 

 

 

 

 

「へー!ここが比企谷くんのお家かー! 結構綺麗な家だね〜」

 

「いやいやそれほどでもないですよ〜

さささ どうぞどうぞ、大したソファじゃないですか座ってゆっくりしてください〜」

 

「あ!ありがとう小町ちゃん♪」

 

「いえいえ〜 本当にうちの兄がお世話になっておりますのでこれくらいは全然ですよぉ〜〜」

 

 

作戦本部(家) 陥落……。

 

 

馬鹿な……

比企谷軍(隊員1名)の奮戦虚しく、俺は魔王の作戦本部への侵攻を許すことになったのだ… シガンシナ区だってここまで早く陥落しなかった気がする…

俺は最後まで諦めなかった。 しかし、

魔王相手にあらゆる作戦(弁明)は通用せず、アレヨアレヨという間に、あっさり我が家は魔王によって陥落しました。

 

 

そして陥落してからというもの、うちの作戦本部の参謀長(小町)はやけに魔王( 雪ノ下さん)にヘコヘコしている。

参謀長のくせに俺の奮戦を無駄にしやがって…

 

「雪ノ下さん どうぞ 安物ですけどお茶とお菓子でございます!」

 

「ありがとう〜 いやー よくできた子だねー小町ちゃんは〜。 ウチの妹に欲しいよ」

 

「いやー!私も兄じゃなくて雪ノ下さんみたいなお姉さんならもう万々歳ですよ〜」

 

ちょっと待て!ウチの妹に欲しいだと⁈なるほどこうやって 敵の優秀な兵を引き抜いて力を増大させているんだな?

小癪な!

というかそれよりも、小町の発言ちょっと酷くない?俺たち仲間(比企谷軍)でしょ?俺を蔑ろにするような発言泣きたくなるからやめてね。

 

 

「それよりもー 陽乃さん!

今日はこんなウチにどういったご用件で?!」

 

「えーっと それはねー。最初は比企谷くんとデートする予定だったんだけど、比企谷くん出かけるの嫌そうだったから彼の好きなお家に来たってことだよ!」

 

「ちょっと、誤解を生む発言は謹んでもらいたいんですが」

 

「なるほどそうでしたか〜。本当に申し訳ないです。こんな甲斐性もない兄ですが なにとぞよろしくお願い致します」

 

「おい、お前も勝手に納得してんじゃねぇよ」

 

「いえいえ、こちらこそ!」

 

 

この2人だけで完全に会話が成立してる…。

こんなんなら最初から俺いらないじゃん。

 

まぁ、いい。

 

俺の代わりに小町が雪ノ下さんの相手をしてくれるなら、俺の肩の荷も降りるってもんだ。適当に小町が相手して、適当な時間になれば帰ってもらおう。

うん、そうしよう。

 

ならばおじゃま虫の俺は退散するべき、さっさと自分の部屋に行って課題でも済ましてしまおう。

そうして俺は、話の盛り上がっている2人から静かに退散しようとした。

 

「ちょっと、比企谷くん どこ行くのかな?」

 

 

チッ バレたか。

 

さすが魔王、こんな雑魚(俺)相手でも容赦なく感づいてくるな…

 

「2人で盛り上がってるみたいなので、おじゃま虫は退散しようと思いましてとりあえず自分の部屋に…」

 

「何言ってるの!比企谷くんいなかったら意味ないじゃない!」

 

「そうだよお兄ちゃん。こんな美人のお客様を放っておいて 部屋に籠ろうだなんて人と最低だと思うよ。それは妹としてポイント低いなぁ」

 

「いや、でも…」

 

「比企谷くんは自分の部屋で何しようとしてたのかな?」

 

「とりあえず学校とか予備校の課題を…」

 

「あ、そっか! 勉強したいって言ってたもんね! よしよし ならばお姉さんが勉強を教えてしんぜよう」

 

「なんて 上から目線なんだ…」

 

「当たり前だよ ごみいちゃんなんだなら」

 

酷いなぁさっきから… 主に小町が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ これが比企谷くんの部屋か〜。結構 整頓されてるんだね。」

 

「まぁ ぼっちなんで、基本的に家にいるのでこうやって整頓しておかないと居づらいじゃないですか」

 

「ほぅー ぼっちというステータスも役に立ってるんだね」

 

「当たり前ですよ。ぼっち万歳なまであります」

 

「アハ そんなこと言うのは君くらいだよ」

 

「いいじゃないですか。英語で言えばスペシャルなのが俺ですよ」

 

「 本当に君は面白いなぁ。後ろめたいことでもそうやって誇れるのは君だけだよ」

 

「伊達にぼっちやってないんで、こんなの序の口ですよ。」

 

「そうだね、君はこうでなくちゃ面白くないよ」

 

「さいですか。

とりあえず始めていいですか?明日予備校なんで、さっさと終わらせたいんですよ。」

 

「あ、そうだったね。いいよ。

ところで科目は何やるの?」

 

「とりあえず英語ですね。私立文系志望なんで英語は配点高いんですよ。」

 

「あー確かにそうだね、今 英語はどれくらいできるの? 」

 

「とりあえず平均よりちょっとできるくらいですかね。難関大学志望なんで、はっきり言えばまだまだ英語の学力足りてませんね。」

 

「難関大学って具体的にどこ?」

 

「第一志望はとりあえず早稲田ですかね。」

 

「おー 私立の最高学府の一角だね。

慶應は受けないの?」

 

「慶應も考えたんですけど、慶應は俺の得意科目の国語がなくて小論文なんですよ」

 

「あーなるほどねー。

うーん早稲田か〜いいよね高田馬場〜。私も東京の大学行きたかったなぁー」

 

「千葉大もいいところだと思いますけどね。国立じゃそこそこの難関じゃないですか」

 

「いや、でも立地がね〜。やっぱり都会の東京の方が憧れるじゃない」

 

「まぁ それ言い出したらキリがないですけどね、青学とか渋谷ですし。」

 

「そうそう〜 高校の友達でも何人か青学行ったから、それ見てて羨ましいなぁ〜って思ったよ」

 

「でも雪ノ下さんなら青学なんて全然レベルに合ってないでしょう。もう少し上の大学の方がいいですよ。」

 

「あー まぁそうね、実際、青学受けなかったしね。」

 

「親の勧めで千葉大って言ってましたけど私立は受験したんですか?」

 

「受けたよ。3つだけだけど。」

 

「へぇ… ちなみにどこ…を?」

 

「早稲田と東京理科大と北里だよ。

まぁ 比企谷くんと違って全部理系だけどね」

 

「まことに失礼ですけど合否をよろしければ…」

 

「全勝だよ」

 

そう満面の笑みで雪ノ下さんは言った。

やはり、さすがと言うべきか…

 

「前に千葉大より上の大学が良かったって言ってましたけど具体的にはどこが良かったんですか?」

 

「んー 帝大か東工大かな〜」

 

「やっぱりすごいですね…」

 

「いやいや、帝大とかは国公立の最難関だから受かるかどうか分かんないよ?」

 

「雪ノ下さんの不合格というのが想像できないんですが…」

 

「そんなことないよ?

私だって、間違えるし、失敗もするよ?」

 

「はぁ…」

 

まぁこの人も失敗するとは言っても、失敗する頻度が一般人より遥かに低い数値なんだろうけど…

あの妹でさえ、ユキペディアさんなんだから、この人だとなんだ?ユキペディアを超えるものとなると……MAGIか……。いやMAGIしか思い浮かばん…

(MAGIは新世紀エヴァンゲリオンを参照)

 

雪ノ下さんをMAGIだとするならそれをもじってHARUか。なんか可愛くなっちゃったじゃないか…。

 

まぁくだらないことは置いておいてとりあえず勉強に専念せねば。

 

 

「とりあえず始めますね。」

 

「はーい。」

 

俺は鞄からテキストや問題集、筆記用具を取り出し勉強机に着き課題を始める。

解く問題は一般的な長文問題集で、問題レベルはセンターレベル〜中堅大レベル。とりあえず夏までにはセンターレベルは確実に完成させておきたい。英単語やイディオムなどの暗記系は基本的に、部室だったり移動時間に見ているため家や予備校とかでは問題演習をするのが日課である。

特にセンター試験の英語は、問題自体はそこまで大したことはないのだが、時間との兼ね合いが特に重要で。変なところで躓くと後々の問題にまで響き、取れるはずの問題を落とすことになる。

よってセンター英語で重要なのは、いかに短い時間で問題を正確に処理していくかことである。

 

とりあえずそれに慣れるため、最近は問題集をする時は大体 時間を測って解くことにうしている。目標は設定されている制限時間より5分早く解き、正答率7割〜8割を安定的にとることを心がけている。

 

だが、今日は目標の5分早く終われそうにもなく、正答率も低くなりそうなのである。

 

理由は簡単。魔王が後ろにいるからである。雪ノ下さんは俺のベッドに寝転んで俺の部屋の本を読みながら、時よりこっちを見てくるのだ。

はっきり言えば、俺の後ろにいるので、こっちを見えいる姿を見たわけではないのだが、やたらと視線を感じるのだ。まさに視線が痛いとはこのことで、まるで身体を貫通するかのような視線が勉強する俺に襲ってくるのである。

 

当然気が散るわけで、問題の内容が全然頭に入ってこない。

別に雪ノ下さんは邪魔をする行動は一切していないのだが、もはや存在だけで注意が雪ノ下さんの方に行ってしまう。

まさにミスディレクションオーバーフローである。

影の薄い少年は視界に入った人間の注意を引くことができるのだが、雪ノ下さんは視界に入らなくても気が散るとか完全に上位互換である。

 

あと、そんな露出度の高い服で健全な男子高校生のベッドで寝転ばないでほしいなぁ…。 まぁ夏服だから露出度が多少上がるのは仕方ないのだが、目のやり場に困るので大人しく床に座っててほしいです、はい。

 

「比企谷くん終わったー?」

 

途端、雪ノ下さんは俺の顔のすぐ横から顔を覗かせてきた。

 

 

 

 

近い……。 そしていい匂い…。

 

 

 

 

いやー本当にこういうのはやめて欲しいなぁー。はっきり言ってこういうのはぼっちにはキツイ。何しろ耐性がないもんで、どんな対応すればいいかも分からないし 何より心臓に悪い。

ボッチは自分のパーソナルスペースに人を入れることはまずほとんど無いので、必要以上に近づかれると大変なのです。

 

「あんまり、できてないです…

 というか、もう少し離れてください。近いです。」

 

「えー なんで?この問題そこまで難しくなくなーい?」

 

相変わらず 俺の言葉を無視して距離を離してはくれない…

 

 

 

「いや ちょっと集中できなくて…」

 

 

「え、どうして??」

 

雪ノ下さんは頭の上にハテナマークをいくつも並べてるかのように首をかしげる。この人も随分とあざといなぁ…

まぁ 集中できなかったのはあなたのせいなんですけどね…

 

「いつも1人で勉強してる自分の部屋に他人がいたらそりゃ気が散りますよ。」

 

「えーでもカフェとかファミレスとか学校では人がたーくさんいるのに勉強できるじゃない」

 

「そりゃ公共の場ですからね、人が他に大勢いるという前提がありますから。けど今はプライベート空間に普段なら考えられない人がいるわけですし、おまけにこの空間には俺と雪ノ下さんだけしかいない。確かにボッチは大勢も苦手ですけど、それより他人と2人きりという空間が1番苦手なんですよ」

 

「えー私でもダメなの〜??」

 

「むしろ雪ノ下さんだからこそってのもありますね…」

 

「むーーー。なんかショックだなぁ」

 

 

よく言うわ、ショックだなんて1ミリも思ってないくせに…

 

 

「それよりさ、雪ノ下さんって呼び方やめない?」

 

「え?どうしてですか?」

 

「だって雪乃ちゃんだって雪ノ下なんだよ? 雪ノ下さんって呼び方なら雪乃ちゃんも含まれちゃうよ?」

 

「いや、さん付けしてるんで、そこで差別化できてると思うんですが…」

 

「えーなんか、よそよそしいよ名字は」

 

「じゃあなんて呼べばいいんですかね…」

 

「そこは陽乃でしょ♪プラス 雪乃ちゃんのことも雪乃って呼んであげてもいいんだよ?」

 

「遠慮しておきます。陽乃さんならともかく雪ノ下の場合は殺されそうなので…」

 

「そんなことないと思うなぁ〜

雪乃ちゃんきっと喜ぶと思うよ?」

 

「喜んでる姿が想像できませんね。むしろキレられて俺が一方的に罵倒される光景しか思い浮かびません」

 

「それは照れ隠しだって〜(笑)

でも、雪乃ちゃんの罵倒が怖くて呼べないならそんなことしない私は呼び捨てで呼んでも大丈夫だよね?」

 

「いや、それは恐れ多いんで…(実際、ガチで恐れてる) 呼び捨ては遠慮しておきます。せめて陽乃さんで…」

 

 

「むー頑固だなぁ〜。

私のこと呼び捨てで呼んでいいって言って断った男の人なんていないよ?」

 

「いや、その辺の男と俺を一緒にしないでください。スペシャルなんで俺、スペシャルなんで」

 

大事なことなので二回言いました。

 

「あはははは そうだったね!」

 

そう彼女は大きく笑う

 

「分かっていただけたならなによりです。」

 

 

まぁ、この人のことを呼び捨てで呼びたがる男の考えは分からなくもない。

「さん」や「君」などの敬称を使うのが一般的な人間関係において、呼び捨てというのは敬意表現をあえて省くことで自分と他人との関係を一般的なモノから差別化して、より親密なものに見せたり、相互認識するためものだ。

特に若者世代の学生や高校生では、付き合う人間が本人のステータスに直結するので、より社会的信頼や地位 ステータスの高い人間を呼び捨てで呼ぶことで自身の価値を高めようとするのが彼らの魂胆だ。

となれば、社会的地位も名誉も美貌も持ち合わせている雪ノ下陽乃を呼び捨てで呼べるとなれば男としてこんないいことはない。自分のステータスを高め、あわよくば雪ノ下さんとデートやお付き合いができるとでも考えているのだろう。

 

だが 残念ながら俺はそうはいかない。

なぜなら既にぼっちとして社会的底辺にいる俺には地位も名誉もほとんど意味を成さないし、まず友達がいないのでどんなステータスがあろうが自慢できる人間もいないのだ。よって俺にとって雪ノ下さんを呼び捨てで呼んだところで社会的メリットはほとんどない。

なんなら俺は社会的存在していないまである。なにそれ悲し……。

 

 

 

「じゃあ陽乃さんでいいよ。いつでも呼び捨てに変えてもらっていいからね?♪」

 

「あ、はい。けど多分 そんな日は来ないと思いますけどね…」

 

 

 

そう、俺はきっと呼ばない。

 

 

理由は全ての黒歴史が語ってくれる。

 

 

 

ちょっと普段と違うからと舞い上がり勘違いし早とちりした結果、思い出しただけでも死にたくなるような経験を幾度もしてきた。

 

 

 

だから今回も同じ。

 

 

 

変に呼び捨てなどして勝手に期待して同じ過ちを繰り返すのなら、最初からそんなことしなければいいのだ。

 

 

常に自分を戒めろ。

 

 

世界は俺に厳しいのだと。

 

 

 

楽観的で都合のいい観測は常に悪い方向へと流れていく。

 

己を常に律し、予防線を張り、出来る限り他人との接触を避ける。

 

だから常に他人とは一定の距離を保ち生きるのが俺のモットー。

 

下手に距離を詰めれば勘違いしてしまうから。

 

社会的な孤立だなんてそんなものどうだっていい、過去に味わった苦しみから逃れられるなら俺はそんなこと気にしない。

 

 

だってそれは俺にとって普通なのだから。

 

 

 

だから 俺は………。

 

 

 

 

「どうしたの?比企谷くん そんな怖い顔して?」

 

 

突然、

 

そう言って 彼女は顔を覗き込んでくる。

 

 

途端、我に帰る。

 

 

思案によって止まっていた現実世界の秒針が再び歩み始める。

 

 

現実を認識し、自分が自分の世界に入っていたことも認識する。

 

 

そして再び縮まったお互いの距離に気付き、俺自身の鼓動が一気に加速する。

 

初めてちゃんと近くで彼女の顔を見た気がする。

 

距離を置いて見ると綺麗なものが

実際は近くで見ると粗雑で汚かったというモノは多くある。

 

だが彼女はそれには該当しなかった。

 

圧巻と言うべきだろうか、その美しさ今まで会った女性ではダントツである。

 

 

 

仄かに香る彼女の香りも

 

艶やかな彼女の髪も

 

きめ細やかな彼女白い肌も

 

黒く綺麗で輝く彼女の瞳も

 

見る者を釘付ける彼女の唇も

 

多くの人間が羨む彼女の身体も

 

彼女を雪ノ下陽乃たらしめる全てが

 

 

俺を魅了し、脳を麻痺させる。

 

 

 

それほどに彼女は美しい。

 

 

 

まさに魔性の女

 

  

その美貌に狂わされた俺は

 

 

頭をろくに働かすことなどできるはずもなく、

 

 

いや…

 

 

としか答えられないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街を歩けば長袖の服を着ている人を

見かけなくなって久しい。

長く首都圏を覆った雲はようやく姿を薄めた。依然として雲がかかることはあるものの、ようやく街には十分に陽の光が届くほどには天気は回復してきた。

まぁ 梅雨明けはしていないので、安心することはできないが。

 

雪ノ下陽乃と放課後を共にするようになってから数日が過ぎた。

だが才色兼備代表とも呼べる彼女と一緒に過ごす時間は増えたものの、特に何か特別なことするわけでもない。

千葉の街を、執事のように彼女の半歩後ろを俺はついていくだけ。

時折、カフェや書店に入ったり、千葉駅周辺の繁華街をうろちょろとするのがほとんどである。

 

そんな中、ここ数日間で気付いたことは、この雪ノ下陽乃は尋常じゃないほどにモテるということだ。

まぁモテるってのは見れば分かるだけど、今回は改めて再認識したという感じである。

千葉駅周辺は県内では有数のナンパの多い地区である。千葉駅東口から旧三越のあったナンパ通りを歩けば、そこそこのルックスを持つ女性ならかなりの高確率で声をかけられる。(*リアルでもガチです。OVAで八幡といろはすが歩いてた辺りです。)

まぁ 周囲には居酒屋も多いので、いかにも偏差値低そうなチャラチャラした男どもが毎日大勢、客引きをしているので声をかけてくるのが客引きということも多いのだが。(特に夕方から夜にかけては多いので、千葉に来た人はどうぞ)

 

ただいずれにせよ。彼女に声をかける男は多い。千葉駅周辺を散策していれば

声をかけられることは1日数回は当たり前で、酷い時は男数人に囲まれている。

となれば、雪ノ下陽乃いわくデートとやらを円滑に進めるため、俺もあまり雪ノ下さんから離れられないわけで、自然と互いの距離は近くなるのだ。

まさに ボッチの俺にとってはなかなかピンチな状況である。だから俺は自分がなんとか許容できる半歩から一歩の距離をとっていたのだが、そこは流石は雪ノ下陽乃で、俺の気遣いを看過してそれをいいことに向こうからさらに距離を詰めてくる。

言うまでもなく 俺にとってはキツかった。自分を戒めながら、わざと他に興味を持っていくようにして俺は雪ノ下陽乃との時間を過ごしていた。

 

だが人間とは慣れる生き物とはよく言ったものであり、人間である(ヒキガエルじゃねぇからな?)俺もその例に漏れず時間が経つと若干ではあるが彼女との距離に慣れてしまった。

とりあえず 肩が当たる程度の距離では変に緊張もせずにいられるようになった。つまり耐性ができたのだ。

変に距離を詰められても動じない鋼の心。俺はまたぼっちを極めてしまったのだ。我ながら見事だと言ってやりたい。たが、雪ノ下陽乃はこれにも気付くわけでさらに距離を詰めてくるのだ。

それが今である…。

 

 

「雪ノ下さん」

 

「………」

 

「あの、ちょっと…雪ノ下さん」

 

「雪ノ下さん? 誰かな〜〜それー

私の知るところだと雪ノ下っていう妹もいるし、両親もいるから分かんないなー」

 

 

分かってるくせに… わざとらしい。

 

「……………陽乃さん」

 

「んー?何かな?比企谷くん?」

 

「この手は何ですかね?」

 

「えー?何か変??」

 

見れば 俺の腕をがっしりとホールドする陽乃さんの腕がある。

確かに隣にいても動じなくはなったのだが、身体的接触は流石に俺の耐性的にまだ無理である。つまり俺のスペックからすれば完全に規格外なのである。

そして陽乃さんの身体も安定の規格外である。

 

「いや、あのここまでくっつく必要ないと思うんですけど…」

 

「えーいいじゃん。男避けにもなるよ?」

 

「別に 腕を組まなくてもいいと思うんですけど」

 

「ダメだよ比企谷くん。物事は徹底的にやらないと!確実にナンパ師達の心を折らないと!」

 

 

なるほど この徹底ぶりは姉妹共通なのね…。 まぁ徹底的にやるのは悪いとは言わないけど、陽乃さんがやるのは大体精神衛生上大変よろしくないので個人的には徹底して欲しくないですね。

 

「いや、それでもぼっちにはキツイんで…。それに一応もう夏なんで暑いです…」

 

「強情だなぁ〜 これくらい余裕でできないと結婚なんてできないよ?君 専業主夫になりたいんでしょ?ならこれくららいはできるようにならないと」

 

 

相変わらず痛いところをついてくるな。

でも慣れないものは慣れないのだ。

 

 

「陽乃さんの言うことはもっともなんですけど やっぱり慣れないので横を歩く程度でお願いします」

 

「下の名前で呼んでって言った時もそうだけど 君ってかなり頑固だね。

こんなにもお姉さんと一緒にいるのに、そろそろこれくらいできていいと思うんだけどなぁ」

 

 

 

「俺のぼっち具合も随分となめられたものですね。それに『こんなにも』じゃないですよ。俺から言わせればまだ『この程度』ですよ。確かに陽乃さんとさ一緒にいる時間は増えましたけど、たかがまだ数日ですよ。」

 

 

「なるほど…どうやら私は比企谷くんを甘く見てたってことだね」

 

「そうですね。それに、むしろこの程度で俺が変わってたら陽乃さんはとっくに俺と出かけることなんてやめてるでしょう」

 

 

「はは 確かにそうだね。この程度で変わってたら私の見込んだ比企谷くんじゃないね。」

 

「そうですよ。プロぼっちなめないでください。」

 

「そっかそれはゴメンね。

でも、その発言はお姉さんに火をつけたよ 私も本気出しちゃおうかなぁー」

 

「本気?」

 

「そう本気 ! 」

 

「なんの本気ですかそれ…」

 

「それはもちろん比企谷くん攻略だよ!私にメロメロにしちゃうんだから」

 

「いや、いいですよ。やめてください。陽乃さんの本気とか本当に怖いです。あと怖いです。」

 

「大丈夫 大丈夫 別に痛いことにはならないから!」

 

「そんなの当たり前ですよ…。俺 超平和主義なんで、痛いのとか絶対やめてください….」

 

「だから大丈夫だって!

そんなことしなくても陥落させてあげる」+ウィンク

 

うわぁあざとい……。

なのになぜかあざとさの中に恐怖を感じるのはどうしてだろうか…。

 

「すごい自信ですね…。自信に満ち溢れ過ぎて怖いです。あと怖いです…」

 

大事なことなのでさっきと含めて4回言いました。はい。

 

「そりゃ もう私が落とせなかった男なんていなかったからね♪」

 

「うわぁ…。それちゃんと付き合ったんですか…?」

 

「まさかー 全部お断りしたよ☆」

 

「酷い……」

 

ここにいたよ…。必殺処刑人。

さぞや男をジャグラーばりに手玉に取りまくってんだろーなぁ。期待させるだけ期待させて、最終的に死地に送り込む。世界恐慌時の株価レベルの急落ぶりである。

まさに悪魔の所業…。

 

となると、俺もこの人に最終的に死地に送りこまれちまうってことじゃねぇか、ふざけんな。

 

「やっぱり やめてください。

俺 もう黒歴史作りたくないです。」

 

「えー。誰にも言わないから大丈夫だよ!」

 

「黒歴史が増えるのは確定なんですか、そうですか …」

 

「違うよ 君が未来を切り開くんだよ!

黒歴史を増やさないために、逆に君も私を落としにかかるんだよ!」

 

「なんですかその無理ゲー

もはや攻略できる未来がミクロレベルでも想像できませんね」

 

「そんなことないよ!諦めちゃダメだって」

 

「いや まず陽乃さんを攻略できるなら俺はそもそもこんな黒歴史にまみれてないですから…」

 

 

「それは相手が悪かったんだよ

ちゃんと君のことを見てくれている人達じゃなかった、それを君は気付けなかっただけで気にすることじゃないと思うな」

 

 

 

 

「…………。」

 

 

 

 

 

 

内心驚いて声が出なかった。

 

そんなことこの人が言うとは思わなかった。あの雪ノ下陽乃にしては似つかわしくないセリフは俺を更に動揺させるには十分であった。

だが彼女の言っていることはきっと正しいのだろう。

 

確かに、俺だって相手のことなど当時、全然分かってなどいなかった。

 

勝手に勘違いして わかった気になって

 

好きになったふりをしていただけ。

 

俺自身ですらこんなものなのに

 

 

 

 

どうして相手が俺のことを見てくれているだろうか?

 

 

どうして俺のことを知っていてくれるだろうか?

 

 

どうして関係が発展などするだろうか?

 

 

そんな分かりきった答えすら、気付けなかった今になってはとうに遅いが自分が憎いとさえ思う。

 

だが 同時に得たものもある。

 

勘違いしない。

 

他人と関わらない。

 

常に警戒して思い上がらない。

 

数多くの教訓である。

 

ここまでの俺の人生を作り上げてきたをそれらは、まさに俺のアイデンティティともなっていた。

世界を拒絶し、孤高のボッチを自称し、最低限の関わりで、なんのトラブルにも巻き込まれないように、淡々と日々を過ごす。

 

それが俺であった。

 

 

 

それが俺であった。のだが………

 

 

ここまでの1年間はそれでとは大きく違っていた。

 

 

奉仕部に入り

 

 

雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣と出会い、

 

 

俺はこれまでの人生と全く違う日々を過ごした。

 

 

それを通して多くのことを見て 知って 聞いた。

 

 

未だ俺たち3人は不透明な関係であるが、そこで得たものは間違いなく、かけがえのないものであるという認識は共有していると思う。

 

だからずっと大事にしたいと思うし

壊したくないと思った。

 

だから俺は「本物が欲しい」と言ったのだ。

 

今ではそんな存在さえも不確かなものを求めてしまうようになってしまった。

 

 

 

だが、その彼女達は今までの人達と違って、

 

俺を見てくれているだろうか?

 

俺を知ってくれているだろうか?

 

 

そんな一抹の不安が俺の脳裏をよぎる。

 

 

 

 

果たして俺は………………。

 

 

 

 

「大丈夫、ちゃんと見てるよ… 」

 

 

 

「え」

 

 

 

「少なくとも私はね?

その先のことは分からないけど、、

だからそんな顔しないで」

 

 

「そんな顔に出てましたか…」

 

 

「うん、すっごく怖い顔してたよ。

せっかくのデートなんだから、そんな顔しないの」

 

 

そう言って彼女は俺の顔を見て微笑んだ。

 

相変わらずこの姉妹はエスパーだな。

 

 

 

 

 

でも、いつもは怖いはずなのに

 

 

 

初めてこの人の

 

 

 

その言葉に、その笑顔に、

 

 

 

今だけは なぜか救われた気がした。

 

 

 

俺たちの影が少し伸びた気がした…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、スピーカーから流れるジャズの曲と、鼻腔をくすぐるコーヒーの香り、そして甘さを感じるようなバニラの香りに包まれていた。

 

これらは何時も自分の心を鎮めてくれる。コーヒーの程よい苦味と、それを中和させる甘いスイーツは人種問わずに親しまれている。

 

場所は千葉駅近くのカフェ。

 

陽乃さんと俺は4人がけのテーブルに座り向かい合うように座っていた。

 

だがこのテーブルからは、周囲の複数客とは違って声はほとんど聞こえない。

 

聞こえるのはカリカリとペンを走らせる音と、本をめくる音、そして時よりの咳払いくらいだ。

 

音の主はもちろん俺たち2人だ。

 

ペンを使っているのはもちろん俺。

 

いくらデートと言っても、俺は受験生なので時間は無駄にできない。

適当に店を回った後はこうして落ち着けるところを見つけて勉強している。

 

そして本の音は向かいに座る陽乃さん。

俺が勉強している間は、いつも静かに本を読んでいる。

 

相変わらず、コーヒーを飲みながら本を読む陽乃さんの姿は本当に様になっている。

それは気品に溢れていて、尊さまで感じられるほど。

 

大の苦手とする彼女だが、やはりこうして目の前の特等席でその美しい姿を見れるのは優越感がある。

 

艶やかな髪や、黒く澄んだ大きな瞳、白くきめ細やかな肌、細く整った指、精錬されたような動き、どれもが美しいのだ。

だからこうして、勉強をしながらチラチラと時折 彼女の姿を見てしまう。もちろん本人にバレないように…。

 

だが

 

「比企谷くん こっちをチラチラ見ないのー。集中しなさーい」

 

「すみません…」

 

まぁバレてしまう訳で…。

 

「なになにお姉さんのこと気になるのかなぁー? うりうりー」

 

陽乃さんはいつもみたいなイタズラな顔をしてからかってくる。

 

「気になるか気にならないかと言えば気になりますね。だけど安心してください。恋愛的な意味でじゃないので」

 

「ええ〜 つまんなーい」

 

「当たり前ですよ。」

 

「じゃあなんで見てたのよ」

 

「そりゃ、まぁ、 様になってるなと…」

 

「そうか〜 あまりの可愛いさに見惚れてたか〜」

 

「そんなことまで言ってません 勝手にに意訳しないでください」

 

「むー 、、、

比企谷くんが陥落するのはいつになるのかなぁ〜」

 

「さぁ いつでしょうかね…」

 

「できるなら できるだけ早いと助かるなぁ」

 

「なんですかその言い方、どんだけ俺を地獄に落としたいんですか」

 

「あははは!そんなことする訳ないじゃーん!」

 

 

 

 

「なんて信用できない言葉…」

 

 

 

 

 

「本当だよ? 少なくとも他の男よりはね」

 

 

途端 彼女の声のトーンが下がる。

どこか冷たさや怖さ失望を含んだような言葉。その負の感情が何に向けられているのかは分からない。

だが、たったそれだけで俺たち2人で作りあげていた場の空気感が一転していた。

 

目の前に座る魔王は口は微笑みながらも、目は真剣さ、怖さを混ぜ合わせたような目つきであった。

俺は一瞬 息を飲んだ。

 

「冗談はやめてください…心臓に悪いので…」

 

 

「ま、そうだね…」

 

 

「はい、そういうのは他の男にやってください。きっと喜びますよ。」

 

「興味のない人にやってもつまんないじゃん」

 

 

「不躾な質問ですけど、陽乃さん彼氏とかいないんですか?」

 

「どうしたの?急に?お姉さんのこと気になるの?」

 

「いや、そういう思わせぶりな言動は、もし彼氏とかいるならそっち方面の人間にやればいいんじゃないかと思いまして」

 

「彼氏がいるなら、こんな風に君に会ってるわけないでしょ〜。浮気になっちゃうよ」

 

「じゃあ、そ、その、大学とかに好きな人とかは?」

 

「それもないかなぁー。

遊び友達とかはいるけど。恋愛関係になるような人はいないかな。少なくとも私目線ではね」

 

つまり、自分から見て恋愛対象はいないが 相手は違うってことか。

まぁ 普通に考えれば、この人のことだから彼氏の1人や2人いそうな気もするけどな。なんなら逆ハーレムしてるまでありそう。

でも、実際はいないという回答。でも仮にいたとしてもこの人の本性を知ったら大変そう…。はたしてどれだけの男がこの魔王に着いていけるだろうか?所詮 男なんて脳みそ単細胞生物みたいなもので三大欲求が満たされればそれでいいみたいな生き物だ。陽乃さんの周りに寄ってくる人間もほとんどは下心だろうな。まぁその気持ちは分かるけども…。確かに綺麗だしスタイルいいし、近寄る男は抱けるなら抱いてみたいと思うのだろう。溢れんばかりのその魅力によって男は彼女の掌で踊らされるだけだとも知らずに。

そしていくらエリートぼっちである俺であっても陽乃さんに多少は影響されてしまっている事実がある。

つまり彼女は本当に危険な麻薬みたいな人なのだ。だからこそこういった男を弄ぶような言動はその場のノリだったりふざけて言わないで欲しい。

 

 

「じゃあ、興味ある人を見つけるか、誰にもやらないことをオススメします。」

 

「善処するよ」

 

あーこの人 守る気ないな…

まぁ、最初から人の言われることに素直に聞くような人ではないとは思うけど…

 

 

「あ、比企谷くんに教えてもらった本 結構面白かったよ。次巻読んでみようかなぁ」

 

 

そう言って彼女は手に持っていた本を見せて話題を変える。もちろん男を弄ぶような会話よりずっと助かるので素直にその流れに乗ることにした。

 

「あぁ それは良かったです。その作家結構お気に入りなんですよ。

続きの本貸しましょうか?」

 

 

「あれ、いいの?」

 

 

「別にいいですよ。俺はずっと前に読み終わりましたんで。」

 

「そっか ならお言葉に甘えちゃおうかな」

 

「じゃあ、明日辺りに持ってきますね。」

 

「オッケー ありがとうね」

 

そう言って微笑むと彼女はそばにあった自分のカップに口をつけ一含みコーヒーで口を潤した。

 

俺と彼女の関係で少し前と変わったことが一つある。

今のように何気ない会話が増えたことだ。前は、まぁ会う機会があまりないというのもあってどちらかといえば 話す内容はシリアスな骨の折れるような話で、決して楽しくお喋りとはいかないような内容ばかりであった。

 

もちろんさっきのようにそういった会話がなくなったわけではないのだが、こうして何気ない一般的なお喋りに部類されるような内容の会話が増えただけでも多少の変化と見なしてよいのだろう。

まぁ こうしてほぼ毎日のように会ってて常にシリアスなドス黒いような話をしてはこっちの身体と精神が保たないし、これは俺的によい傾向だと思われる。

これ以上俺のハートをブレイクして欲しくないしね!

 

少しばかりの希望に俺は心が安らいだ気がした。

心が軽くなった俺は勉強していてぬるくなったコーヒーを久しぶりに飲むことにした。

相変わらずの甘ったるいコーヒーが俺の口に広がる。ぬるくなり味が落ちたはずのコーヒーであるにもかかわらずそれが気になることはなかった。

ただ少しばかりの心持ちでこうも変わるものかと内心感心しながらその味を味わう。

 

目の前に座る魅惑の女性は先に飲み終えたカップをカチャリと置き、街の通りを見渡せる大きな窓の方を見ていた。

 

だが彼女が見ていたのはそこから見える既に日が沈み、車のライトや街頭、ビルの窓から漏れる明かりによって描き出される景色ではなかった。

 

 

彼女の目線はそれよりももっと近くにあった窓辺に置かれていたガラス細工にあった。

 

 

 

そして決して分かるはずのない彼女の今の思いに思考を巡らせながら俺はしばらく、ガラス細工を見つめる彼女を眺めていた。

 

 

 

 

やはり彼女は美しい………。

 

 

 

そんな分かりきったことを此の期に及んでも思ってひまった。

 

 

 

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